薄雪ノ抄
     ~月来香編~

 

◆ 練紅炎 「追憶の果て」

(マギ夢 「CRYSTAL GATE-The Goddess of Lightー」 より)

 

 

 

―――煌帝国・青蘭の丘

 

 

その日、エリスティアは世話になっている、蘭朱らんしゅの母の薬を作る為に、日課の桔梗を採りに来ていた。

元々、エリスティアは煌帝国に来る予定など無かったのだが何の因果か迷宮ダンジョンから飛ばされてしまったのだ。

チーシャンの第七迷宮・アモンにアリババとアラジンに誘われ、一緒に入ったまでは良かった。問題は迷宮ダンジョン攻略後だ。基本迷宮ダンジョン攻略後の脱出ポイントは指定出来ない。それは、エリスティアはシンドバッドと何度も入ったことあるから知っていた。しかし、これは想定外だった。

大体は、迷宮ダンジョンのあった近くの場所か、関係の深い場所に降りる。しかし、稀にルフに導かれた場所に降ろされる場合があるのだ。

そして、エリスティアはまさに、その「ルフに導かれた場所」に降ろされた。

 

正直、最初は何故この煌帝国に降ろされたのか理解出来なかった。だが――“彼”に逢った瞬間、理解した。全ては「ルフの導き」なのだと。

普通なら、逢う事すらない存在。この煌帝国・第一皇子 練 紅炎。そんな彼と偶然出逢ったのは、この青蘭の丘に桔梗を採りに来ていた時だった。

そもそも、エリスティアがアモンから飛ばされた場所は、煌帝国の禁城内でもなく、都でもなく、外れた村の傍にある、この青蘭の丘だった。そこをたまたま蘭朱という少女に助けられたのだ。

帝国の皇子である彼と、普通の村娘に助けられたエリスティア。接点など無いに等しかった。それなのに――。

 

 

『ルシよ……』

 

 

ふと、聞き覚えのある声が聞こえてきて、エリスティアは はっとした。慌てて顔を上げると、金色のルフがピイイイイイと音を立てながらある一方へと導くかのように、溢れていた。それに自分に語り掛けてくるこの声、は……

 

「アシュタロス?」

 

それは、紅炎の持つジンの金属器に宿る、アシュタロスの声だった。珍しい――と思った。何か紅炎の身にあった時の為、基本アシュタロスは彼の傍を離れる事は、ほぼない。にも拘らずフェニクスでもなく、アガレスでもなく、アシュタロスが語り掛けて来たのだ。それに、このルフ達の声が――気になった。

ルフ達は“たすけて”、“たすけてあげて”と囁いていたのだ。

 

嫌な――予感がした。

 

エリスティアは、採った薬草や桔梗を持ってきていた籠に入れると、立ち上がった。そして、ルフ達の導く方へと、駆け出したのだ。すると、アシュタロスの声が響いてきた。

 

『ルシよ、主は今――』

 

「理由は分からないけれど、今、癒しの力を持つフェニクスが傍にいなければいけないという状況でしょう? お願い、炎の所に案内して頂戴」

 

『しかし――』

 

「どんな状況でも、対処してみせるわ。だから、貴方は私の元へ来たのでしょう?」

 

『……』

 

エリスティアが強くそう言うと、アシュタロスは少し黙った後、『こちらです』と、ある方向へと向かい出した。

そして、案内された場所は、いつも紅炎が寝ている場所から少し離れた、滝の裏側にある洞窟の中だった。よく見ると、直ぐ傍に木に紅炎の愛馬の炎隷が繋がれている。

エリスティアは、ごくりと息を吞むと、そっとその洞窟の中に足を踏み入れた。そこは、ぴちゃーんと水の滴る音と、幾つもの紫の光る鉱石がある、不思議な洞窟だった。光る鉱石のお陰で特に灯りは必要無い程 明るかった。

 

「炎……?」

 

こんな所に、いるというのだろうか? 危険から身を隠すには些か明るすぎる気がした。それに、外に炎隷を繋いでいたら、いると言っているのも同然だ。なのに、何故……?

てっきり、刺客などに襲われて怪我をし、身を隠しているのかと思ったが、そうではないという事だろうか? 何だか、いまいち腑に落ちない。

 

そう思いつつ、洞窟の奥の方までやって来た時だった。そこは少し開けた場所で、地下水だろうか、綺麗な湧き水が大きな湖を作っていた。光る紫の鉱石がきらきらと、輝いており、とても美しい場所だった。

普段だったら「綺麗」と思ったかもしれない。だが、今、エリスティアの心境はそれ所ではなかった。

 

「炎、いるの? いたら返事をして――」

 

そう声を掛けてみるが、返事はない。気付くと、アシュタロスの気配も消えていた。自分で探せという事だろうか――。そう思って、更に奥に足を踏み入れようとした時だった。

 

ピイイイイイイと、一斉に辺り一帯のルフがざわめいた。はっとして、そちらの方を見ると――。

 

 

 

「……っ、炎!!」

 

 

 

そこには、紅炎が一人岩肌にもたれ掛かって、気を失っていた。いや、正確には意識はあるようだったが、朦朧としているのか、視点が合っていない。

エリスティアは慌てて紅炎の傍に駆け寄ると、籠を置いて、そっと彼の方に手を伸ばし掛けた。その時だった。

 

『――なりません、ルシ』

 

頭の中に今度は、女性の声が聞こえてきた。アシュタロスと同じく、紅炎の持つジンの金属器に宿るジンの一柱・フェニクスだ。

 

「フェニクス? どういう――」

 

『今、主に触れれば、ルシの御身が危険に……』

 

「え?」

 

紅炎に触れると危険? もしや、感染するような類の毒か何かなのだろうか? だが、大概の毒や怪我はフェニクスの癒しで治せる筈。それなのに、治せていない……?

