◆ 壱章 守護者 10
「ずばり! 鬼崎君と同棲してるって、ほんと!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・?」
鬼崎さんと・・・・・・?
どう、せい・・・・・・???
何故か、教室中がし――――んとなる
だが、当の本人である沙綾は首を傾げた
“どうせい”って、何・・・・・・かしら
と、謎の言葉で頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ
しかし、目の前の清乃は目を爛々とさせてこちらを見ている
心なしか、周りの人たちも興味津々という風にこちらを見ていた
「えっと・・・・・・」
何と応えたらいいのか・・・・・・
困った様に拓磨の方を見ると、教室のこの異様な雰囲気に気付いていないのか、1人黙々と何かを解いていた
「さぁ! さぁ! 沙綾ちゃん! 隠しても無駄ですからね!! 目撃情報は幾つも上がってるんだから!!」
と、強気でずずいっと顔を近づけてくる清乃に、流石の沙綾も困ったのか
「あの、その・・・・・・目撃情報って・・・・・・?」
とりあえず、聞いてみる
すると、清乃が名探偵の様に「ふふ」と笑いながらメガネをきらーんと光らせてメモを取り出した
「第一証言、村人A子さんより “先日の夕方、部活帰りの事です。 うちのクラスの鬼崎君と見知らぬ美少女が仲良く手を繋いで歩いていました。 鬼崎君は何か荷物をもっていました。 あのただならぬ雰囲気から二人の間に何かあると察しました”」
「・・・・・・?」
思わず、沙綾が首を傾げる
しかし、清乃は構わず
「第二証言、村人B男くんより “ここの所毎日見かけるのですが、うちのクラスの鬼崎と、例の美人と噂の転校生が朝っぱらからいちゃいちゃと手を繋いで登校していました。 しかも!! 玉依毘売命神社からずっと!! 俺もあんな彼女欲しいです!”」
「あ、あの・・・・・・」
「第三証言、某高校教師C先生より “転校初日の書類を届けに職員室に来たのだけれど、どう見ても仲睦ましい雰囲気で先生思わず笑っちゃったわ。 私も昔はああいう時期あったなあぁって、青春っていいわね”」
「え・・・っと、多家良さん・・・・・・?」
「第四証言、噂の的の美少女さんの隣の席のK.Tさんより “最初に見た時から話しかけたくてうずうずしてて、やっとの思いで話しかけたら・・・・・・彼女倒れちゃったんです。 そしたらさも当然の様に鬼崎君が現れて、彼女を抱き上げたんです! しかも! お姫様抱っこ!! あれは、二人の間には何かあると察しました」
「・・・・・・・・」
いやに最後のが微妙に具体的だが・・・・・・
そこまで言い切った清乃はふふんっと誇らしげにしながら
「さぁ、ここまで証言が揃っているのよ!? 言い逃れしよう立ってそうはいかないわ! さぁ、白状しちゃいなさい!! 鬼崎君の婚約者として来たんでしょ!?」
なぜか、同棲から婚約者に変わっている
が、沙綾にはさっぱり意味が分からなかった
そもそも、“同棲”や“婚約者”の意味が分からない
雰囲気的に、沙綾に取ってあまりいい意味ではなさそうな感じだが・・・・・・
「あの、多家良さん・・・・・・。 何か誤解があるようなのですが、私と鬼崎さんとは別に何も――――・・・・・・」
その時だった
突然背後からごすっ! と物凄い音と共に、脳天に痛みが走った
こんな事をするのは――――・・・・・・
「鬼崎さん・・・・・・」
沙綾が頭を押さえながら、たった今殴って来たであろう人物を見る
すると、殴った張本人である拓磨はけろっとしたまま
「お前、余計なのを相手にしてるんじゃねーよ。 ったく、少し目を離すとすぐこれだから、目が離せたもんじゃないな」
「す、すみません・・・・・・」
何だかよくわからないが、申し訳なくて謝ってしまう
だが、拓磨は気にした様子もなく、そのまますたすたと自分の席に戻ってしまった
そんな拓磨の後ろ姿を何故か目で追ってしまう
怒らせてしまったのだろうか・・・・・・?
