◆ 序章 予兆1
―――安政四年 九月
彼女と出会ったのは、俺が幼馴染の久坂玄瑞の誘いで吉田松陰先生が主宰していた「松下村塾」に入門してまだ日も浅い時だった
この年の夏は猛暑で、九月になろうというのに暑い日が続いていた
講義を受ける塾生達も、室に立ち込める熱気で朦朧としていたに違いない
「―――今日は、これまでの様だな」
塾長である松陰先生も流石に参っていたのか、額の汗を拭いながら開いていた教本を閉じた
――が、一足遅かった様だ
塾生の一人・入江九一がバタンと倒れた
わっと、辺りにどよめきが走る
松陰先生も慌てて、入江に駆け寄った
呼び掛けてみるが返事がない
入江はぐったりしたまま、苦しそうにうめき声を上げた
「こりゃいかん、熱中症かもしれん」
松陰先生は慌てた様子で、おろおろとしていた
その時だった
―――かたん
と、室の奥から一人の少女が現れた
とても美しい少女だった
黒く長い艶やかな髪に、目鼻のくっきりした整った顔立ち
透き通るような白い肌に生える、細くて華奢な四肢
中でも、紅梅色の大きな瞳が印象的だった
彼女の薄紅色の唇が動く
「松陰先生?」
凛とした声が室内に響いた
少女は、状況を見ただけで何かを察したのか
倒れている入江に近づくと、そっと細い手で脈拍を調べた
それから、意識や呼吸、顔色などを確認した後、顔を上げて 傍に居た久坂に
「申し訳ありませんが、彼を日の当たらない風通しの良い所へ運んで頂けませんか?それから、服を緩めて呼吸をしやすくしてあげて下さい」
「わ、分かった」
久坂が慌てて頷くと、他に二・三人に声を掛けて入江を縁側に運んだ
「後、団扇であおいであげていて下さい。私は冷やした手巾と水を持ってきます」
てきぱきと指示を出した後、そう言って彼女が奥へと戻っていく
「おい、高杉。手伝ってやれよ」
「あ? ああ・・・・・・」
久坂に促されて、俺は慌てて彼女の後を追った
井戸に行くと、彼女が水を汲もうとしていた
だが、その手つきは慣れておらず、苦戦しているのが見て取れた
「俺がやろう」
思わず、見ていられず口が出た
彼女の持っていた縄を引っ手繰る
「あ・・・・」
俺が追ってくるとは思わなかったのか、彼女は少し驚いた様に声を上げた後、「お願いします」と少し恥ずかしそうに小さく呟いた
微かに頬を染めた彼女が、不覚にも可愛らしく思えた
彼女と一緒に広間に戻ると、久坂達が入江を団扇であおいでいた
彼女は、持ってきた手巾を水で濡らし、そっと入江の後ろ首に当てた
それから、残りを久坂に渡し「脇の下に当ててあげて下さい」と言った
「意識が戻ったら、お水を飲ませてあげて下さいね?」
そう言付けると、彼女はぺこりと頭を下げた後、下がって行った
気が付いた入江に、久坂が「美少女が看病してくれたんだぞ」と笑いながら言うと、入江はその美少女が見れなかったと大変悔しがっていた
彼女は一体、誰なのだろうか・・・・・・?
松陰先生の妹さんだろうか?
