薄雪ノ抄
     ~月来香編~

 

◆ 小竜景光 「籠の中の鳥(前編)」

   (刀剣乱舞夢 「華ノ嘔戀 外界ノ章 藍姫譚」 より)

 

 

 

漆黒の流れる様な長く艶やかな髪

何もかもを見透かす様な大きな、藍色の瞳

 

それが、俺の主であり、この“藍姫の本丸”の“審神者”――――葛月 碧衣だ

 

なんでも

“審神者”になる前・・・・・・ああ、今もか

旧家のお嬢様だったらしく、所作は一級品

着物の着こなしも、巫女装束の姿も、堂に入っている

 

最初は、単に珍しいな・・・と思って見ていただけだった

今まで仕えてきた主は、無作法というか、武骨というか・・・・・・

あんまり、綺麗な人はいなかった

 

だが、彼女は違った

 

食事をとる仕草も、花を生ける仕草も、他愛ない事でさえ「綺麗」だった

でも、「人」なんだ

ただそういう環境下で生まれたから身に付いた――――ともいえると思った

だから、特に気に留めていない――――

 

そう、思っていた

 

 

 

 

 

  「籠の中の鳥」

 

 

 

 

 

「ふぁ・・・・・・」

 

早朝――――

小竜景光は、朝っぱらから何故か山伏国広にたたき起こされて、朝稽古に付き合されていた

 

「・・・・・・なんで、俺なんだよ・・・」

 

いつもみたいに国広兄弟たちに頼むべきだろう

そう思うと、半強制的に道場に連れていかれたものだから、あまりにも苛っとしてついつい、本気で相手してしまった

 

「朝っぱらから、最悪なんだけど・・・・・・」

 

お腹もすくし、全身汗だくで早く湯を浴びたい

「ひと」の身体とは何って面倒なのだろうか

「刀」だった頃には考えられない

 

とりあえず、朝餉の前に湯浴みを済ませると、ほっと一息ついた

少し部屋でゆっくりでもしようかな・・・・・・

 

と、そんな事を思いながら廊下の角を曲がったものだから

曲がった先に人影があった事に気付けなかった

 

「・・・・・・碧衣?」

 

見ると、それはこの本丸の主である、葛月 碧衣だった

碧衣は小竜の存在に気付くと、「あ・・・・・・」と声を洩らした後、立ち上がると丁寧に頭を下げてきた

 

「小竜様、おはようございます」

 

そう挨拶をした後、碧衣は再び廊下にしゃがみこんだ

 

「・・・・・・何してるんだい?」

 

「え? あ、いえ・・・・・・」

 

そう言う、碧衣の足下には沢山の資料やメモリースティックなど

とにかく、色々なものが散らばっていた

それらをひとつひとつ丁寧に拾っている

 

誰かにぶつかったのか、それともぶつかられたのか・・・・・・

それらしい、相手は周りに誰も居なかった

 

まさか・・・・・・俺にびっくりして落としたのか?

 

そうだとしたら、何だか少し申し訳ない気もして

小竜もすっとしゃがむと彼女の拾い物に手を伸ばした

 

が・・・・・・

 

「あ、あの・・・・・・大丈夫ですので」

 

そう言って、やんわりと断られた

が、小竜は気にした様子もなく

 

「こういうのは人数多い方が早く終わるだろう?」

 

そう言って、小竜は碧衣の言葉を無視してひょいひょっとどんどん落ちているものを拾っていく

 

「あ、あの・・・・・・っ」

 

流石に困惑した様な碧衣が、声を発しようとするが――――・・・・・・

小竜はさっさと荷物を拾い終えると

 

「どこ持っていくんだい? キミの部屋?」

 

「え、そう・・・・・・ですけれど・・・・」

 

「そ、じゃ 行こうか」

 

そう言って、碧衣の持っていた書類なども全部取り上げると、すたすたと彼女の部屋の方へと歩き出した

 

「お、お待ち下さいっ、小竜様っ・・・・・・」

 

碧衣が止めようとするが、小竜は無視してどんどん先へと歩いていく

 

「小竜様・・・・・・っ」

 

碧衣が、困惑しつつその後に続く

部屋に付くまでの間、何度も碧衣が自分で持つと申し出たが、小竜はそのすべてを却下した

 

そうしている内にあっという間に、碧衣の部屋に付いてしまった

 

「ここ、置いておくよ?」

 

そう言って、机の上に持っていた資料などを下ろす

 

「・・・・・・・・・」

 

碧衣が何か言いたそうに、こちらを見ていた

 

「なに?」

 

そう尋ねると、碧衣は少し困惑した様に、その大きな藍色の瞳を泳がせながら

 

「あ、いえ、その・・・・・・」

 

何かを言い掛けてはその口を閉じるという行為を何度か繰り返している彼女を見ていると、小竜の中で何か悪戯心が沸いた

 

その口元に微かに笑みを浮かべると、そのまま碧衣の方に向かって足を向けた

 

「え・・・・・・」

 

突然 近寄って来た小竜に困惑した様に、碧衣が一歩後ろへと下がる

が、直ぐに壁際に追い詰められてしまった

 

