CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第二夜 ルシとマギ 21

 

 

「ジュ…シュダル!?」

 

ジュダルと呼ばれた青年は、屋根の上からひょいっと飛び下りるとそのままエリスティアの前に着地した

そして、林檎をしゃくりと齧りながら、じっとエリスティアに顔を近づけてくる

 

「…………っ」

 

思わず、エリスティアが後退る

 

「なんで、オマエがここにいる訳? バカ殿は一緒じゃねぇのかよ?」

 

と、きょろきょろと辺りを見渡した

ジュダルの言う 「バカ殿」 とは、シンドバッドの事だった

 

いつもなら、ジュダルがエリスティアに近づくと直ぐにシンドバッドが間に割って入ってくれていた

だが、今 シンドバッドはいない

割って入る人もおらず、エリスティアはまた一歩後ろへと下がった

 

「シンはいないわよ……」

 

エリスティアの答えに、ジュダルがしゃくっと林檎を齧りながら

 

「だよなぁ~、こんな煌帝国のど真ん中に堂々と乗り込んでくるとは思えねぇしな~」

 

うんうんと頷きながら、林檎を最後まで食べ終わると、ぺろっとその手を舐めた

瞬間――――

 

ダンッという音と共に、ジュダルがエリスティアを拘束する様に、木に押し付けた

 

「―――――っ」

 

びくりとエリスティアが肩を震わせる

 

「じゃぁ、なんでオマエがここにいんだよ? エリス」

 

「……………」

 

エリスティアがキッとジュダルを睨んだ

するとジュダルは、おどけた様に

 

「ばぁ~か、オマエが睨んだって怖くねぇよ」

 

そう言って、ぐいっと顔を近づけてくる

 

「………ちょっと」

 

「丁度いいや、なぁエリス。 オマエ、シンドバッドなんて止めてこの煌帝国のルシになっちまえよ」

 

「は……?」

 

突然、意味不明な事を言われて、エリスティアが素っ頓狂な声を上げる

だが、ジュダルはにやりと笑みを浮かべて

 

「俺はさ、本当はオマエ等と組みたかったんだぜ? なのに、オマエ等ときたら俺の誘いを無視して国おっ建てちまうしよ。 俺は悲しかったんだぜぇ~?」

 

「……何度も言っているけれど…私もシンも貴方と組む気は無いわ。だって、貴方は組織の人間じゃない」

 

“組織”

 

それこそ、シンドバッドやエリスティアが戦ってきた相手だった

その“組織”の人間なのだ、この男は―――――

 

「……そういう、貴方こそどうしてここにいるの? 煌帝国はやはり、組織と――――」

 

「俺か? 俺は今、この国の神官してるんだよ」

 

ははっと、ジュダルが面白い事の様にそう言い放った

 

「神官?」

 

聞き慣れない言葉に、エリスティアが小さく首を傾げる

すると、ジュダルは二ッと笑って

 

「いいぜ~煌帝国はよ! 金属器使いが今は5人もいるんだぜ!?」

 

「……貴方は、“マギ” でしょう。つまり、その5人を貴方が迷宮(ダンジョン)へ誘ったという事?」

 

そう――――

このジュダルこそ、3人の ”マギ“ の内の一人なのだ

そして、その5人の金属器使いの内、一人が紅炎だ

 

ジュダルは面白いものを見つけた様に嬉しそうに

 

「特に、紅炎はいいぜ~。3つも持ってるからな!」

 

「………知っているわ」

 

練 紅炎が複数迷宮(ダンジョン)攻略者なのは有名な話だ

複数攻略者は、世界に二人しかいない

シンドバッドと、紅炎の二人だ

 

迷宮(ダンジョン)を知る者なら、この名を知らない者など この世界にいないだろう

すると、ジュダルはとんでもない事を言いだした

 

「そうだ! オマエ、紅炎のルシになっちまえよ!」

 

「………え…」

 

「なぁ! シンドバッドなんてやめて、そうしちまえよ!」

 

名案だと言わんばかりに、ジュダルが迫ってるが――――……

 

「ちょ、ちょっと勝手な事言わないでよ!!」

 

流石のジュダルのこの言葉に、エリスティアが切れた

 

「私はシン以外を主に選ぶ気はないと何度も――――」

 

「よーし、そうときまれば行こうぜ!」

 

「ちょ、ちょっと、人の話を――――」

 

