薄雪ノ抄
     ~月来香編~

 

◆ 伏黒恵「秋雨と、いなざないの刻」

(呪術廻戦夢 「深紅の冠 ~鈺神朱冥~」 より)

 

 

 

それは突然だった。凛花は任務が終って帰ろうとした時、それまで晴れていた空からぽつぽつと雨が降り始めたのだ。最初は直ぐ止むだろうと思っていたが、その雨は次第に酷くなり、最後には土砂降りとなった。

流石に、ここまで酷くなるとは思わなかった為、急遽凛花は雨宿りをしようと、屋根のある場所を探した。だが、皆この土砂降りの所為で雨宿りしており、空いている屋根のある場所は、中々見つからなかった。

 

「もう、このまま帰ろうかしら……」

 

ここからなら、マンションもそこまで遠くない、走れば濡れるが何とかなるかもしれない。そう思っていた時だった。

 

「凛花さん――」

 

ふと、ある店のテラスの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。はっとして、凛花が声のした方を見ると、そこには伏黒恵が1人立っていた。どうやら彼も、この雨の所為で雨宿りをしている様だった。

 

「恵君……っ」

 

「凛花さん、早くこっちへ」

 

そう言われるがまま、凛花は伏黒の方へと駆け寄った。そこは、2人でぎりぎりのスペースで、決して広い場所という訳ではなかったが、雨を凌ぐぐらいなら何とかなりそうなレベルだった。

 

「恵君、ありがとう」

 

凛花が、両手で腕をさすりながら、伏黒にそう礼を言う。すると、伏黒は小さく首を振って、

 

「いえ、でも、凛花さんびしょ濡れじゃないですか」

 

そうなのだ。雨の中ずっと雨宿り先を探していた為、凛花がびしょびしょに濡れていた。しかも、今は11月、もう寒さも相まって凛花の身体は微かに震えていた。

 

「凛花さん――これ、着てください」

 

そう言って、伏黒が制服の上着を脱いで、凛花の肩に掛ける。伏黒のその行為に、凛花が「でも……」と声を上げた。

 

「そうしたら、恵君が寒いでしょう? それに、制服が濡れてしま――くしゅん!」

 

くしゃみをした凛花に、伏黒はふっと小さく笑って、

 

「大丈夫です。俺は男ですから――それに、凛花さんが辛そうにしてる方が俺は嫌です」

 

そう、優しく言った。その優しい笑顔と言葉に、凛花は胸がきゅっとなるのを感じて思わず顔を俯かせた。知らず、顔が熱を帯びていくのが分かる。何となく、その顔を伏黒に見られてなくて、凛花は俯いたまま、ありがとうと小さく呟いた。

 

それから、2人はぽつぽつと他愛無い話をしたり、雨が止むのを静かに待っていた。すると、 ぎゅるるるる――。

何処からか、そんな音が聞こえてきた。凛花がはっとその音の方に視線を向けると、そこにはバツが悪そうに眼を逸らす伏黒の姿があった。どうやらお腹が鳴っていたらしい。それを聞くと凛花はくすりと笑い、その肩掛けされている上着をぎゅっと引き寄せた。そして、じっと顔を赤くさせ俯く彼の姿を見つめる。

雨は相変わらず、降り続けているし、このままでは止みそうもない。それに凛花自身もお腹が少し空いてきた。凛花は少し考えると、

 

「ねえ、恵君。このまま雨も止みそうにないし、お腹も空いてきたでしょう? 恵君さえ嫌じゃなかったら、少し濡れてしまうけれど、私のマンションに来ない? この近くなの」

 

「え……」

 

凛花からのまさかの誘いに、伏黒が一瞬躊躇する。流石に女性の1人暮らしの部屋にお邪魔するのは、いささか気が引けるのだろう。だが、凛花の濡れた服を見て、流石にこのまま放っておく訳にもいかないと思ったのか、それから、少し考えて伏黒は頷いた。

そして、2人は土砂降りの中、マンションへと急いだ。

 

雨に濡れて、びしょびしょになりながら2人でマンションへ着くと、凛花は急いで部屋の鍵を開けた。そしてそのまま中へ入り、電気を点ける。伏黒をソファへと座らせると、凛花は慌てて「タオル取ってくるわ」といってバスルームへと向かった。

バスタオルを何枚か取ると、直ぐにリビングへと戻る。

 

