雪華の願い ~月詠梅花~

 

 序章 予兆 2

 

 

「誰待ってんのかなー?ほらほら、高杉も見ろって!」

 

「お、おい…っ!」

 

門の前に連れて来られた俺は、抗議する声も虚しく、尾寺に無理矢理門の方へ向けさせられた

仕方なく、そちらの方に視線を送る

 

―――が、その視界に入ってきたのは予想外の人物だった

 

忘れる筈もない

 

一年前に、別れた―――

 

 

 

 

 

   「桃樺………?」

 

 

 

 

 

そこに立っていたのは、長州に居る筈の桃樺だった

 

何で、桃樺が……?

 

そう思うよりも、身体が先に動いた

慌てて人垣を割って入り、門前に出る

 

「桃樺……っ!」

 

その名を呼んだ

ずっと呼びたかったその名を

 

ふと、俺の声に気付いた桃樺がこちらを見た

俺を認識した途端、ふわりと花の様な笑みを零す

 

「晋作さん」

 

一年ぶりに聴く彼女の声は、とても美しかった

俺は、桃樺の傍まで駆け寄ると、彼女を人垣から守る様に立った

 

「どうしてここに居るんだ……?松陰先生は―――」

 

「晋作さんを驚かそうかと思って」

 

彼女は、悪戯が成功したという様に、くすりと笑って見せた

 

「おい、高杉…!桃樺って……まさか―――」

 

久坂が慌てて駆け寄ってくる

久坂に気付いた、桃樺がぺこりと頭を下げた

 

「お久しぶりです。久坂さん」

 

「ああ、久しぶり……って!本物!?」

 

流石の久坂も驚いた様だ

すると、後ろから飯田達もやって来た

 

「おーい、高杉!久坂!いきなり走って一体どう―――」

 

その声に、久坂がハッとして慌てて手を広げた

 

「高杉!行け!!ここは、俺が死守する!!」

 

久坂の意図を読んで、俺は頷いた

 

「行くぞ、桃樺」

 

そう言って、桃樺の手を取る

 

「え……?あ、はい。では、久坂さん、また後日」

 

久坂に感謝しつつ、俺は桃樺と一緒にその場を離れた

ぞろぞろとやって来た飯田達が、久坂に詰め寄った事は俺は知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****   ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は……?付いて来た?」

 

人気のいない寺の境内で、桃樺が口にしたのはそれだった

 

「うん……松陰先生のお世話をしようと思って……それで、無理言って一緒に付いて来たの」

 

「そ、うか……」

 

俺はどう対応していいのか迷った

 

恐らく、桃樺は少しでも松陰先生の役に立ちたかったに違いない

それで、江戸送りとなった先生に付いて来たのだ

 

「村塾の方は、どうなったんだ?」

 

俺のその質問に、彼女が表情を曇らせた

 

「それは………」

 

ぎゅっと唇を噛み、俯く

 

「去年の十二月に閉鎖になったわ……」

 

十二月…というと、先生が野山獄に投獄された頃だ

 

「晋作さん……私、どうしよう……。もし…もし、先生がこのまま……っ」

 

桃樺が震えている

怖いのだ

このまま、松陰先生が居なくなるのではないかと―――

 

俺は、心臓をぎゅっと締め付けられる様だった

 

「桃樺―――……」

 

その手を取り、彼女を腕の中の閉じ込める

 

「しんさ…く、さん……?」

 

突然の抱擁に驚いた様に、桃樺が身体を強張らせた

 

「大丈夫だ――俺が傍に居る。決して、お前を一人にはしない」

 

俺が、お前を守ってやる―――

そう思って、桃樺を抱きしめる腕に力を込めた

 

次第に、桃樺の身体から緊張が解けていく

彼女は、俺の背に手を回し、ゆっくりと身体を預けた

 

「……ありがとう、晋作さん」

 

そう呟いた桃樺の声は、今にも消えてしまいそうだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日

 

昌平黌に行った俺を待っていたのは、にやつく級友達だった

飯田と尾寺と中谷が、気持ち悪い位にやにやしている

 

「……………」

 

俺は、何となく想像つく、先の言葉にどんよりした

「な、な、な、昨日の美人さん、高杉の彼女ってマジ!?」

 

