黒き礎 白の姫神子
        挿話 ~赤紅~

 

「還内府」 2 

 

 

あの日・・・・・・清盛に会った――――・・・・・・

清盛に会っていなかったら、俺はどうなっていただろう

今、考えても仕方無い事だが・・・・・・

 

 

 

 

3年前―――――

 

「重盛!! 重盛なのか?!」

 

「は?」

 

 

将臣は困惑していた

さっきまで望美と一緒に渡り廊下を歩いていた筈だった

そして気が付けばこの世界に1人放り出されていた

 

何もかも見たこともない世界

まるで、映画のセットのような建物に、行き交う人々

 

俺はどうしちまったんだ・・・・・・?

 

曖昧な記憶を呼び覚まそうとする

 

渡り廊下を購買に向かって歩いていて、譲に会って・・・それで・・・・・

白い子供が―――――・・・・・・

 

その瞬間、はっとした

 

望美と譲はどうなったんだ!?

 

確かに“何か”に一緒に巻き込まれた筈だった

手を伸ばした筈だった

でも、その手は届く事はなくて―――――

俺は・・・・・・

 

「・・・とにかく、望美と譲を探さねーと・・・・・・」

 

声を掛けられたのはそんな時だった

最初は聞き間違いだと思った

自分はそんな名ではないし、この世界に知り合いは居ない

 

人違いだと思った

 

だが、その声は明らかに将臣に向かって投げかけられていた

声のする方を見ると大きな牛に引かれる車が止まっていた

 

歴史の教科書で見たことがある

平安時代とか、鎌倉時代とか、そのあたりで使われていた移動手段だ

 

その中から1人の僧が現れた

僧服を纏った体格の良い男は将臣を見ると震えながら手を伸ばしてきた

 

なんとなく、反射的に後退る

 

 

誰だ・・・・・・?

 

 

「重盛・・・・・・」

 

男はもう一度その名を呼んだ

だが、思いとどまった様に伸ばした手が将臣に届く前に止まる

 

「いや・・・・・・そんな筈無い。 重盛は、もう―――――・・・・・・」

 

男は苦しそうに頭を抱えた

 

何なんだ・・・・・・?

 

将臣は訳が分からず困惑する

 

男と目が合う

その目はまるで何かを慈しむような目だった

 

男は微笑み

 

「いや、すまない。 何でもないのだ」

 

そう言いながら、ゆっくりと牛車から降りてきた

そして、将臣の目に前に立つ

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

何かあった訳でもないが、お互い黙ってしまう

 

短い沈黙だった

最初に口を開いたのは男の方だった

 

「何処かへ行く所だったのかな? なら呼び止めてしまってすまなかったね」

 

「・・・・あ、ああ・・・・・いや」

 

「・・・・・・もし、時間があるなら私の屋敷に来ないか?」

 

「は?」

 

それは、突然の誘いだった

将臣は困惑し突拍子も無い声を上げてしまう

 

「いや、すまない。唐突だったかな?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

返答に困り、思わず黙ってしまう

男は申し訳無さそうに そして、思い出したように名乗りだした

 

 

  自分の名は“平清盛”だと―――――――

 

 

「平・・・・・・清盛!?」

 

将臣は驚きを隠せなかった。

“平清盛”といえば、源平合戦の始まり―――平治の乱で源義明と戦った男だ

平家一門を束ねる男で、源頼朝の敵――――――・・・・・・

 

将臣は息を呑んだ

 

なんで、そんな男が俺に?

 

訳がわからない

 

そもそも清盛が何故ここに居る?

ここは“福原”だと聞いた――――・・・・・・

“清盛”が居るのは“京”じゃないのか?

 

その瞬間、はっとした

 

そうか、遷都――――――・・・・・・!!

 

確か、記憶が間違っていなければ、“清盛”は一度“福原”に都を遷都している筈だ

って事は、今は・・・・・・義経が京へ上がる宇治川の合戦の3年半ぐらい前か・・・・・・?

