花薄雪ノ抄
     ~月来香編~

 

◆ 五条悟&伏黒甚爾「be captive Nightingale」 1話目

 (呪術廻戦夢 「深紅の冠 ~鈺神朱冥~」 より)

 

 

その男は、ある日突然 凛花の前に現れた。

 

その日、凛花は仕事終わりにカフェのテラス席でパソコンを操作していた。

報告書とデータを照合していたのだが、突然見知らぬ男が隣に座ってきたのだ。

 

その男は、柄の悪そうな風体に、大きな身体。

そして、誰かを思い出させる様な、翡翠の瞳をしていた。

 

男は、隣にいる凛花をじっと上から下まで見ると、何かを考え込む様に、顎に手を当てて唸りながら考え込む。

それでも、その瞳はこちらを見たままだった。

 

「……」

 

なんだか、視線が痛い。

その所為かこの場に居辛くて、凛花は小さく息を吐くと、パソコンを閉じて席を立とうとした。

 

瞬間――大きな手が伸びてきたかと思うと、凛花の腕を掴んだのだ。

まさか、腕を掴まれるとは思わず、凛花がぎょっとする。だが、男はじっと凛花を見たまま、動こうとすらしなかった。

 

「あの……」

 

耐えかねた凛花が、言葉を発しようとしたその時だった。突然、男が口を開いた。

 

「オマエが、五条悟の女?」

 

 

…………

………………

……………………

 

「はい……?」

 

突然、この男は何を言い出すのだ。

凛花が唖然としたまま、その深紅の瞳を瞬かせた。

 

だが、男は全く気に留めた様子もなく、その眉を寄せた。

そして、苛々した様に「ちっ」と舌打ちをしながら、

 

「んだよ、はっきりしろよ」

 

いや、はっきりしろと言われても困るのですが……。

と、凛花が思ったのは当然で。

それと同時に、この男に関わってはいけないという、危険信号が凛花の中で鳴った。

 

早くこの場を去ろうと、その手を振り解こうとするが――その手はびくともしない。

 

なんて、強い力なの……っ。

 

無理をすれば、手が折れるんじゃないかというぐらいその力は強かった。

すると、男が更に苛々したかの様に、半分怒気の混じった声で、

 

「おい……。何とか言えよな」

 

「いや、あの……」

 

一体、何だというのだ。

 

凛花には、この男に絡まれる理由も謂れも無かった。

そもそも、こんな見知らぬ人に、五条との関係をあれこれ言われる意味が分からない。

 

「……人違いです。私は悟さんとは何の関係もありませんので」

 

それだけ言うと、凛花はぐっと無理矢理 自身の腕を引っ張った。

力で敵わないのは一目瞭然だった。

それでも、意思表示をしようと思ったのだ。

 

まさか、引っ張られるとは思わなかったのか、男が「お?」と声を上げた。だが、やはりびくともしなかった。

 

「あの、離して頂きたいのですが……」

 

凛花がそう言うと、男はにやりと笑って、

 

「ん? 離したらオマエ、逃げるつもりじゃねえのか」

 

「……」

 

当り前じゃないか。

何を当然の事をこの男は言っているのだろうか。

 

この手が離れたら全力で逃げる。

凛花がそう心に決めた時だった。

ふいに、男が凛花の心を読んだかのように、掴んでいる手に力を籠めてきた。

 

「……っ」

 

その力が余りにも強すぎて、凛花が僅かに顔を顰めた。

だが、男はそんな凛花など気にも留めずに、凛花の顔を覗き込むように見てきて、

 

「で? どうなんだよ。五条悟の女なんだろ?」

 

「……っ、ですから――」

 

「違う」と否定しかけて、凛花の口が止まった。

の翡翠の瞳が余りにも鋭くて、否定の言葉が出せなかったのだ。

 

黙りこくった凛花に、男が「ふーん?」と意味深に声を洩らしながら、凛花をじっと見てきた。

そして、席を立ったかと思うと――。

 

「まぁいいか。行くぞ」

 

「え……っ!?」

 

そう言って、突然凛花の腕を引っ張ってカフェを出ようとしたのだ。

 

慌てたのは凛花だ。

まだ会計もしていないし、そもそも何故この男に連れていかれるのか、意味不明過ぎた。

 

「あの、ちょっと……っ」

 

なんとか、引き留めようとするが、力が強くて抵抗出来ない。

 

凛花は慌てて財布からお札を出すと、テーブルに置いた。

そして、男の引きずられる様に、そのままカフェを後にする事になったのである。

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

「……」

 

連れてこられたのは、何処かのビルの最上階だった。

男とは似つかわしくない様な上等なソファに、テーブル。

そして、大きな窓が壁前面に広がっていた。

 