 

「貴女の力でも癒しきれなかったという事なの……?」

 

そうフェニクスに語り掛けると、フェニクスが申し訳なさそうに、

 

『出来る範囲で、効果は薄めました。後は、主の精神力と、薬の効果時間が切れるのを待つしか……』

 

「え……?」

 

効果? 時間? 精神力?

いまいち、いわんとする意味が解らず、エリスティアが首を傾げる。少なくとも、即効性や遅効性の毒の類では無さそうではあるが……。

 

「……」

 

だが、紅炎を見ると、とても苦しそうだった。息も荒いし、何よりも熱もありそうだ。エリスティアは立ち上がると、持っていた手ぬぐいを先程の湖で濡らすと、それで、そっと紅炎の額に触れた。瞬間――。

 

「……っ、エリス……」

 

ぴくっと、微かに紅炎の瞳が動いた。

 

「炎、気が付い――きゃぁ!」

 

それは突然だった。紅炎のその柘榴石の瞳と目が合ったかと思うと、いきなり腕を掴まれ引き寄せられ、そのまま唇を奪われたのだ。一瞬、何が起こったのか、エリスティアには理解出来なかった。だが、紅炎はエリスティアの唇を堪能するかのように、何度も何度も口付けをしてくる。

 

「エリス――」

 

甘く名を呼び、まるでエリスティア求めるかのように、ぎゅっと腰に手を回すとそのまま抱き寄せた。ぴくんっと、微かにエリスティアの肩が震えるが、それでも尚、紅炎からの口付けは止まなかった。そして、そのままエリスティアの唇を割って、舌を侵入させてくる。

 

「……ぁ、待っ……ふ、ぁ……ン……っ、え、ん……っ」

 

「待って」という言葉は、あっという間に、紅炎の唇にのみ込まれた。そして、くちゅりと音を立てて、紅炎の舌がエリスティアの舌に絡みつき、そのまま吸い上げる。まるで、自分の物だと主張するかのように、その口付けは深くて甘かった。

 

「エリス……欲しい……お前、が……」

 

途切れ途切れに聞こえてくる紅炎の声が、脳裏に木霊する。そして、何度も口付けを繰り返しながらも、紅炎の手はエリスティアの衣の上から胸に触れてきた。

 

そのままやわやわと揉まれる感覚に、びくっと肩が揺れる。そんなエリスティアを知ってか知らでか――いや、きっと解ってしているのだろう。紅炎はそのまま胸の天辺にある突起に触れると、指できゅっと押しつぶしてきたのだ。

 

「……ぁっ」

 

その瞬間、びりっとした感覚に襲われて、思わずエリスティアの身体が跳ねる。更に指の腹でこねくり回されては堪らない。しかもそれを何度も繰り返され、エリスティアは徐々に息も上がり始めた。

 

「え、ん……は、ぁ……、待っ……ぁ……っ」

 

「待って欲しい」――そう懇願するのに、今日の紅炎は、待ってはくれなかった。ずるりと紅炎が自身の足で、エリスティアの脚に身体を割り込ませてくると、そのままゆっくりと押し倒された。そして、紅炎が自分の上へと覆い被さってくる。

一体、自分は彼に何をされて、彼に何が起きているのか――頭の処理が追い付かない。紅炎は、いつもの彼ではない。何かがおかしい。そう思いながらも、何とか逃れようと必死で抵抗をするが、逆に両手を掴まれて頭上で纏められてしまった。

 

「エリス……」

 

そしてそのまま、また口付けをされる。何度も角度を変えて繰り返されるその行為は、段々と深くなっていった。

頭がくらくらする……エリスティアは思わずぎゅっと目を瞑った。しかしその瞬間、それを見計らったかのように紅炎の舌が侵入してくると、そのまま絡ませてくる。

 

「……んんっ……は、ぁあん……っ、ゃ……だ、め……炎……っ」

 

同時に指で両方の胸の突起を弄られては堪らない。エリスティアは、びくんと身体を震わせた。その拍子に、紅炎に舌を甘噛みされる。そしてそのまま吸い上げられると、また身体が反応してしまった。

 

どう、して――。

 

何度か、「欲しい」と言われたことはある。でも、拒めば紅炎は、無理強いだけは絶対して来なかった。なのに、何故……。そう思うと、じわりと涙が浮かんできた。その時だった。

 

『ルシ――主は、今、“毒”に侵されているのです。それも、厄介な“毒”に』

 

フェニクスの声が頭に響いてきた。

 

「ど、く……?」

 

『はい――魔術と薬剤で施された“強烈な媚薬”という“毒”に――』

 

え……?

び、媚薬!?