「直ぐにシャワー浴びた方がいいかもしれないわ、あ、でも、お湯張った方がいいかしら?」

 

凛花のその言葉に、伏黒がぱっと頬を微かに赤らめて、慌てて首を振った。

 

「いえ、そこまでしてもらわなくても大丈夫です」

 

「そう? でも、風邪引いちゃうわ。それに私も少し雨に濡れて冷えてしまったから、一緒に入る?」

 

「え……っ」

 

凛花の言葉に伏黒が思わず顔を赤くする。そんな伏黒の表情に凛花はくすくすと笑いながら、

 

「冗談よ。先にシャワー使って? その間に、私は何か軽く作っておくから――」

 

そこまで言った時だった、外がカッと光ったかと思うと―――物凄い轟音が響き渡った。と、同時に、ぱっと電気が消えてしまう。突然消えた電気に、2人が顔を見合わせた。

 

「て、停電?」

 

一瞬、ブレーカーかと思うが、ブレーカーのスイッチは上がったままだった。凛花が外の様子を窓のから見る。だが、何処を見ても、辺りは真っ暗になっていた。

 

「さっきの雷の所為かもしれませんね……」

 

そっと、伏黒も凛花の後ろから覗き込む様に外を見た。2人して暫く、窓の外を見ていたが、電気は一向に点かない。ふと、凛花がくしゅんとくしゃみをする。それと同時にふるりと身体が小さく震えた。流石にこの雨に濡れたのはまずかったかもしれない。すると、伏黒がすっと凛花の身体に触れると、そのままぎゅっと抱き寄せた。

 

「……っ、め、恵く……」

 

突然の事に、思わず凛花の心臓がどきんと跳ねるが直ぐにそれが彼の体温で温まっていくのが分かった。その温かさと心地良さに、ほっと安堵の息を付く。

 

「その……嫌かもしれませんが、少し我慢してください。このままだと凛花さんが風邪をひいてしまいます」

 

「嫌だなんて、そんな……っ」

 

伏黒の言葉に思わずそう返してしまう。だって、嫌じゃない。寧ろその逆だ。

凛花はそっと、彼の胸に身体を預ける。すると、彼は更にぎゅっと抱き寄せてくれた。それが嬉しくて思わず頬が熱くなる。だが――ふと、ある事に気付いて凛花は小さく首を傾げた。

 

あれ……恵君って、こんなに背が高かったかしら?

 

確かに身長は高かったが、ここまで差はなかった筈だ。それに、何だか身体もがっちりしている気がするし、手も大きくてごつごつしていた様な気がする。そう――まるで、知らない“男の人”の様な――。

そこまで考えた瞬間、凛花は はっとして、思わず伏黒の胸をぐっと両手で押した。そして、その腕の中から抜け出すと慌てて彼から離れる。すると、そこには――知らない“男の人”が驚いた様にしてこちらを見ていた。

違う、知らない人ではない。伏黒で間違いない。でも――。

 

「あ……そ、の……」

 

伏黒が、凛花の知っている伏黒ではない様な気がして、心臓がどきどきと脈打っていくのが分かった。思わず凛花は胸を押さえた。

 

「凛花さん……?」

 

すると、伏黒が慌てて、凛花に声を掛ける。その声と顔には、いつもの彼と同じで、凛花の知っている“恵君”だった。

 

「ご、ごめんなさい……何でもないの。ちょっと吃驚して」

 

「すみません……」

 

凛花の言葉に、彼が申し訳なさそうに謝る。そんな彼に、凛花は首を横に振ると、にこりと微笑んだ。

 

「ううん、私こそごめんなさい……急に突き飛ばしたりして……」

 

「いえ……俺の方こそ調子に乗りました」

 

そう言って、伏黒も小さく笑う。その笑顔はいつもの彼の笑みだ。それにほっと胸を撫で下ろしながら、凛花は、そっと、彼の頬へと手を伸ばした。そして、そのまま優しく撫でる。すると、彼は少し驚いた様な顔をしたが、直ぐに嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔に凛花も嬉しくなる。だが――同時に何故か胸がちくりと痛んだ。

 

何だろう……この気持ち……。

 

ふと、そう思った時だった。再び外がカッと光ったかと思うと、先程よりも大きな雷の音が鳴り響いた。

 