 

「はは・・・・・・」

 

マジかよ・・・・・・

 

笑わずにはいられなかった

 

自分は本当に時代を超えちまったらしい――――・・・・・・

 

その現実が将臣の前に突きつけられる――――

この“平清盛”の登場で全てが白日の下にさらけ出された様な気分だった

 

これからどうすれば良いのか・・・・・・

自分1人の力で望美や譲を見つけ出す事なんて本当に出来るのか・・・・・・

 

まるで、先の見えることの無い“闇”が広がっている様だった

 

「どうした? 気分でも悪いのか?」

 

清盛と名乗った男は、俯く将臣に向かって心配そうに語りかけてくる

将臣はゆっくりとその男を見た――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何やってんだ、俺・・・・・・

 

将臣は清盛に誘われるまま平家の屋敷に来ていた

でも、この世界のことは何も分かってない

現状を打破する為には行動するしかないのだ

 

「待たせてすまなかったな」

 

「いや・・・・・・」

 

清盛が戻ってくる

それと同時に女の人が食べ物と飲み物を運んできた

 

「さぁ、遠慮せず食べるがいい」

 

確かに、腹は減っていた

喉もからからだ

 

この世界に飛ばされてから、何も口にしていないのだ

当然である

 

「・・・じゃぁ・・・・・・遠慮なく・・・・・・」

 

少し躊躇いを見せながら、将臣はその出された食事に手を伸ばした

 

・・・・・・・・・!? ウマい!!

 

思わず食が進む

自分でも、驚くほどお腹が空いていたらしい

 

「はは。 慌てずともゆっくり食べるがいい。 まだまだあるからな」

 

清盛はそんな将臣を、笑みを浮かべながら見ていた。

優しそうな瞳・・・・・・

そう――――まるで、ずっと会えなかった愛しい子に会ったかのような――――

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

瞬間、将臣はぴたっと箸を止めて清盛を見た

 

何故、そんな目で俺を見る・・・・・・?

 

「・・・・・・アンタはどうして俺を屋敷に呼んだんだ?」

 

最初から疑問に思っていたことを将臣は投げかけた

すると、清盛は少し躊躇いがちに

 

「・・・・・・気を悪くしたらすまない。 似ているんだよ・・・・・・死んだ息子に」

 

「・・・・・・っ!? 悪ぃ・・・」

 

将臣は反射的に謝っていた

清盛は笑いながら「よい」と言い

 

「重盛と言ってな。 良くできた自慢の息子だったよ・・・・・・」

 

清盛は少し寂しそうにそう答えた

 

“平重盛”といえば、確か・・・・・・清盛の嫡子で――――・・・・・・

六波羅小松第に居を構えていたことから、小松殿ないし小松内大臣と呼ばれていた人物だ

 

その“重盛”と“俺”が似ている?

 

不思議な感覚だった。

歴史上の有名人と自分が似ていると言うのだ

 

「・・・・・・そんなに似てるのか?」

 

「ああ・・・・・・そっくりだ」

 

清盛はそう答えながら、優しそうな目で将臣を見ていた

 

「・・・・・・病だったよ、・・・・・・助けてやれなかった」

 

「・・・・・・そう、か」

 

沈黙が訪れる

何て言葉を掛けていいのか分からなかった

その沈黙を破ったのは他でもない清盛だった

 

「気にするな。 将臣・・・・・・と言ったか? そなたは何をしていたのだ?」

 

急に話を振られ、一瞬戸惑う

言うべきか・・・言わざるべきか――――

 

まさか、自分は“この世界の人間じゃない”と言った所で信じはしないだろう

だが―――――・・・・・・

 

将臣は息を呑んだ

 

「人を・・・・・・人を探してるんだ」

 

「人とな? それは、将臣の“大事な人”か?」

 

大事―――――・・・・・・

 

望美・・・譲・・・・・・

 

将臣は目を一度瞑り

 

「あぁ・・・・・・、大事な弟と幼馴染だ」

 

そう、離れて気が付いた

何時もそばに居るのが当たり前だと思っていた日常

変わらないと思っていた毎日

 

2人共、無事で居るのか

譲と一緒ならまだいい

だが、俺みたいにこの世界に1人放り出されていたら―――――・・・・・・?

 

 

握っていた手に力が篭る

 

「ふむ・・・探し人は2人か・・・・・・」

 

清盛は少し考えると

 

「ならば探させよう。 行く所が無いなら、その2人が見つかるまで我が屋敷に滞在するがよい」

 

 

 

なし崩しにそのまま平家に世話になる事になるとは、その時は思いもしなかった

そして、まさか自分が一門を率いる事にもなる事も――――――・・・・・・

 

その時は、思いもしなかったのだ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キン・・・・・・

 

キィン!!

