花薄雪ノ抄
     ~鈴蘭編~

 

◆ 鶴丸国永 「こひねがふ」

(刀剣乱舞夢 「華ノ嘔戀 外界ノ章 竜胆譚」 より)

 

 

―――現世・政府内部 “審神者”システム研究機関

 

 

 

その日、沙紀はデータ提供の為に、政府期間内にて検査を受けていた。元々、“審神者”になる時に、「“神凪”として沙紀本人のデータを提供する」という約束をしていたのだ。

 

というのも、そもそもこの“審神者”システムは、沙紀の行う“神降”の簡略版であり、本来、普通の人間・・・・・には不可能な技である。そこで、時の政府が目を付けたのが、“神凪”のみ行える“神降”の御業であった。

 

“神降”――それは、“神代家”に代々引き継がれている“神の御業”であり、その身に“神”を降ろす事により、“神”と交信したり、御言葉を賜ったりするのである。その御業を扱う物を“神凪”と呼ぶのだ。

 

しかし、“神降”を出来る程の、霊力の持ち主は室町時代以降途絶えていた。故に、室町以降“神降”はされていなかった。

“神代家”の者ならば誰でもなれるわけでもなく、“神代家”でも、“神凪”になれる程の霊力を持ち合わせていなければ、“神降”は出来ないのである。

 

力のないものが“神降”をすればたちまちその力に耐えられず、絶命するのだ。

 

そして――室町以降、初めてその霊力を持ち合わせていたのが沙紀である。沙紀は、第185代“神凪”として、丁重に石上神宮の奥の宮に隠されるようにして、育てられたのだ。

しかし、それは今から7年前に彼女が初めて「鶴丸国永」をひとがたへ顕現させた事により、事態は一変する。時の政府はその力に目を付け、“審神者”システムを構築したのだ。

 

“審神者”システム――。

それは、ある程度霊力のある者ならば、システムを介して「刀剣」を「ひとがた」へ顕現できる。というシステムだった。

そして、それによって生まれた「刀剣男士」を歴史修正主義者との戦いで投入したのである。これにより、多くの“審神者”が生まれた。

 

しかし、この“審神者”システムはまだ完璧ではなかった。刀剣に神を降ろす――それは、言う程簡単な事ではなかったのだ。

 

一概に“神”といっても、“良い神”もいれば、“悪しき神”も存在する。“審神者”の霊力が足りなければ、適性がなければ、呼び出す“神”は“悪しき神”をも呼び寄せてしまうのである。

 

そこで政府は、7年前に「鶴丸国永」を自身の霊力のみで顕現させた少女――神代沙紀に目を付けた。彼女をこちら側に引き込むと同時に、研究の一環として、データ採取を提案してきたのだ。

 

勿論、沙紀の呼び出した刀剣男士達は反対した。しかし、沙紀はそれで少しでも犠牲が少なくなるのならばと、その提案を呑んだのである。交換条件を出して――。

 

それから、月一で政府の研究機関に赴き、開示できる範囲でのデータ提供および、血液と霊力の測定を行う様になっていた。

 

この日も一通り検査が終わると、沙紀は早々に研究機関を後にした。ほぼ1日がかりの検査なので、研究機関に入った時は朝だったのに、もう外は夕方に近かった。

 

「……眩しい……」

 

沈みかけの夕日が、酷く目に染みる。廊下を歩きながら、沙紀は護衛で付いてきている刀剣男士の控えの間へと急いだ。

 

そして、ふと角を曲がった時だった。

 

「おっと!」

 

突然誰かが出てきて、沙紀にぶつかりそうになった。

 

「あ……」

 

沙紀が顔を上げると、そこには見知らぬ男性が立っていた。風体から言って、おそらく“審神者”の一人だろう。

沙紀はすっと視線を少し逸らすと、丁寧に頭を下げ、

 

「申し訳ございません。前をよく見ていなかったもので――」

 

と、そこまで言いかけた時だった。

 

「あれ? もしかして君って“竜胆の審神者”の子?」

 

「え……?」

 

突然いきなりそう言われて、若干沙紀が警戒する様にその男性を見た。

 

「そう、ですが……」

 

そう答えると、男性は喜々とした様に、

 

「うっわ~~本物!? 噂には聞いてたけど、超美人さんじゃん!! ねえねえ、俺ね“菊花の本丸”任されてる“審神者”なんだけどさ、時間あるなら今からお茶しない?」

 

「――申し訳ございませんが、疲れておりますので、これで失礼し――「まぁまぁ、そう固い事言うなって。少しぐらいならいいじゃん? 折角出会えたんだしさ、これを機に仲良くしようよ!」