「きゃぁ……!」

 

突然の雷に驚いて、凛花が思わず伏黒の方に体重を掛けてしまう。と、同時に――伏黒もバランスを崩し、2人はそのままソファの上に倒れ込んでしまった。

その時だった、唇に何か柔らかいものが触れる。それが何なのか分からずに凛花が思わず眼を開けると――そこには驚いた様に眼を丸くした“彼”の顔があった。そして、自分の唇に触れていた柔らかなものの正体に気付くと、凛花は慌てて身体を起こした。

だが――時既に遅し。目の前には、同じく身体を起こしている伏黒の姿がある。彼は呆然としたまま、自分の手を見つめていたがやがて、その顔を真っ赤にさせたかと思うと、そのまま両手で顔を覆ってしまった。

 

「ご、ごめんなさいっ……!」

 

凛花が慌てて謝る。きっと、とんでもない事をしてしまったのだろう。だが、彼は一向に顔を上げる気配が無い。そんな彼にどうしたらいいか分からずにいると、突然彼が口を開いたかと思うと――、

 

「すみません……少し1人にさせてください……」

 

そう呟いた。その言葉に、凛花は思わずぐっと言葉を詰まらせるが直ぐに小さく頷いた。そしてそのまま立ち上がるとリビングを出ていこうとしたのだが――ふと足を止めて振り返る。すると、そこには未だに顔を赤くさせたままソファの上で蹲っている彼の姿があった。その姿を見ていると、何だか胸の奥がきゅっと締め付けられた。

こんな彼を1人にするなんて――無理よ。

 

凛花はそっと彼の傍まで行くとその場にしゃがみ込む。そして、そのまま優しく伏黒の頭を撫でた。すると、彼が驚いたように顔を上げる。そんな伏黒に凛花が小さく微笑みかけた。

 

「凛花さん……」

 

微かな熱を帯びた伏黒の声が部屋の中に響く。その翡翠の瞳には凛花だけを映していた。その事に凛花の心臓がどくりと高鳴る。

 

あ……。

 

それは、一瞬の出来事だった。突然伏黒の手が伸びてきたかと思うと、凛花をそのまま引っ張った。そして気が付けば、ソファに押し倒されていたのだ。

 

「めぐ……んんっ」

 

「恵君」と名を呼ぶ前に、その唇を塞がれる。余りにも急な展開に、凛花の思考が追い付いていかない。それでも、伏黒は止めてくれなかった。

「凛花さん――」と、熱の籠もった声で名を呼ばれる。そして、伏黒から繰り返される口付けに、凛花はぎゅっと眼を瞑った。だが、その内、伏黒の舌が中へと入ってきてしまい、思わずぞくりと背筋が震える。

 

「……っ、ぁ……ふ、ぁ……んんっ……めぐ、み……く……ぁ……っ」

 

その感触に凛花の身体が震えた。だが、そんな凛花に構わず、伏黒は彼女の舌を捕まえて絡ませた。そしてそのまま何度も角度を変えて口付けていく。その度にぴちゃりと水音が部屋に響いた。

 

どうしよう……私……恵君にキスされて……。

 

そんな思いとは裏腹に、段々と息が上がっていくのが分かる。身体中が熱を持ち、頭がくらくらとしてきた。それでも尚、彼は凛花を求めてくる。それに堪らず凛花が小さく声を漏らした時だった。

ふと、唇が離される。すると、目の前には切なそうに目を細める彼の顔があった。そしてそのままじっと凛花を見つめてくる。

 

あぁ……まただ……この眼……。

 

どうしてだろう――彼から見つめられると身体がぞくりとするのが分かる。でもそれは決して嫌な感じではなくて、寧ろもっと触れて欲しいと思ってしまう。そんな筈ないのに、どうしてそう思ってしまうのか――そんな矛盾が心の中を支配していこうとしていた時だった。

 

「――凛花さんが、いけないんです」

 

「え?」

 

何が? と、思った時だった。そっと、伏黒の手が凛花の頬に触れた。そのままゆっくりと顔を近付けてくる。そして、吐息すら感じるぐらいの距離になったかと思うと、彼は再び凛花に口付けた。