「……………」

 

俺はあえて無視を通す

 

「なんだよ~~やっぱり、高杉なんじゃん!ずりぃよ~~~」

 

尾寺が、ず~る~い~と文句を言っているが無視だ

 

「な~今度、紹介してくれよ~な?」

 

中谷が、いいだろ~?と、猫なで声でごろごろしてくるが、無視

 

「「「なぁ、高杉!!」」」

 

三人の声がだぶった

今にも血管の尾が切れそうになるのを、何とか堪える

 

すると、あろう事か三人は俺に圧し掛かってきた

 

「………おい」

 

流石に切れそうになり、怒気の混じった声で威嚇する

だが、それぐらいでは三人は怯まなかった

 

「なぁ~たかすぎぃ~」

 

「たかすぎぃ~」

 

「高杉~」

 

ぶっ……

俺の中で、何かが切れた気がした

 

「お前ら……いい加減に―――っ!」

 

俺が、ぶち切れそうになった時だった

 

「お~やっぱり、絡まれてるな。俺の予想通りだ」

 

久坂が、あっけらかんとした口調で、現れた

 

「久坂!遅い!!」

 

「……何で、俺に怒鳴る訳?高杉…」

 

意味分からんと、久坂が首を傾げた

 

だが、最早そんな事はどうでもいい

元を正せば……全部、久坂のせいだ!

 

俺は、久坂の腕を掴むと、声を潜めて

 

「お前っ、昨日あいつらに何を吹き込んだ!?」

 

「何って…桃樺ちゃんと、お前の馴れ初め?お前が、桃樺ちゃんにどれだけ惚れてたかをだな―――」

 

「~~~~っ」

 

俺は、力なくその場にがくっと崩れ落ちた

 

「高杉?どうし―――」

 

 

 

「―――の、馬鹿野郎!!」

 

 

 

怒鳴ると同時に、すぱーんと久坂の頭を殴った

殴られた当人は、唇を尖らせ

 

「何するんだよ。俺は、嘘は言ってないだろ?」

 

「それが、余計に悪いわ!!」

 

余計な知恵まで与えやがって………っ!

この時は、久坂を本気で簀巻きにして海に沈めてやろうかと思ったぐらいだ

 

そんな事を知らない久坂は、髪型が崩れたと余裕で直している

 

「それで?桃樺ちゃんは、どうして江戸に来てるんだ?」

 

話をすり替えたな…!?

と、思ったが、俺は諦めにも似た溜息を付いて

 

「……松陰先生が江戸送りになっただろう。それで、その世話をかって出たらしい」

 

「なるほど……。まぁ、桃樺ちゃんは松陰先生を尊敬してるみたいだったからな。そう申し出てもおかしくないな」

 

「まぁ…そうだが……」

 

だが、桃樺は手紙で一度もその事に触れなかった

俺は頼りにされてないのかと、不安になる

 

そんな俺の心情を読み取ったのか、久坂がにやりと笑った

 

「はっはーん。分かったぞ、高杉。桃樺ちゃんの上京の理由がお前じゃなくて拗ねてるんだな?」

 

「………は?」

 

俺が訝しげに眉を寄せると、久坂がみなまで言うなとばかりに、手を突き出した

 

「分かる。分かるぞ。惚れた女が、自分の為ではなく、他の男の為に上京してきて、お前はおまけ。男としちゃぁ、辛い所だよなぁ」

 

うんうんと、久坂が頷きながら言う

 

いや……他の男って……松陰先生なんだが………?

 

「だがな、高杉。男の嫉妬は醜いぞ」

 

そう言って、ぽむっと俺の肩を叩いた

すると、それを聞いていた?飯田達も憐みの目で、ぽむっと俺の肩を叩いた

 

「………おい」

 

何だこれは……

何だか分からないが、ふつふつと怒りが込み上げてきた

 

「お前ら……いい加減にしろ!!」

 

俺が叫ぶと、久坂はササッと被害のない所へ退避する

飯田達が、「高杉が怒ったー」と笑いながら蜘蛛の子を散らす様に逃げて行ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****   ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ…相変わらず、久坂さんとは仲良いのね」

 

桃樺が、俺の話を聞いてくすくすと笑った

 