 

そう言って、その男性が沙紀の肩に手を回した。

 

「あの……っ、困ります!」

 

「“困ります”だって、かっわいい~」

 

「ですから――」

 

「少しぐらいならいいじゃん? ほら行こう」

 

そう言って、沙紀の抵抗もむなしく、そのままずるずると引っ張られていく。

 

「放っ、放してください……っ!」

 

「大丈夫、大丈夫~。ちょっとそこのカフェでお茶するだけだし」

 

「いえ、あの人を待たせていますので――」

 

「ひとって、刀剣男士でしょ? いいじゃん、待たせておけば」

 

「そういう訳には――」

 

沙紀が何度も抵抗するが、女の身で大人の男の力に敵うはずもなく――。そのまま併設しているカフェに連れて来られてしまう。

すると、奥の方から――。

 

「おっせーよ! 菊花!! って、え!? お前が連れてるのって……」

 

「なになに? え!? まじ!!? この子、“竜胆”の子じゃん!!」

 

「ええ――!? お前ら、いつ知り合ったんだよ!?」

 

と、複数の“審神者”とおぼしき、男性たちがいた。彼らはあっという間に、沙紀を取り囲むと、「俺はどこどこの本丸」だとか「“竜胆”の子連れてくるとか、超ラッキー」とか訳の分からない事を言っていた。

 

あからさまに沙紀が、困惑した上に「違う」と答えても、誰も人の話など聞いてくれなかった。

 

カフェに掛かっている壁掛け時計を見ると、もう18時を過ぎていた。

17時には戻ると、伝えておいたのに――だ。

 

早く、戻らないと……。

そう思うのに、この場から逃げ出す術がない。

 

「あの、すみません……そろそろ戻らなければ――」

 

「ああ、いいっていいて! 刀剣男士なんて俺らの駒なんだし、待たせとけばいいよ。 なぁ?」

 

「だよな~」

 

そう言って、彼らは笑っていた。だが、沙紀には笑えなかった。

駒って……そんな風に彼らを見ている人が“審神者”をしているなんて――。

 

酷く、屈辱的だった。

許せないと思った。

 

彼らは、その身を挺して“審神者”を信じ、付いてきてくれているというのに。この人たちにとっては、使い捨の駒も同然なのだという事実が、酷く腹立だしかった。

 

知らず、握った拳に力が入る。だが、そんな事に気付かない彼らは沙紀の所へ我先にとやってきて、

 

「なぁ、今さ、付き合ってる人とか要る? いなんだったらさ~」

 

「あ、抜け駆けするなよな! 俺が連れて来たんだぞ!?」

 

そういって、先程の男性が沙紀の肩を抱いたが――沙紀は、ばしんっ!とその手を弾いた。初めてみせた、沙紀の直接的な態度に一瞬その男性が驚くが――、他の、男審神者達が面白そうにけらけらと笑う

 

「ほら~お前、強引過ぎんだよ。彼女に嫌われちゃうじゃん?」

 

「うるせーな!」

 

「こういうのはさ、もっとスマートに――」

 

「……です」

 

沙紀が何かを口にした。

が、聞き取れなかったのか、男たちが「え?」と返す。すると、沙紀は目の前の彼らを睨みつけ、

 

「貴方様方は――!」

 

 

 

「あ~、そこまでにしとけよ」

 

 

 

背後から声が聞こえたかと思うと、ざん!という音と共に、沙紀と男審神者の目の前に、白い影が二つ割り込んできた。

それは――。

 

「……っ、りんさん。山姥切さんっ」

 

その影は、控えの間で待っている筈の、鶴丸国永と山姥切国広だった。沙紀が驚きを隠せないでいると、鶴丸は素早く周りを見て判断したのか、沙紀を抱き寄せると自身の背に庇った。

逆に、山姥切国広が腰の刀に手を掛けて一歩前に出る。

 

「……うちの主・・・・が世話になったようだな」

 

山姥切国広がいつもよりずっと低い声でそう言い放った。それを見て鶴丸が、

 

「国広、死なない程度にしておけよ。死なれると後で面倒だからな」

 

「……ああ」

 

山姥切国広がそう返事をすると、すらっと刀を抜いた。そんな物騒な会話をしていると、男審神者達が慌てて叫んだ。

 

「お、俺達も“審神者”だぞ!?」

 

「お前、刀剣男士だろ!? “審神者”に手を出したらどうなると思って――」

 

「……だから?」

 

彼らの抗議は、山姥切国広の耳には一切入っていなかった。そのまま抜き切った刀を軽く振ると――。

 

「あいにくと、俺達の“審神者”じゃないからな、あんた達は――だから、関係ない」

 