ここは何処なのだろうか。

そう思うも、隣に座って乱雑に足を組んでいる男には、とても聞けそうな雰囲気ではなかった。

 

そもそも、この男は一体誰なのだろう。

違和感――とでも言うべきか。

 

人は多かれ少なかれ、〝呪力〟を帯びている。

そして、その〝呪力量〟の差で、呪霊が視える者と視えない者。

そして、呪師と、非術師に分かれる。だが――。

 

この男からは、その〝呪力〟が全く感じられないのだ。

 

そんな事って……。

 

そこまで考えて、凛花はかぶりを振った。

決めつけはよくない。

実際、今の高専にも〝呪力を全く持たない者〟はいる。

 

そう考えると、この男が〝呪力〟を持っていなくとも不思議はない――が、何だろうか、先程から感じるこの〝違和感〟。

何か重要な事を見落としている様な。

 

凛花が、口を噤んだまま考え込んでいると、ふと男がこちらを見た。そして、訝しげに眉を寄せると、じっとカフェの時の様に凛花を上から下まで見た後、

 

「おい、オマエ……」

 

「え……?」

 

不意に、呼ばれて凛花がはっとする。

男の方を見ると、男はその翡翠の瞳を細めると、くっと喉の奥で笑った。

 

「考えるだけ無駄だぜ? どうせ、オマエは餌なんだからな」

 

「餌? それはどういう――」

 

凛花がそこまで言いかけた時だった。

 

 

「おい!! 禪院!!」

 

 

ばんっ!! という音共に扉が開いたかと思うと、突然 煙草を銜えた黒いスーツ姿の男が部屋に入ってきた。

すると、「禪院」と呼ばれた凛花の隣にいた男がゆっくりとそちらを見て、

 

「あ? もう禪院じゃねえって何度言わせんだ。孔」

 

そう言って、不愉快そうに眉を顰めた。

だが孔と呼ばれた男はずかずかと、凛花の横に座る男に近づくと、

 

「オマエが連れて来たこの女が、どんな奴か知ってんのか!!」

 

「んだよ。五条悟の女だろ?」

 

「馬鹿か! こいつは、神妻家の女だぞ!?」

 

「あ?」

 

と、何やら言い争いを始めたが、凛花はそれ所ではなかった。

 

今、この孔と呼ばれた男は何と言ったか。

「禪院」そう言わなかっただろうか。

 

まさか、この男はあの禪院家の人間なのか。

 

でも、おかしいわ……禪院家の人間なのに〝呪力〟が全く無いだなんて――。

 

凛花の知る限り、禪院家で〝呪力〟が無いのは、呪術高専2年に在籍する〝禪院真希〟彼女1人だけの筈――。

そこまで考えて、凛花は はっとした。

 

違う――以前、禪院家から〝天与呪縛〟……つまり、生まれながら強大な力を得る代わりに、何かを強制的に犠牲にする〝縛り〟を持って生まれてくる者がいた筈。

しかも真希と同じく、いや真希以上に〝呪力〟を全く持たない代わりに異常な身体能力と感覚器官を持つ、フィジカルギフテッドの〝天与の暴君〟と呼ばれた男が――。

 

名前は確か……禪院甚爾。

 

だが、禪院甚爾は確か……12年前に悟さんの手によって死んだ筈では――?

 

そう聞いている。

凛花は隣で座ったまま孔と言い合っている男を見た。

でも、実際この男から〝呪力〟は一切感じない。

 

もし、この男が禪院甚爾なら……どうやって――。

 

と、そこまで考えた時だった。

不意に、隣に座る男と目が合った。男は凛花を見ると、にやりと笑みを浮かべ、

 

「なんだよ。俺に惚れたか?」

 

 

 

「………………はい?」

 

 

 

一瞬、この男が何を言っているのか、凛花は理解出来なかった。

が、次の瞬間、かぁっとその顔を赤く染めると、慌てて口を開いて、

 

「ち……違います……っ! わ、私は貴方が禪院甚爾様ではないかと思って――」

 

「あ?」

 

瞬間、男の顔が一気に不機嫌になる。それから孔を見て、

 

「ほらみろ、孔。お前が〝禪院〟なんて呼ぶから、この女まで呼ぶじゃねえか」

 

「オマエが禪院だったのは、事実だろうが」

 

煙草を吹かしながら孔という男がそう返すと、凛花の隣に座る男は大きく溜息を洩らし、

 

「だから、もう禪院じゃねえってずっと言ってんだろ。今は〝伏黒〟だ。オマエも間違えんな、五条悟の女。俺は〝禪院甚爾〟じゃねえ。〝伏黒甚爾〟だ」

 

伏黒甚爾と名乗った男に、凛花がその深紅の瞳を大きく見開いた。

 

「伏黒……?」

 