「あれは、仲が良い訳ではない。腐れ縁だ」

 

俺が不本意だと言うと、彼女はまた笑った

昌平黌の帰りに彼女の元に寄るのが日課になっていた

普段は、松陰先生の世話をしている彼女も、この時だけは時間を割いてくれる

 

話の内容は、他愛もない日常の話

彼女はよく、俺の学問所での話を聞きたがった

 

今日は、何を習ったとか、久坂達がどうだったかとか

 

つまらなかった学問所での生活も、彼女を楽しませる事が出来るなら、それも少しは役立ったと思える

 

だが、ふとした瞬間彼女の顔が陰る

 

「桃樺……?」

 

俺が尋ねると、桃樺は大概「何でもない」と答えた

だが、今日は違った

何かを口にしようと、開きかけるが、また閉じる

それを何度か繰り返した後、彼女は小さく息を吐いた

 

「どうした?」

 

何かあったのだろうか……?

 

桃樺は、俺をじっと見た後、急にその身体を預けてきた

桃樺らしくない

彼女から、こうしてくるのは本当に数えるほどだ

そういう時は、大概何かがある

 

俺は、そっと桃樺の肩を抱き もう一度尋ねた

 

「どうしたんだ?」

 

桃樺は、じっと黙ったまま下を向いていたが……ぽつりと

 

「……来月の九日……」

 

「……その日がどうした?」

 

「……幕府の評定所に入る事が決まったの…松陰先生」

 

「………っ」

 

俺は、その事実に愕然とした

 

幕府の評定所

それはつまる所、江戸幕府の最高裁判機関だ

幕政の重要事項や大名旗本の訴訟、複数の奉行の管轄にまたがる問題の裁判を行う機関で、町奉行、寺社奉行、勘定奉行と老中一名で構成される

これに大目付、目付が審理に加わり、評定所留役が実務処理を行っている筈だ

とくに寺社奉行・町奉行・勘定奉行は三奉行と呼ばれ、評定所のもっとも中心になる構成員である

 

幕府側の人間で塗り固められた、評定

 

幕府に異議ありとして囚われている松陰先生には分が悪い

最悪、訴状を述べられただけで終わってしまう可能性もある

 

それは、つまり……評定など単なる形式に過ぎず、最初から結果が見えている様なものだ

腕の中の桃樺が、微かに震えている

 

俺は、どうしてやる事も出来ない己の無力さに嫌気が出そうだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、七月九日

松陰先生の評定は「遠島」が妥当ではないか―――という結果が出た

そして、江戸屋敷から伝馬町牢屋敷へと移る事となる

 

桃樺も、江戸屋敷を出て、伝馬町の宿に移った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、昌平黌に通いながら、桃樺と一緒に松陰先生のお世話をする様になった

 

最初は、桃樺は「申し訳ない」と断っていたが、俺が頑として譲らなかったので、最後には折れた

昼間は昌平黌に通い、夜は二人で先生の世話をする

そんな生活が続いていた

 

七月も中旬になった頃だろうか

桃樺から、一通の手紙を渡された

 

松陰先生から、俺宛てにだという

 

俺は帰ってから、その手紙を読んだ

それは、以前「男子たる者の死」について先生に尋ねたものの答えだった

 

先生曰はく

 

死は好むべきにも非ず、亦 忌むべきにも非ず。

道尽きし心安んずる、便ち是死所。

世に身生きて心死する者あり、身亡びて魂存する者あり。

心資すれば生くるも益なし。魂存すれば亡ぶるも損なきなり。

 

死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし。

生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし。

 

 

死は好むべきものでもなく、また憎むべきものでもない

世の中には生きながら心の死んでいる者もいれば、その身は滅んでも魂の生き続ける者もいる

死んで己の志が永遠になるのなら、いつ死んだって構わないし、生きて果たせる大事があるのなら、いつまでも生きればよい

人間というのは、生死にこだわらず、為すべきことを為すという心構えが大切なのです

 

 

―――そう、記されていた

 

「…………」

 

俺は、ぎゅっとその手紙を握り締めた

 

松陰先生は―――死ぬおつもり、なのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十月になり、木々が秋の色に染まる頃