「なっ……」

 

「お、おい! 竜胆さん!! こいつらどうにかしてくれよ!!」

 

と、何故か矛先が沙紀に向けられた。だが、刀剣男士を駒扱いする様な輩を助ける気にはなれなかった。

と、その時だった。ふと、鶴丸が何かを思い出したかのように――。

 

「ああ、そういえば……、お前ら、沙紀に付き合ってる奴が要るとか要ないとか話してたよな?」

 

それだけ言うと、不意に鶴丸の手が沙紀の腰に回されたかと思うと、そのまま引き寄せられた。そして、そのまま ぐいっと顎に手を掛けて、上を向かせられる。

 

「生憎と――」

 

「え、り、りんさん……っ。待っ――んんっ」

 

「待って」という言葉は、鶴丸の唇で塞がれた。

 

「……ぁっ……」

 

「沙紀――もっと口開けろ」

 

そう言うなり、鶴丸が沙紀の頭の後ろに手を掛けたかと思うと、更に上を向かされた。

そのままそこへ、鶴丸の舌が入ってくる。

 

「ンっ、……ぁ、は、ぁ……待っ……り、りんさ――」

 

周りには目の前の男審神者以外にも、他の政府職員もいるというのに、鶴丸は気にした様子もなく、そのまま沙紀の唇を貪るかのように、何度も角度を変えてしてきた。

 

「……沙紀――どうして欲しい?」

 

「そ、んな、事……」

 

こんな皆が見ている場所で――。顔が熱を帯びるのが自分でもわかる。

 

ようやく解放されたときは、沙紀はもう立っているのがやっとだった。そんな濃いキスシーンを見せられて、唖然としていた男審神者達に向かって、鶴丸はにやりと笑みを浮かべると、

 

「悪いな、こいつ俺の・・なんで」

 

「~~~~っ」

 

沙紀は、もう顔が上げられなかった。すると、鶴丸はあっという間に沙紀を横に抱き上げると、

 

「じゃぁ、後は頼んだぜ、国広」

 

それだけ言うと、そのまま沙紀を連れてカフェを出ていった。残った山姥切国広は、目の前で萎縮している男審神者達を冷ややかな目で見ながら、

 

「……さて、お前ら……覚悟は出来ているんだろうな?」

 

その後の、惨劇は見るのも無残なものだったという。

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

―――現世・鶴丸の部屋

 

 

 

「ほら、落ち着いたか?」

 

そう言って、鶴丸が淹れてくれたのはミルクカフェオレだった。沙紀は小さく頷くと、そのマグカップを受け取り、ひと口だけ口にする。

 

あの後――山姥切国広だけ残して“本丸”に帰るわけにもいかず、かといって政府に留まっているのも嫌で、結局都内の鶴丸が使っていたマンションにやって来たのだ。

 

一面ガラス張りの窓の外を見ると、すっかり夕焼けも沈み、月が昇っていた。だが、沙紀は何かを考えこんだまま、じっとそのマグカップを見ていた。

鶴丸は小さく溜息を付くと、沙紀の隣に座った。そして、彼女のあたまをぽんっと撫でると、

 

「あいつらが、何言ってたか……まぁ、大体予想は付くが――沙紀が気にする必要はない」

 

「……」

 

「きみは知らないだろうが、“審神者”の半数はあんな考えのやつらばかりさ。刀剣男士は替えのきく捨て駒か、もしくは、自分の支配下の物か。どちらかだ」

 

「そんな……っ」

 

思わず、沙紀が声を荒らげた。だが、はっとして、また視線を下へ向けた。

 

「そんな事……。捨て駒とか、物とか、そんな風に言うなんて――」

 

「でも、それが現実だ」

 

「……っ」

 

悔しかった。あんな風に言われて、腹が立った。

でも、ここで鶴丸に怒りをぶつけるのはお門違いなのは、分かっていた。沙紀は、ぎゅっと堪える様にマグカップを握りしめる。

 

「沙紀、そんなに強く握ったら――」

 

瞬間、マグカップ内のミルクカフェオレが跳ねた。

 

「熱っ……」

 

「沙紀!!」

 

鶴丸が慌てて、沙紀の手からマグカップを取り上げると、そのままキッチンへと沙紀を連れて行った。蛇口をひねり水を出すと、沙紀の手を強引にその水で冷やさせる。

 

「馬鹿、あんなに強く握ったら跳ねるに決まってるだろう」

 

「……すみません」

 

その水は冷たくて、重なっている鶴丸の手からほのかに熱を感じた。し――ん、と室内が静まり返る。

 

水の流れ出る音だけが、耳に入って来た。

 

なにをやっているのかしら……私……。

 

鶴丸にも山姥切国広にも迷惑を掛けて……。

今もそうだ。こうやって、鶴丸に手間を取らせている。

 

「……すみません……」

 

先程と同じ言葉を紡ぐ。すると、鶴丸が沙紀を安心させる様に、またぽんぽんっと頭を撫でた。

 

「大丈夫だから、きみが謝る事は何もない。むしろ、俺達は恵まれてるんだ」

 

「え……?」

 

恵まれている……?