先程の荒々しいキスとは違い、それは優しく、まるで慈しむ様なものだった。その優しさとは裏腹に、伏黒の舌が凛花の歯列をなぞり、舌を絡めていく。その度にぞくぞくとしたものが背中を駆け巡っていくのが分かった。いつの間にか頭の後ろに彼の手があってそのまま固定されている為、離れることも出来ない。そして何度も角度を変えながら彼の熱を受け入れているとやがてゆっくりと唇が離れていった。

互いの舌先から銀色の糸が引いていくのが見える。それが酷く厭らしいものに見えて、思わず視線を逸らした。

 

「めぐ……」

 

「俺、言いましたよね――1人にしてくれって。その意味解ってませんよね?」

 

「え……? それは、どういう――」

 

そう尋ねようとした凛花の言葉は、彼の口の中に飲み込まれてしまった。そしてまた、深く口付けられる。それが先程よりも更に激しい口付けに変わっていくのが分かった。

 

「……っ、ぁ……めぐ……っ」

 

くちゅりと水音が響く度に、身体の力が抜けていくのを感じる。もう立っていられなくなってしまいそうだった。そんな凛花の身体を支えながら、彼は何度も角度を変えては彼女の唇を貪る。その度に漏れる吐息と声が酷く甘ったるくて、まるで自分ではないみたいだった。だが、それを恥ずかしいと思う余裕すらないぐらい、彼の口付けが心地よくて、次第に何も考えられなくなってくる。

まるで頭が蕩けてしまったみたいだ。もう何も考えられないし、身体も動かない。ただ只管に与えられる熱を受け入れ続ける事しか出来ないでいた。

 

 

どのくらい時間が経っただろうか――ふと、伏黒の唇が離れたかと思うとそのまま首筋に下りてくるのが分かった。そしてそこをきつく吸われる。

 

「ぁ……」

 

そのちくりとした痛みすら感じなくなっていく程、凛花の思考はぼんやりとしていた。

そんな彼女の身体に腕を回しながら、彼はゆっくりと服の中に手を入れ始める。そのままゆっくりと上の方へとなぞっていくと、胸の膨らみに触れたところでぴたりと止まった。

 

「……っ、ぁ、ん……」

 

その微かな刺激にも敏感に反応してしまい、凛花は小さく身体を震わせる。それでも尚、彼は行為を止めず、今度はやんわりと揉み始めた。それはとても優しくまるで壊れ物を扱うかの様にして行われるもので、それが逆にもどかしく感じてしまう程だった。そんな優しい愛撫にも関わらず、既に全身性感帯になってしまったのかと思う程に身体がびくびくと震えてしまう。いつの間にか口から漏れていた吐息も、熱を帯びたものに変わっていた。

 

あぁ……どうしよう……私……恵君に触れられただけでこんなに感じてる……。

 

そんな凛花に構わず、彼は更に行為を続けていく。そして遂には下着の中に手を入れ始めたかと思うと、直接胸に触れた。

 

「あ……っ、ンン……」

 

その瞬間、今まで以上に強い刺激が身体中を駆け巡り、思わず背中を反らせる。そんな凛花の反応を楽しむかのように、伏黒は何度も彼女の胸を愛撫していった。その度に甘い声が漏れてしまうのを止められない。だが、それでも尚も彼は凛花に刺激を与え続ける。

気が付けば、インナーはたくし上げられていて、ブラジャーのフロントのホックがプチンと外される音が部屋に響いた。

 

「凛花さん――」

 

名前を呼ばれ、そっと視線を彼の方へと向けると、そこには熱の籠もった瞳で自分を見つめる彼の顔があった。その翡翠色の瞳は真っ直ぐに凛花だけを映し出している。その瞳を見た瞬間、またぞくりとしたものが背中を駆け巡っていった。そして同時に胸の奥がきゅうっと締め付けられる感覚に陥ると、自然と口から言葉が漏れていた。

 

「めぐ、み、く……っ、ぁ……」

 

ぴくんっと、凛花の肩が震える。伏黒の顔が凛花のそのふくよかな胸へと近付き、その先端を口に含んだからだ。そしてそのまま舌先で転がすように弄び始めたかと思うと、突然ちゅうっと強く吸い上げるものだから思わず腰が浮いてしまった。

 

「……は、ぁ……んっ……ぁ……」

 

まるで飴玉を転がすかのように何度も繰り返される愛撫に、凛花の思考は徐々に蕩けていく。もう何も考えられず、ただ只管に与えられる快楽を受け入れる事しか出来ないでいた。