 

桃樺が、どんどんやつれていくのが見て取れた

精神的に、身体的にも、もう限界なのだろう

それでも、彼女は止めようとしない

 

休むことすら忘れた様に、先生の世話を続けていた

きっと、何も考えたくないのだ

身体を動かしていれば、その時は余計な事を考えずに済む

だから、彼女は必死になって身体を動かす

 

俺が何度休む様に言っても、桃樺は休まなかった

 

ふと、桃樺が小石に足を引っ掛けて転んだ

バシャンと持っていた桶から水が飛び出す

 

「桃樺!!」

 

俺は慌てて桃樺に駆け寄った

 

桃樺は、虚ろな目で「大丈夫…」と、小さな声で呟いた

彼女の手が桶を求めて彷徨う

 

「………っ、もう、やめろ!」

 

俺は、その手を取り桃樺を抱きしめた

 

その身体は、細かった

昔から細い方だったが、今はもっと細くなっている

少し力を入れたら、折れてしまうんじゃないかと……

そう、錯覚しそうになる

 

それでも、彼女の手は目的を見失った様に彷徨っていた

 

俺は、懇願する様に彼女を抱きしめた

 

「頼む……っ、止めてくれ……っ!」

 

吐き捨てる様に、そう叫ぶ

 

見てられなかった

 

このままでは……桃樺は死んでしまう

 

俺の前から、いなくなる

 

”死んで己の志が永遠になるのなら、いつ死んだって構わないし、生きて果たせる大事があるのなら、いつまでも生きればよい”

 

松陰先生はそう言った

だが、これは志などではない

 

単なる、自殺行為だ

 

俺は……桃樺を、失う……のか………?

 

この腕に抱く温もりも、俺の名を呼ぶその声も、俺に微笑みかけるその優しさも、何もかも………

 

 

「…………っ、桃樺………っ」

 

俺は必死だったのかもしれない

 

桃樺をここに繋ぎとめたくて

彼女を失いたくなくて

 

他の何を捨ててもいい

こいつだけは……桃樺だけは、連れて逝かないでくれ……っ!

 

 

「し、んさ、く……さ、ん………?」

 

微かに、桃樺の唇が動いた

 

「桃樺っ!?」

 

桃樺が、ゆっくりと細い指を俺の背中に這わす

それから、弱々しく微笑んだ

 

「大丈夫……私、ここに…いるから………」

 

そう言って、まるで俺をあやす様に背中をぽんぽんと叩いた

 

「――――桃樺っ」

 

俺は泣きたい気持ちになった

 

彼女と代わってやれたらどんなにいいか

俺は……無力だ………

 

その時だった

 

「葛錐さん!また、吉田さんの所にお偉いさんが来てるらしいよ!」

 

宿の下働きと思しき男が、慌てて駆け込んできた

ピクリと彼女の肩が震えた

 

「また……なの…………」

 

微かに出した声は、震えている

桃樺の顔が、苦悩の色に変わる

 

「どうして……っ!?どれだけ、先生の事責めれば気が済むの!? 止めて……っ! 止めさせて……っ!!」

 

桃樺が、腕の中で暴れだす

彼女の細い身体に、まだこれだけの力が残っていたのかと思うぐらい、その力は強かった

 

「桃樺……っ!」

 

俺が叫んでも、声は聞こえていないのか

彼女は、なおも暴れた

 

「放して……っ!! 行かせてぇ……っ!!!」

 

「高杉さん! 絶対、放したらいかんよ! 放したら、彼女、お偉いさんの前に飛び出しちまう!」

 

男がそう叫びながら、慌てて人手を探しに行く

 

「桃樺……っ!頼むっ!堪えてくれ……っ!!」

 

俺は、振りほどかれない様に、必死に桃樺を捕まえていた

 

 

 

 

 

「いやっ…!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

この時の、桃樺の叫びが

いつまでも耳から離れなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 十月十六日

 

この日は、嫌な風が吹いていた

どことなく、不吉な感じのする嫌な風だった

 

予感

 

もしかしたら、人はそう呼ぶのかもしれない

 

俺は、不安な気持ちを胸に抱いたまま昌平黌を休み、朝から桃樺の元へ行った

 

「―――桃樺?」

 

裏門から入り、桃樺のよく居る裏手の庭に回る

 

そこには、桃樺が居た

桃樺は、ぼんやりと空を眺めて縁側に座っていた

 

そう―――

いつもの様に、忙しなく動いている姿ではなく

ゆっくりと、縁側に座って空を眺めている桃樺

 

それは、もしかしたら俺が待ち望んだ姿だったのかもしれない

 

だが……

 

何だ……?