だが、後日、松陰先生から妹だと紹介された文さんは、彼女とは似ても似つかなかった
その後、何度か村塾で彼女を見かける機会があった
時折、何かを言付ける様に、松陰先生と二言三言言葉を交わすと去っていく
そして、本当にごくたまに差し入れだと言って、飲み物や食べ物を持ってきてくれた
気が付けば、俺の目は自然と彼女を追う様になっていた
彼女の一つ一つの仕草や言葉に目を奪われる
何度か言葉も交わす事が出来た
だが、やはり名前は分からなかった
だが、それは向こうも同じだろう
恐らく、彼女は俺の名など知らないだろうし
そもそも、俺という人間を記憶しているかも定かではない
ただ、二言三言会話しただけの塾生の一人
ぐらいにしか、思われていないのかもしれない
塾生の間でも、あの美少女は何者かと噂になっていた
入江など、毎日「いいなぁ~いいなぁ~お話したいなぁ~」とぼやいている
そして、運命の日
村塾に来ると、入江が大興奮で叫びながらやって来た
「高杉―――!!!分かったぞ――――!!!!!」
俺は、一瞬入江が何にそんなに興奮しているのか分からなかった
が、その理由は直ぐに分かった
「うっふっふっふっふー俺、教えてもらっちゃった」
なんだか、気持ち悪い位、入江がにやにやしていたのは今でも忘れていない
「何がだ?」
俺が怪訝そうに尋ねると、入江はフフンと息巻ながら
「あの子の、な・ま・え!」
「あの子って……」
直ぐに、彼女の事だと分かった
「松陰先生に聞いたら、やっと教えてくれたんだ!」
「ふーん」
俺の冷めた反応に、入江が怪訝そうに尋ねてくる
「何だよー? 高杉は気にならねぇのか? あの子の名前」
「俺は…別に……」
嘘だ
本当は、凄く気になった
だが、入江の様に正直になれない俺は、素直に知りたいとは言えなかった
「へー? ふーん? そっか、じゃぁ、高杉には教えなーい」
入江が、にやりと笑って、俺を馬鹿にする様にくるりと回った
「まっ・・・・!」
思わず、「待て!」と言葉が出そうになった
入江が、目の前でにやにやしている
ここで折れるのは癪だが・・・・
「・・・・・・・・・」
凄く、癪なのだが・・・・・・
「・・・・・・お」
俺が観念して口を開きかけた時だった
「葛錐 桃樺」
「え……?」
振り返ると、教本を持った久坂が立っていた
「だから、葛錐 桃樺。彼女の名前」
あっさり久坂から聞いてしまった
「あー久坂! なんで教えるんだよ! 俺が言おうと思ってたのにぃ~」
入江がぶーぶー文句を言っているが、久坂は涼しい顔で俺の横をすり抜けていく
そして、通り過ぎ様に
「知りたかったんだろ? 高杉」
久坂が、澄ました顔で微笑みながらそう言う
「なっ・・・・・・! お、俺は、別に・・・っ!」
俺が抗議の言葉を言い募ろうとすると、久坂が笑いながら入江の肩をぽんぽんと叩いた
「入江、高杉いじめるなよ。 あいつは、あいつなりに彼女の事が気になって気になって仕方なかったけど、素直にそれを表に出せない奴なんだから」
などと、言い出す
「久坂っ・・・・・・! 何勝手な事を―――っ」
「何だよ、間違ってないだろ? 俺の解釈。 高杉は彼女に一目惚れだもんな?」
「久坂っ!!!」
久坂が、あははははと笑いながら入江を連れて中に入っていく
俺は、顔を真っ赤にしながら、その後ろ姿を睨んでいた
でも、心の中で何かが光を放つ
「葛錐・・・・桃樺・・・・・・・・」
彼女の 名前
それは、俺の中で音を奏でる様に広がっていった
十一月に入って、直ぐの事だった
俺が町で所用を済ませて帰る途中にそれは起きた
目の前に人だかりが出来ていて、何やら騒いでいる様だった
喧嘩か何かかと思っていたら・・・・・・
「小さな子供を相手に、何を言ってるんですか!? 貴方達は!」
こんな所で聞く筈のない声が聞こえた
彼女だ
俺は慌てて、人垣を割って入った
見ると、品の悪そうな男達が三人、彼女を取りか囲んでいた
彼女の腕の中には、小さな女の子が一人
男達は、にやにやと彼女を品定めする様に見ながら
「よぉ、姉ちゃん。 あんたが俺らの相手をしてくれるんなら・・・そのガキは見逃してやってもいいぜ?」
「・・・・・・・・・・」
彼女は、キッと男達を睨んだまま、女の子を守る手に力を込めた
「・・・・・・本当ですか?この子には何もしないのですか?」
その言葉に、男達がにやりと笑みを浮かべる
「おお、いいぜ。 んじゃ、交渉成立っ・・・・と!」
「きゃっ……」
男の一人が、彼女の腕を引っ張った
「・・・・・・・・・・っ」
俺は無我夢中だった