一瞬何が? と思うが……先ほどの鶴丸の言葉を思い出した。

 

『刀剣男士は替えのきく捨て駒か、もしくは、自分の支配下の物か。どちらかだ』

 

そう――彼は言っていた。

替えのきく捨て駒か、自分の支配下の物。そんなの――哀しすぎる。

 

「……折角、ひとかたちを得て私たちと同じ様に、会話して、食事して、大変なのに……それなのに、“捨て駒”とか、“物”とか、考えている方がいらっしゃるなんて、知らなくて……」

 

情けない。こんな情けない姿を見て欲しくなかった。

 

「私、何も知らないのですね」

 

心底、そう思った。それが、酷く申し訳ない――。

その時だった。不意に、鶴丸の手が伸びてきたかと思うと、そのまま沙紀を後ろから抱きすくめたのだ。

 

「……り、ん、さん……?」

 

突然の抱擁に、沙紀が驚き鶴丸を見る。すると、優しげに微笑んだ金色の瞳と目が合った。

 

「……あ……」

 

そのまま、ゆっくりと唇を重ねられる。

 

「言っただろ? “俺達は恵まれてる”って」

 

「それ、は……」

 

「俺達の主は、俺達を蔑ろにも、物扱いもしない。ひとりの“ひと”して大切にしてくれる――これ以上、幸せな事ってあると思うか?」

 

「りんさん……」

 

「少なくとも、沙紀はあんなやつらとは違う。それが俺達にとっては最高に幸せなんだ」

 

「……っ」

 

涙が零れた。泣きたいわけではないのに、知らず溢れ出てくる涙を止める事が出来ない。

 

「……っ、わ、たし……っ」

 

「馬鹿、泣くな。褒めてるんだぞ? それに――きみに泣かれたら、俺はどうしたらいいのか分からなくなる」

 

そう言って、鶴丸の唇が沙紀の涙をぬぐう。

 

「泣くな、沙紀……」

 

瞼から、頬へ、そして、そのまま唇へと触れる。

 

「どうして欲しい?」

 

優しく、鶴丸にそう尋ねられた。

 

きっと、こんなの根本的な解決にはならないのは分かっている。ほんの、一時しのぎなのも理解している。けれど――。

 

ぎゅっと、沙紀は鶴丸の背に手を伸ばすと、

 

「……抱いて、ください」

 

今はただ、彼に触れたい。物ではないという証に、彼に触れて欲しい――。

 

彼を――感じたい。

 

すると、一瞬だけ鶴丸が驚いた様にその金の瞳を一度だけ瞬かせたが――ふっと微かに微笑むと、

 

「ああ、沙紀が望むなら――」

 

そう言って、すっと沙紀を横に抱き上げると、寝室へ向かった。そして、ベッドの上にそっと彼女を降ろす。

 

ぎし……と、スプリングが軋む音が部屋に響いた。

そのまま、鶴丸は覆いかぶさるように沙紀の上へと乗ると、もう一度口づけをした。今度は、深く舌を差し込み絡め合うように何度も角度を変えては、彼女の口腔内を犯していく。

 

「沙紀――」

 

切なげに名を呼ばれ、沙紀の胸がきゅっと締め付けられる。

 

「ン……り、んさ……、は、ぁ……っ、ンン……」

 

静かな室内には、二人の吐息だけが響いた。

 

お互いの唾液を交換し合いながら、夢中でその甘い蜜の様な時間を分け合う。鶴丸が、ゆっくりと唇を離すと、つぅ……っと銀色の糸が引いてぷつりときれた。

「はぁ……っ」と、熱い吐息が零れる。二人の瞳が互いに互いを映していた。

 

いつもより少しだけ性急に、鶴丸の手が沙紀の服を脱がしていく。腰紐を解かれ、胸元の合わせが緩くなり開かれた。

 

「……ぁ……」

 

沙紀が少し恥ずかしそうに、頬を朱に染める。

 

すると、鶴丸はそのまま沙紀を抱きめてきた。肌と肌が直接触れ合って、不思議と心地よい。そこから、どくん、どくんと心臓の鼓動が伝わってくる。それは、どちらのものなのか分からない程、お互いに激しく脈打っていた。