 

フェニクスの話はこうだ。

数時間前――煌帝国の居城・禁城では、隣国の使節団への宴が催されていたという。そして、その宴の最中、紅炎は注がれた酒に“強力な媚薬”が混ざっている事に、直ぐに気付いたという。だが、注いだ相手が使節団の者だった為、拒否する訳にはいかなかった。故に、飲んだ後、直ぐに宴の席を立ったのだという。

そして、直ぐにフェニクスに癒させたが、魔術と薬剤の混合だった為、解毒が完全に出来なかったという。自室で効果が切れるまで待とうかとも思ったが、紅炎の自室前にその使節団の一人――隣国の第三皇女がいた為、直ぐにその場を去ったというのだ。そして、炎隷に乗り、とりあえず、人気のいないこの場所まで何とか来たという。

 

「……」

 

フェニクスの説明を聞くと、紅炎を責める気にはなれなかった。彼も、したくてしている訳ではないのだ。ただ、もう今は本能に近いのだとフェニクスは言った。

つまりそれは、彼は本気でエリスティアを求めている――という事に、他ならない。

 

『ルシのお気持ちはわかります。ですが――主を、お助け出来るのであれば……』

 

「……わ、わたし、は……」

 

どう、すれ、ば……。

その時だった。ふと紅炎の手が止まった。そのまま、頭を押さえて、エリスティアから離れようとする。

 

「エリス……、逃げて、くれ……」

 

「え、炎? 意識が――」

 

「逃げろ」という紅炎の顔は、とても苦しそうだった。見て――いられない程に。エリスティアは、ごくりと息を吞むと、一度だけそのアクアマリンの瞳を瞬かせた。

そして、エリスティアから距離を取ろうとする、紅炎にそっと自ら近づく。まさか、逃げないとは思っていなかったのか、紅炎の動きが止まった。そんな彼の頬に手を伸ばすと、そっと触れるだけの口付けをする。そして、そのまま囁いた。

 

「炎――貴方の、好きにして? こんな苦しそうな貴方を見捨てるなんて――私には、出来ないわ」

 

「エリス……?」

 

紅炎の柘榴石の瞳が大きく見開かれる。だが、それと同時に、息苦しそうにしながら、首を振った。

 

「駄目、だ……。こんな風に、お前を……抱き、たくは、な……い……」

 

そう言ってエリスティアから視線を逸らすが、その柘榴石の瞳には熱が籠っていた。もう――限界なのだろう。必死に理性で繋ぎとめているのだ。エリスティアは、紅炎の首に手を回すと、そのままぎゅっと抱き付いた。そして、彼の耳元に唇を寄せると囁くように告げる。

 

「私は、大丈夫……。だから、炎――貴方のしたい様にして構わないわ」

 

そう告げると、エリスティアは目を閉じて、そっと彼の額に口付けた。

 

「……っ、エリス――」

 

それを合図とばかりに、紅炎の唇が再び、エリスティアの唇を奪っていく。今度は荒々しく奪うような口付けではなく、ゆっくりとした優しいものだった。そしてそのまま舌を侵入させると、歯列をなぞり始める。その感触にぞくりと背筋が震えるのを感じたが、エリスティアもそれに応えるように自らの舌を絡めていく。

 

「ん……」

 

ぴちゅりと、互いの唾液が絡み合う音が洞窟内に響き渡る。それが更に二人の熱を煽っていったのだ。何度も角度を変えて口付けを交わす。それは、今まで幾度もされてきたどの口付けよりも、熱いものだった。

 

「……は、ぁ……ん……っ、え、ん……わた、し……っぁ……」

 

零れる吐息が、紅炎のそれをどんどん加速させていく。

 

「エリス――もう、止めてやれないぞ」

 

最後の理性なのか――紅炎が口付けを交わしながら、そう囁いた。エリスティアはそれに応える代わりに、自身の腕を紅炎の首をへと回した。すると、それを「了承」と受け取ったのか、更に、彼からの口付けが激しくなる。

 

「え、ん――ぁ……ふ、ぁ……んん……っ」

 

紅炎の舌が、エリスティアの舌と絡まり、吸い付いてくる。歯列をなぞり、上顎を舌で撫でていく。その度にエリスティアの腰はびくんと跳ね上がった。

まるで、紅炎に全て支配されているかのような感覚になる。でも、それは決して嫌ではなかった。寧ろ――とても心地いいとすら思えたのだ。

 

「エリス――お前以外の女に興味はない」

 

ふと、口付けの合間にそう囁かれる。そして、そのまま紅炎の手はエリスティアの衣の中へと侵入してきた。一気に胸元を開かれると、形の良い乳房がぷるんっと跳ねるように顔を出す。

 

「ぁ……」

 

瞬間、エリスティアが かぁ……と、頬を真っ赤に染め、慌てて両の手で胸元を隠そうとするが、それは直ぐに紅炎の手によって遮られてしまった。

 

「何故、隠す」

 

「だ、だって……っ」

 

洞窟のひんやりとした空気が肌に触れるが、それよりも、目の前に現れた白い乳房に、紅炎は目を奪われた。それは何度見ても飽きる事はない程に美しいものだった。その頂きにある突起はぷっくりと立ち上がり、紅炎の愛撫を今か今かと待ちわびているように見える。エリスティアもまたそれを自覚しているのか、恥ずかしそうに頬を染めた。

 

そんな彼女の表情を愉しむかのように、紅炎は見つめるとそっと手で乳房に触れてきた。

 

「……ぁ、ン……っ」

 

直接触れてくる紅炎の手の感触に、思わず声が上がる。すると、その声を合図にするかのように紅炎が胸の突起を口に含んだのだ。ちゅくりと音を立てて吸われると、エリスティアはびくんと身体をしならせた。そのまま、紅炎が舌を這わし、甘噛みしてくる。そして、もう片方は指先で摘ままれ、転がしてきた。

 

「……は、ぁ……ん……ぁあ……ん……っ、ゃ……ぁ……っ」

 

