古戀唄 ~緋朱伝承~

 

 壱章 守護者 9

 

 

「では、行ってきます」

 

そう言って、拓磨と一緒に宇賀谷家を出る

美鶴が、「いってらっしゃいませ」と言って、深々と頭を下げて見送ってくれた

 

初日と同じ様に自然に繋がれた手が、ほのかに熱を帯びる

何故・・・・・・彼はここまでするのだろう?

 

彼らが「ババ様」と呼ぶ宇賀谷静紀

彼女からの指示だからだろうか

それとも、初めてこの村に足を踏み入れた日――――あの日に無意識とはいえ逃げて「オボレガミ」なるものに襲われて手間を掛けたからだろうか?

もしくは、学校初日から迷惑をかけてしまったからだろうか?

 

思い当たる節が多すぎて、どれか見当が付かない

 

なに、やっているのかしら・・・・・・私・・・

 

いつも、彼らに世話になって、迷惑かけて・・・・・・

そう考えると、自分が情けなくなる

 

ふいに、拓磨がぴたっとその足を止めた

 

「・・・・・・・・・?」

 

突然、立ち止まった理由が分からず、沙綾が首を傾げる

さぁぁ・・・・・・と風が吹いた

 

さらりと、沙綾の長い漆黒の髪が揺れる

 

長い沈黙――――・・・・・・

 

時間としては、ほんの一瞬だったかもしれない

だが、沙綾には酷く長く感じた

 

ふいに、拓磨の手が伸びてきたかと思うと沙綾の髪に触れた

 

「・・・・・・・っ」

 

突然のことに、沙綾がぴくっと肩を震わす

 

「髪・・・・・・」

 

ぽつりと、拓磨が呟いた

 

え・・・・・・? 髪・・・・・・?

 

髪がどうかしたのだろうか?

どこか間違っているのだろうか・・・・・・?

でも、これは美鶴が結んでくれた――――・・・・・・

 

そんな事を考えている沙綾とは裏腹に、拓磨はすいっと彼女の髪を横に避けた

その避けた髪が、拓磨の指の間をするりと落ちてゆく

 

「髪が、顔にかかってた」

 

「え・・・・・・?」

 

髪を避けた、だけ・・・・・・?

 

どう反応してよいのか、分からず困惑していると

突然、拓磨がぷっと吹き出した

 

「え? あ、あの・・・・・・?」

 

急に笑われる理由が分からず、沙綾が首を傾げる

だが、拓磨はツボに入ったのか、お腹を押さえて笑い出した

 

「はは・・・・・っ! いや、お前っ・・・・・・面白すぎ」

 

何が面白いのかまったく理解出来ない

 

「鬼崎さ・・・・・・」

 

「おいおい、俺が言った事忘れたのか?」

 

「え?」

 

「“拓磨”」

 

あ・・・・・・

 

名前の呼び方の事を言っているのだ

次第に、沙綾の頬が赤みを帯びていく

 

「あ、えっと・・・・その事は・・・・・・」

 

呼べと言われていきなり知り合って間もない男の人を、名前で呼べるわけがない

沙綾が顔を赤くしたと思ったら、今度は困惑した顔になる

 

それを見た拓磨が、またぷはっと吹き出した

そんな拓磨を見て、今度こそ沙綾が真っ赤になり――――――・・・・・・

 

 

 

「お、お、鬼崎さん!!!」

 

 

 

と、怒ったのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――紅陵学院・高等部

 

 

「・・・・・・・・・」

 

沙綾は、むすっとしたまま拓磨に連れられて、自分の席があるという教室という所に入った

すると、それまで繋いでいた手が自然とするっと離れる

 

「あ・・・・・・」

 

怒っていた筈なのに、なんだか少し寂しい様な気がした

瞬間――――

 

ぴんっと、突然額を弾かれた

 

「????」

 

一瞬、何をされたのか分からず、沙綾が弾かれた額を抑える

 

「また、変顔になってるぞ」

 

「へ・・・・・・」

 

変顔・・・・・・?

 

拓磨の言う意味がますます理解出来なくて、沙綾が唖然としていると

拓磨は何でもない事の様に、「今日はちゃんと授業受けろよ」とだけ言い残して、自分の席に行ってしまった

 

「・・・・・・・・・・」

 

結局、彼は何が言いたいのだろうか・・・・・・?

なんだかこう、色々と釈然としなくて、もやもやした

 

と、その時だった

 

「おっはよ~! やや、君は昨日の美少女転校生君ではありませんか!!」

 

「え?」

 

突然、見知ら眼鏡に短めの髪を2つに結んだ少女が、沙綾の後ろから現れた

 

「あ・・・・・・」

 

この方・・・・・・

 

昨日のことが、鮮明に蘇る

昨日、隣の席にいた子だ

あの時―――彼女に触れられた瞬間、全身に電気でも走った様な痛みが襲ってきたのだ

 

思わず、まじまじとその少女を見てしまう

すると、少女は「およ?」と言いながら

その大きな瞳を瞬かせて

 

「ん? どったの?」

 

そう言って、じいいいっと沙綾を見る

 

「・・・・・・・・・・・」

 

拓磨といい、彼女といい・・・・・・

じっと人の顔を見るのが普通の接し方なのかしら・・・・・・?