伏黒の舌が、何度も何度も凛花の胸の先端を嬲っていく。その度に凛花はびくびくと身体を震わせながら甘い声を上げた。そんな凛花の反応を楽しむかのように、彼は執拗にそこばかりを攻め立てていく。

やがてその刺激に耐えきれずに凛花が絶頂を迎えようとした時だった。突然彼女の胸から彼の唇が離れたかと思うと今度は反対側の胸へと顔が近付き、そちらも同じように口に含んだのだ。そして先程と同じようにされてしまうと、また達してしまいそうになるのだが――寸前のところで止められたせいで中々頂点まで上り詰める事が出来ないでいた。

 

「ぁ……めぐ……、い……いじわ、る……」

 

荒い息を繰り返しながら、凛花は涙目になって彼を見上げる。すると、そんな凛花を見て彼はくすりと笑みを浮かべたかと思うと再び唇を近づけてきた。

そしてそのまま舌先で弄ぶかのようにして何度も刺激を与えていき、今度は甘噛みをしてきたり吸い上げたりする。その度に凛花の身体に甘い痺れが走り、頭の中が真っ白になっていくのを感じた。

もう何も考えられない。ただ只管与えられる快楽を受け入れる事しか出来なかった。

やがて彼の手がゆっくりと下に伸びていき、スカートの中へと侵入してくるのが分かった。だが、それを拒む気力など残っておらず、されるがままになってしまう。彼はそのまま下着の中へと手を入れ込むと、直接秘部に触れてきた。

 

「ぁあ……っ」

 

びくんっと、凛花の身体が震える。そこは既に十分過ぎるぐらい濡れそぼっており、彼の指が割れ目をなぞる様にして動く度にくちゅくちゅという水音が聞こえてきて羞恥心を煽られた。だがそれ以上に強い快感に襲われて何も考えられなくなる。

 

そして遂には彼の中指が中へと入り込んできたのが分かった。ゆっくりと抜き差しされる度に、凛花の唇から甘い吐息が漏れていく。最初は一本だけだった指も徐々に増やされていき、今では三本もの指を飲み込んでいた。そしてある一点を掠めた時だった。

 

「あぁ……ん……っ」

 

突然今までとは比べ物にならない程の強い快楽に襲われて、凛花は思わず背中をしならせた。その反応を見た彼は、そこばかりを攻め立てていくものだから堪らない気持ちになる。それでも何とか堪えようとするのだが――無理だった。

 

駄目……もう我慢できない……っ。

 

そう思った時には既に遅く、次の瞬間には呆気なく達してしまったのだった。同時に中に入っていた彼の指を強く締め付けてしまい、その刺激で彼もまた達してしまったのか、どろりと熱いものが流れ込んできたのが分かった。

 

はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながら、凛花がぼんやりと天井を見つめていると、ふと伏黒が身体を起こしたのが見えた。そして、そのまま彼は自分の服に手を掛け始めるのを見て凛花はそっと視線を逸らすと慌てて背を向けたのだが――直ぐに背後から抱き寄せられてしまった為、それは叶わなかった。すると突然耳元で囁かれる。

 

「凛花さん――ずっと、貴女に触れたかった―――」

 

その言葉を聞いた途端、凛花の顔が一気に真っ赤に染まった。そんな彼女を愛おしそうに見つめながら彼は再び唇を重ねてくる。それを拒む事が出来ず、凛花はぎゅっと目を閉じると彼から与えられる熱を受け入れるしかなかった。

何度も角度を変えながら繰り返される口付けに、段々と思考力が奪われていく。そして気が付くといつの間にか服を脱がされていていたようで、気が付けば上半身は何も身に着けていなかった。だが下半身の方はまだ全て脱がされておらず、太腿の辺りに下着が引っ掛かっている状態だった。

そんな凛花の様子に気付いたのか、彼がゆっくりと顔を離す。そしてそのまま彼女の身体を見下ろすようにして見詰めてきたかと思うと、突然その細い指先が太腿に触れたのが分かった。

そしてそのままゆっくりと撫で上げるようにしながら上の方へと移動していき――やがて足の付け根部分に到達したかと思うと、彼は再び顔を近付けてくる。それに気付いた凛花が慌てて足を閉じようとしたのだが時既に遅く、あっさりと間に割り込まれてしまった為それは叶わなかった。そして次の瞬間には秘所に生暖かいものが触れる感覚に襲われて思わず身体が震えた。それが彼の舌だと理解するのに時間は掛からなかった。