堪らず、エリスティアの口から甘い声が零れる。最初はくすぐったいだけだった行為も、何度も繰り返されるうちに、次第に快楽へと変わっていった。エリスティアの口から漏れる吐息にも、熱が籠り始めていく。

 

だが、それは紅炎も同じだったようで――。彼は一度身体を起こすと、自らの上衣を脱ぎ去った。鍛え抜かれた肉体に思わず見惚れてしまう。しかし次の瞬間にはその身体に押し倒されていた。

そしてそのまま口付けを交わされる。今度は先程とは違い、深く激しいものだ。互いの舌を絡めながら吸い付くと、そのまま紅炎の手はエリスティアの脚に伸びてきた。

 

内腿を撫で上げながら徐々に上へと移動して行くその動きに、エリスティアはふるりと身体を震わせる。

だが、それを逃さないように紅炎の手がしっかりと押さえつけていた為、逃げる事は出来なかった。やがてその手が目的の場所に辿り着くと、下着越しに割れ目をなぞる様に動かしていく。そして時折爪を立てるようにして引っ掻いたりするものだから、エリスティアは思わず声を上げた。

 

「……ぁ……っ、んン……は、ぁ……っ」

 

だが、紅炎は構わず下着の中へ手を差し入れてきた。最初はゆっくりと中に入ってきた指先が、今度は一気に根元まで入ってきてしまい、膣内で激しく動かされたのだ。瞬間、びくんっと、エリスティアの背が反り上がる。しかし、それだけでは終わらなかった。

 

同時に親指の腹で陰核を押しつぶす様にして弄られると、それだけで秘部からは愛液が溢れ出してきてしまう程だったのだ。それを潤滑油にしながら更に抜き差しを繰り返すと、次第に水音も大きくなり始める。

 

「ゃ……あ、ぁン……っ……ん……は、ぁあ……っ」

 

「エリス……」

 

耳元で囁かれる声にさえ反応してしまう。そのまま耳朶を口に含まれ甘噛みされると、ぞくりと背筋が震えた。そして次の瞬間には膣内に入っていた指が増えていたのだ。二本の指がバラバラと動かされる度に、内壁を擦られていく感覚に襲われて堪らない気持ちになる。

 

「……は、ぁ……ぁあ……っ、ん……え、炎……っ」

 

溜まらず名を呼ぶと、紅炎がふっと笑みを浮かべ、

 

「どうした。もっとして欲しいのか?」

 

そう言ったかと思うと、今度は三本目が挿入されたのだ。そして、そのままバラバラと動かされながら抜き差しされる度に、エリスティアの口からはひっきりなしに甘い吐息が漏れ始めた。

しかし、それも長くは続かなかった。突然、紅炎の手の動きが激しくなったからだ。そして次の瞬間には、膣内の一番感じる箇所を擦られた事で、エリスティアは一気に高みへと昇らされてしまったのである。

 

「ぁあ……んっ!!」

 

エリスティアはびくんっと身体を大きく震わせると、そのまま絶頂に達してしまった。そしてぐったりと、力なく横たわる彼女を見下ろしながら、紅炎は指を引き抜くとそれをぺろりと舐めたのだ。それがまたとても艶めかしくて、思わずどきっとする。

そんな彼女を見て、紅炎がふっと笑った。

 

「まだ――欲しいのか?」

 

「え……」

 

と、思った瞬間、突然紅炎はエリスティアの脚を持ち上げると、そこへ顔を近付けた。そしてそのまま、太腿に口付けをしてきたのだ。

 

それは、まるで吸血鬼が血を求めるかのようにも思えた。だが、その行為は決して不快ではない。寧ろもっと欲しいとさえ、思ってしまう程だった。すると、今度は内股に舌を這わせてきたのだ。

 

「……ぁ、ん……っ」

 

ぬるりとした生暖かい感触に思わず腰が浮くが、それを逃がすまいとするかのように腰を掴まれてしまった為、逃げる事は出来なかった。

そのまま何度も往復するように舐められた後、今度は強く吸われたのだ。ちゅくりと音を立てられてはその度にエリスティアの口から甘い吐息が漏れ落ちた。

 

「……ぁ、は……え、炎……っ、ま、待っ……ぁあん……っ」

 

そのまま何度も繰り返された後、今度は陰核を口に含まれて甘噛みされてしまったのだ。その刺激にまた達してしまいそうになるが、寸での所で耐えた。しかし、それも長くは続かなかった。紅炎の舌の動きに翻弄されるまま、再び絶頂を迎えてしまったからだ。

 

だが、それでもまだ終わらない。今度は膣内に指を入れられ激しく動かされる。同時に親指で陰核を刺激されてしまい、エリスティアは堪らず声を上げた。

だがそれでもまだ足りないとばかりに、更に指の数を増やして激しく抜き差ししてくる。そしてそのまま一番感じる箇所ばかりを攻められ続けた結果、再び絶頂を迎えてしまったのだった。

しかしそれでも紅炎は手を止めようとはしなかった。それどころか今度は膣内に挿入されたままの指が三本同時に動き始める始末である。くちゅくちゅという卑猥な音が洞窟内に響き渡る中、何度もイかされ続けてしまう。

 

「炎……え、ん……っ、ぁ……待っ、待って……ぁあ……っ」

 

何度、制止の声を上げても、紅炎は止めてくれない。そして、もう何度達したかも分からない程にイカされて、エリスティアの意識は朦朧とするしかなかった。

 

