CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第四夜 霧の団 3

 

 

 

 

―――――海洋都市国家・バルバッド

 

 

「わぁ~~!!」

 

バルバッドの市街地に入ると、早朝だというのに市場バザールが開かれていた

魚や果実、甘味や酒

他には、絹や煌びやかな装飾など

ありとあらゆるものが、ここでは流通していた

 

「ここが、バルバッド・・・・・・!!」

 

アラジンとモルジアナが目をキラキラさせて辺りを見る

ありとあらゆる人種の人

そして―――――文化が行き交う

 

圧倒されてるいアラジンたちにわかるように、シンという男――――シンドバッドが辺りを見ながら説明してくれる

 

「そう――――この港町を首都に、近海の大小数百の島々を束ねる一大海洋国家――――それが、バルバッド王国だ」

 

「この国はね、北のオアシス都市、北東の小国、西のパルテビアやレーム帝国の中心地にあるのよ? だから、海洋貿易の中心国として、古来より栄えていたの。 代々、サルージャ家という王族が納めていて盛り立てていたのだけれど―――――」

 

ちらっと、そこまで言いかけたエリスティアがある一方を見る

そこには、果実を買う女の人が商人にお金を払っている姿があった

 

「シン・・・・あれ・・・・」

 

「・・・・・・・・・ああ」

 

一瞬、シンドバッドとエリスティアが何かを見て、その表情を険しくさせる

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

「エリスおねえさん? どかしたのかい?」

 

アラジンが不思議そうに首を傾げた

瞬間、エリスティアは はっとして、なんでもない事の様に

 

「あ、ううん、大丈夫。 少し、ね」

 

そう言って、もう一度お金のやり取りをする風景を見た

 

あれは、やっぱり――――・・・・・・

あの“噂”は本当なんのだと、認識させられる

 

ここに来るまでに、商隊キャラバンの人たちが話していた

「バルバッドは、もうだめだ――――」と

 

最初はどういう意味なのかと思ったが――――――

今のお金のやり取りを見て、明白になった

あの“紙幣”は・・・・・・

 

脳裏に、赤銅色の髪に綺 麗な柘榴石の瞳の男が浮かぶ

 

炎・・・・・・・・

 

深紅の衣を身に纏った、炎の様な人

 

砦で、殺さないでとは言ったけれど・・・・・・

でも、これでは――――・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「エリス? どうしかしたのか?」

 

不意に考え込んでしまったエリスティアを気づかう様に、シンドバッドが声を掛けてくる

それに対し、エリスティアは苦笑いを浮かべ

 

「なんでもないわ」

 

と、答えた

 

ふと、水路を通りかかった時、アラジンとモルジアナが立ち止まった

 

「王政・・・・打破?」

 

その壁には、赤字で大きくそう記されていた

 

「先王が亡くなられてからは・・・・・・国が乱れているようだね」

 

シンドバッドが意味深にそう呟いた

そうこうしているうちに、とある“目的地”にたどり着いた

 

そこは―――――

 

シンドバッドが得意げにばっと手を広げる

 

「でも、ここなら安全だよ!! 俺がいつも使う、国一番の高級ホテルだ!!」

 

「俺・・・・・・」

 

「たち?」

 

誰と誰が?
と言う風に、アラジンとモルジアナが首を傾げる

 

瞬間、慌ててエリスティアが割って入った

 

「あ、えっと・・・・・・っ、要は、ここなら大丈夫ってことよ! セキュリティもしっかりしているし」

 

と、何かを誤魔化すかの様に早口で言う

すると、シンドバッドがにやにやして

 

「俺と、エリスはいつも、ここで一夜を共に――――――「あ、あ――――!!! ええっと、宿代は、こちらでもつから、好きなだけ泊っていったらいいわ、ね?」

 

と、有無を言わさぬ笑顔でシンドバッドに話しかけた

その言葉に、シンドバッドがやれやれと笑みを浮かべ

 

「勿論だ、エリスが世話になったみたいだしな。 気にすることはない」

 