甚爾のその言葉を聞いた瞬間、凛花が眉を寄せる。

〝伏黒〟なんて、そうそうある苗字ではない。

 

これは偶然なの? 恵君と同じ苗字だなんて――。

 

そこまで考えて、凛花はある事に気付いた。

 

いや、伏黒の術式は禪院家相伝の〝十種影法術〟。

あれは相伝術式の為、禪院家の血が必要だ。

そして、伏黒の蒸発した父親は元々禪院家の……。

 

「……まさか、恵君のお父様……?」

 

「なんだ、オマエ恵を知ってんのか?」

 

甚爾の言葉に、凛花が息を呑む。

だが、それで甚爾には分かったのか、「ああ……」と声を洩らし、

 

「まぁ、五条悟の女なら知っててもおかしくねえか」

 

そう言って、あまり興味無さそうに頭を掻いた。

だが、凛花はそれ所では無かった。

 

まさか、こんな形で伏黒の父親と関わる事になるとは思わなかったからだ。

自分の父親が生きていて、しかも東京にいる事を伏黒は知っているのだろうか?

そんな考えが、脳裏を過る。

 

すると、凛花の考えを読んだかの様に、甚爾がじっと凛花を見た後、大きな溜息を洩らした。

そして、凛花を指さすと、

 

「オマエが何考えるのか知らねえが、恵はどうでもいい。今、重要なのはオマエだ。五条悟の女」

 

「……その呼び方止めていただけますか?」

 

先程から、この男は人の事を「五条悟の女」「五条悟の女」と連呼するが、凛花にはこの上なく、不愉快だった。

すると、甚爾は訝しげに眉を寄せて、

 

「あ? 事実だろうが」

 

「……事実とかそういう問題ではありません。人を呼ぶのに失礼だと言っているのです」

 

凛花が強めにそう言うと、甚爾は「はいはい」と生半可な返事をしながら両手を上げた。

そして凛花の方を見るとくっと喉の奥で笑ながら、

 

「なら、何て呼んでやろうか? 神妻? それとも、凛花がいいか?」

 

「……神妻で結構です」

 

凛花が半分呆れながらそう答えると、甚爾は面白ものでも見たかの様に、にやにやと笑いながら、凛花の後ろのソファの背もたれに手を回した。

 

「なんだよ、遠慮しなくていいだぜ。〝凛花〟って呼んでやろうか? 光栄だろ、俺に名を呼ばれるなんて」

 

甚爾のその言葉に、凛花が心底嫌そうな顔をする。

それを見た甚爾は、ぷっと吹き出したかと思うと、声に出して笑い出した。

 

「はいはい、神妻ね。りょーかい」

 

そう言って、手をひらひらと振る。

凛花は小さく息を吐くと、その深紅の瞳で甚爾を鋭く睨み付け、

 

「それで、伏黒様は一体 私に何の用なのですか?」

 

そう尋ねる。

すると、甚爾は「あ?」と声を上げた後、

 

「別にオマエ自体に用はねえよ。俺が用があるのは五条悟だ。オマエは五条悟を呼び出す為の餌。オマエをこっちで確保しておけば、絶対に五条悟は動く」

 

まるで、核心めいた様にそういう甚爾に、凛花が訝しげに眉を寄せた。

 

「……何を根拠に……。一体、悟さんに何の御用ですか?」

 

「御用って、なぁ?」

 

そう言って甚爾が孔を見る。

すると、孔は「うーん」と唸りながら、2本目の煙草を出して火を点ける。そして、紫煙を吐きながら、

 

「俺は、孔時雨って言うんだ。これでも元刑事でな。昔からコイツに仕事の斡旋とかまぁ、色々世話してる訳だ。この場所は、今俺が借りてる事務所みてえなもんだ。で、コイツがなんか五条悟に用があるっていうから、手っ取り早く呼び出すなら嬢ちゃんを使えって、俺が進言したんだよ」

 

「……悟さんに復讐でもしようというのですか? 私を使った所で悟さんは応じたりは――」

 

凛花が、そう忠告しようとするが、甚爾はにやりと笑うと、

 

「いや、五条悟はオマエの為なら必ず来る。それがたとえ地獄の底だろうとな。そうだよな、孔」

 

そう言って、孔の方を見る。すると孔は、やはり煙草をふかしながら、

 

「十中八九、五条悟は嬢ちゃんの為なら動くだろうな。それぐらい調べは出来てるんだ」

 

「……。伏黒様、貴方様は12年前に学生だった頃の悟さんに負けているのでしょう? どうして今、生きているのか存じ上げませんが――貴方様が、今の悟さんに勝てる見込みなど無いと思いますが……」

 

そう言い切る凛花に、甚爾がはっと乾いた笑みを浮かべた。

 

「言うじゃねえか。確かに、以前は負けたかもしれねえ。でも、あの時と今は違う」

 

