雪華の願い ~月詠梅花~

 

 一章 残雪 3

 

 

「ど、どうしよう―――……っ」

 

頭が混乱する

こんな時、瞬が居てくれれば―――……

 

――――ずるり

 

化け物が近づいてくる

そして、手に持っていた刃がこぼれた獲物を振り上げてくる

 

 

「―――いやっ……!助けて、誰か―――っ!!」

 

 

瞬兄!都……っ!!

 

 

心の中でそう叫んだ時だった

 

「どうしたっ!?」

 

向こうの方から人の声が聴こえてきた

ゆきが、はっとして顔を上げると、茂みの向こうから両手に銃を持った男が走ってきた

 

「こいつかっ!」

 

男は素早く銃を構えると

 

ドン ドンドン

 

その音が聞こえると同時に、化け物の絶叫が聴こえてきた

「ギャァァァァ」と叫ぶと、化け物はそのまま消えてしまった

 

 

「よーし、もう大丈夫だ。怖いもんは片づけたぜ、安心しな」

 

あ…日本語だ………

 

それは、日本語だった

やはり、ここは日本なのだと確信する

 

「あ…ありがとうございました」

 

「怪我はなかったかい?あんたも見ただろ、さっきの空の光。あれで怨霊どもがざわついてるんだ。気を付け―――」

 

そこまで言い掛けて男が言葉を切った

ゆきの顔を見るなり、驚いた様にその目を見開く

 

 

怨霊……?

 

 

聴きなれない言葉だった

 

「あの…怨霊ってなんですか?」

 

と、聞いた筈だったのだが……

いきなり男が、ゆきの肩をがしっと掴み揺さぶった

 

 

「お嬢!?お嬢じゃないかっ!!」

 

 

そう叫ぶと同時に、いきなり引き寄せられるとぎゅ~~~~~と抱きしめられた

 

「なんでお嬢がこんな所にいるんだ?いや、理由なんていい!運命に理由なんてないもんなっ!!」

 

そう言って、ゆきをぎゅうっと強く抱きしめ歓喜の声を上げる

 

 

「ずっと会いたかったんだぜ……」

 

 

「………………」

 

一方、ゆきは言葉を失っていた

初めて会った筈の男にいきなり抱きしめられたのだ

 

しゅ…しゅしゅしゅ…瞬兄っっ

 

頭が混乱する

 

「あ、あの………!」

 

ゆきが何とか声を出すと、男ははっとした様に抱きしめていた腕を離した

 

「あ、ああ、悪いお嬢。つい嬉しさのあまり強く抱きしめちまった」

 

「え…ええっと……」

 

ゆきが言葉に困っていると、男はごそごそと懐から何かを取り出した

 

「なぁ、これに見覚えがあるだろう?お嬢があの時、俺にくれた……」

 

そう言って、男が取り出したのは何かの破片の様な物だった

 

「いつか、絶対またお嬢に会える。そう信じて、ずっと肌身離さず持ってたんだぜ」

 

「……………」

 

残念ながら、それはまったく記憶にない物だった

 

私を誰かと誤解してるのかな……?

 

男が余りにも嬉しそうに言うので、凄く言いにくいのだが……

 

「あの……人違いだと思います」

 

ゆきのその言葉に、男がきょとんとした後、首を傾げた

 

「人違い?まさか!俺が、お嬢を見間違える筈がない!」

 

彼はそう言うが、本当に記憶にないのだ

 

「すみません……。私、前に会った事は多分無いと思います。ここに来たのも初めてだし……。あの…ここって何処なんでしょうか?」

 

その言葉に、男が驚いた様な顔をした

 

「まさか…お嬢、記憶がないのか?ここは下関の近くだよ。藩で言えば長州藩。攘夷運動の旗頭で、今は幕府と対立してる」

 

「はん……???」

 

藩とは、何の事だろうか……?

 

 

「―――本当に、まったく何も覚えていないのか?」

 

「ええっと……ここは日本なんですよね?」

 

「まぁ、そういやぁそうだな。これからは何でも、日本全体を視野に入れて物事を考えなきゃならん。流石はお嬢、よく分かってるな!