 

「りんさん、緊張しています?」

 

なんとなく、いつもと違う気がして沙紀がそう尋ねると、鶴丸はくすっと笑って、

 

「沙紀も、な」

 

そう言って、するりと鶴丸の手が沙紀の背中を撫でる。

 

「あ……っ」

 

それだけで、ぞくりとした感覚が身体中に広がっていった。思わず身を捩らせると、鶴丸が首筋や胸元にちゅっと軽く吸い付くような口付けを落としていった。

それと同時に、鶴丸の手が沙紀のふくよかな乳房を下から持ち上げては揉みしだいていく。

 

「……ぁ、ンンっ……、は、ぁ……りん、さ……」

 

思わず、沙紀の口から甘い声が零れる。

柔らかさを堪能するように、時折力を込めては、ぐにゃりと形を変えさせていく。

 

「ンンっ……、ぁ、ん……」

 

その度に、沙紀の口から甘い吐息が零れては、それが余計に鶴丸の行為を加速させていった。

 

鶴丸は、頂きにある突起に触れるか触れないかの位置まで指を持ってくると、円を描く様に乳輪の周りを刺激していく。

まるで、焦らす様な愛撫に、沙紀の中で段々ともどかしさが募っていった。

 

もっとちゃんと触って欲しい――。

 

懇願する様に、沙紀が鶴丸を見る。その躑躅色の瞳は、少し潤んでいた。

 

「うちの主は、おねだりが上手だな」

 

「な、なに言っているのですか……」

 

冗談の様にそういう鶴丸に、沙紀が少しだけ頬を膨らませる。すると、鶴丸が片方の手で反対側の乳房の先端を摘まんだ瞬間――ぴくんっと、沙紀の身体が跳ねた。

 

「あ……っ、は、あンン……っ、はぁ……っ、あ……っ」

 

そのまま、くにくにと捏ね繰り回すようにして刺激を与え続けると、沙紀の声が艶を帯びてきた。もう片方の手はそのままに、顔を下げて行くと、赤く色づいているであろう先端を口に含んでいく。

そして、舌先で転がすようにしながら甘噛みすると、びくっと沙紀の身体が大きく揺れ動いた。

 

「ンンっ、……ぁ、は……、あ、ああ……っ」

 

その反応を見て、気を良くしたのか鶴丸が執拗にそこを攻め立てる。

ちゅうっと強く吸われれば、強い快感が走り抜けた。

 

「――ああっ!」

 

今までとは違う、直接的な快楽に、沙紀が堪らずに身を悶えさせる。

 

しかし、それでもまだ足りない――。

 

沙紀の躑躅色の瞳が、お願い――と訴えかけるように見つめていた。それに気づいた鶴丸は、ふっと口角を上げると、

 

「沙紀……可愛い」

 

そう言って、今度は反対の方へと舌を這わせていく。

 

「あ……っ、ん、ンンっ……」

 

そして、また同じように舌で舐めては口に含み吸い上げた。それを何度も何度も繰り返していく内に、そこは固く尖り、ぷっくらと熟れてきていた。

 

鶴丸はそれを満足げに見下ろすと、最後に仕上げとばかりに強く吸い上げたのだ。

 

「あ、ああっ……、は、あんん!」

 

その途端、 びくんっと沙紀の身体が弓なりにしなる。同時に、秘部からはじわりと蜜が溢れ出てきているのが自分でもわかった。

それを見た鶴丸が、そっと下肢に手を伸ばすと、下着の中に手を滑り込ませる。既に湿っているそこに指を這わせると、ぬるりと濡れているのがよく分かった。

 

「あ、や、待っ……あ、ンンっ……」

 

その事に、沙紀の顔が一気に紅潮していく。そんな彼女の様子を知って知らでか、鶴丸はそのまま割れ目をなぞるように上下に動かし始めたのだ。くちゃくちゃと、厭らしい水音が部屋に響く。

 

「あ、ああ……っ、ン……は、ぁ……んん」

 

甘い声が零れる。すると、鶴丸は指先に付いた蜜を見せつける様に、その舌で舐め取った。

 

「……っ」

 

その仕草にすら、感じてしまう。

 

恥ずかしい。

けれど、それ以上に気持ちいい――と感じてしまう、自分が恥ずかしすぎて、もう何も考えられなかった。

 

鶴丸がゆっくりと顔を近づけてくると、沙紀もそれを受け入れるように自ら唇を合わせた。

 

「んん、ふ、ぁ……、あ、ンン……っ、は、ぁ……」

 

「沙紀……」

 