エリスティアが抗議するが、ジュダルが上機嫌でエリスティアの肩に自身の手を掛けると歩き出した

エリスティアが、躓きそうになりながら引っ張られていく

 

「ちょ…離してよ!!」

 

「いいから、いいから~」

 

「よくないわ!!」

 

尚も抗議するが、まったく相手にすらして貰えない

ジュダルはいつもこうだ

人の話など、聞きやしない

 

こういう時、いつも止めに入ってくれるのがシンドバッドだったのだが

今、この場にシンドバッドはいない

自分で何とかしなければいけないのだ

 

エリスティアは力の限りジュダルの腕を振り払った

 

「離してったら!」

 

「っと」

 

急に腕を振り払われ、ジュダルがきょとんと目を瞬かせる

 

「なんだよ、エリス。そんなに嫌がる事ねぇだろ~? 名案じゃねぇか」

 

「勝手な事言わないで!! 私は、シン以外主に選ぶ気はないの!!」

 

エリスティアのその言葉に、ジュダルが呆れた様に溜息を付いた

 

「オマエって、ホント シンドバッド、シンドバッドばっかりだな」

 

「………何が言いたいのよ」

 

ジュダルの言葉に、むっとしてしまう

すると、ジュダルはさも当然の様に

 

「もっと、広い視野で物事を見ろって事だよ! 世界にはスゲーやつが山ほどいるんだぜ?」

 

「……余計なお世話よ」

 

その時だった

 

「神官殿、何をしておられるか」

 

突然、すっと通る様な声が聴こえてきた

ハッとしてそちらを見ると、黒髪に槍を持った青年がこちらへ歩いて来た

 

その青年を見た瞬間、ジュダルが ぱぁっと嬉しそうに微笑んだ

 

「白龍じゃねぇか!!」

 

そう叫ぶな否や、いそいそとその白龍という青年に駆け寄る

 

「丁度いいや!」

 

そう言って肩を抱くが、ぱしっとその白龍と言う青年はジュダルの手を跳ね除け

 

「そちらの女性は嫌がっている様に見えましたが? また、神官殿は無理強いを強いておいでか」

 

白龍がじろりとジュダルを睨みつける

だが、ジュダルは気にした様子もなく、ぱんぱんと白龍の背を叩いて

 

「紹介したいやつがいるんだよ~」

 

そう言って、どんっと白龍の背を叩く

急に背を押された白龍は躓きそうになりながら、エリスティアの前に付き出された

 

「あ、失礼を」

 

瞬間、白龍が慌てて拱手の構えを取る

余りにも素直に謝られて、エリスティアも 「あ、いえ…」 と答えるしかなかった

 

すると、ジュダルは二人の間に割って入ると

 

「エリス、紹介するぜ! こいつは白龍ってんだ」

 

「…………練 白龍です」

 

そう言って、ジュダルに紹介された事を若干不服に思いながらも、礼儀正しく白龍は頭を下げてきた

白龍にそう返されては、こちらとしても挨拶をしない訳にはいかな

 

「エリスティアです。 白龍様」

 

そう言って、頭を下げた

 

彼は練家の人間という事は、皇族と言う事になる

紅炎は例としても、馴れ馴れしく話して良い相手ではない

 

すると、ジュダルが面白いものを見た様に笑い出した

 

「なんだよオマエらー! 見合いみてぇだな!!」

 

ぎゃははははと笑うジュダルとは裏腹に、白龍が慌てた様に

 

「な、何を言われるか、神官殿!!」

 

そう抗議するが、その顔は真っ赤だった

それは勿論ジュダルにはお見通しで―――――

 

がしっと、白龍の肩を抱くと

 

「オマエ、こういう綺麗な姉ちゃんに弱いもんな?」

 

そう言ってくつくつとジュダルが笑う

 

「神官殿!!」

 

顔を益々真っ赤にした白龍が抗議するが、ジュダルにはまったく通用しなかった

 

その時だった

 

「エリス?」

 

急に名を呼ばれハッとして顔を上げると、回廊の方に左右将軍の黒彪と青龍を伴った紅炎が立っていた

 

「あ………」

 

思わず、紅炎の登場のほっとしたのもつかの間、ジュダルが紅炎を見つけるなり嬉しそうに

 

「紅炎! 丁度いい所に来たじゃねぇか!!」

 

そう言って、いそいそと紅炎の側に駆け寄った

 

「あいつ、エリスって言うんだけどよ~」

 

「知っている」

 