 

何故、そこで褒められるのかまったく分からない

ゆきが首を傾げている時だった

 

―――ずる……ぺた…

 

「………っと、危ない!」

 

あの音がまた聞こえたと思った瞬間、男がまた銃を構えた

ドンッと一発撃つ

 

 

「無事か?」

 

 

「はい……でも、あの……あれは一体何でしょうか?」

 

消えたであろう化け物の方を見ながら、ゆきが呟いた

 

「あれが、怨霊だ」

 

「怨霊……?」

 

男は、持っていた銃で肩を叩きながら、ふぅ…と小さく息を吐いた

 

「どうやら、ここらは奴らが出やすいみたいだな。長居は無用だ。山を下りれば人家がある。まずはそこへ向かおう」

 

「でも、私……一緒に居た幼馴染や従姉妹ともはぐれてしまって…皆を探さないと…」

 

瞬や祟、都をこのままにはしておけない

 

「だったら、探しながら行くとしようぜ」

 

そう言って、男がゆきの肩を叩いた

ゆきは、ただそれに頷くしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹々が生い茂る、山の中腹の付近

高杉は腕を組み樹にもたれ掛りながら、“それ”を待っていた

 

辺りは、シン…と静まり返り、時折鳥のさえずりが聞こえてくる

 

ふと、おもむろに左腕を挙げた

そして、袖をたくし上げる

 

その手首には、黒地に金の紋様が彫られている腕輪がはめられていた

彼女がお守りだと言って高杉に贈ってくれた物だ

その日から、肌身離さず身に付けている

 

五年半前

初めて彼女に会った

たった二年という短い歳月を共に過ごした

 

そして、あの日―――

忘れもしない、安政六年の十月十六日

 

彼女を―――永遠に失った

 

今でも覚えている

自分の腕の中で、冷たくなっていく身体

失われていく言葉

消えゆく、命の灯

彼女の美しい紅梅色の瞳が閉じられた時、高杉はすべてを失った

 

何度呼びかけても、彼女が目を覚ます事はなかった

彼女が高杉の名を呼ぶ事は、もう二度と無いのだ

 

高杉は、ゆっくりとその左腕にはめられている腕輪を撫でた

 

 

愛しい 唯一の名を呼ぶ

 

 

 

 

 

「桃樺………」

 

 

 

 

 

 

その時だった

後ろの茂みから一人の男が慌てて駆け込んできた

 

「ああっ!こんな所に居たのか!!探したぞ、高杉っ!!」

 

駆け込んできたのは、幼馴染の久坂玄瑞だった

高杉は小さく息を吐くと、そのまますいっと視線を久坂から外した

 

「おい……今、あからさまに視線を反らしただろう?っというか、今の溜息はなんだ、溜息は!」

 

久坂がぷんすか怒りながら、高杉の傍までやってくる

と、はたっと高杉の左腕に気付き、言葉を切った

 

「……お前が、それを人前に出してるのは珍しいな」

 

久坂のその言葉に、高杉が一度だけ久坂を見る

そして、すっとそのまま袖を戻した

「別にお前は知っているからな。構わん」

 

久坂は、彼女の事も、彼女がどうなったかもそこに居たので知っている

だから、別段隠す必要など無かった

 

久坂が小さく息を吐いた

 

「なぁ、高杉。あれからもう三年以上も経つんだぞ?お前は、一体いつまで―――……」

 

そこから先の言葉は出なかった

高杉はその問いに答える事無く、一度だけ久坂見た後、ゆっくりと空へ視線を向けた

 

雲が緩やかに進んでいる

 

「久坂……。俺は、きっと一生忘れられない」

 

今でも鮮明に残る

彼女の微笑む姿

触れる指先

流れる様な黒髪

美しい紅梅色の瞳

 

そして―――……

 

淡く微笑み

 

「晋作さん」

 

と自分を呼ぶ、透き通る様な声

 

「桃樺を―――……あいつを忘れるなんて……出来る筈がないんだ―――……」

 

今でも時折夢に見る

振り返ると、彼女が微笑み傍に居る

「晋作さん」と名を呼んでくれる

 

そんな彼女を、どうして忘れられようか

 

「……忘れられる筈が…ない………」

 

高杉は苦しそうに顔を顰めると、ぎゅっと拳を握りしめた

 

「高杉……」

 

久坂も、高杉がどれだけ彼女を愛していたか知っている

だから、彼の苦しみが嫌という程分かった

とてもじゃないが、そんな高杉に「忘れろ」とは言えなかった

 

久坂は、わざとらしく咳払いをすると話題を変えようと明るい声で

 

「そういえば、知ってるか?幕府は、今回の攘夷決行の確約を俺達長州が陰で糸を引いた企みだと思ってるらしいぞ?」

 

久坂のその言葉に、高杉が一度だけ目を瞬かせた後、小さく息を吐いた

 

「何を言っている。実際、そうだろうが」

 

本当にそうなのだから、否定する必要もない

 

「いやいや、確かに俺達が助言したが、俺達はあくまでも助言しただけだ。実際に決めたのは違うだろう」

 