「……どういう意味でしょうか」

 

僅かに眉を寄せる凛花に、甚爾がその口元を微かに歪ませた。

そして、その翡翠の瞳を面白そうに光らすとこう言ったのだ。

 

「――もし、今 俺が五条悟を倒したら、オマエはどうする?」

 

瞬間、凛花の目が大きく見開かれる。

そして、ぐっと眉間に皺を寄せると、その首を微かに横に振った。

 

の男が五条に勝つなんてありえない――なのに、どうしてこの男からこんなにも胸をざわつかせる何かを感じるのだろう。

これは一体……。

 

そんな思いが凛花の中で過る。

 

すると、甚爾がゆっくりと凛花に顔を近づけてきて――。

 

「オマエ、何なら俺の女になるか?」

 

そう言って、不敵に笑うと、凛花の深紅の瞳を覗き込んだ。

凛花が驚いた様にその瞳を大きく見開く。

 

「な、にを……仰って――っ!」

 

そう怒りの声を上げる凛花に、甚爾はくっと喉の奥で笑うと、

 

「別に。ただ思っただけだ。オマエの目、綺麗だな」

 

そう言って、更に顔を近づけてくる。

凛花がぎょっとして逃れようとするが、その前に孔が甚爾の肩を捕まえて、ぐいっと引っ張った。

 

「おい、禪院。嬢ちゃんに手を出すなとは言わないが、後にしろ」

 

そう言って孔が、呆れた様に溜息を付いた。

すると甚爾がにやりと笑うと、「はぁ?」と声を上げた。

 

「何でだよ。別にいいじゃねえか」

 

「後にしろって言ってんだろ、馬鹿が」

 

孔はそう言うと、凛花の方を向き、

 

「悪いな。コイツ、女癖が悪くてね」

 

と、溜息混じりに言う。

だが、凛花はそれ所では無かった。

 

今さっき自分の身に起こった事を理解するので精一杯だったのだからだ。

それに思い至った瞬間、かぁ……っと頬が赤くなるのが分かった。

 

きっと今鏡を見たら自分の耳まで真っ赤になっているに違いない――。

 

すると、そんな凛花を見て、また甚爾がくっと笑った。

 

「なんだよ、まんざらでもねえってか? いいぜ、オマエがその気なら相手してやっても――」

 

「ち、違っ……」

 

凛花が慌てて否定するも、甚爾はくくっと笑うとソファから立ち上がり、凛花の傍に立つ。

そして、くいっとその顎を上向かせると、じっとその深紅の瞳を覗き込んだ。

 

「ああ、やっぱオマエの瞳、綺麗だな。――すげえ美味そうだ」

 

そう言ったかと思うと、そのまま顔を近づけてきた。

甚爾の顔が凛花の視界一杯に広がり、その翡翠の瞳が細められた時だった。

 

 

 

  ――びき、びきびきびき……!

 

 

 

突如として何かに、ヒビの入るような大きな音が聞こえたかと思った瞬間。

その場に、けたたましい轟音とガラスの割れる音が響き渡った。

 

それと同時に、窓に空いた大きな穴から吹き込む凄まじい突風が、部屋の中を吹き荒れる。

 

それは突然の事だった。

本当に突然の事過ぎて、目の前の光景が上手く理解出来なかった。

だが、それでも目の前にあるのは間違いなく現実で――そしてここにいる筈の無い、五条がそこにいて、その眼は怒りの炎を宿していた。

 

どうして、悟さんがここに……?

 

凛花は呆然としたままそう思った。

と、同時に五条が普段と違う事に気付く。

 

全身から溢れさせている呪力量が尋常ではなかったからだ。

これ程の呪力量は今まで見た事が無い。

 

「おい、オマエ。この俺の女にちょっかいかけんじゃねえよ」

 

そう言って五条が凛花を背に庇うようにして、孔と甚爾の間に割って入ると、そのまま凛花の腰を掻き抱いた。

 

「さと――」

 

「悟さん」と呼ぼうとしたが、突然の事に凛花がその顔を、かぁっと朱に染めた。

だが、五条はそんな凛花を更にぎゅっと強く抱き寄せると、そのまま凛花の瞼に口付けを落とす。

 

「悪い、遅くなった」

 

そう言って、優しく笑う五条の顔を凛花はただ茫然と見ていた。

 

……これは一体、どういう事……?