そんな風に思っていた時だった
二人のやりとりを見ていた清乃が、うんうんと頷きながら
「青春・・・よねぇ。 お姉さんにもそんな時期あったなぁ・・・・・・グッバイ、ブルースプリング」
と,なぜかしみじみと語られた
沙綾はというと
ブルースプリング・・・・・・?(直訳:青い春 ※正しくは違います)
と首を傾げていた
なんとなく、清乃の“お姉さん”に違和感を覚えつつも
聞いたら聞いたで、なんかややこしくなりそうだったので聞くのを止めた
そうこうしている内に、予鈴と呼ばれるチャイムが鳴った
それと同時に、女の人が入ってくる
「ほら~、皆席について――――」
そう言って、女の人が手に本の様なものを持って最前列の机の前に立つ
男の人かと見間違う様な仕草の女の人だった
ふと、彼女が沙綾をみて
「お、今日は体調いいのか? 霞上」
「え・・・・・・?」
一瞬、自分の事だと気づかずに沙綾が呆けていると、隣の席の清乃が肘で突きながらひそひそ声で
「ほら、沙綾ちゃん、りっくんに呼ばれてるよ?」
「り、っくん・・・・・・?」
とは誰の事だろう? と、首を傾げていてると
清乃が付け加える様に
「茅野立夏。 略して、りっくん。 うちのクラスの担任だよ~男前でしょ」
「えっと・・・・・・」
何故その担任に呼ばれるのか分からない
何かしでかしてしまったのだろうか・・・・・・?
などと考えていると、立夏が持っていた本で手招きする
どうやら、前に来いという事らしい
沙綾は戸惑いながらも立ち上がると、立夏の所まで歩いて行った
「あの・・・・・・」
「おお、霞上。 昨日は挨拶出来なかったから~。 私はこのクラスの担任の茅野立夏だ、古文を担当している。 宜しくな」
「あ、はい・・・・・・」
どう応えていいのか分からず、沙綾がこくりと頷く
反応の鈍い沙綾に立夏が「ああ・・・・・・」と何かを思い出したかのように
「そういえば、そうだったな。 私はこの学院の古文教師だ、ああ~要は、古文の先生だな」
「せん、せい・・・・ですか?」
「そうだ。 そして、このクラスの担当でもある。 これでわかるか?」
そこまで言われて気付いた
どうやら、沙綾の記憶については周知されている様だった
「学校は、教師・・・つまり、先生が生徒、お前達だな。 その生徒に学問などを教え込む学び舎だ。 それだけじゃない、親しい人を作る場所としても最適だ。 これは霞上にだけ言える事ではない。 お前達全員に言える事だ! もしかしたら、その人とは一生涯の付き合いになる可能性だってある! だから、ここで過ごす間を大事にして欲しい!」
「・・・・・・・・・」
そう言って、立夏が語ると周りの生徒達が声を上げて笑い出した
「りっかちゃん、かっこいい~」
などと、野次が飛んでくる
が、立夏は気にした様子もなく
「とりあえず――――」
そう言って、立夏がぽんっと沙綾の背を叩いた
瞬間――――・・・・・・
『―――――おばあちゃん!! いやあああああああ!!!!』
「―――――・・・・・・っ」
何かの記憶が流れ込んできた
これ、は・・・・・・
深い深い森の奥
霧に閉ざされた世界――――
暗い沼の様な場所
そこへ一人、また一人と入っていてく
彼らの周りには沢山の大人の人がいて
その中に一人いた少女が泣き叫んでいる
『ひとり、捧げれば その楔 強固となりえん』
誰かの声が響いた
それに呼応する様に、回りの大人たちも同じ言葉を唱える
――――“ひとり、捧げれば その楔 強固となりえん”
――――“ひとり、捧げれば その楔 強固となりえん”
ざざざざざっと、水面が揺れる
そして、一人、また一人とその水面に飲まれていく
『おばあちゃ――――ん!!!』
少女の悲愴なまでの声が頭に響く
この、光景を――――
ワタシは “シッテイル”
ずっと、ずっと“あの場所”で長い時 見続けて――――・・・・・・
「霞上?」
不意に立夏の声に我に返る
「あ・・・・・・」
「どうした? まだ具合悪いのか?」
「あ、い、いえ・・・・・・」
今の“記憶”は・・・・・・?