「ねぇ、何で逃げるの? 逃げる“理由”ない、よね?」

 

そう言って、碧衣との距離を縮める

碧衣が間知に迫った小竜の綺麗な顔に、かぁ・・・っと頬を赤く染めた

 

それを見た小竜は面白いものでも見た様に、くすっと笑み浮かべ

すっと、碧衣の耳元に唇を寄せると

 

「なに? 俺の事 意識してんの? 顔、真っ赤だけど?」

 

「ち、ちがっ・・・・・・」

 

「違う? こんなに顔を赤くしているのに? ほら、耳まで赤いよ・・・・・・?」

 

「そ、れは――――・・・・・・」

 

もう、碧衣にはどう答えていいのか分からなかった

頭の中がパニックになるとは、こういう事じゃないだろうか

 

彼女のそんな反応見ていると、小竜の中に悪戯心が湧いてきた

 

「ねぇ、碧衣・・・・・・」

 

そう言って、すっとその綺麗顔を彼女に近づける

 

「だったらさ、“ご褒美”頂戴」

 

「え・・・・・・?」

 

言われた事の意味が分からず、碧衣がその藍色の瞳を瞬かせる

すると、小竜はくすっと笑みを浮かべると

 

「だから、今回の荷物運びへの“ご褒美”」

 

「あ・・・・・・」

 

言われて、その事に気付いたのか

碧衣がかぁと頬を朱に染めながら

 

「あ、の・・・・・・私で出来る事でしたら、なんでも――――」

 

そう言い掛けた時だった、不意に小竜がぐいっと碧衣の腰に手を回した

 

「あの・・・・・・っ」

 

流石にそれには驚いたのか、碧衣が困惑した様にあの藍色の瞳を揺らした

 

「なに? なんでも・・・・いいんだろう? だったら、キミがいいな」

 

「え、あの・・・・・・? それは、どういう――――」

 

「どうって? 言葉の通りだよ。 碧衣、キミが欲しい」

 

そう言いながら、小竜がとん・・・・と、碧衣との距離を更に縮めた

 

そうだ――――

ずっと気になっていた

彼女のあの綺麗な藍色の瞳が俺色に染まったらどうなるか――――

 

興味があった

彼女が―――碧衣が、俺のモノになった時、彼女の中で俺がどう変わるのか

そして、俺の中で彼女への想いがどう変わるのか

 

だから

 

 

 

「キミを―――貰うよ」

 

 

 

「小竜さ・・・・・・」

 

碧衣が、言葉を発しようとした時だった

目の前にあった小竜の綺麗な紫水晶の瞳と目が合った

 

一瞬、どきん・・・っと、心臓が跳ねる

 

「あ・・・・・待っ・・・・・ン・・」

 

不意に、重ねられた唇から小竜の熱が伝わってくる

なんだか、恥ずかしくなって碧衣がぐっと小竜を押し退けようとしたが

その手はあっさり、小竜に捕まってしまった

 

「駄目だよ、碧衣。 逃がしてあげない」

 

そう言って、そのままぐいっと碧衣の腰を自身方へと更に抱き寄せる

そして、そのまま上を向く形となった碧衣の唇に二度三度と重ねていく

 

徐々に激しくなっていく口付けに、身の危険を感じたのか

碧衣が、慌てて言葉を発しようと口を開く

が、それはお見通しだったのか

それとも、小竜の方が1枚上手だったのか

 

「いい子だね、そう―――口開けて」

 

「待っ、待ってく、だ・・・・・・んんっ」

 

碧衣が口を開いた瞬間、ぐっと更に小竜の口付けが激しくなった

 

「・・・ぁ、ンン・・・・・・っ」

 

舌と舌が絡まり、言葉を発する事すら叶わない

徐々に感覚が麻痺していく――――・・・・・・

 

頭が朦朧として、立っているのもやっとだ

 

「こりゅ、う、さ・・・・・・ま・・・、ぁ・・・・はぁ・・・ンンっ」

 

頭の中に「どうして」という疑問が浮かぶ

今までそんな素振りなかったのに

 

なぜ、今「こんな事に」なっているのか――――・・・・・・

 

困惑している自分がいる事に気付く

だからと言って、小竜からの口付けが止むことはなく

そのまま、受け入れるしか今の碧衣には出来なかった

 

「は・・・ぁ・・・」

 

やっとのことで口付けから解放された碧衣は既に、ぐったりしていた

だが、小竜は面白いものでも見たかのようにくすっと笑うと

 

「駄目だよ、碧衣。 まだこれからなんだから――――」

 

そう言って、突然ぐいっと横抱きにされた

ぎょっとしたのは碧衣だ

 

「あ、あの・・・・・・っ!」

 

慌てて小竜を見るが、小竜は小竜で上機嫌で続き部屋の寝台の方に歩いて行った

 

「・・・・・・・・・っ」

 

後ろに見える寝台を見た瞬間、どくん・・・っと心臓が恐怖のあまり音を立てる

だが、小竜は何でもない事の様に、碧衣を寝台に下ろす

そして、自身の上着を脱ぐと、小竜が寝台に座った

 