「ふん、誰が決めたかなどどうでもよい。お陰でこうして堂々と攘夷が出来るのだからな」

 

確かに、長州は朝廷に幕府に進言する様に脅した訳ではない

約束も守らず、反故にしようとしている幕府に対しての助言をしたまでだ

それを朝廷が受け取り、幕府に進言した

そして、攘夷決行を決めたのはその幕府の将軍だ

 

だが、そんな事どうでもよかった

今、海域に居るこの国を脅かそうとする目障りな諸外国に断行出来る

それだけでいい

 

不意に、高杉がバッと顔を上げた

 

「高杉?」

 

不思議に思った久坂が、高杉を見る

高杉は口元に笑みを浮かべならが、顎をしゃくった

 

「見ろ、久坂。どうやら当たった様だ」

 

そう言って、バサッと外套を手繰ると樹から背を離れた

言われて久坂がそっちの方を見ると、下の方を二人連れの外国人が走っている

 

「あれは……」

 

久坂が言葉を発するよりも早く、高杉が動き出した

 

「俺は先に行く。久坂、お前は下に居る藩士を連れてから来い!」

 

そう言い残すと、外套を翻して駆け出した

 

「あっ!お、おい!高杉っ!!」

 

久坂が慌てて止めようとするが、高杉の姿はそのまま樹々の奥へ消えて行った

残された久坂は、はぁ…と溜息を付いた後、やれやれという感じに頭をかいて来た道を戻って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ようやく山を下って街道に出た

ゆきは、慣れない山歩きで上がっていた息を整える様に深呼吸した

 

「しかし、似てるよなぁ…。どう見ても別人とは思えんぜ」

 

一緒に来てくれた先程の男が、ゆきをまじまじと見ながらそう言う

話の内容は、この男がゆきと見間違えたであろう「お嬢」という人の事だ

 

「その人と私って…そんなに似てるんですか?」

 

「似てるも何もそっくりさ!まぁ…最後に会ったのは十年も前になるが…。お嬢の顔は今も心に焼き付いてる」

 

「十年前……?」

 

十年前だと、ゆきなら六歳だ

とてもじゃないが、そんなにそっくりという事は無い筈である

 

「ああ、十年前だ。ベルリが黒船を率いて日本にやって来た年だからな」

 

「………………」

 

ベルリ……?

黒船……?

 

また知らない単語が出てきた

 

「どうしたんだい、お嬢?」

 

小さく首を傾げていたゆきを不思議に思ったのか、その男が尋ねてきた

 

「……何でもありません」

 

ゆきは、慌てて首を振った

 

「その……ただ、一度に色んな事があって、考えなきゃいけない事がいっぱいで……ちょっと混乱してるんです。 私の乗ってきた飛行機はどうなったんだろうとか……。 あの変なの…怨霊の事とか……。 あんな怖いのが日本にいるなんて……私、初めて知りました」

 

今度はゆきの言葉に、男が首を捻った

 

「ひこうきって…なんだ?それに、怨霊を知らない?そんな筈ないだろう」

 

「え……?」

 

「日本全国、津津浦浦 子供だって知ってる事だぜ?」

 

そう言われても、困る

本当に知らないのだ

 

「でも、本当に知らないんです。ニュースにもなってないし…。怨霊って一体何なんですか?」

 

ゆきからの問いに、男がうーんと唸った

 

「そう言われると……俺も実はよく分かってないんだが……」

 

そう言って、頭をかく

 

「まぁ、一言で言うと、怨霊ってのは危険なもんだ。奴らは人間を見ると襲ってくる。運悪く出くわしたら、命を落とす事だってあるんだぜ?」

 

昔からいたらしく

最近は人里の近くでも油断出来ないらしい

 

「ここらでも、旅人が何度も怨霊に襲われたって話を聞いた。お嬢もくれぐれも気を付けてくれよ」

 

男がゆきにそう注意を促した時だった

 

「おーい、ゆき!」

 

向こうの方から、聞き覚えのある声が聴こえてきた

ゆきは、はっとしてその声のした方を見る

そこに居たのは―――

 

「都!瞬兄!」

 

離れ離れになった筈の都と瞬だった

二人はゆきを確認すると、翔って来た

 

「なんか服が違うから一瞬、違うヤツかと思ったじゃないか」

 

都に言われて、はたっと自分の着ている服装を見る

確かに、飛行機に乗る時に着ていた制服とは似て非なる物だった

 

「あれ?本当だ……いつの間に…」

 

そこまで呟いて都達を見る

二人も、着ていた服と違っていた

 

「都と瞬兄も服、違う……」

 

「ま、そんな事はいいさ。バッチリ似合ってるしな!」

 

そう言って、都がぐっと親指を立てた

 

「でも、本当に無事でよかったよ」

 

「うん、都と瞬兄も……」

 

そこまで言い掛けて、ある事に気付いた

 

「……あれ?祟くんは?」

 

都と瞬は居た……が、一人足りない

祟が居ないのだ

 

「祟の姿は見えません」

 

「えっ……?」

 

瞬の言葉に、ゆきが驚いた様に声を上げた

祟くんが居ない……?