そんな状態でも尚、紅炎の愛撫は止まる事はなかった。それどころか益々激しくなっていく一方だ。

そして遂には膣内に挿入されていた指が引き抜かれると、今度は指よりも遥かに大きなものが、宛てがわれたのだ。それが何なのか、そんな事は考える間などなかった――次の瞬間には一気に奥まで貫かれたのだ。

 

「ぁああ……っ!」

 

その衝撃にエリスティアの口から声にならない悲鳴が上がる。

だがそれも一瞬の事だった。直ぐに激しい抽挿が始まり、子宮口を何度も叩かれる度に、目の前がちかちかしたからだ。

 

紅炎のそれは太くて長く、根元まで挿入されると子宮口にまで届いてしまうのだ。その為か、奥を突かれる度に達してしまっているような気すらする程の快楽に襲われてしまうのである。

 

「炎! え、ん……っ! そ、こ……っ、うごい、ちゃ……だめえぇぇええ……っ」

 

エリスティアが声を上げるが、紅炎は止まらなかった。何度も子宮口を叩かれて、そうして何度もイカされてしまう内に、段々と意識までもが遠退いて行くのを感じた。けれどそれでも紅炎の動きが止まる事はない。寧ろ激しさを増す一方だ。

 

「エリス……っ」

 

紅炎の熱い吐息が零れる。それでも、エリスティアは喘ぐしか応える術を持たなかった。そして遂にその時が訪れた。子宮口に押し付けられたままの状態で熱い飛沫を放たれたのである。その瞬間にエリスティアもまた絶頂を迎えてしまったのだった。

しかしそれでもまだ終わらないとばかりに、再び抽挿が始まる。今度は先程よりも更に激しいものだった為、エリスティアはただ喘ぐ事しか出来ないでいた。

 

それからどれ位時間が経っただろうか。

既にエリスティアの意識は殆ど飛んでしまったようで、ぐったりとしている彼女の瞳からは光が失われつつあった。

だがそれでも尚、紅炎の動きが止まる事はない。それどころか益々激しさを増していったのだ。何度も奥を突き上げられてしまえば、それだけで絶頂を迎えてしまいそうになる程に敏感になってしまった身体は、最早抵抗する気力すら残っていないようだ。

そんな状態だというのに未だに解放されない事に絶望を覚えるが、同時に快楽に溺れてしまっている自分もいたのである。

 

そんな時だ――不意に口付けをされたかと思うと、そのまま口内を犯されてしまう。舌を入れられ絡め取られてしまえば、もう何も考えられなくなる程に夢中になった。そして同時に膣内にある紅炎のものを締め付けてしまう形となり、それがまた新たな刺激を生み出していくのだ。

そうして何度も絶頂を迎えさせられた後、ようやく解放された頃にはエリスティアは完全に気を失っていたのだった。

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

ふと目を覚ました時には既に日が落ちていたようで、洞窟の隙間から月の光が入って来ていた。

そこで、自分が今いる場所が何処なのかという事に気付き、エリスティアは慌てて飛び起きた。すると、隣には眠っている紅炎の姿があった。

 

あ……。私……炎と……。

 

その姿を見た瞬間、昨夜の記憶が甦ってきてしまい、一気に顔が熱くなるのを感じた。すると、それに気付いたのか、紅炎が目を覚ましたようでゆっくりと起き上がってきたのである。そしてエリスティアの顔を見るなり、ふっと笑みを浮かべてきたのだ。

 

その笑顔を見た瞬間――胸の奥がきゅんっと締め付けられるような感覚に陥ったのだが、何故そんな事を思ったのか分からず困惑していると、不意に手を握られてしまった。そしてそのまま引き寄せられると抱き締められたのだ。

突然の行動に驚いていると耳元で囁かれたのである。それはとても優しい声音で、

 

「……エリス」

 

それだけ言うと、再び唇を重ねられてしまったのだ。その口付けが余りにも深く激しい物だった為、頭が再び朦朧として、何も考えられなくなっていった。しかしそれでも、抵抗する気にはなれなかったのだ。寧ろもっとして欲しいとさえ思ってしまう程に心地良いものだったからである。

エリスティアは、自分に出来る精一杯で応えようと、そっと自分から舌を絡めていった。すると、紅炎が嬉しそうに笑ったかと思うと、そのまま深くなっていく口付けと共に、再び押し倒されたのだ。

 

「え、炎?」

 

驚いたのは、エリスティアだ。だが、紅炎はさも当然の様に、

 

「誘ったのは、お前だ」

 

そう言ったかと思うと、再び口付けて来たのだ。そして、二度三度と繰り返すうちに、その口付けがどんどん深い物へと変わっていく。唇を割って舌が入って来たかと思うと、そのまま口内を蹂躙された。歯列をなぞり、上顎を舌で撫でられれば、それだけで、身体が反応してしまう。そんな彼女に、紅炎は嬉しそうにくすっと笑みを浮かべた。

 

「エリス――」

 

甘く名を呼ばれ、もうこのまま流されてもいいかもしれない。そう思い掛けて、エリスティアは、はっとある事を思い出した。

 

「ま、待って! 待って、炎!! 身体は……身体はもう、平気……なの?」

 

「……ああ、問題ない」

 

紅炎のその言葉に、エリスティアがほっとする。すると、突然紅炎がくっと笑ったかと思うと、その手でエリスティアの顎をくいっと持ち上げた。そして、ゆっくりとした動作で、唇を重ねてくる。瞬間、ぴくっとエリスティアが肩を震わせた。

 

「待っ……え、ん……」

 