 

混乱する頭では上手く状況判断が出来ない。

 

だが、一つだけはっきりしている事は、自分が今、五条に抱きしめられているという事だった。

そして何より――それは、いつもの五条だった。

 

その事実に気付いた途端、凛花の心が一気に安心感で満たされるのが分かった。

同時にきゅっと胸の奥が甘く疼く。

思わずその背に手を回して抱き返しそうになるが――辛うじて残っていた理性で必死に堪えると五条に声を掛けた。

 

「悟さん……、どうしてここに……?」

 

「ん? ああ、凛花ちゃんが任務の報告途中で通信が途絶えたって連絡が僕の所に来たからだよ。だから、凛花ちゃんの気配を追ってそのまま急いで来たって訳――なんだが……」

 

そこまで言って、目の前の甚爾を見る。

そして、五条が微かにその口元を歪ませた。

 

「また、随分と懐かしい〝亡霊〟がいるみたいだな」

 

そう言って、孔と甚爾の方に鋭い視線をやると、ぐいっとそのまま凛花の腰を更に抱き寄せた。

それはまるで誰にも渡すまいとするかのようだった。

 

「亡霊? ああ、俺の事か。久しぶりって程じゃねえが、それでも随分久しぶりだな」

 

そう言ってにやりと笑う甚爾に、五条の額に青筋が浮かぶのが分かった。

そのままくっと喉を鳴らすと、五条の身体から凄まじいまでの呪力が溢れ出すのが分かった。

 

すると孔がそんな五条を見て、眉を顰めた。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

そう低い声で言うと、孔はちらりと甚爾を見た後、直ぐに五条の方を見る。

そして盛大な溜息を吐くとこう言ったのだ。

 

「まさかとは思うが……、ここでドンパチやる気か? 勘弁してくれ。窓ガラスの修理費で幾ら飛ぶと思ってるんだ」

 

孔のその言葉に、甚爾が面倒くさそうに軽く舌打ちする。

そして、頭を掻きながら五条を見た。

 

「で? どうするよ、五条悟。俺的には、今この場で殺り合っても問題ないんだがなあ」

 

そう言って、ばきばきっと指を動かして鳴らした。

だが、五条は甚爾を見下ろす様に見た後、ぎゅっと凛花を抱く手に力を籠めた。

 

そしてそのまま上空に飛ぶと――。

 

「悪いが、アンタと違って忙しいんだよ、俺は。凛花も取り戻したことだし――もう、オマエに用はねえよ」

 

そう言うが早いか、すっと空いている右手を伸ばしたかと思うと――。

 

 

 

 

「術式反転〝赫〟」

 

 

 

 

刹那、術式を反転させた凄まじいまでの赫い呪力の塊が、甚爾に向かって放たれた。

それはまるで光の矢の如く、轟音を上げて一直線に向かって行く。

 

と、次の瞬間――その呪力の矢は甚爾にぶつかる事無く、大きく軌道を変えてその背後にあった壁から外へと飛び出し、そのままビルの壁を貫通し、更に下の階層へと消えて行ったのだった。

 

一瞬の出来事に誰も何も言う事が出来なかった。

残ったのは、瓦礫の山と唖然とする孔。

 

そして、それを見て面白そうに笑う甚爾だけだった――。

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

―――五条悟所有・都内マンション

 

リビングに入ると、突然ドアも閉めずに五条に抱き締められた。

 

「あ、あの、悟さ……」

 

急な五条からの抱擁に、凛花が知らずかぁっと頬を朱に染める。

そんな凛花に、五条が大きく溜息を吐いたかと思うと、その身体を更に強く掻き抱いた。

 

「馬鹿凛花、心配させんな……」

 

そう言った、五条の声も手も微かに震えていた。

 

それで、凛花は気付いてしまった。

心配を掛けてしまったのだと……。

 

凛花はそっと、五条の背に手を回すと、その腕の中に顔を埋めた。

 

「……ごめんなさい」 

 

凛花がそう謝ると、五条の腕の力が一層強くなる。

まるで、二度と離さないとでもいうかの様に強く抱き締められた。

 

ふと、ゆっくりと顔を上げると、五条の綺麗な碧色の瞳と目が合った。

 

あ……。

 

そう思った時は、もう遅かった。

五条が顔を近づけてきたかと思うと、そのまま唇が塞がれた。

 

「……んっ、ぁ……」

 

突然の口付けに、凛花の肩がぴくんっと反応する。

そのままぐらりと身体が揺れたかと思うと、気が付けば、ソファの上に押し倒されていた。

 

「悟さ……ンンっ、待っ……」

 

「待って」と言おうとするが、再び唇を塞がれる。

何度も角度を変えて繰り返される熱の籠った口付けに、次第に凛花の頭がぼぅっとしてきた。

くらくらしてきて、何も考えられなくなる。

 

「凛花……口開けて」

 

「え……?」

 

言われる意味が分からず、凛花が口を開けた瞬間、するりと入り込んだ五条の舌が、凛花のそれと絡み合う。

そのままちゅっと吸われると、その舌先から甘い刺激が伝って来て、凛花は無意識に身体を撓らせた。

 