 

「ぁあ……っ、ゃ……待っ……ン……は、ぁ……あ、ん……っ」

 

くちゅりと響く水音を聞きながら、凛花は小さく首を横に振る。だがそんな抵抗も空しく、そのまま彼の舌先が敏感な芽に触れてきた瞬間、今までとは比べ物にならない程の強い快感に襲われた。

あまりの刺激の強さに、凛花の口から甲高い声が上がる。そんな様子を見ながら伏黒は更に追い討ちをかけるかのようにして舌先でぐりぐりと押し潰すようにしてきたものだから堪らない気持ちになる。

 

やがて満足したのか、彼が顔を離した時にはもうすっかり蕩けきっていた。はぁはぁと荒い呼吸を繰り返していると、今度は再びゆっくりと中に指が入ってくるのが分かった。先程散々弄られたせいもあってすんなりと受け入れてしまう自分が酷く淫らだと思えて恥ずかしいと思うのと同時に、もっとして欲しいと思っている自分がいる事に気が付いて愕然とする。

 

どうしよう……私、本当に……

 

そんな不安を抱きながらも与えられる快楽に抗えずにいると、やがてある一点を掠めた時だった。今まで以上の強い刺激に襲われて思わず背中をしならせた凛花を見て、彼はくすと笑みを浮かべるとそこばかりを攻め立てていった。

あまりの快楽の強さに思考が追い付かない程でいると唐突に指を引き抜かれてしまい、代わりに熱いものが押し当てられたのが分かった。

 

「――凛花さん、俺……もう……っ。……すみません」

 

そう謝られたかと思った瞬間、理解するより先に一気に貫かれるような感覚に襲われる。

 

「ぁあ……っ!!」

 

あまりの質量の大きさに一瞬息が詰まったが、それでも痛みはなかった為、きっと彼なりに優しくしてくれているのだろうと思った。だが……、

 

「ぁ、あ、ああ……んっ……は、だ、めぇええ……っ、うごい、ちゃ……ぁあ、ん……っ」

 

それも束の間ですぐに激しい抽挿が始まり、凛花はただひたすら喘ぐ事しか出来なくなってしまう。何度も何度も奥を突かれ、その度に甘い声を上げ続けた。

 

「凛花さ……っ」

 

やがて限界が訪れたのか、彼の動きが激しくなり、それと同時に膣内で熱いものが弾けるのを感じるとほぼ同時に凛花もまた達してしまったのだった。そしてずるりと引き抜かれた後も余韻に浸っているかのようにぴくりと痙攣している。

――そこで一度意識を飛ばし掛けたが、すぐに引き戻されてしまった。何故ならば目の前には未だに熱を宿したままの伏黒の姿があったからだ。そして再び覆い被さられると今度は正面から抱き合う形になり、そのまま何度も口付けを交わす。

 

「……ん……ぁ、は……ぁ、んン……っ」

 

息継ぎの為に口を離すと直ぐにまた塞がれてしまい、口内を犯されていく。その間にも彼の手は凛花の身体を愛撫するように這い回っていた。そしてもう片方の手で胸の先端を攻めながら、彼は再び腰を動かし始めた。

 

「ぁあ……っ!」

 

先程よりも更に深い場所まで突かれて思わず悲鳴を上げてしまうが、それでも構わずに彼は動き続ける。

その度に結合部からは愛液が流れ出ており、それが潤滑油の役割を果たしているのか先程よりもスムーズに動くようになっていた。その為か動きが激しくなり、肌同士がぶつかり合う音が響き渡る程になっていた。それに比例して与えられる快楽も増していき、最早何も考えられなくなる程の強いものとなっていた。

 

「め、めぐみ、く……わ、わた、し……ぁあ……っ!」

 

「……凛花さん……っ」

 

そして遂にその時が訪れると凛花は身体を震わせながら絶頂を迎えたのだが――それでも尚、彼は動きを止めようとはしなかった。

それどころか更に激しさを増していき、何度も何度も奥を突かれる度に意識を失いそうになる程の快感に襲われる。最早何も考えられず、ただひたすら与えられる快楽を受け入れ続けた。

 