 

などと、見当違いな事を思っていると――――・・・・・・

 

「こんな所につっ立ってないで、早く席に行こ行こ~~」

 

「え!? あ、あの・・・・・・っ」

 

そう言って、ぐいぐいっと沙綾の背を押していく

今日は、あの電気の様な痛みは走らなかった

 

改めて、昨日案内された窓際の席にたどり着く

とりあえず、持っていた鞄を置いて席に着くと、隣の席の座った彼女がくるっとこちらを向いた

そして、にっこりと笑って

 

「私は、多家良清乃って言うの、宜しくねっ! で、貴女は?」

 

「あ・・・・えっと・・・」

 

本当の名前かは分からないけれど――――・・・・・・

 

「霞上・・・沙綾です」

 

少し自信なさそうにそう答えると

少女―――多家良清乃は、「そっかそっか~」とにこにこ笑いながら頷き

 

「ねえ、沙綾ちゃんって呼んでいい?」

 

「え? あ、はい・・・・・・」

 

沙綾がそう頷くと、清乃は嬉しそうに笑いながら すすす・・・・・・と、沙綾の方に席を寄せると

 

「実は、沙綾ちゃんにお知らせしなければならない重大な事があります」

 

清乃はいきなり真面目な顔になると、沙綾をじっと見て

なんだか、清乃の雰囲気から何とも言えない緊張感が漂ってくる

 

沙綾は、ごくっと息を呑んだ

 

「な・・・・・・何でしょうか?」

 

沙綾がそう尋ねると、清乃は周りの生徒達を一回見ると

まるで、こそっと沙綾にだけ耳打ちする様に・・・・・・

 

「実はね・・・・・・ここはスマホが使えないの」

 

え・・・・・・? ス、マホ・・・・・・??

 

とは、何の事だろう?

と、沙綾が思わず首を傾げるが――――清乃はうんうんと頷き

 

「今どき、この日本で! スマホが使えない場所があるだなんて信じられる!?」

 

「あ、あの・・・・・・」

 

「ああ、ちなみに沙綾ちゃんはiPhone派? それともAndroid派? 私はね――――勿論iPhone派なんだけど――――あ、私のiPhone、名づけてリュウちゃん!! 見る? 見る見る?」

 

「え? あ、あの・・・・・・」

 

「ふっふっふ~~可愛いんだよ~、私のリュウちゃん!!」

 

そう言って、鞄の中からごそごそと四角箱状の何かを取り出した

 

「じゃ――――ん! これがリュウちゃんでっす!!」

 

そう言って、清乃が出した小さな箱状の“何か”には、男の人と清乃と思しき人が――――

 

「あ――――!! 待った!! 待って待って待ってええええ!!!」

 

清乃が何かに気付いたのか、わたわたとその取り出した箱状の“何か”を片手で操作しだす

 

「あ、あぶな―――!!! これで・・・・・・よっし」

 

そう言いながら器用にそれを操作して何かをしたようだった

それから、こほんっと清乃が改めて

 

「ではでは、本校初公開であります!! 私のリョウちゃんでっす!!」

 

そう言って、今度こそ清乃が見せた箱には、先ほどとは違って小さな動物らしきものが写っていた

思わず、沙綾がまじまじとそれを見てしまう

 

すると、清乃がにんまりとしながら

 

「可愛いでしょ、待ち受けの猫! うちの実家の子なんだ~」

 

そう言って、また器用にその箱を片手でスライドしながら同じ“猫”という動物を見せてくれる

 

「・・・・・・・・」

 

沙綾が余りにも食い入るように見るものだから、清乃が「そうだ!」と何か思いついた様に

 

「そんなに気に入ったならこの写真送ってあげようか?」

 

「しゃ、しん・・・・・・?」

 

沙綾が不思議そうな顔をしてそう尋ねてきた

一瞬、清乃が「ん?」となる

が、次の瞬間 ぱぱぱとその箱を操作して

 

「これとか、これとかおススメ! 可愛いんだよ~。 これなんて肉球!! ちょうぷにぷになの!! 可愛くない?!」

 

清乃が身を乗り出して同意を求めくるので、沙綾はよくわからないまま こくこくと頷いた

すると、清乃は「でしょ~?」と満足げに笑いつつ

 

「じゃぁ、後で内緒の所で送ってあげるから、沙綾ちゃんの連絡先教えて! っていうか、LINEかDiscordやってる? 私どっちもアカウントあるから~どっちでもいいよ~」