彼女を助けなければ―――と、思うと同時に身体が動いた
「やめろ。 そいつに触れるな!」
急に目の前に躍り出た俺に、男達は目を瞬きさせた
咄嗟に彼女を掴んでいる男の手を打ち払うと、彼女を後ろ背に庇った
「貴方は―――」
彼女が、驚いた様に紅梅色の瞳を大きく見開いた
男達は、突然降って湧いた俺が気に入らなかったのだろう
その顔を顰めた
「ああん? 何だよ、兄ちゃん。 俺らとやろうってのか?」
にやにやと、男達が手をぼきぼきと鳴らしながら近寄ってくる
「あのっ…逃げて―――っ」
彼女が俺を逃がそうとしてくれているのは分かった
でも、俺はその言葉には従えなかった
男として、彼女を置いて逃げる訳にはいかない
俺は、一度だけ彼女を見て
「問題ない」
彼女を安心させる為に、そう言う
彼女は、俺を見て そして覚悟を決めたのか、こくりと頷いた
「相談は終了かい? 兄ちゃん」
男が、にやにや笑いながら近寄ってきた
俺だって、伊達に剣術をやっていた訳ではない
こんな奴らに、負ける訳にはいかない
勝負は意外にもあっさりついた
男達は、「覚えとけ!」と定番の捨て台詞を吐いて逃げて行ってしまった
俺は、小さく息を吐いてから彼女に声を掛けた
「桃樺、大丈夫だったか?」
それは、咄嗟に出た言葉だった
彼女の驚いた様な顔が視界に入った瞬間、自分のしでかした過ちに気付いた
思わず、名前を呼んでしまったのだ
いつもは、心で思うだけだったが、この時は自分でも気付かない内につい声に出してしまったらしい
だが、今更訂正など出来ない
しかし、普通、いきなり見知らぬ男に名を呼ばれるのを良く思わないだろう
俺は、思わず「やってしまった…」と、頭を抱えたくなった
これで、彼女の俺に対する印象は最悪だ
終わったな・・・・・・
そう思って、心の中で逃げたい気持ちでいっぱいになっていた時だった
彼女から、意外な言葉が出てきた
「はい。 助けて頂いて、ありがとうございます。 高杉さん」
そう言って、彼女が優しげな眼差しで微笑んだ
「え・・・・・・?」
俺は、一瞬自分の耳を疑った
今、彼女は何と言った・・・・?
高杉・・・・と、言わなかっただろうか?
それとも、俺は自分に都合のいい幻聴を聞いたのだろうか・・・・・・?
俺が、考えあぐねていると、彼女が不思議そうに首を傾げた
「あの・・・・・・どうかなさったのですか? 高杉さん・・・・?」
また、幻聴が聞こえた
いや、待て
確かに、彼女は俺の名を・・・・・・
「どうして・・・・俺の名前—――・・・・・・」
出てきたのは、そんな言葉だった
その言葉に、彼女はにこりと微笑んで
「高杉晋作さん、でしょう? 存じ上げてますよ。 いつも、松陰先生が”優秀な塾生がいる”と、仰ってましたから。 それに、最初にお会いした時も、手伝って下さいましたよね。 その節も、ありがとうございました」
そう言って、くすりと笑った
「・・・・・・・・・・・・」
俺は、言葉を失ってしまった
彼女が俺の事を知っていた
それも、最初から・・・・・・
俺は、今にも笑いそうになる口を何とか引き締めつつも、必死で平静を装った
だが、俄かに頬が熱くなる
嬉しさが込み上げてきて、歓喜に震えそうだ
今思えば、久坂の言った事は正しかったのかもしれない
彼女を一目見た時から、俺の中には彼女が居た
気付かない内に、その存在はどんどん大きくなっていっていた
出会った時から思っていた
ああ、こういう女は「いい」と
しっかりしているかと思えば、こうしてふとした瞬間に守ってやりたくなる
儚げだが芯のある―――
「桃樺・・・・と、呼んでもよかっただろうか・・・・・・?」
思い切って、そう口にする
すると、彼女――桃樺は、少しだけ頬を桜色に染め、はにかむ様に―――
「はい・・・・」
彼女は、どうやら松陰先生に救われたらしい
どうしていいのか分からず、途方に暮れていた時に、松陰先生に「うちに来なさい」と言われたそうだ
先生や先生の妹さんの文さんにも良くしていただいて、恩を返しても返しきれないと言っていた
そして、彼女は不思議な力を持っていた
それは、怨霊を浄化する力
怨霊とは、この日の本に存在する”あやかし”で、死者の魂が怨霊として蘇ったものらしい
陰陽師などは、それらを調伏するが、彼女のそれは違っていた
調伏ではなく、浄化
現世との繋がりを清め、来世へと繋げる力
浄化された怨霊は、五行の龍脈へと還るという
それは、お伽噺に出てくる”龍神の神子”そのものだった
”龍神の神子”は世が乱れた時、異世界より現れるという
彼女が、その”龍神の神子”なのだろうか?