「待たぬ」

 

そのまま、紅炎はエリスティアの腰を掻き抱くと彼女を抱き寄せた。そして、徐々に口付けを深くしていく。次第に、彼女の唇から甘い吐息が漏れ出すが、お構いなしだ。

 

「俺が心配なのだろう? ……その身で確かめたらどうだ」

 

そう言ってくっと笑うと、エリスティアの腰を撫で始めた。その手の動きに反応するように、エリスティアはびくりと身体を震わせる。

しかし紅炎の手が止まる事はなく、そのまま太腿まで下りて来ると今度は内股をゆっくりと撫で始めたのだ。その感触に思わず声を漏らすと、再び口付けられて言葉を発する事ができなくなる。

 

「え、ん……っ、何、いって……ぁあ……っ」

 

それでも必死に訴えようとした時だ。突然足の付け根に触れられてしまった事で驚いたのである。しかも、直接触れられた為尚更だ。

そのまま割れ目に沿って指を這わされると、今度は手を差し込まれた。

 

「……ぁあ……っ」

 

そして、直接触れられた事で思わず声を上げてしまったのである。だがそれも束の間の事だった。直ぐに膣内へと挿入されてしまったのだ。しかもいきなり二本同時にである。その衝撃にエリスティアは身体を大きく仰け反らせたが、それでも構わず抽挿が開始されたのだ。

 

「え、えん……ぁ……ぁあ、ん……っ」

 

びくんっと、エリスティアの身体が震える。最初はゆっくりと動かされていたのだが徐々に速度を上げていき、最終的には激しく抜き差しされる形となっていた。その動きに合わせて水音が響き渡りそれが余計に羞恥心を駆り立てる事となるのだが、それ以上に与えられる快楽の方が勝っていたようで、エリスティアの口からは甘い吐息混じりの声が零れていた。

 

「ま、待っ……おねが……炎っ……ぁん……ゃ……だ、めぇええ……っ」

 

しかしそんな言葉とは裏腹に、エリスティアの膣内は既にびしょ濡れで今にも達してしまいそうになっていた。それを見計らったかのように、紅炎の手の動きが更に激しくなると、そのまま絶頂を迎えさせられてしまったのだ。

 

その後も何度もイカされ続けてしまいぐったりとした様子の彼女であったが、それでもまだ終わりではなかったようで、今度は仰向けのまま足を大きく開かされてしまう事となったのだ。

そして太腿の間に顔を埋められて割れ目に沿って舌を這わされたのである。

 

くちゅりという音と共に舐め上げられて敏感になっている部分への刺激に、エリスティアの口からは甘い吐息が漏れた。だがそれだけではなく、時折強く吸い付かれたり歯を立てられたりする度に身体が大きく跳ね上がり腰が浮く程だった。

そして今度は陰核を舐められたり、甘噛みされたりされてしまい、その度に甘い声を漏らしてしまったのである。しかもそれだけでは終わらず、膣内に指を入れられ掻き回された上に、同時に陰核を強く吸われてしまえば、もう限界だったようで再び絶頂を迎えてしまったのだ。

 

だがそれでもまだ終わらないとばかりに、執拗に攻め続けられて意識が飛びそうになったその時だ。突然、膣内に挿入されていた指を引き抜かれたのである。そして、代わりに紅炎のものを宛がわれたかと思うと、一気に貫かれてしまったのだった。

 

「あ――――っ!!」

 

思わず、エリスティアの口から悲鳴が上がる。だが、その衝撃に一瞬息が詰まりそうになるものの、直ぐに激しい抽挿が始まり、何度も最奥を突かれる度に甘い声を上げ続ける羽目になったのである。

 

「ぁ……ああ……は、ぁん……っ、ゃ……だ、めぇ……そこ、は……ぁあ……っ」

 

「……エリスっ。……ここか?」

 

そう言いながらも、何度も同じ個所を突かれてしまい、その度にエリスティアは、身体を震わせていた。しかしそれでも足りないとばかりに、紅炎がエリスティアの腰をぐっと持ち上げた。そして、更に激しく動かされる事となった。

 

「え、ん……っ、ぁっ……、わ、たし……もう……っ」

 

指先が痙攣し、意識が遠のきそうになる。そうして、遂に絶頂を迎えそうになった時だった。

突然唇を塞がれて、舌を入れられてしまったのである。しかもそれだけではなく、口内までも蹂躙された挙げ句に、唾液を流し込まれて飲まされてしまったのだ。

 

「……ん、ぁ……は、ぁ……ンン……っ」

 

結果、その事にさえ感じてしまい、エリスティアの膣内がきゅうっと締まり、紅炎のものを締め付けてしまう羽目になったのだ。それにより彼も限界を迎えたようで、膣内に熱い飛沫を叩き付けられたのである。

その刺激にすら感じてしまいながらも、エリスティアはぐったりとしていた。だがそれでも紅炎はまだ満足していないらしく、再び動き始めたのだ。

それは、寧ろ激しさを増しただけだった為、エリスティアはもう何も考えられなくなったままただひたすら喘ぎ続けるしかなかった。

 

「エリス……っ」

 

「炎、えん……あぁっ!」

 

再び絶頂を迎えさせられたかと思うと同時に、膣内に大量の白濁液を流し込まれてしまったのだ。その熱さと量の多さに驚きながらも、同時に幸福感に包まれてしまいそうになったのだが、それも一瞬の事だった。

