CRYSTAL GATE
-The Goddess of Light-
◆ 第四夜 霧の団 11
――――翌日
「はっはっは、昨日は途中でいなくなってすまなかったね、アラジン、モルジアナ」
そう言って、笑うシンドバッドは なんというか・・・・・・
昨日にもまして、元気で、潤っているというか・・・・・・
英気を養ったというか・・・・・・
とにかく、これでもかという位 艶々していた
それに比べて――――・・・・・・
ジャーファルの視線が、シンドバッドの横でぐったりしているエリスティアに注がれる
もう、疲労困憊状態の様な彼女に有様に昨夜の惨劇が想像出来て、心の中で合唱をした
ジャーファルの視線に気づいたエリスティアが苦笑いを浮かべている
本当ならば、休んでいた所だろうが・・・・・・
この後、重要な案件の話し合いをするつもりなので、そうもいかない様だった
朝食を取りながら、シンドバッドはアラジンにある提案を持ちかけた
「アラジン、“マギ”である君に頼みがあるんだ」
「なんだい?」
アラジンは普通にそう返したが、エリスティが慌てて顔を上げてシンドバッドを引っ張った
「ちょっと、シン! まさか、あの件にアラジン達を巻き揉むつもり!?」
「そうだが?」
「“そうだが”じゃないでしょう!!! 彼らはまだ子供なのよ!? それなのに――――」
「よく考えろ、エリス。 アラジンは“マギ”なんだ。 これ以上の適役が他にあるか? 運命に選ばれるだけの能力がある」
「・・・・・・・・・・・・」
「仕方ないだろう? 今、俺達には“金属器”が一つもないんだ」
「それは――――・・・・・・」
シンドバッドの言う事も分からなくはない
“金属器”があるか、ないかで戦局は大きく変わる
でも、だからって――――・・・・・・
そこまで考えて、エリスティアが「ん?」と何かに引っかかりを覚えた様に顔を顰める
「シン? “金属器”が今ないのは、貴方のせいよね?」
「まぁ、そうとも言わなくはないな!」
「いや・・・・・・そんな堂々と言う事じゃないから・・・・・・」
エリスティアが呆れたように溜息を洩らす
だが、シンドバッドは気にした様子もなく
「実は、俺達は今とある戦を控えているんだ。 だが、ある理由により“金属器”がない」
「・・・・・・7つ全部盗まれたんですけどね」
と、ジャーファルがちゃちゃを入れる
だが、やはりシンドバッドはさらっとそれをスルーすると、アラジンに向かって
「是非、君の力を貸して欲しい」
「・・・・・・貸すって・・・、僕は何をすればいいんだい?」
「このバルバッドを騒がしている盗賊団“霧の団”を、俺たちで捕まえるんだ」
「え・・・・・・!? “霧の団”を捕まえる!?」
アラジン達がびっくりした様に、その大きな目を見開いた
それはそうだろう
“霧の団”といえば、今や“英雄視”する者もいると言っていた
その“霧の団”を捕まえれば、国民はどう思うか―――――・・・・・・
流石のアラジンにも容易に想像付いた
「ねぇ、シン。 やっぱり、アラジン達を巻き込むのは――――・・・・・・」
「そうですよ!! こんな小さな子供にそんなことさせていいワケないでしょう!?」
エリスティアがやはり納得いかないのか、「止めるべきだと」進言する前に、ジャーファルが叫んだ
だが、シンドバッドはいたって平然と
「何故、いけない」
「年端も行かない子供に、危険な事をさせるワケにはいきません!」
「・・・・・年齢は関係ないだろう? 一番肝心なのは、盗賊に相反する力があるか、ないかだ」
「それは――――」
彼の言いたい事も分かる
ずっといっしょにいたのだ、初めて出会った第1迷宮・バアルの時から――――・・・・・・
「アラジンは“マギ”なのだ。 見ての通り・・・・・・常識を超越した巨大な力を持っている。 子供であると同時に、その辺の大人よりずっと強い1人の人間なんだよ」
「・・・・・・・・・」
流石のジャーファルも押し黙った