結局その後も幾度となく求められ続け、凛花が解放されたのはすっかり明け方になってから事だった。

 

 

 

翌朝目を覚ましてからもしばらくの間は起き上がる事が出来ず、ベッドの上で横になっていたのだが……ふと視線を感じて顔を上げると、そこには何故かこちらを凝視している伏黒の姿があった。しかもその表情は明らかに怒っている時のもので、一体何故彼がそんな顔をしているのか分からず困惑していると、突然腕を掴まれてそのまま引っ張られた。そして、次の瞬間には彼の腕の中に収まっていたのだ。

そしてそのまま強く抱きしめられる形になり、身動きが取れなくなる。突然の事に驚きつつも何とか抜け出そうと試みるものの、全く歯が立たなかった為、早々に諦めた凛花はそのまま大人しく彼の腕の中に収まる事にした。

するとそんなこちらの様子を見て安心したのか、彼はほっと息を吐くと更に強く抱き締めてくるものだから思わず苦笑してしまう。

そしてそのまま暫くの間二人で抱き合っていたのだが――ふとある疑問が浮かんだので尋ねてみる事にした。

 

「あの……恵君? どうして急に……その……」

 

あんなことをしたのか。と、聞きたくとも、何となく口にするのは憚られた。だが、伏黒には伝わったらしく、彼は一瞬躊躇うような素振りを見せたものの、やがて意を決したかのように口を開いた。

 

「実は……ずっと考えていたんです。どうすれば凛花さんに好きになってもらえるのかって……」

 

「え……?」

 

その言葉を聞いて凛花は驚きの声を上げる。まさか彼がそんな事を考えているとは思わなかったからだ。そして同時に嬉しさが込み上げてきて自然と笑みが零れたのだが、次の瞬間には何故か不機嫌そうな表情を浮かべていた彼を見て慌てて口元を押さえると誤魔化すようにして咳払いをする。するとそんなこちらの様子を見ていた彼は再び話を続けたのだった。

 

「それで思ったんですけど、やっぱり今の俺じゃ駄目なんだなって……凛花さんから見たら、俺はまだ子供で……。だから、もっと頑張ろうと思うんです。その……凛花さんの隣に、いたい、から……」

 

そう言うと彼はそっと凛花の手を取るとその指先に口付けてきた。そんな彼の行動を見てますます困惑していると、今度はまた別の場所にも唇を寄せてくるものだから思わず声を上げてしまった。すると彼はくすりと笑いながらそのまま耳元に顔を寄せてきて囁いたのだった。

 

「――凛花さん……俺じゃ駄目ですか……? 俺を――選んでください。後悔はさせません」

 

「めぐ……」

 

その言葉を聞いて一瞬頭が真っ白になった。まさかそんな事を言われるとは思わなかったからだ。凛花がどうしていいのか分からず、困惑していると――何故か彼は諦めるつもりはないようで再び迫ってきたかと思うと、そのまま唇を重ねられてしまったのだった。

 

「……っ、ぁ……めぐ……ん……」

 

何度も角度を変えながら繰り返される口付けに翻弄されている間にも彼の手が太腿に触れてきて思わず身体を震わせる。どうやら昨夜の余韻が残っているらしく敏感になっているようだ。そんな凛花の様子に気付いたのか、彼はくすりと笑みを浮かべると今度は首筋に吸い付いてきたものだから堪らずに甘い声が上がる。

するとそれを聞いた彼が嬉しそうな表情を浮かべて更に強く抱き締めてきた為、身動きが取れなくなってしまう。

 

そのまま暫くの間じっとしていた凛花だったが、やがてゆっくりと顔を上げると今度は自分から彼に口付けたのだ。

それはほんのささやかな抵抗のつもりだったのだが、どうやら逆効果だったようだ。彼は驚いたような表情を浮かべた後で再び唇を重ねてきたかと思うと今度は舌を差し込んできたのだから堪らない気持ちになった。そして結局抵抗する事が出来ずに受け入れてしまった凛花はその後も何度も求められ続けた結果――すっかり腰が砕けてしまい動けなくなってしまったのだった。

 

だがそんな凛花に対して彼は満足そうな笑みを浮かべると最後に軽く触れるだけのキスをして、

 

「――愛しています、凛花さん。貴女だけを、ずっと……」

 

と囁くように言ったのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024.11.26