 

何か、違和感を感じる

 

ふと、桃樺が俺に気付きゆっくりと振り返った

一瞬、どきりとする

 

それぐらい、桃樺の顔は穏やかだった

 

俺を認識すると、淡く微笑み「晋作さん」と呼んだ

 

「こんな、朝からどうしたの?昌平黌は……?」

 

彼女は、にこりと微笑みそう尋ねてきた

だが、その穏やかな空気とは別に、何かがびりびりと引っかかる

嫌な、予感がどんどん大きくなる

 

俺は息を飲み、桃樺に近づいた

隣に座り、そっと彼女の髪を撫でる

 

「桃樺……? 今日は、何ともないのか?」

 

その問いに応える代わりに、彼女は髪を撫でる俺の手に促され、ゆっくりと紅梅色の瞳を閉じる

 

「……私、晋作さんに髪撫でられるの、好きよ」

 

珍しく、彼女らしくない言葉を紡いだ

 

「晋作さんの手も、瞳も、声も、全部―――………」

 

その先は、音にはならなかった

 

ザァ……と、風が吹いた

 

ふいに、彼女がぴくんと反応して、顔を上げた

 

「……また、だわ…」

 

そう呟くと、ふらりと立ち上がった

 

「桃樺……?」

 

何かがおかしい

嫌な予感が、どんどん大きくなる

 

桃樺は、するりと俺の腕から抜けると、一度だけ振り返った

その唇が、何か言葉を紡ぐ

だが、それは音にはならなかった

そして、そのまま庭から出て行ってしまった

 

一瞬、桃樺の行動が読めず、俺は出遅れた

出遅れてしまった

 

そこへ、慌ててこの間の男が駆け込んでくる

 

「た、高杉さん……っ!今、お偉いさんが…っ、葛錐さんが―――!!」

 

男の言葉を聞かずとも、直ぐに分かった

俺は、男の制止も聞かず、庭を飛び出した

 

これだった

朝からの嫌な”予感”は、これだった……!

 

 

どうして、俺は彼女を止めなかったのか

 

  どうして、俺は気付いてやれなかったのか

 

    どうして――――っ!

 

 

 

 

 

   『晋作さん』

 

 

 

 

 

 

彼女が笑うと、花が咲いた様だった

彼女が、そう呼んでくれるだけで、心が踊った

 

初めて彼女を見た時、目が離せなかった

それから、彼女が初めて俺の名前を呼んでくれた時

初めて二人で出掛けた時

 

 

ただ、一緒にいたいと

 

 ずっと、ずっと傍にいて欲しい―――と

 

 

 

 

俺は……まだ、お前に何も伝えていないんだ……っ

 

 

 

 

 

   桃樺………っ

 

 

 

 

 

 

 

         そして、俺は二度とこの手に彼女を抱く事が叶わなかった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あら?

何だか、大変な事になってますよ?

まさかの、夢主 序章にて退場・・・!?

な、展開ですw

すみません、仕組んだのは私です(-_-;)

 

こ、これは、設定上仕方ないんやー!

と、言ってみるww

 

まぁ、当面の間、高杉には彼女の影を引きずってもらいましょう(笑)←鬼

大丈夫!ちゃんと本人が出てくるから!・・・二章辺りからw

 

実は・・・な、話

この話(過去編?)は続きがあります

ちゃんと、この後、高杉は彼女に会えます

・・・まぁ、会えるけど・・・な、訳ですがー

もう少し・・・そうですね― 一話分ぐらいは続きます

ちなみに、例の日が日付指定なのは、ちゃんと理由あります

勿論、史実にも合わせています(全部、調べました)

それらは、解禁日(なんだ、それはww)になったら、挿話で上げる予定です

それまで、しばしお待ちを~

 

2011/04/12