互いに貪るような口づけを交わすと、どちらからともなく舌を差し込んで絡め合う。その間も、鶴丸の手の動きは止まらなかった。

 

いつの間にか、一本だったはずのそれは二本に増えていて、膣内をかき回している。くちゅくちゅと淫靡な音を立てながら、時折陰核に触れる度、沙紀の口からは甘い声が上がった。

 

そして――突然、中に入っていた鶴丸の指がある一点を掠めると、沙紀の腰が浮いたのだ。その反応を逃すまいと、指がさらに奥深くまで入り込み、ぐりゅと中で回転させた後、ある箇所を引っ掻く様にして刺激を与えてくる。

 

「――あ、ああっ!!」

 

すると、沙紀は大きく目を見開いたかと思うと、身体を大きく仰け反らせた。その瞬間、頭の中で何かが弾けたような感覚に陥る。

 

目の前が真っ白になり、びくんっと大きく身体が跳ね上がった。次の瞬間には、全身から力が抜けていくのを感じたのだった。

 

「あ……、はぁ、はぁ……っ」

 

荒くなった息を整えようとするも、上手くいかない。

 

なに、いま、の……。

 

何が起こったのか分からず、呆然と天井を眺めていると、不意に視界が暗くなった。

瞬間、唇に柔らかいものが触れる。それが鶴丸のものだと分かると、沙紀は無意識に彼を求めた。

 

「ぁ、はぁ……りん、さ……っ、ンン……っ」

 

すると、すぐに鶴丸の舌が絡みついてくる。そのまま、互いの唾液を交換し合い飲み込むと、沙紀の身体が再び熱を持ち始めていった。

それと同時に、再び頭がぼんやりとしてきて思考能力が低下していく。

 

 

そして――どのくらい経っただろうか。気が付くと、部屋の中には二人分の乱れた呼吸だけが響いていた。

 

「沙紀、平気か?」

 

未だにぼうっとしたままの沙紀に、鶴丸が優しく声を掛ける。だが、彼女はそれに答える余裕がなかった。

 

それよりも今はただ――。

もっと欲しい……。

 

沙紀が鶴丸の首筋に腕を回すと、それを合図にするかのように口付けを交わしていく。

 

「ンン……っ、は、ぁ……んっ、りん、さ……っ」

 

最初は啄むように、次第に深いものへと変わっていった。

 

そして、鶴丸は沙紀の下肢へと手を伸ばすと、下着を脱がせて脚を開かせた。

そこは、ひくつきながらも物欲しそうにしていたて……。それに導かれるようにして、鶴丸が顔を寄せていく。

 

何をされるのか察した沙紀は、羞恥心でいっぱいだった。顔を真っ赤にさせ、でも、潤んだ瞳で鶴丸を見つめる。

 

それでも止めて欲しいとは思わなかった。寧ろ、早くして欲しいとさえ思ってしまっていた。

その証拠に、秘部は蜜で溢れかえり、太腿にまで垂れてきている。鶴丸が、それを舐め取る様にして舌先で掬うと、ぴちゃりという音が耳に届いてきた。

 

「……っ」

 

恥ずかしい……っ

 

そう思うのに、止めてほしくない。

矛盾した二つの考えが、沙紀の頭の中でぐるぐるしていた。

 

瞬間、鶴丸の熱い吐息が敏感になっているそこに掛かり、ぞくりとした快感が背中を走る。

 

「ぁ……っ」

 

それだけでも感じてしまい、身体が小さく震えてしまった。そんな沙紀の反応を楽しむように見つめると、鶴丸は再びそこに口付ける。今度は軽く吸われるだけでなく、膣内にも侵入してきた。

 

「あ、ああ……っ、んぁ、は、ンン……っ」

 

先程よりも強い快楽が押し寄せてきて、堪らずに腰を揺らしてしまう。それに応えるように、鶴丸はさらに強く吸い付いてきた。

 

「――あああっ!」

 

すると――沙紀の口から一際大きな声が上がると同時に、身体が大きく痙攣する。その瞬間、頭の中で何かが弾けたような気がしたが、今の彼女にはそれを気にしているだけの理性はなかった。

 

鶴丸も、沙紀が達したことに気付いたようだったが、彼は行為を止めるどころかむしろ激しくしていった。

それはまるで、沙紀を休ませるつもりはないと言っているようで――。絶頂を迎えたばかりの沙紀には強すぎる刺激に、沙紀は何度も首を横に振った。

 

「やぁ……待っ、てぇぇ……! 今、は……あ、ああ……っ!」

 

しかし、鶴丸はそれすら許さなかった。

沙紀の制止の声を無視して、膣内を犯し続ける。すると、膣内から大量の愛液が流れ出し始めた。

鶴丸は、それを一滴残さず飲み干すと、ようやく口を離したのだった。

 