「わぁ・・・・・・ありがとう、おじさん! お金持ちなんだね!!」

 

と、アラジンが嬉しそうに顔を綻ばせた

モルジアナも嬉しそうに頭を下げた

 

「さぁ、行こうか! はっはっはっはっは」

 

と、上機嫌でホテルの入口へと続く階段を上がっていく――――が

 

はっと、エリスティアが何かに気付いたかのように、慌てて声を上げた

 

「だ、駄目よ、シン!! 今のあなたのその姿じゃ―――――――」

 

と、止めようとしたが時遅く――――

アラジンの小さな服を着てぱっつんぱっつんな上に、女物のショールを羽織った姿のシンドバッドを見るや否や、門の衛兵達がわらわらと、槍を向けてシンドバッドを取り押さえ始めた

 

「なんだきさま!!」

 

「怪しい奴め!!!!」

 

「え? 俺のどこが怪しいっていうんだ?」

 

と、衛兵にあっという間に囲まれていた

 

「あ――――・・・・・・」

 

エリスティアが頭を抱えた

 

あの姿で、入れるわけがないじゃない・・・・・・

このホテルに来る前に、まず彼の服を調達すべきだったと、後悔する

 

「はぁ・・・・、まったくもう・・・」

 

エリスティアがやれやれという感じに、揉めている衛兵達に近づいた

 

「ごめんなさい、彼を離していただけないかしら? この姿で怪しさ2000%なのはわかるのだけれど――――彼は―――・・・・・・」

 

「そうだぞ、ぱんつだって履いている!」

 

「服が小さいじゃないか!!」

 

「・・・・・・シンは、黙っていて」

 

今にも、キレそうな低温な声でエリスティアは言った

その時だった

 

ホテルの奥の方から聞き覚えのある声が聴こえてきた

 

 

 

 

「――――お待ちなさい」

 

 

 

 

はっとして、エリスティアが声のした方を見る

そこにいたのは――――

 

「ジャーファル?!」

 

それは、シンドリアにいる筈のジャーファルと、もう一人

赤毛に鋭い目つきの男だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私どもの主人が、ご迷惑をお掛けしました」

 

そう言って、緑に白地の官服に身を包んだ、穏やかそうな青年が頭を下げた

 

「主人の言葉通り、宿代はこちらにお任せください」

 

そう言って、にっこりと彼が微笑む

その言葉に、アラジンとモルジアナがほっとしたのか、嬉しそうに笑った

 

「ありがとう! 部下におにいさんたち!!」

 

「さて・・・・・・」

 

ちらりと、官服の彼が後ろにいるシンドバッドと、エリスティアを見る

 

「・・・・・・色々と聞きたいことがありますが・・・・・・。 とりあえず、あなたはそのはしたない格好をなんとかしてください」

 

そう言って、シンドバッドの背を押す

 

「エリス、あなたにも色々聞きたいことが山ほどありますが、まずは・・・・・・」

 

そこまで言いかけた官服の彼――――ジャーファルの言葉に、何を言いたいのか分かったのか

エリスティアは肩をすくめて

 

「・・・・・・言いたい事は、わかっています。 とりあえず、シンのこの格好――――どうにかしてくるわ。 部屋はいつもの?」

 

「ええ、お願いしますね」

 

そう言って、シンドバッドを伴って奥に入っていく

去り際に、シンドバッドはアラジンたちに手を振りながら

 

「じゃぁな、アラジンとモルジアナ! 明日、飯でも一緒に食おう!!」

 

そう言って、去っていった

ふと、赤毛の男がモルジアナを見た

 

「・・・・・・・・・?」

 

だが、それは一瞬だけで、そのまま彼もエリスティア達の行った方へと消えていったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ホテル最上階の一室

 

 

 

「・・・・・驚いただろ? お前と同じ“ファナリス”とはな」

 

「・・・・・・はぁ、まぁ・・・」

 

エリスティアによって着替えを済ませてきたシンドバッドにそう問われて、赤毛の男がそう答えた

 