 

 

「・・・・・・・・・・・・っ!!」

 

「脇が甘いな」

 

ガキィィィン!!!

 

「う・・・・・・、おわっ!!」

 

将臣はそのまま跳ね返され、地に叩きつけられた

 

「将臣殿!!」

 

2人のやり取りを屋敷の中から見ていた青年が出てくる。

 

「大丈夫ですか? 将臣殿」

 

「あぁ・・・・・・。 平気だ。 経正」

 

経正と呼ばれた青年は、ほっとしたように胸を撫で下ろした

彼は、平経正

清盛の異母弟に当たる平経盛の長男で、平清盛の甥だ

 

「っ――――・・・・・・ちょっとは手加減しろよな。 知盛」

 

こっちの彼は、平知盛

清盛の四男らしい

 

 

将臣は背を摩りながら持っていた朴刀を横に置いた

知盛と呼ばれた青年「ふん」と笑いながら

 

「ならば、お前が強くなればいい」

 

「無茶言うな」

 

「知盛殿とここまで打ち合えるだけでも大したものですよ」

 

「でも、まだ勝てね-んだよなぁ」

 

将臣は「あ-あ」と言いながら空を眺めた。

青空が広がっている

天気が良い

 

こんな日は身体を動かすのが一番だ

 

だから、将臣はよくこの平知盛と剣の稽古をしていた

 

別に稽古と言っても真剣は使わず朴刀でだが・・・・・・

流石に真剣で打ち合うわけにはいかなかった

 

将臣は戦場に赴く為に稽古している訳ではない

ただの“運動”だ

 

将臣は立ち上がり、屋敷の縁側に腰掛けた

知盛も溜息を洩らすと、隣に腰掛ける

 

「まぁまぁ・・・・・・だな」

 

「そうかよ。 でも、いつか絶対1本取ってやるから覚悟しとけよ?」

 

「くく・・・・・・それは楽しみだな」

 

「将臣殿も・・・・・・知盛殿も・・・・・・まったく」

 

経正が呆れ顔で2人を見ている

 

「兄上」

 

そんな時、奥の方から1人の美しい青年が現れた

経正を“兄上”と呼んだその青年は、経正に何かを告げ去っていく

 

「敦盛は何て?」

 

すぐに去っていた青年を不思議そうに眺めながら、将臣は経正に尋ねた

 

「すみません。 内気な弟でして・・・・・・」

 

経正が、挨拶も無しに去っていた弟に代わり詫びる

 

「いいって、別に気にしてね-よ。 で?」

 

経正は少し答えにくそうに将臣に告げた

 

 

望美と譲の行方を―――――・・・・・・

 

 

「そう・・・・・か、やっぱ見つからね-か・・・・・・」

 

「すみません。 お力になれなくて――――・・・・・・」

 

「別に、経正のせいじゃね-だろ。 気にすんな」

 

将臣は経正の肩をぽんぽんと叩き、屋敷の奥に入って行った。

 

 

あれから、どれだけの月日が流れただろう・・・・・・

福原で清盛に会ってから1ヶ月近くの月日が流れていた

 

都は京へ戻され、将臣も清盛と一緒に京に上った

 

福原でも探した

京でも探した

だが姿は愚か、望美も譲も影も形も見つからなかった

 

諦めてはいない・・・、だが―――――・・・・・・

 

もしかしたら、この世界に飛ばされたのは自分だけだったんじゃないかという考えすら浮かんでくる

それならそれに越した事はない

けれど―――――・・・・・・

 

あの“流れ”に巻き込まれた感じを考えても、その線は薄かった

 

俺や譲はまだ男だからいい・・・・・・

だが、望美は―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「重衡が頼朝を討つ為に出陣!?」

 

重衡は知盛の弟だった

その重衡が挙兵した源頼朝を討つ為に関東に出陣するというのだ

 

将臣はぎくっとした

 

戦――――――・・・・・・

 

分かっていた事だ

“この世界”は自分が居た世界とは違う

“戦”のある世界だ

 