その神子が、長州に舞い降りたというのは、何か意味のある事なのだろうか・・・・・・?
それから、次第に彼女――ー桃樺と話せる様になった
俺が村塾に行くと、桃樺も顔を見せてくれるし、言葉も掛けてくれる
時折、夕餉を一緒にと誘われた事もある
俺が、思い切って桃樺を誘うと、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた
二人で出掛ける事も、一緒に過ごす事も次第に増えていき―――
雪が一面を埋める頃には、「高杉さん」から「晋作さん」に変わっていた
彼女の口が俺の名を紡ぐたびに、嬉しさが込み上げてくる
久坂などからは「上手くやったな~」とからかわれた(入江は泣いていたが、無視する事にした)が、そんな野次も今は気にならない
彼女と――ー桃樺と、一緒にいたい
今だけじゃなく、これから先もずっと―――
彼女もそう思ってくれている―――そう、思っていいのだろうか?
いつか、この気持ちを彼女に告げたい
「一緒にいて欲しい」――と
だが、俺はまだ半人前だ
だから、今は言わない
一人前になったら――その時は―――・・・・・・
そんな時、久坂が一足早く江戸へ遊学に出た
俺は、正直焦った
ずっと、好敵手だった久坂が、自分より先に進んでしまった
だから、俺は松陰先生に頼んで推薦状を書いてもらった
そして、七月 俺の昌平黌への進学が決まった
俺は、真っ先に桃樺に話した
彼女は、自分の事の様に喜んでくれた
だが、江戸へ行く事は、すなわち彼女と離れ離れになる という事だ
でも、俺は遊学の魅力に勝てなかった
もっともっと勉強して、早く一人前になりたい―――その誘惑に勝てる筈がない
だが、桃樺は背中を押してくれた
「自分の思う通りに、進んで下さい」と
そして、こう言ってくれた
「私は、晋作さんが帰ってくるのを待っています」と
だから、俺は決めた
遊学から帰ってきたら、この気持ちを告げよう―――と
七月二十日
俺は、遊学に行く日に彼女に一つの髪飾りを渡した
真っ白な花の髪飾りだ
桃樺の髪に似合うと思って買った物だ
彼女は、嬉しそうにそれを抱きしめ「大切にします」と言った
八月
江戸に着いた俺は、大橋訥庵の大橋塾に入門した
だが、予想したのとは違い、面白くなかった
そして、俺は当初の予定通り昌平黌へ入学した
久坂とは、久しぶりの対面だった
そして、その頃
世の中では、俗に言う”安政の大獄”が始まっていた
それは、江戸幕府が行なった弾圧だった
江戸幕府の大老 井伊直弼や老中間部詮勝らは、勅許を得ないまま日米修好通商条約に調印し、徳川家茂を将軍継嗣に決定したのだ
安政の大獄とは、これらの諸策に反対する者たちを弾圧した事件
弾圧されたのは尊皇攘夷や一橋派の大名・公卿・志士(活動家)らで、連座した者は百人以上にのぼった
だが、直接的に俺に関係していた訳ではなかった
だから、俺もそこまで意識していた訳ではなかった―――あの時までは
十二月
桃樺からの手紙に記されていた
”松陰先生が野山獄に投獄された”―――と
原因は直ぐに分かった
松陰先生が、水戸藩などの同士たちと一緒にしようとしていた、老中の間部詮勝の暗殺計画だ
少し前に、松陰先生からそういう類の手紙を貰っていた
俺と久坂は、思い留まる様に連名して返事を書いた
恐らく、その計画が藩の知る所となったのだ
それからの桃樺からの便りは、松陰先生の事にはあまり触れなくなった
彼女は「大丈夫です」とか「心配はいりません」とか
俺を不安にさせない様な事ばかり書かれていた
そんな桃樺の傍にいてやれない事が、俺はやるせなかった
今、彼女が一番辛い時に、傍にいてやれない
それが、とても辛かった
それに、松陰先生の事も気になった
少しでも、情報が欲しくて藩邸に行った事もある
年、明けて五月―――
事態が動いた
松陰先生が江戸へ送られる事になったらしい
なんでも、幕府を批判していた梅田雲浜とのつながりを疑われ、幕府の命令が下りたそうだ
だが、桃樺の手紙にはその事は書かれていなかった
桃樺は知らないのだろうか・・・・・・?