ぎし・・・・・・と、寝台が音を立てる

 

「さて、姫。 どうして欲しい?」

 

そう言って、さらっと碧衣の艶やかな漆黒の髪をひと房取ると、そっとその髪に口付けを落とした

 

「小竜様・・・・・・こんなこと――――」

 

 

「止めないよ」

 

 

碧衣が言い終わる前に、きっぱりと言われてしまった

小竜がぎしっと音を立てて、碧衣の上に上半身を乗せる

 

「こ、小竜様・・・・・・っ」

 

「だめだよ。 その“お願い”だけは聞けない」

 

「どうして――――」

 

わからない

なぜ、小竜が自分にこんな事をするのか

だが、小竜はそんな事どうでもいいという風に

 

「気になるんだよね」

 

「・・・・・・え・・・?」

 

「ずっと、いつからかな? そのキミの藍色の瞳に俺が映ったらどうなるんだろうって思ってた」

 

「なん、の・・・・・・」

 

「でも、こうすれば簡単な事に気付いたんだ。 ――――こうやって、キミに触れればキミの瞳には俺しか映らない――――違う?」

 

「そ・・・・・・」

 

「――――だから、止めない」

 

そう言うなり、小竜が碧衣に覆いかぶさるように乗って来た

そして、そのまま口付けが降ってくる

 

「んん・・・・・・ま、待っ・・・・・・」

 

「待たないって言ったよね? 俺は今、キミが―――碧衣が欲しいんだ」

 

彼が・・・・・・

私を・・・・・・?

 

そう言われても、何故としかやはり浮かばなかった

 

「だから、碧衣も―――俺を欲してよ」

 

「え・・・・・・?」

 

一瞬、何を言われたのか分からず、碧衣がその藍色の瞳を瞬かせる

すると、小竜がさも当然の様に

 

「だって、俺ばっかり求めるのってなんか、不公平じゃない? だから、碧衣も俺を求めてよ。 そしたら、全部あげるよ――――キミに」

 

「・・・・・・小竜、さ、ま・・・?」

 

一瞬、微かに小竜の紫水晶の瞳が揺れた気がした

だがそれはほんの瞬き程で、直ぐにいつもの色に戻った

 

「ねぇ・・・・・・碧衣。 俺を求めて――――・・・・・・」

 

まるで懇願する様に囁かれたその言葉は、いつもの自信満々の彼とは異なっていた

不安で、拒絶されるのを恐れている

 

そんな子供の様な姿が脳裏を過ぎった

 

「小竜様・・・・・・」

 

ああ・・・・・・この人は怖いのだ

もし、ここで自分が拒絶の態度を取ったらもう二度と――――

 

そんな、の・・・・・・

でも

 

自分が彼に対して特別な感情を持っているか?

と、問われるとわからない

 

嫌い・・・・・・ではない けれど

それは、好きとイコールしない

 

刀剣男士は皆大切にしたいと思うし、ここが私の唯一の居場所だ

あの家から出るきっかけを与えてくれた――――・・・・・・

 

だから、刀剣男士かれらは、家族であり、大切な仲間だ

それ以上は踏み込んではいけないと思うし、一定の線を引くべきだと思っていた

 

あの家の様に――――「人形」になりたくなかったから

ただ言われるがままに、お稽古事を繰り返す毎日

そこには、拒否権も自由も なにもなかった

 

ただ、両親の言われるがままの「人形」だった

 

だから、早くあの家を出たくて、“審神者”の話を持ってきた政府の話を即承諾した

そして、今に至る

 

そして「彼」は、私が最初に呼び覚ました――――刀の付喪神

 

最初に彼を顕現させたとき、綺麗な人だと思った

流れる様な金色の髪に、綺麗な紫水晶の瞳に目を奪われた

 

でも、ただそれだけだと思った

 

たとえ、自然と視界に入れば目で追ってしまっても

きっとそれは彼が「綺麗」だから目を惹いたのだと――――・・・・・・

 

でも、違うのだとしたら?

もしも、私が彼を目で追ってしまうのは・・・・・・

 

もっと、別の意味があるとしたら?

それは――――

 

「小竜様は・・・・・・」

 

すっと、碧衣が彼の頬に手を伸ばす

瞬間、ぴくっと小竜が肩を震わせた

 

「・・・・・・小竜様は、私が何故欲しいのですか?」

 

一瞬、小竜の美しい紫水晶の瞳が見開かれた

が、直ぐに細められ

 

「・・・・・・それをキミが、俺に聞くんだ。 本当に、分からないの?」

 

「それは――――・・・・・・」

 

嘘だ

分かってしまった

 

彼は私を――――・・・・・・

 

「てっきり、もう気付いていると思っていたのに。 参ったな」

 

では、私は?

私は、彼を・・・・・・

 

 

 「好き」

 

   なのだろうか・・・・・・?

 

 

 

(後編に続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初、こりゅさに

果たして、こりゅの解釈が合っているのか、謎!!ですけどねww

後、話方とか・・・・・・

だ、大丈夫か? おいwww

 

 

2022.12.19