「……っ、ふ、ぁ……ンっ、さと、る、さ……」

 

五条から感じる甘い刺激に、凛花が肩をふるっと震わせた。

そして、その口付けが解放される頃には、凛花の身体はもうとろとろに蕩けきっていた。

 

僅かに息を乱して、五条を見上げると……そこにはいつもとは違う熱を孕んだ様な双眸があった。

 

背筋がぞくぞくする程の熱を湛えた碧い瞳がじっと自分を見下ろしてくる。

その瞳には僅かに情欲の色が見え隠れしていて……そんな五条の瞳に見つめられるだけで身体が熱を帯びていくのが分かった。

 

「凛花……」

 

熱の籠った声音で、甘く名を呼ばれる。

 

それだけで、ぞくりと身体が震えた。

そのままもう一度唇が近づいてくると、再び重なった。

 

今度は先程よりも、もっと深く。

ゆっくりと割って入って来た五条の舌が、凛花の口内を蹂躙する。

 

「ン……っ、ぁ……は、ぁ……っ」

 

絡み合った舌先から生まれる甘い刺激に、身体が蕩けそうだった。

 

まるで食べ尽くされてしまうのではないかと思う程の口付けに、凛花が無意識に五条の服の裾を掴んだ。

するとそれに気付いたのか、五条の手が腰に回され、抱き寄せられる。

 

瞬間、ぴくんっと凛花の身体が震えた。

 

「さと、る、さ……」

 

堪らず、凛花が五条の名を呼ぶと、一層口付けが激しさを増した。

 

舌を絡め取られ、歯列をなぞられ、その度にぞくっとした感覚が背筋を走る。

そして、たっぷりと口内を蹂躙した五条の舌が離れていったかと思うと、そのまま首筋に、鎖骨に、胸元にと降りていく。

 

その間も五条の手は凛花の腰をしっかりと抱いていた。

その指が身体を這う度、ぞくりとした快感が凛花の身体を走る。

 

「ぁ……」

 

気が付けば、身に纏っていたシャツはボタンが全て外されてしまっていた。

露になった胸元を五条の大きな手が包み込む様にして触れてくる。

 

瞬間、びくっと凛花の身体が震えた。

そのままやわやわと揉まれる度に与えられる甘い刺激に、凛花が身を捩った。

 

「……っ、ぁ……んっ……」

 

甘い吐息を零す凛花に、五条の指の動きも次第に大胆になっていく。

そして、胸の突起を指で摘まれると、その快感に堪らず凛花の身体が跳ねた。

 

「あぁ……っ、や、ンン……っ」

 

「嫌? こんなに感じてるのに」

 

五条が熱い吐息を洩らしながらくすりと笑うと、今度は胸を舐め始めた。

途端に襲ってくる快感が凛花の身体を駆け抜ける

 

何度も往復する様に舐められ、指で摘まれ、吸われて……その度に甘い吐息と声が零れた。

その間も執拗に弄られて敏感になった胸を五条の手で揉みしだかれると――もう堪らなかった。

 

「あ、ぁ……やっ……だ、だめぇ……っ、ぁ、ん……っ」

 

やがて胸への愛撫はそのままに、五条の手が凛花のスカートをたくし上げていく。

そして太腿を撫でる様にしてその手が滑っていくと、そのまま下着越しに秘所に触れた。

 

瞬間、びりっとした快感が凛花を襲う。

――だがそれも一瞬だった。

 

布越しとはいえ、既に濡れてぐしょぐしょになっているそこを撫でられて、思わず身体が跳ねた。

 

「あ、あぁ……んっ、は、ぁ……っ、さと、る、さ……っ、待っ……んンっ」

 

更にその部分をぐりぐりと押される度に強い刺激に襲われ、凛花は口から甘い嬌声が上がるのを止められなかった。

 

「馬鹿凛花、そんな風に名前呼ばれたら――」

 

 

 止まらないだろ――。

 

 

そう耳元で囁くと、次の瞬間、五条の唇が凛花の唇を塞いだ。

そのままゆっくりと口づけは深くなっていき――再び口内を犯し始めた。

 

それと同時に、秘所を何度も擦られる刺激が更に強くなる。

 

堪らずびくびくっと震える身体と襲ってくる快感に、凛花は涙を流した。

 

もう限界だった。

だがそんな凛花の様子に気付いたのか、五条の動きがより一層激しさを増す。

 

そして遂に、布越しに一番敏感な部分を強く押された瞬間――。

 

「は……っ、あ、ぁああ……ンっ!」

 

その甘い刺激に凛花は絶頂を迎えていた。

 

ソファの上でくったりと息を乱しながら、凛花が横たわる。

すると、五条の手がゆっくりと凛花のスカートを脱がしていった。

そしてそのまま下着に手が掛かる。

 