だが、今まで近しい人が戦場に出ることが無かった為、感覚が薄れていたのだ

 

もし、望美や譲が戦に巻き込まれでもしたら――――・・・・・・

 

考えただけでぞっとした

手に力が篭る

 

早く見つけてやらね-と・・・・・・

 

そんな時だった

清盛が病で倒れたのは―――――・・・・・・

 

 

 

病状は思ったよりも悪く、回復する見込みのないものだった

一門の誰もが回復を願った

しかし、病状は悪化の一歩を辿っていた

 

そんな折だった

 

「清盛が俺を呼んでる?」

 

見舞いには行ってはいたが、極力余所者の自分は遠慮していた

そんな将臣にその一報は不可解な物だった

だが、無碍にする訳にもいかなかった

 

清盛には恩がある

 

将臣は案内する女房に付いていき、清盛の寝所を訪ねた

そこにはあの偉大だった清盛の姿はなく、病で痩せ細った清盛が横たえていた

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

清盛・・・・・・俺を息子と似ていたからという理由で屋敷に置いてくれた

望美達も探してくれた

優しい言葉も掛けてくれた・・・・・・

まるで本物の息子の様に扱ってくれた・・・・・・

 

その清盛が逝く――――・・・・・・?

 

それは、信じられない事だった

 

将臣はゆっくりと清盛に近づいた

清盛がうっすらと目を開ける

 

「清盛・・・・・・」

 

将臣は息を呑んだ

 

清盛の傍にいる妻の二位の尼を見る

二位の尼は首を横に振った

 

そんな時だった

 

 

「あぁ・・・重盛・・・・・・」

 

 

「――――・・・・・・っ!?」

 

清盛の手がゆっくりと将臣に伸びてくる

 

思わず後退りそうになる

だが、それは後に控えていた知盛に止められた

 

震える清盛の手が将臣に触れる

が、その手を払いのける事は出来なった

 

「重盛・・・来てくれたのか・・・・・・」

 

 

清盛が将臣を呼ぶ―――――“重盛”と

 

 

初めて会ったあの日以来1度としてその名を口にしなかった清盛が・・・・・・

 

何故・・・・今その名を口にするんだ・・・・・・

 

 

「清盛、俺は―――――・・・・・・」

 

 

将臣なんだ――――・・・・・・!!!

 

 

 

口にする事は出来なった

口に出来なった

 

清盛の瞳からつぅ―――・・・と涙が零れ落ちる

 

「最期にお前に会えて・・・良かった――――・・・・・・」

 

将臣は自分に触れる清盛の手を握った

可細い手は弱々しく、今にも折れそうなほどだった

 

握る手が震える

 

「一門を・・・・一門を、頼んだ・・・ぞ・・・・・・重・・盛・・・・・・」

 

その瞬間、将臣の手の中にあった清盛の手が力なく抜ける

 

「清盛!?」

 

「父上!!」

 

 

清盛が動く事は無かった―――――・・・・・・

 

 

あの、平清盛が逝った

数ヶ月前まではまだ元気な姿を見せていた あの清盛が・・・・・・

 

「将臣殿、ありがとうね」

 

泣きながらお礼を言う二位の尼

後で目を伏せる、知盛や維盛達

全てが別の世界に感じる――――――・・・・・・

 

 

 

 『一門を・・・・一門を、頼んだ・・・ぞ・・・・・・重・・盛・・・・・・』

 

 

 

清盛の最期の言葉が将臣に重くのしかかる

 

 

 “重盛”

 

 

清盛・・・清盛・・・・・・

俺は―――――・・・・・・

 

 

 

「失礼します!! 源氏軍が――――――・・・・・・!!」

 

「!?」

 

部屋が一気にざわめいた

知盛が慌ただしく部屋を出ようとする

 

源氏!?