「私もモルジアナを最初見た時驚いたわ・・・・・・。 マスルールくん以外の“ファナリス”って初めてだったから」

 

赤毛の男―――マスルールにそう言うと、マスルールはいたって普通に

 

「まぁ、珍しいっすからね」

 

と、そこでいったん区切ると、じーっとエリスティアを見た

視線に気づいたエリスティアが、一瞬首を傾げる

 

「どうかしたの? マスルールくん」

 

不思議そうに、そう尋ねると

マスルールは「いや・・・・・・」と、少し言葉を握らせて

 

「・・・・・・俺の記憶違いだったらすみません。 エリスさん、少し瘦せたのでは?」

 

「え? そう、かしら・・・・・・?」

 

言われて、エリスティアが思わず自身の身体を見る

が――――――突然、にゅっと横から伸びてきたシンドバッドの手が何故かエリスティアの胸を触った

 

「む? 確かに、弾力が前より少し落ちている。 エリス、飯はちゃんと―――――「何処、障って確認しているのよ!!!!」

 

 

 

 

どがしゃ―――――――ん

 

 

 

 

と、横にあった高そうな壺をシンドバッドの頭でかち割った

だが、当のシンドバッドは「はっはっは」と血を流しているのに、笑っていた

 

そんな二人のやり取りをみて、「はぁ~~~~~~~~~~~~」と、なが~~~~~い、溜息をジャーファルがつき

 

「エリスも、それぐらいにしてください。 これでも一応我らが“王”なのですから」

 

そう言って、一応、無事な部分だけ壺をもとの位置に戻しながら

 

「ところで、シン。 まさか荷物を全て盗られたわけではないですよね?」

 

「盗られたんだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ジャーファルが一瞬、固まる

それから少し頭を抱えつつ、つかつかとシンドバッドとエリスティアの傍にやってきて

 

「服だけじゃなく、あらゆる“道具”まで・・・・・・!?」

 

ジャーファルのその問いに、シンドバッドは悪びれもなく

 

「全て、盗られた」

 

「あぁ~~~」

 

ジャーファルが頭を抱えて、眩暈を起こしそうになる

 

エリスティア聞いた時と全く同じ反応だった

それはそうだろう

 

あの中には、他には代えられない大事なものがあったのだから

 

思わずジャーファルがシンドバッドの胸ぐらをつかんで

 

「あんた! あれがなんだか忘れたんですか・・・・・・!!?」

 

そう言って、揺さぶるが・・・・・・

当の本人は「はっはっは」と笑いながら

 

「大丈夫、大丈夫」

 

「大丈夫じゃねぇよ!!」

 

ジャーファルの本音が駄々洩れである

だが、シンドバッドは清々しいまでに爽やかに

 

「まぁ、なんとかなる。 俺に任せておけ!」

 

と、笑い飛ばしていた

それを横で見ていたエリスティアは、はぁ・・・・と溜息を洩らしながら

 

「無駄よ、ジャーファル。 それ、昨夜私もやったけれど・・・・・・この人に反省の色は全くないから」

 

と、呟いた

 

「エリス!! エリスもエリスです!! 今までどこで何をしていたのですか!! 何ヶ月もの間!!!!!」

 

瞬間、ギロリとジャーファルの矛先がエリスティアに向けられた

そこを問われると、流石のエリスティアも「うっ・・・・・・」と、言葉を詰まらせた

 

「それは、その・・・・・・」

 

と、苦笑いを浮かべる

 

そんな二人を見て、ジャーファルが「はぁ~~~~~~」と肩を落とした

 

「まったく・・・・あなた方二人は・・・・・・・・」

 

ジャーファルが頭を押さえながら

 

 

 

 

「一体、いつになったら王とその“ルシ”という自覚が生まれるというのですか!!?

 

 

 

 

         ――――――我がシンドリア国の主、シンドバッド王とその“ルシ” エリスティア・H・アジーズよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、リアルにジャーファル絡めたwww

つか、王サマ・・・・・・どこで確認してんのwwww

 

 

2021.03.12