そのまま引き抜かれる事はなく、今度は後ろから貫かれたのである。しかも先程よりも更に深い所にまで入り込んできた為、子宮口を押し潰されてしまいそうになる程の衝撃を受けたのだ。

 

「ぁあ……っ! だ、めえぇぇえ……っ、うごい、ちゃ……ぁあん……っ」

 

その衝撃に一瞬意識を失いかけたのだが、直ぐに激しく抽挿が始まってしまいそれどころではなくなってしまったのである。

 

そうして何度も絶頂を迎えさせられ、意識を失いそうになった所で、漸く解放される事となったのだが、それでもまだ終わらないとばかりに、今度はエリスティアを四つん這いにさせると背後から覆い被さってきたのだ。

そのまま一気に貫かれてしまい、それだけで軽く達してしまいそうになる程だったが、それも束の間の事だった。直ぐに抽挿が始まり、激しく抜き差しされる形となったのである。しかもそれだけではなく、膣内の感じる部分を重点的に攻められてしまい、その度にエリスティアの口から甘い声がひっきりなしに漏れ出してしまっていた。

 

「……っ、エリス」

 

そして遂には、一番奥まで突かれた瞬間に再び絶頂を迎えさせられてしまったのだ。だがそれでも紅炎の動きが止まる事は無く、そのまま激しい抽挿が続けられてしまう事となったのである。

そうして何度も何度もイカされてしまったエリスティアは、とうとう意識を失ってしまいそうになったのだが、それでもまだ終わりではないとばかりに、再び激しく攻め立てられてしまったのであった。そして遂には、子宮口まで犯されてしまい、そこで熱い奔流を叩き付けられた事で、完全に意識を失ってしまったのだった――。

 

 

 

その後の記憶は無いものの、どうやら自分はあの後気絶してしまったらしいと気付いたのは、その翌朝の事だった。しかも何故か見覚えのある寝台に横たえられており、隣には紅炎が寝ていたのである。

 

「え……?」

 

慌てて起き上がり、部屋の中を見る。そこは、どう見ても以前入ったことのある、禁城内の紅炎の私室だった。

 

慌てて自分の姿を確認すると、見たことない夜着を着させられていた。

一瞬、昨日の事は夢だったのでは……? と、思うが、この身体の痛みや、下腹部の奥の疼きが、それは真実だと物語っていた。

そうなると、腑に落ちないのは、何故禁城に居るかだ。エリスティアの記憶に、禁城に移動した覚えはない。昨日、確かにあの洞窟で紅炎と――。

 

「……っ」

 

そこまで考えた瞬間、昨日の事を思い出し、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げてしまった。と、その時だった。

 

「エリス――起きたのか」

 

ふと、隣から声が聞こえて、はっとしてそちらを見ると、紅炎が横になったまま片肘を立てて、こちらを見てた。

 

「え、炎……あの……」

 

エリスティアが、困惑気味に声を発した時だった。何故か紅炎に手招きされた。

 

「……?」

 

何かと思い、紅炎の方に近寄った瞬間、何故かそのままぐいっと抱き寄せられたのだ。驚いたのは、エリスティアだ。しかも、何故かそのまま口付けされてしまう。

 

「……っ、ぁ……ま、待っ……」

 

「エリス――俺を信じろ」

 

「……え? な、にを――ぁ……っ」

 

突然、夜着をぐいっと肩が見えるぐらいまでずらされたかと思うと、そのまま首筋に強く吸い付かれてしまったのだ。しかもそれだけではなく、胸元にも手が伸ばされたかと思うと、その膨らみを揉み始めたのである。

 

突然の事に驚きつつも、抵抗しようとするものの力が入らず、されるがままになっていると、今度は耳元に口付けられたのだ。そしてそのまま囁かれたのである。

 

「……エリス、お前は俺のものだ。誰にも渡さない……絶対にな。だから……俺から離れる事は許さん」

 

「え、ん……?」

 

唐突に囁かれた言葉に、エリスティアがそのアクアマリンの瞳を瞬かせる。すると、紅炎がふっと笑みを作ると、彼女のストロベリー・ブロンドの髪を優しく撫で、そこに口付けた。

 

「愛している――俺が欲しい女は、お前だけだ」

 

その時だった。

 

「ちょっ――困りますって!!」

 

「ええい、邪魔をするな!!!」

 

突然、部屋の外の廊下の方から騒がしい声が響いてきた。エリスティアが驚いていると、紅炎は、それを見計らったかのように、身体を起こすと、ぐいっとエリスティアの肩を抱き寄せた。

 

「あ、あの……炎?」

 

「……問題ない」

 

「……?」

 

意味が解らず、エリスティアが首を傾げている時だった。紅炎が扉の方に向かって、

 

「……朝から何事だ、騒々しいぞ」

 

と、低めの声で言った。すると、扉の向こうから、紅炎の眷属の李青秀と、楽禁の声が聞こえてきた。

 

「お休み中の所、申し訳ございません、紅炎様! 実は――」

 

「若、なんか、昨日の宴の使節団の方々が、なんでも、自分の所の第三皇女が若の所にいると、聞かなくてですね……」

 

使節団の第三皇女?