 

その瞬間、将臣の頭に平家一門の末路が浮かぶ――――・・・・・・

清盛が死に、義経が挙兵し、平家は・・・・・・

 

ぐっと息を呑んだ

手に力が篭る

 

このままでは平家は・・・滅ぶ――――――・・・・・・

 

知盛も維盛も仁位の尼も皆・・・・・・

壇ノ浦の合戦で皆―――――・・・・・・

 

剣を教えてくれた知盛

いつも心配そうに眺めていた経正

望美や譲の事を調べてくれた敦盛

見ず知らずの俺にまで優しかった二位の尼

それに・・・清盛―――――・・・・・・

 

将臣は清盛を見た

 

穏やかな眠り・・・・・・

“重盛”に全てを任せ安らかな眠りに付いた清盛・・・・・・

 

将臣はぐっと目を瞑った

そして、ゆっくりと開け―――――・・・・・・

 

 

 

「知盛。 俺が行く」

 

 

 

部屋を出ようとしていた知盛の動きが止まる

将臣は立ち上がり、知盛の方を向いた

 

「聞こえなかったか? 俺が行くと言ったんだ」

 

そして、もう一度力強く言った

 

知盛は少し無言で将臣の方を見ていたが、ゆっくりとその口を開いた

「・・・・・・作戦は――――?」と

将臣は瞬時に作戦を答え、伝令に来た兵士に戦の準備をするように伝えた

兵士は「はっ!」と答え、ばたばたと急ぎ兵舎に戻る

 

「将臣殿・・・・・・」

 

心配そうに二位の尼が将臣を呼ぶ

 

「大丈夫ですよ。 二位の尼」

 

将臣は笑顔で答え、もう一度知盛りに向き直った

 

「行くぞ。 知盛」

 

「・・・・・・それは、有川将臣としての言葉か? それとも――――・・・・・・」

 

「俺は俺だ」

 

すれ違いざまに知盛と目が合う

すると、知盛はくくっと笑い

 

「くくっ・・・・・・いいだろう。 お言葉に従おう兄上」

 

「しかし・・・・・・! 将臣殿!!」

 

「経正は墨俣の防備を頼む」

 

あまりにも的確な指示に、一瞬口を噤む

 

「何故、貴方の命に従わねばならぬのですか!?」

 

それに反発したのが維盛だった

維盛は何かと将臣に反発している人物だった

そう、生前の重盛の実の息子だ――――・・・・・・

 

「維盛」

 

将臣の低い声が部屋に響き渡る。

 

「な・・・・・・何です?」

 

ど肝を抜くようなその声に驚き、維盛がどもる

将臣はニッと笑い

 

「勝つぞ」

 

その自信満々の台詞に維盛がぐっと言葉を詰まらせる

知盛はくくっと笑いながら

 

「さて・・・・・・では、これからは何とお呼びしようか? 重盛兄上?」

 

将臣が知盛を見る

その時、経正がぽつりと呟くように

 

「・・・・・・重盛殿は、生前 小松内府殿と呼ばれていました」

 

「くくっ・・・・・・では、“還内府殿”とでも呼ぼうか」

 

「還内府・・・・・・。 “還ってきた小松内府殿”で“還内府”ですか」

 

「・・・・・・好きにしろよ」

 

どうでもいいという感じで将臣が答える

呼び方なんて興味無かった

 

「では、行こうか? 還内府殿?」

 

知盛が言う

 

「ああ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――― 4月・京

 

桜の花びらが散っていた

 

風が吹く

木々がざわめいた

赤い陣羽織が風に揺れる――――――・・・・・・

 

紺糸威の鎧に蝶の紋が入った陣羽織

青年の髪が風になびいた

 

青年は桜の木の中に立っていた

背には 大太刀があり、その傍にそっと手を添える女性が1人―――――

 

心配そうに見上げる彼女に、青年が笑いながら言う

 

「大丈夫だ、心配するな。 明日菜」

 

「でも――――・・・・・・」

 

明日菜と呼ばれた女性が声を発しようとした時だった

 

 

「―――― 殿。 ――――様」

 

 

不意に呼ばれて、青年とその女性が振り返った

1人の僧が向こうの方から歩いてくる

 

「お待たせしました。 院がお会いになるそうです」

 

「――― ああ」

 

ゆっくりと振り返り、赤い陣羽織をなびかせる

一度だけふり返る

 

心配そうに彼女の手が自分の手に触れる

その手をぎゅっと握りしめ

 

「――――もう、振り返るな」

 

前に

進むだけだ―――――・・・・・・

 

 

  それ以外の道は、残されていないのだから―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続きでーす

まぁ、この辺は完全にオリジナルなので

気にするなかれwwww

 

2023.02.27