ずっと、松陰先生に恩を返したいと言っていたのに・・・
知らないなんて、残酷過ぎる
六月二十六日
松陰先生が、長州藩江戸屋敷に入ったと連絡があった
直ぐにでも会いに行きたかったが、許可が下りなかった
その翌日
今日こそは、松陰先生に会わせてもらおうと、久坂と話しながら昌平黌の門を出ようとした時だった
「おい、聞いたか! 高杉!! 何か、門の所にすげぇ美人が立ってるんだって!」
級友の飯田が、大声で話し掛けてきた
「へぇ…美人?」
久坂が、興味半分にそう聞き返した
飯田は、わくわくといった感じで
「なぁなぁ、見に行こうぜ!!」
そう言いながら、傍を通った尾寺と中谷にも声を掛ける
二人とも、興味津々という感じに、身を乗り出した
「・・・・・・俺はいい」
俺は、どうでもよかったのでそう口にした
そしたら、飯田にいきなり腕を引っ張っられた
「なんだよ拝むくらい、いいじゃん! 付き合えよ!!」
「そうだぞー高杉、行こうぜ行こうぜ!」
尾寺と中谷も乗り気だ
「だからっ・・・・・・俺は―――!」
抗議の声を上げようとしたら、久坂が「まぁまぁ」と仲裁に入った
「高杉は、故郷に自分の女がいるからなーしかたないって。しかも、すごい美人の」
「おい、久坂―――っ」
久坂を止めようとしたが、その話に食いついた飯田達がそれを許さなかった
「ええ!? なんだよー高杉、彼女がいるのかよ!」
「ずりぃよ。 高杉ばっかりー! こいつ、すげぇ女にもてるじゃん? しかも、美人ばっかり。 その上、彼女持ちって・・・・・・詐欺だ!」
「俺達にも、幸せわーけーろー!」
「無茶言うな!!」
ああ・・・久坂が余計な事を言うから・・・・・・
ふつふつと久坂に対して、怒りが込み上げそうになった
だが、当の久坂本人はけろっとして
「ま、そういう訳だから、俺らの目の保養には付き合ってくれるよな? 高杉」
そう言って、俺の肩を抱く
「――――っ」
その時、出たのは諦めにも似た溜息だった
そうして、無理矢理否応なしに連れてこられた
門の前は、人だかりで一杯だった
「見えるか~? お、あれかなー? って…ちょっ…! すげー可愛くない!?」
飯田が興奮気味に、バンバンと肩を叩く
「どれどれ~? ほほぅ…あれは、かなり水準高くね?」
「誰待ってんのかなー? ほらほら、高杉も見ろって!」
「お、おい…っ!」
抗議する声も虚しく、俺は尾寺に無理矢理門の方へ向けさせられた
仕方なく、そちらの方に視線を送る
―――が、その視界に入ってきたのは予想外の人物だった
忘れる筈もない
一年前に、別れた―――
「桃樺………?」
そこに立っていたのは、長州に居る筈の桃樺だった――――
さて、今作は高杉夢です
そして、序章はすべて高杉視点です
なので、あえて三人称表示ではなく、一人称(俺)表示となっておりますw
色々と、オリキャラ・・・もとい、史実キャラ(全員そうですよ)が出ております
まぁ、今回の序章を書くにあたって、どうしても出てくれないと、話進まないので・・・・・・堪忍
2011/04/12