 

「探していたのは、この人達かい?」

 

ゆきが心の中で首を傾げていると

不意に一緒に付いて来てくれた男に声を掛けられた

 

「あ、はい」

 

頷いてから、都と瞬を見る

 

「都、瞬兄。私、この人に助けてもらったの」

 

「助けて?」

 

ゆきの言葉に、瞬がその表情を険しくさせる

 

「さっき、何だか怖い物が襲ってきて……」

 

「そこに俺がさっそうと登場!両手に構えた拳銃で怨霊をばばっと倒したんだ。ま、通りすがりの“ひーろー”って事だな」

 

そう言って、その男の人がニッと笑ってみせる

が、瞬はますます顔を険しくさせた

 

「……怨霊?」

 

「怨霊ってなんだよ。オカルトマニア?」

 

都も不思議に思ったのか、不審そうに顔を顰めた

 

「二人とも失礼だよ。私の事、助けてくれた人に―――」

 

「いいって、いいって。怨霊の事知らないんなら、そう簡単に信じられるもんじゃないさ」

 

ゆきが二人をたしなめ様とすると、その男は気にした様子もなく笑みを浮かべながらそう言った

 

その時だった

向こうの方から一人の浪人風の所が駆け寄ってきた

 

「坂本さん、ここにいたのか!もう、始まってるぞ!!」

 

浪人風の男は慌てた様に早口で

 

「ただでさえ騒動で足止めを食らってるんだ。中岡さんも待ってる、急いでくれ!」

 

浪人風の男の言葉に、男がぎょっとした様に声を上げた

 

「げっ、本当か!?よりにもよってこんな時に……。しょうがねぇなぁ―――ああ、今行く!」

 

浪人風の男にそう答えると、くるっとゆき達の方に向き直り

 

「―――ってな訳で、すまねぇな。俺はもう行かなきゃならん。まっ、人気者は大忙しって事だ」

 

そう言って、男がニッと笑う

 

「折角、会えたってのになぁ……残念だが、仕方ない。お嬢はしばらくはこの辺りにいるのかい?」

 

そう言われて、ゆきは困った様に都と瞬を見た

 

「えっと……分かりません。帰れるものなら、帰りたいけど……」

 

ゆきがそう言うと、男は意外とあっさり納得した様に頷き

 

「そっか……、とにかく、ここは危ない。早く連れのもんと一緒にどっか安全なとこに避難しろよ。じゃぁ、縁があったら、またな!」

 

それだけ言い残すと、男は一度だけ手を挙げてそのまま浪人風の男と一緒に翔って行ってしまった

 

「……嵐みたいな男だったな」

 

都がぽつりと呟く

 

確かに、そう言われてみればそうかもしれない

いや、嵐というより風だろうか……

 

「で?結局、何だったんだ?ここに居ない方がいいって言われてもなぁ……。そもそも、ここが何処なんだかサッパリ分からないんだけど」

 

都の言う事ももっともだ

だが、ゆきも分からないので答えようがない

だは、とりあえず―――

 

「とにかく、祟くんを探さないと……」

 

あの男の人は、ここは危険だと言っていた

なら、尚更早く探さなければいけない

 

「人が多い場所に行けば祟くんを見かけた人がいるかもしれないよね?海が近いから港で探せば知ってる人がいるかも……」

 

ゆきの言葉に、都が頷く

 

「そうだな、とりあえずこの先にそれっぽいのがあったから、そっちに行ってみないか?」

 

「瞬兄、それでいい?」

 

ゆきが瞬に同意を求めると、瞬も一度だけ目を伏せた後、「分かりました」と言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港に入った後、三人は祟を見た人がいないか探した

だが、それらしい目撃情報は得られなかった

そして、気が付いたら海沿いの方まで来てしまった

 

「……祟くん、いないね。どこに行ったんだろう……?」

 

ゆきが途方に暮れながらそう呟いた時だった

瞬間、空気が淀んだ

 

「…………っ?」

 

と、同時に

生暖かい気持ちの悪い匂いが、そこら中に漂い始めた

 

「くっ……」

 

都が苦しそうに顔を顰めた

 