沙紀が、やっと終わったと安堵するが、それも一瞬だった。

鶴丸はそのまま陰核を口に含んでしまったのだ。しかも、それだけでは飽き足らず、尖らせた舌でぐりぐりと押し潰てくる。

 

「あ、ああ、ン、ぁ……待っ、だ、めぇぇ……っ」

 

その度に電流のような衝撃が走り抜けていき、沙紀は無意識に腰を動かしていた。だが、いくら動かしても逃げられるはずもなく……結局、またすぐに高みへと上り詰めてしまう。

そして、二度目の絶頂を迎える直前、鶴丸は今までで一番強烈な一撃を与えてきた。

 

「――ああっ!!」

 

同時に、沙紀は悲鳴に近い声で喘ぐと、身体を大きく仰け反らせて果てた。

 

その後、脱力した沙紀はベッドの上に横たわっていたのだが、彼女の上に覆い被さるようにして鶴丸がいた。そのせいで身動きが取れない。

鶴丸の顔がすぐ近くにあって、鼓動が早くなるのが自分でも分かった。

 

沙紀が不安そうな表情を浮かべていると、それに気づいた鶴丸が安心させるように頭を撫でてくれる。

それが嬉しくて、沙紀が目を細めると、鶴丸の手が頬に触れた。そのまま優しく包み込まれるようにして触れられたかと思ったら、唇を重ねられる。

 

「ん……っ」

 

ちゅ、と立てて離れていったかと思えば、再び重ねられていく。

角度を変えて繰り返されるうちに、それは次第に深いものに変わっていった。

 

そして、今度はすぐに離す事なく、互いの舌を絡ませ合いながら激しく求め合った。

舌を甘噛みされ、歯並びをなぞられ、唾液を交換する。沙紀が躊躇いながらもそれを飲み込むと、鶴丸は満足そうに微笑んだ。

 

その間も、鶴丸の指は休むことなく動いていて、膣内は三本もの指を難無く受け入れていた。今ではもうすっかり解れていて、抜き差しされるたびに蜜が溢れ出してくるほどだ。

 

鶴丸を受け入れる準備は既に整っていると言ってもいいだろう。

それなのに、未だに挿れてくれない事に焦れた沙紀が、潤んだ瞳で懇願するように見つめると、鶴丸が耳元で囁く様に、

 

「――沙紀、どうして欲しい?」

 

沙紀は、鶴丸の言葉に小さく肩を震わせた。かぁっと、沙紀が頬を朱に染める。

 

恥ずかしくてとてもじゃないが、言えなかった……。けれども、それ以上に彼が欲しかった。

 

だから――。

意を決した沙紀は、恐る恐る口を開いた。そっと、彼の耳元で彼だけに聞こえる様に――、

 

「りんさんを――お願いします」

 

すると、それを待っていたかのように鶴丸が嬉しそうに微笑みながら顔を近づけてきた。

 

「ああ、全部沙紀の望み通りに――」

 

そして、触れるだけの口付けを交わすと、ゆっくりと膣内を押し広げながら入ってきた。

 

「んっ、ぁ……、は、ぁ……んんっ」

 

徐々に奥まで入り込んでくる感覚に、沙紀は身体を小刻みに痙攣させた。鶴丸の背中に腕を回して、ぎゅうっと抱きつく。すると、沙紀の身体を抱き締め返してくれた。

それと同時に、根元まで挿入されて、子宮口に亀頭が当たった瞬間、沙紀は軽く達してしまった。

 

そんな沙紀を労わる様な優しい眼差しを向けながらも、鶴丸はすぐに律動を始めた。

最初は緩やかに、そして段々と速くなっていく抽挿に、沙紀は次第に何も考えられなくなっていた。

 

「あ、ンンっ、……はぁ、あ、ああっ」

 

ただひたすらに気持ち良くて、もっと欲しいとばかりに、沙紀は自ら腰を動かしていた。そして――鶴丸が激しく突き上げてきたと同時に、沙紀の中で熱いものが弾ける。

 

それは瞬く間に広がっていき、膣内を満たしていった。

 

「あ、ああっ!」

 

沙紀もまた、ほぼ同時に絶頂を迎えてしまい、身体を大きく仰け反らせると、膣内が収縮し、鶴丸のモノを強く締め付けた。

 

「沙紀……っ、力、抜け……っ」

 

すると、中に出された事でさらに感じてしまったのか、さらにさらに強く締まり、鶴丸は思わず息を漏らす。

 

「そ、そんな事、いわれ、て、もっ……あ、ああっ」

 