「俺とて初めて“迷宮”を攻略したのは14の時だ。 大人が1万人以上死んだ“迷宮”だったそうだ。 以来、繰り返し幾度の航海、冒険、死地での戦いで“武器”になったのは、生きた年数ではなかった! ――――必要なのは、“力”。 未知の世界に挑み、選ばれる、他者よりも、優れた能力!!」
「・・・・・・・・・・」
「彼にはそれが備わっている。 お前達にもそれは分かるだろう?」
「・・・・・・・・・・」
それは、ジャーファルにも、エリスティアにも“身に覚えのある”体感だった
そう――――年齢は関係ない
でなければ、ジャーファルもあの時シャム=ラシュ郷の暗殺集団の中で、僅か10歳で頭領などやっていなかっただろう
エリスティアもそうだ、“彼”に勧められたからと言って、ジャーファルと同じく僅か10歳で第1迷宮・バアル内に入ったりしない
分かるからこそ、言い返せなかった
アラジンとモルジアナは顔を見合わせた
「盗賊退治だって・・・・・・。 どうしよっか、モルさん」
「・・・・・・・・・・」
モルジアナは一瞬アラジンを見た後、ゆっくりと海の方を見た
「・・・・・・私は、“暗黒大陸”に渡りたいのです」
まっすぐと前を見据えてそう呟いた
ぐっと、握る拳に力が入る
それから、ゆっくりとシンドバッド達の方を見て
「“霧の団”を倒せば、船は出る様になるのでしょうか?」
「・・・・・・その為に、俺達は来た」
「それから、私達は人探しをしています。 無事に解決したら、この国の王様に力を貸す様頼んで頂けますか?」
モルジアナからの提案に、シンドバッドが微かに笑った
「請け負おう」
シンドバッドのその言葉に、モルジアナは小さく頷くとアラジンを見た
「どうでしょう、アラジン」
「うん、やるよ! 盗賊退治!!」
アラジンの答えに、シンドバッドが嬉しそうに微笑んだ
「そうか! では、アラジン! 早速、作戦を練ろう!」
「うん!!」
そこまで言って、何かを思い出したかのように「ああ・・・・・・そうだ」と、シンドバッドが声を洩らすと
「モルジアナ、君は宿で待っていてくれたまえ」
「・・・・・・・・・え?」
予想外の言葉に、モルジアナは一瞬自分の耳を疑った
だが、シンドバッドはそれに気づかずにそっと、モルジアナの肩を押すと
「いくら“ファナリス”でも、女の子を戦わせられないよ」
「え・・・・・・あの、私も戦います・・・・」
と、モルジアナは言うが――――・・・・・・
シンドバッドはさも当然の様に
「ここは男の俺達に任せて、部屋で待っていてくれ! な?」
「あ、あの、シン・・・・・・」
流石に、見兼ねたエリスティアが声を掛けようとした時だった
モルジアナが思いっきり踏み出した足に力を入れた
瞬間―――――
どごぉ!!!
という、凄い音がして彼女の足が石畳にめり込んだ
そして、顔を膨らませて
「私も戦います! 目的の為に、盗賊団をいくつだろうと仕留める覚悟です」
「あ、はい・・・・・・」
唖然としたシンドバッドが、そう返事したのは言うまでもなかった
**** ****
――――バルバッド・ホテル最上階
場所をシンドバッド達が借りている部屋の、メインフロアへと移動する
すると、ジャーファルは何ヶ所かに赤い丸を付けたマップを机に広げた
「まず、国軍や市民から集めた盗賊団の活動傾向をお伝えします」
概要はこうだ
まず、1つ目
彼らが動くのは霧深い夜のみ
そもそも、バルバッドは「霧の街」と言われるぐらい、海からの風が丘にぶつかりよく霧が発生する
彼らは、その霧に乗じて姿を現すのだという
2つ目
彼らの「狙い」は国庫や、金持ちの屋敷のみで
十数人の小ユニットで動き、多くても百人未満で動く傾向がある
金品・食料・武器を奪い去っていくという
3つ目
気がかりな事に、彼らは毎回警備の裏をかき、国軍の手が薄い所を狙う
内部からの情報が洩れている可能性が高いのだ
さらに厄介な事に、市民の多くが彼らに協力的であるのだ
まず、街に逃げ込まれたら見つけられないのだという
「・・・・・・・・・・」
話を聞いていたシンドバッドとエリスティアが難しそうな顔で考え込む
その時だった、ふとアラジンが不思議そうに
「“盗賊”なのに、街の人が協力するの?」
アラジンの問いに、エリスティアが補足する様に