 

と、ずずいと押し寄せてきた

流石に、これは先ほどの「写真」という物の様にごまかしが利かなさそうだ

 

「あ、えっと・・・・・・その、ス、マホ? 持ってなくて・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

一瞬、清乃が何を言われたのか分からないという風に、その大きな目を瞬かせた

が、次の瞬間、何かを誤魔化すかのように

 

「あ、あ~! もしかしてお家が厳しくて、ガラケーしか持たせてもらえないとか?」

 

「あ、その、がら、けー? というのもよく分からないのだけれど・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沈黙の後、清乃が何かを思ったのか頭を抱えた

が、数秒後 沙綾の方に向き直すと

 

「沙綾ちゃん!!!!」

 

がしい!! と、突然沙綾の両手を握りしめたかと思うと、目をうるうると潤ませながら

 

「そっかそっかぁ~、沙綾ちゃんって旧家のお嬢様だったんだね。 だからって今どきの旧家って娘にスマホ1つ与えないわけ?! 何かあった時一体どうするのよ!!」

 

「え、あ、いえ、そうではなくて――――・・・・・・」

 

何と説明したらいいのだろうか・・・・・・

上手く説明できる自信がない

 

とりあえず、彼女の言動から分かった事は・・・・・・

あの箱はiPhoneというらしい

そして、そのiPhoneで見せてくれたものが猫という動物の写真という物だと言う事だ

後、この村はスマホ?というものが使えない

Androidというものと、ガラケーという物も存在するのは分かったが、それが何なのかまでは分からなかった

 

そこで、ふと、ある疑問に引っかかった

 

そういえば、あのiPhoneは最初に見た時、彼女と男の人が写っていた気がした

よく顔は見えなかったが――――・・・・・・

 

「あの・・・・・・多家良さん、先ほど―――・・・・」

 

「やだな~“清乃”って呼んでよ~!!」

 

と、突然ばんばんっと背を叩かれた

 

「え、で、ですが・・・・・・」

 

流石にいきなり名前で呼ぶのは気が引けた

 

「“清乃”、ね? で、何々~?」

 

沙綾から話しかけられたのが嬉しかったのか、清乃が喜々として近寄てくる

 

「あ、えっと・・・・、先ほどそのiPhoneに写っていたのだけれど・・・・・・。 猫ではなく、多家良さんともう一人男性の方が――――」

 

「あ、ああ~~あれ、あれかぁ~~。 み、みえ、ちゃった・・・・・・?」

 

清乃が困っている風な仕草をするが、顔は笑っていた

なんだか、そのちぐはぐな組み合わせに、沙綾が首を傾げる

 

すると、清乃は小さな声で

 

「な、内緒だよ? そ、その・・・・・私の・・・・・・」

 

もじもじと何か言いにくそうにそう言う清乃に、聞いてはいけない事だったのではと不安になる

 

「あ、えっと、多家良さん、言いにくいのなら―――」

 

「言わなくても」と、言おうとしたが、清乃が「いやいや!」と首を横に振った

 

「こんな事も打ち明けられないなら、沙綾ちゃんの友達になれないもんね!!」

 

「え・・・・・・?」

 

とも、だ、ち・・・・・・?

 

聞き慣れない言葉に、沙綾がその菖蒲色の瞳を瞬かせた

 

ともだち・・・・・・って、何の事だろう・・・・・・?

 

拓磨や、真弘や祐一達はそんな言葉使ってはいなかった

では、なにかもっと別のものだろうか・・・・・・?

 

「・・・・・・・・・」

 

なぜか、酷くその「言葉」が気になった

「友達」という「言葉」が――――・・・・・・

 

だからだろうか

その時、清乃が何か言っていたが、全然頭に入ってこなかった

 

 

 

 

***   ***

 

 

 

 

「――――ってことなんで、私の事を聞いたんだから、勿論 沙綾ちゃんの事も教えてくれるんだよね?!」

 

 

「・・・・・・え・・・?」

 

 

なに、を・・・・・・?

 

まさか、全然聞いていなかったとは言えず、沙綾が表情を強張らせる

が、清乃が逃がす訳もなく

 

「だめだよ~~? 人の事 聞いておいて、自分だけ逃げよったってそうはいかないんだから! 第一、これ、クラスのみんな聞きたくてウズウズしてる事だし――――?」

 

よくよく周りを見ると、聴き耳立てているのが分かる

 

すると、清乃がにんまり笑い

 

 

「ずばり! 鬼崎君と同棲してるって、ほんと!?」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・?」

 

 

 

 

 

鬼崎さんと・・・・・・?

 

どう、せい・・・・・・???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

へい! 夏振りの更新ですが・・・・・・

ちっとも、進展してないっていうね

てか、「記憶喪失」がめんどくでえええええ

になってますwww 私がwww

 

 

前:無し

※改:2022.10.15