にこにこ顔をでそういうジュダルを余所に、紅炎は余裕の笑みを浮かべると外套ひるがえして、階段を降りてきた

そして、そのままエリスティアの前に行くと、そっと彼女に触れる様に手を伸ばした

 

「エリス、部屋は自由に使ってよいとは言ったが、出る事を許可した覚えはないぞ?」

 

「……ご、ごめんなさい」

 

確かに、紅炎には自由にしていいとは言われたが

やはり、部屋の中だけだったのだ

 

しゅんっとうな垂れるエリスティアを見て、紅炎がふと笑みを浮かべた

 

「まぁ、構わん」

 

それだけ言うと、ぐいっとエリスティアの腰に手を回したかと思うと、そのまま抱き寄せた

 

「あ……」

 

突然抱き寄せられ、エリスティアが声を洩らす

 

「ジュダル、また後で相手してやる。エリス、行くぞ」

 

それだけ言うと、紅炎はエリスティアを伴ってそのままその場を去って行ってしまった

それを見ていたジュダルは、ぽかん…としたままその瞳を瞬かせた

が、次の瞬間

 

「なんか、面白くなってきなた~。こりゃあ、シンドバッドが知ったら見物だぜ」

 

そう言って、くつくつと笑い出した

白龍は、紅炎に連れて行かれるエリスティアをただ見送る事しか出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒彪と青龍と別れた後、紅炎の部屋に戻ったエリスティアは、小さく息を吐いた

ふと、目の前で外套を外す紅炎を見て、慌てて手を伸ばす

 

「ああ、悪いな」

 

「ううん」

 

そのまま紅炎の外套を外すと、傍にあった衣架に掛ける

着ていた表着も預かると、衣架に掛けた

 

紅炎はそのまま、楽な恰好に変わるとどかりと椅子に座り書物を広げだした

エリスティアはなんだか手持ち無沙汰になり、そっと後ろから紅炎が何を読んでいるのか気になり覗き込んだ

 

その様子が可笑しかったのか、紅炎がふっと微かに笑みを零す

 

「気になるか?」

 

「え…あ、うん、少し……」

 

そう答えると、こいこいと言う風に手招きされた

言われるままに紅炎の側に近寄ると、不意にぐいっと腰を抱かれた

そしてそのまま紅炎の膝の上に乗せられる

 

ぎょっとしたのは他でもないエリスティアだ

 

「あ、あああ、あの、炎……っ」

 

まさかの、膝の上にエリスティアが口をぱくぱくさせながら顔を真っ赤にすると、紅炎は面白いものを見た様に、くっと笑い出した

 

「……顔が真っ赤だぞ」

 

「だ、誰のせいで―――――」

 

「仕方なかろう。ここ以外にお前の座る場所が無いのだから」

 

「う……っ」

 

紅炎の言う事は正しい

長椅子ではなく、一人用の椅子に紅炎は腰かけていたのだ

ここに二人座るのは無理がある

必然的に、紅炎の上に座る羽目になったのだが……

 

気になるなんて言わなければよかった…

 

と、思うものの後の祭りだった

 

でも、目の前にある書物も気になるのも事実で――――

本が気になるのと、紅炎の膝の上が気になるのと、二つの葛藤でエリスティアの頭の中は混乱していた

 

しかも……

 

こんな態勢じゃ本に集中出来ない……っ

 

恥ずかしさの方が勝っているのか…

エリスティアが真っ赤になったまま固まっているのとは裏腹に、紅炎は何事も無かったかのように頁を捲っていった

 

その時だった

 

「エリス」

 

「え?」

 

不意に名を呼ばれ、エリスティアが振り返ろうとする

が、瞬間 紅炎の吸い込まれそうな柘榴石の瞳と目が合いどきん…と心臓が大きく跳ねた

 

紅炎は、エリスティアをぎゅっと抱きしめると、そのままその首に顔を埋めた

 

「あ、あああの……っ」

 

いきなりの行動に、エリスティアが益々顔を赤くさせる

 

「エリス――――今夜はここにいろ」

 

「………え…」

 

ぎゅっと、エリスティアを抱く紅炎の腕に力が篭った

 

そして

 

 

 

 

 

        「……今夜、お前を離したくない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュダルと白龍との回でした

やっと、練家が一人お知り合いになりましたww

 

さて、問題は紅炎ですよ!!

あんな事言ってますけど…待て次回!! 

 

2014/02/10