「・・・・・・彼らは、奪った金品を貧しい市民に分け与えているみたいなの。 だから、“義賊”と呼ばれて人気も高いわ。 それに――――・・・・・・」
思わずアラジンとモルジアナを見る
それから、エリスティア小さく息を吐くと
「その中でも最近人気なのは、“怪傑アリババ”呼ばれるリーダー格の男の人らしいのよ」
エリスティアが何を言いたいのか――――・・・・・・
アラジンには分かってしまった
“金品”を分け与える“義賊”――――・・・・・・
一瞬、脳裏に自分の見知った「彼」を思い出した
だが、アラジンは小さく首を横に振る
そうだ、
自分の知っているアリババな訳がない――――・・・・・・
だって、アリババは優しい人だから
きっと、違う
まるでそう自分に言い聞かす様にきゅっと唇を噛みしめた
「今回、“霧の団”が狙うのは、豪商アルジャリス。 もしくは、貴族のハルルーム。 どちらかの屋敷だと思われます」
そう言いながら、ジャーファルがとんとんっとマップの赤丸をしている所を指す
「何故、言い切れる?」
シンドバッドがそう問うと、エリスティアが
「こちらから、国軍に関する“偽情報”をさっき流しておいたの。 “霧の団”には政府内部にも親派がいるようだから――――・・・・・・」
「政府内にもか・・・・・・」
シンドバッドの表情が険しくなる
「想像以上に“霧の団”は“義賊”として人気が高まっているそうです」
ジャーファルの言葉に、シンドバッドが考える様な仕草をしていた
「シン・・・・・・、“霧の団”は多分そう簡単には行きそうにないわ。 何か、策を立てないと――――・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
エリスティアが心配そうに、そう口にする
と、その時だった
モルジアナがそっと口を挟んだ
「あの・・・・・・国民が支持している人を・・・・・・捕まえる事は、正しいのでしょうか・・・・・・?」
モルジアナの言いたい事も分からなくはない
「盗賊」だからと言って、全てが「間違っている」とは限らないのだ
でも・・・・・・
「俺は、正しいと思っている」
予想に反して、シンドバッドの答えははっきりとしていた
「彼らは奪った金を市民にばらまき支持を得ている。 故に“義賊”と呼ばれるわけだ。 だが、俺は考える。 それは、“犯罪”を“自己正当化”する行為では? ・・・・・・とかね。 たとえば――――エリス」
ふと、シンドバッドがエリスティアを見る
「お前はどう思う?」
シンドバッドにそう問われて、エリスティアが少し考える
「そうね、私は彼らの行動には“理由”ある気がするわ。 例えば――――何かをする前のプロパガンダ行為・・・・・・とも取れなくないと思うの」
「ふむ、一理あるな」
そう言って、ふっとシンドバッドが笑ってアラジンとモルジアナを交互に見る
そして
「まぁ、そんな具合に 俺・・・・俺達は自分で、自分の頭で考え、“正しい”と思える答えを出した」
そう言って、かたんっとシンドバッドが席を立つ
「君達も自分で何がいいのか精一杯考えて、自分達の導き出した“答え”を信じて行動して欲しい。 俺は――――」
そこで一旦区切って横にいるエリスティアを見ると、そっとその肩を抱いた
「俺達は、そうやって道を切り開いてきたが――――・・・・・・君たちはどうだろうか?」
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――――バルバッド・市街 夜
街は霧が薄っすらと出始め、月の光が届かないくらい濃くなりつつあった
「さて、と」
髪を編み込んでいる男が一人――――
ゆっくりと、立ち上がった
「そろそろ行くか、相棒」
そう言って、自分に後ろにいる覆面の男に話しかける
すると、その覆面の男は小さく息を吐いた後
「――――ああ・・・・」
そう言って、真っ直ぐに彼の金色の瞳が前を見据えた
そして――――・・・・・・
「行こう」
つ・い・に
やっと「霧の団」登場~~~~?
って所かな~~
今回は、真面目にスト進めましたwww
2022.09.24