しばらくして、今度は余韻に浸るようにゆるやかな動きに変わった。沙紀も同じように、呼吸を整えようとしていたのだが、 突然ぐるりと視界が変わったかと思うと、いつの間にかうつ伏せの状態にされていたのだ。

すると、背後から鶴丸に覆い被されていた。そして、まだ硬度を保ったままの陰茎でぐりぐりと陰核を刺激してきた。

 

「ンンっ、あ、……ああっ、や、んんっ」

 

それだけでも快感だというのに、鶴丸は容赦なく腰を打ちつけてくるではないか。先程出したおかげもあって滑りが良くなっているため、結合部から厭らしい水音が響いていた。

 

それがまた興奮を煽ってきて、鶴丸の動きも激しさを増していく。

 

「あ、んんっ、り、りんさ……も、もう……っ」

 

その度に沙紀は何度も絶頂を迎えて、もはや限界だった。

 

しかし、鶴丸はまだ満足していないらしく、まだまだ終わらせてくれそうもない。

沙紀は、このままでは本当に壊れてしまうかもしれないと思いつつも、それでもいいと思ってしまった。

なぜなら、今はただ鶴丸の事だけを考えていられるからだ。

 

例え、どんなに激しくても、痛くても、苦しくても、それが鶴丸からの愛だと思えば、全て受け入れられる。

 

そう思ったら、自然と笑みが零れていた。それから二人は夜通し交わり続け、気がつけば朝になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

カーテンの隙間からは眩しい朝日が入り込み、鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 

そんな中、沙紀はベッドの上でぐったりとしていた。

結局、あれからも何度か体位を変えながら行為を続けて、最終的には対面座位で交わった。

 

その時は、鶴丸の上に跨っていた為、自分で動く必要は無かったが、その代わり下から思いっきり突き上げられて子宮口を刺激されたせいで、最後は意識が飛んでしまい、そのまま眠ってしまったのだった。

そして、目が覚めた時には既に日が高く昇っていた。

 

身体が重い……。

それはそうだろう。自分からお願いしたとはいえ、まさか、あそこまでされるとは思わず……正直立ち上がるのも一苦労だった。

 

ふと、隣を見ると鶴丸の姿が見当たらなかった。

シャワーでも浴びに行っているのだろうか? そんな事を考えている時だった、不意に寝室の扉が開いた。

 

はっとして、沙紀が顔を上げると、トレイに何かを乗せた鶴丸が入って来た。

 

「ああ、沙紀、もう起きたのか? 無理しない方がいい、昨日はその……色々俺も抑えが利かなかったから――」

 

そう言って、少し頬を赤らめながら鶴丸がベッドサイドのテーブルにトレイを置いた。

 

「これは?」

 

「軽めの朝食だ。スープと、サラダと一応ハムエッグも持ってきたが――食えそうか?」

 

言われて、そっと沙紀がお腹を抑えた。確かに、お腹は空いていた。

 

「はい……お腹空いていますし、頂きます」

 

そう言って、スプーンを取ろうとしたが――何故か、さっとそのスプーンを鶴丸に取られてしまった。

 

「りんさん?」

 

沙紀が不思議そうに首を傾げる。

すると、鶴丸は、すっとスープをひとすくいすると、

 

「ほら、口開けろ」

 

「え!?」

 

まさか、食べさせてくれるというのだろうか。

正直、そこまでしなくとも――と思ったが、折角なので好意に甘える事にした。少し、恥ずかしいが……沙紀は髪を避けると、口を開けた。

 

すると、鶴丸がすっとスプーンを沙紀の口の中に入れる。じわりと、温かいスープが身に染みた。

 

「……美味しい」

 

沙紀のその言葉に安堵したのか、鶴丸がほっと顔を綻ばせる。

 

「沙紀が望むなら、いつでも作ってやるよ」

 

そう言って、もうひとすくいスプーンにスープをすくと、

 

「ほら、あーん」

 

そう言って、もうひと口スープを飲む。何だかそれがおかしくて、思わず沙紀は笑ってしまった。

 

「ふふ、なんだかりんさんに、お世話されるの癖になってしまいそうです」

 

沙紀の言葉に、一瞬鶴丸がその金の瞳を瞬かせたが、次の瞬間ぷはっと笑いだし、

 

「なんだ、沙紀が望むならいつだってしてやるぜ?」

 

そう言ってにやりと笑う。

 

いつか――こんな風に、穏やかに暮らせたらいいのに……。

そんな風に思ってしまうのは、きっと今この瞬間が、“幸せ”だと感じているからなのだろう。

 

でも、そう願わずにはいられなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025.03.11