――ずる…ぺた…

 ――――ずる……ぺた……

 

嫌な音が響きだす

それは、先程聞いた音と同じだった

 

はっとしてその音の方を見ると―――

やはり、そこにいたのはあの化け物だった

 

「……あれが、怨霊ですね」

 

瞬が呟くのと同時に、都が苦しそうに胸元を押さえながら舌打ちした

 

「……ったく、どうなってんだ…」

 

「都、大丈夫?顔色が真っ青……」

 

ゆきが都にそう尋ねると、都は何でもないという風に笑みを作った

 

「…ああ、平気だ。それよりも―――」

 

そう言って、あの怨霊という化け物の方を見た

 

――ずる…ぺた…

  ――――ずる……ぺた……

 

また一歩、怨霊が近づく

 

瞬が、ゆきをかばう様に前に出ると

 

「……こちらに向かって来ます。ここから離れましょう」

 

「うん、分かった。……行こう、都、瞬兄」

 

ゆきは頷くと、二人を見た

二人も頷き、そして三人は駆け出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちっ、何処まで追ってくる気なんだ、アレは……っ!おい、大丈夫か?」

 

都が走りながら後方を確認し、舌打ちする

都の隣を走りながら、ゆきは頷いた

 

「うん……まだ平気」

 

前方に、建物と建物の間に狭い隙間を見つける

 

「あそこの物陰なら身を潜められそうです。……行きましょう」

 

瞬に促される様に、三人はその物陰に滑り込んだ

そのまま、やり過ごそうと息を潜める

 

ふと、真っ青な顔をした都が目に入った

先程よりも、具合が悪そうだ

 

「……都、大丈夫?まだ気分、悪い?」

 

ゆきがそう尋ねると、都はやはり何でもないという風に笑みを作り

 

「大丈夫だって。……ん?何だこれ…剣?」

 

そう答えた都が、ふとゆきの向こうに何かを見つけた

振り返ってみると、そこに置かれた箱の中から何かがきらりと光った

蓋を開けてみると、その中には剣が数本入っていた

都が一本手に取って確認する

見た感じ刃こぼれもしていないし、結構頑丈そうだ

 

 

その時だった

 

 

ギシャァァァァァ

 

後ろの方から、気持ち悪い声…というのも悩む様な音が聞こえた

はっとして振り返ると、先程の怨霊が目をギラギラさせてこちらに向かってきていた

 

「……しまった!気付かれたか!?」

 

――ずる…ぺた…

  ――――ずる……ぺた……

 

その音が近づいてくる

 

「こっちに来た……!」

 

ゆきはそう叫びながら、後ろを見た

だが、そこは袋小路で壁しかない

逃げ様にも、これ以上逃げ場がなかった

 

 

その時だった

 

 

「―――都、それを貸せ」

 

そう言うが早いか

瞬は都からその剣を受け取ると、一歩前に出て構えた

 

「ゆき、貴女は下がってください」

 

「えっ、瞬兄……?」

 

止める間もなく瞬がその剣を持ったまま、怨霊の方に向かって走り出した

一人で戦う気なのだ

 

瞬間的にそれを理解したゆきは、慌てて都の方に駆け寄った

 

「都!その箱の中、私にも見せて!剣なら、私にも使える!」

 

そう叫ぶと同時に、ゆきは箱の中に手を突っ込む

選んでいる暇は無かった

その中から一本の剣を掴みとると、それを持ったまま瞬の方を見る

 

「え?って、おい!お前まで出てどうするんだ!?」

 

都が止めようとするが、ゆきはそのまま走り出した

 

 

「―――ああ、もう、仕方ない!」

 

 

都も箱の中から旋棍を取り出すと、ゆきを追い掛けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひーろー参上の回(笑)

名乗らずに去ったよww

 

本当は、最後の方の怨霊うんぬんはスルーして

そのまま玄武ピシャーに行こうかと思ったのですが…

よくよく確認してみると…

ここは、初浄化する重要なシーンだったので、スルー失敗(-_-;)

ちっ……はしょりたかったのに!

 

とりあえず……

高杉&夢主名前変換出てよかったー(笑)

一章では大変貴重な名前変換箇所で御座いますwww

と、思ったけど…

1話目も出てるし…うん?意外に出てくる……???

いや、多分今だけだな

だって、あんまり出すと高杉が女々しく感じるー

 

ちなみに、序章の夢主が~のあの日から…大体三年半ぐらい経ってます

その間、高杉はず~~~~~~と引きずり中(笑)

ま、腕輪うんぬんの話は挿話でその内……ふふふ

 

2011/06/02