「ぁ……、ま、待っ……」

 

凛花が、慌てて止めようと声を上げるが……それは最早意味を成していなかった。

 

完全に露になった凛花の足の間に、五条が身体を割り込ませると、ぐっと両膝を持ち上げた。

それにより、更に開かれた足の中心に五条の熱い視線を感じる。

 

「あ……」

 

恥ずかしい……っ。

 

恥ずかしくて堪らないのに、ぞくぞくとした感覚が止まらない。

瞬間、五条の顔が秘部に近づいたかと思うと――今度は直接舌で舐め上げられたのだ。

 

「ああっ! あ、ぁっ……あ、や、っ……だ、めぇ……っ」

 

びくんっと、凛花の身体が揺れた。

あまりの快感に思わず悲鳴を上げる。

 

だが、五条の舌は凛花に休む暇を与えてくれず、更に刺激を与え続けた。

 

ぴちゃぴちゃと聞こえてくる水音と秘部を舐められる強い快感で頭がくらくらする。

 

「ふ、ぁ……っ、はぁ……ンンっ……あ、あぁ……っ」

 

何度も刺激されて、ひくつくそこに五条の舌が侵入したかと思うと、膣内を探る様に動かされた。

そしてある一点を突かれた瞬間――今まで感じた事の無い様な強い快楽が凛花の身体を貫いた。

 

「――っ、あぁ……!」

 

その凄まじいまでの快感に、頭が真っ白になっていく。

 

びくびくっと身体が痙攣する様な感覚が襲ってきた。

あまりの快感の激しさに、何が何だか分からない……。

 

身体が熱い……。

頭がくらくらする……っ、身体が蕩けてしまいそう――五条の舌に激しく秘部を責められて、凛花は何度目かの絶頂を迎えていた。

 

その度に愛液が溢れ出るが、五条の動きは止まらない。

秘所からはとめどなく蜜が零れ落ちていく。

 

やがてしつこい程の愛撫に意識が朦朧としてきた頃――突然舌を抜かれた。

凛花が、肩で息をしながらくったりしていると、五条は、自身の親指を口元に当て、そのまま舌でゆっくりと唇を舐め取ったのだ。

 

「……っ」

 

その姿が余りにも、艶めかしくて、凛花は思わず視線を逸らしてしまった。

知らず、顔が朱に染まっていく。

 

それを見た五条がくすっと笑うと、そっと凛花の耳元に唇を寄せ――。

 

「好きだよ、凛花」

 

「……っ」

 

囁かれたその言葉に、凛花がかぁと顔を赤くさせた。

すると再び五条の唇が耳元に近づき……ちゅっと耳の軟骨部分に口付けられたかと思うと、そのまま熱い舌が差し込まれた。

 

「ん、ぁ……は、ぁ……あ……っ」

 

くちゅくちゅという水音が直接耳に響く。

 

同時に吹き込まれる甘い言葉と吐息に、身体がびくびくと反応してしまうのが分かった。

その間にも五条の手は止まらず、ゆるゆると腰を撫でてくる。

 

その刺激にもまたびくんっと身体を震わすと再び、五条の唇が凛花の唇に触れた。

何度か啄む様な口付けをした後、五条の指が胸に触れる。

そのまま胸を優しく揉まれたかと思うと――ぱくっと胸の突起を口に含まれた。

熱い舌で舐め上げられ、軽く歯を立てられると……それだけで意識が飛びそうな程の快感が襲ってくる。

 

だがそれを何度か繰り返された後で、今度は反対側の胸にも同じように愛撫を施された。

 

「あ、ぁ……は、ん……っ、ゃ……ぁあ……っ、だ、め……も、もう……っ」

 

それを繰り返していくうちに次第に感度が増していき……遂には軽く摘ままれるだけで甘い声を上げる様になっていた。

そんな凛花の様子に、五条がくすっと笑う。

 

「凛花、やっぱ可愛い」

 

「……っ」

 

五条の突然の言葉に、凛花が今度こそ真っ赤になった。

 

すると、五条はそっと凛花の頬に触れると、そのまま再び唇に触れてきた。

何度となく交わされる口付けに、凛花が次第に、とろんとした表情を浮かべ始める。

 

そして口付けが解かれると、今度は凛花の首筋を舌で辿っていった。

同時に、五条の大きな手が凛花の太腿に触れ、その手でぐっと足を開かせていく。

 

何度も絶頂を迎えた所為ですっかり潤みきったそこを開かれて、その恥ずかしさに思わず両足を閉じようとしたが、やはりそれは叶わなかった。

五条の両手が両の膝裏を抱えていたかと思うとそのままぐっと押し広げられたのだ。

 

そうされると否応なく秘所が曝け出されてしまう。

すると、五条のもう片方の手が今度は凛花の下半身に伸びていき――先程からひくひくと震えている秘部に触れた。

 