そういえば――と、エリスティアはフェニクスの話を思い出した。

昨日、紅炎があの洞窟に逃れていたのは、使節団に薬を飲まされて、嵌められそうになったからであり、確か、その相手が第三皇女だった筈だ。

つまり今、ここにいるであろう使節団の第三皇女と紅炎の密会の現場を抑えて、それを材料に何か取引を持ち掛けようという事だろう。

 

見え透いた手だが、よくある手法でもある。

 

「炎、第三皇女様の髪の色は何色かしら?」

 

そっと、小声で話し掛けると、紅炎は首を捻って

 

「知らん」

 

とだけ、答えた。とどのつまり、興味が無さ過ぎて、見たが覚えていないという事らしい。エリスティアは小さく息を吐くと、自分の髪を見た。ストロベリー・ブロンドの長い髪だ。まず普通に考えて、この周辺の近隣国なら、この髪色はないだろう。

そう当たりを付けて、あえて髪が見える様に前に出す。そんな彼女の行動に、一瞬紅炎がその柘榴石の瞳を見開くが、ふっと楽しそうに笑った。

 

「……聡い女は好きだ」

 

そう言って、エリスティアの髪に口付けを落とすと、

 

「よい、中に入れてやれ」

 

そう、青秀と楽禁に指示を出す。すると、二人が扉を開けた瞬間――どすどすと、失礼極まりない所業で、使節団が紅炎の私室に乱入してきた。

 

「失礼しますよ~? 紅炎殿。うちの姫が――あ、え?」

 

 

 

し―――――ん……。

 

 

 

見事なまでに、乱入してきた使節団が固まった。それはそうだろう。いる筈の第三皇女はおらず、見た事もない女(エリスティア)が、紅炎の寝所に一緒にいるからだ。

エリスティアは、あえて自分の髪に触れながら、

 

「あの方々は、どなたなのですか……?」

 

と、とぼけて見せた。すると、紅炎はふっと笑みを浮かべると、優しくエリスティアのストロベリー・ブロンドの髪を撫でながら、

 

「……ああ、お前が気にする必要はない」

 

そう言って、エリスティアの瞼に、口付ける。そんな二人を見て、青秀が嬉しそうに、顔をぱぁっと綻ばせた。

 

「エリス様~~~!! エリス様じゃないですか!!」

 

「青秀様、楽禁様も、ご無沙汰しております」

 

そう言って、にっこりとエリスティアが微笑む。だが、使節団はそれ所ではなかった。わなわなと震え上がりながら、

 

「ど、どういう事ですか! 紅炎殿!! うちの姫を手籠めにしておきながら、他の女まで……しかも、異国の……っ」

 

「……言っている意味が解らんな」

 

「おとぼけなされるか!!」

 

今にも、紅炎に食って掛かりそうな勢いの使節団に、後ろに控えていた青秀と楽禁が武器を突き付けた。

 

「な、なにをなさるか!?」

 

使節団が狼狽するが、眷属の二人は黙っていなかった。

 

「紅炎様と、エリス様の時間を邪魔するとは、いい度胸じゃないっすか!!」

 

「そうだなぁ~。今回ばかりは、蛇ガキに同意だ」

 

首元に、武器を突き付けられた使節団が青ざめる。それでも、まだ諦めきれないのか、

 

「で、ですが! うちの姫がここに来るのを皆見たと――」

 

「ああん?」

 

「いや、あの、ですから……そ、そもそも、その女は何者――」

 

と、何故か矛先がエリスティアに向いた。一瞬、エリスティアがそのアクアマリンの瞳を瞬かせた後、

 

「私は――」

 

と、言い掛けた時だった。

 

 

 

「聞いて驚けぇ!! エリス様はなぁ、紅炎様の唯一の女性で、未來の后妃様だ!!!」

 

 

 

え……。

 

言ってやったとばかりに、青秀がふふんっと、上機嫌になる。

 

あの……ちょっと……。そんな事言ったら……。

 

そんな青秀を見て、楽禁が頭を抱えていて、紅炎は、くつくつと笑っていた。

使節団はというと、ぽかーんして真っ白になっていた。

 

「……くく、連れていけ」

 

紅炎がそう指示をすると、青秀と楽禁がそのまま使節団をずるずると引っ張って行って、そのまま退出していった。ばたんっと、部屋の扉が閉められる。

 

「……」

 

エリスティアが唖然としていると、突然紅炎が声を上げて笑い出したのだ。だが、エリスティアはそれ所ではなかった。

 

「ちょ、ちょっと炎! 笑い事じゃないわ……っ。あ、あんな事言ったら後々、面倒な事に――」

 

「くく……あいつが言った、“俺の后妃”発言か? 問題あるまい」

 

「も、問題大有りです!!」

 

エリスティアが慌てて抗議すると、紅炎は何でもない事の様に平然としたまま、

 

「……何故だ?」

 

「何故って……」

 

かぁっと、知らずエリスティアの頬が赤く染まる。紅炎は本気で言ってるのか。后妃とは、とどのつまり、紅炎の妻になる事を意味しているのだというのに。

そんな噂が広まったら、絶対に、面倒ごとになるのが目に見えているというのに……っ。

 

エリスティアが、困惑しておろおろしていると、紅炎はそっと、エリスティアの腰に手を回し、そのまま抱き寄せた。

 

「ちょ、ちょっと、炎! こんな時に何、を――」

 

「……事実にしてしまえばいいだろう」

 

「え?」

 

何を? と一瞬思うが、直ぐに言葉の意味を察し、エリスティアが、顔を真っ赤に染め、

 

 

 

 

「な、な、何言ってるのよ! 炎の馬鹿―――――!!!」

 

 

 

 

と、叫んだのは言うまでもない。

 

ちなみに――。

煌帝国・第一皇子 練紅炎には「エリス」という后妃がいる――という噂が広まっていたとかなんとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024.12.06