瞬間、びくりと凛花が身体を震わす。

だがそれに構わず、五条の指は秘所に入り込み――そのまま中を掻き回し始めた。

 

「ぁ……っ、は、ぁ……ンん……っ」

 

同時に親指でも刺激される。

その刺激に堪らず背を仰け反らせると……五条の綺麗な碧色の瞳と目が合った。

 

そのままじっと見詰められてしまい、堪らず目を逸らすが、その間も容赦なく膣内を指で犯され続けて……もう、気がおかしくなりそうだった。

 

 

――それから何分経っただろうか。

執拗にそこを責め立てられ、何度も絶頂へと導かれた凛花は、遂に限界を迎えようとしていた。

 

身体が熱くて堪らない……。

頭がくらくらする……っ 思考が上手く纏まらない程で――ただ無意識に五条の名前を呼び続けた。

 

そんな凛花に、五条もまた余裕が無さそうな表情で告げる。

 

「悪い。俺も……もう、限界。凛花が、欲しい……」

 

それは酷く熱を帯びていて、それでいて欲望を孕んだ声色だった。

そして――遂にその瞬間が訪れたのはその直後だった。

 

五条の熱い楔が宛がわれたかと思うと、そのまま一気に膣内へと侵入してきたのだ。

 

「ああ……っ」

 

その瞬間――あまりの衝撃に、凛花が大きく目を見開いて背中をしならせた。

最奥まで挿入されたそれがゆっくりと動き始めれば――凛花はもう何も考えられなくなる程だった。

 

五条が激しく律動する度に、全身に強い快感が駆け抜けていく。

膣内を五条のもので擦られる度に気が狂いそうな程の快楽に襲われて……堪らず身体を反らせてしまう。

それでも尚止まない律動に、どんどん意識まで飛びそうになっていく。

 

「ああ――っ、んぁ……、だ、だめっ、動かな……で……っ。あっ、や、ん――ああっ!」

 

五条のものが動く度に、厭らしい水音が響く。

互いの肌がぶつかり合う音も耳に入ってきて……それがまた二人の興奮を煽っていった。

 

「さと、る、さ……ぁあ……っ」

 

「凛花……っ」

 

何度も、熱の籠った声音で凛花の名を呼ぶ五条に、凛花が必死にしがみ付く。

そうして暫くすると、再び絶頂が近付いてくるのが分かった。

 

それを見計らったかの様に、五条の腰の動きがより一層激しさを増していく。

それと同時に、敏感な部分を責められて――堪らず凛花は嬌声を上げていた。

 

何度も絶頂を迎えた所為で敏感になっているそこは痛い程に充血していて……同時に与えられる強烈な快楽に頭がおかしくなりそうだった。

 

だが、それでも尚――五条の動きは止まらない。

 

熱い楔が膣内を行き来する度に、凛花の腰は大きく震え――やがて限界が訪れたのか、一際大きな嬌声を上げた後……びくびくっと身体を震わせた。

同時に五条もまた凛花の中で果てると、そのまま凛花をぎゅっと抱きしめたのだった。

 

 

 

その後、何度も交わった二人はぐったりとその場に倒れ込んでいたのだが――ふと、気だるい身体を起こしたかと思うと、徐に身体を起こしたのは五条だった。

その隣では凛花が横になっていると、そっと五条の手が凛花の髪に触れた。

 

「……悟さん?」

 

凛花が不思議そうに首を傾げると、五条はふっと優しげに笑みを浮かべ、

 

「凛花――愛してる」

 

突然、告げられたその言葉に……思わず凛花がその深紅の瞳を見開いてしまう。

だが、同時に自然と頬が緩んでしまいそうになって――慌ててそれを押し止めた。

 

すると今度は、五条からの口付けが降ってきた。

優しく触れるだけの口付けから始まって、次第に深いものに変わっていって……いつの間にか舌の侵入を許していた。

 

「ん……っ、ふ、ぁ……っ」

 

くちゅという水音が部屋に響き渡る中、徐々に頭がぼうっとしていく。

――だが、そこで再び凛花の身体に甘い刺激が走った。

 

それは五条の手が胸に伸びてきていたのだ。

先程まで散々弄ばれたそこは既に硬くなっていて……そっと触れられただけで身体がびくっと反応してしまう。

 

「ま、待っ……んんっ」

 

思わず、凛花が抗議の声を上げようとしたが、それよりも先に再び口付けられて――結局それは叶わなかった。

 

それからまた何度か交わった後……二人はすっかり疲れ果ててしまっていたのだが――それでも尚、お互いを求め、確かめ合うかの様にして触れ合っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応、サンドになる「予定」です

ならなかったら、ゴメンね~笑

 

 

2024.02.21