思わず立夏を見る
微かにあの泣き叫んでいた幼い少女と立夏が重なって見えた
「・・・・・・・」
そんな筈、は・・・・・・
彼女とは初めて会ったのだ
なのに、何故そう思ったのか・・・・・・
それを問う事は出来なかった―――――・・・・・・
「まぁいい、こいつは“霞上沙綾”だ。 今日・・・あ~正確には昨日からだな、うちの学院に編入してきた、皆、仲良くする様に!」
そう言って、立夏が沙綾を皆に紹介している間も、沙綾の頭の中にはあの泣き叫ぶ少女がずっと離れなかった
だから気付かなかった
拓磨がずっとこちらを見ていた事に―――――・・・・・・
**** ****
――――昼休み
「沙綾ちゃ~ん、一緒にお昼食べよ~~~」
と、清乃が弁当という物を持ってうきうきしながら立ち上がった
「お昼・・・・・・?」
沙綾が不思議そうに首を傾げると、清乃はうきうきした声で
「そだよん、お昼休み~~~~~」
どうやら、この“お昼休み”で、昼食を取るらしい
「あ、沙綾ちゃんもしかして購買派? それなら早くいかないと無くなっちゃうよ~?」
「購買?」
「そそ、色々売ってるけど、うちの昼の購買は戦場よ!! 特に焼きそばパンが人気でね~~」
そういえば・・・・・・
出る時に、美鶴から「お昼に」と弁当という物を渡された事を思い出す
どうやら、それはこの時間に食べるらしい
「あ・・・・・・私は、お弁当を――――」
そう言い掛けた時だった
不意に、後ろから伸びてきた手が沙綾の腕を掴んだかと思うと、ぐいっと引き寄せられた
「悪い、こいつ借りてくぞ」
「え・・・・・・?」
見ると、拓磨が片手に何か紙袋と本を持っていた
「あの・・・・・・? 鬼崎さん?」
何かあったのだろうか?
そう思う間もなく、そのまま引きずられるように、教室から連れ出される
遠くで、清乃が「沙綾ちゃ~~ん」と叫んでいるのが聞こえる
が、拓磨はお構いなしに沙綾の手を握るとずんずんと歩いて行った
「あ、あの・・・・・・っ」
困惑した様に、沙綾が拓磨に語りかけるが
拓磨はそのままどんどん上の階の方へ歩いていく――――
行く先々の廊下で、沙綾と拓磨を見掛けた生徒達がまた何やらこそこそ話している
「・・・・・・・・っ」
何の話かは分からないが、きっと清乃が朝聞いてきた事と何か関係あるのだろう
こんなの――――噂を認めている様なものだ
何となく、それはそれで微妙な気がした
嫌だとかそういのではなく、事実と違う事だからだ
それなのに・・・・・・
彼は嫌ではないのだろうか?
そんな疑問が浮かぶ
そうしている内に、階段だけを何段も登る所に差し掛かる
「あ、あの、一体どこに――――」
流石の沙綾も不審に思ったのか、やっとの思いでそう切り出すと
「行けば分かる」
そう言って、どんどん階段を登っていく
そして、最上階の扉が見えてきた
拓磨は躊躇うことなくその扉を開けた
瞬間――――
ざあああああと、赤い景色が一面の広がった
「・・・・・・っ」
一瞬、あの赤い夢と重なり、沙綾が手で目を遮る
脳裏に過ぎる
赤銅色の髪の男の人が泣きながら謝罪をしてくる映像が
あ・・・・・・
だが、それは一瞬にして消えた
「ここ――――」
そこは、この季封村が一望できるのではないかというぐらい絶景の場所だった
「・・・・・・屋上って言うんだ」
「屋上?」
「ああ、今の時期は特にここから見える景色は綺麗で――――」
そこまで言いかけて拓磨が沙綾を見た
「・・・・・・・・・?」
何だろうと、沙綾が首を傾げる
だが、拓磨はふいっと直ぐに視線を逸らすと
「先輩たちはまだみたいだな」
「先輩?」
とは、真弘と祐一の事を言っているのだろうか?
そんな風に思っていると、拓磨が屋上のフェンスに寄り掛かって座った
そして、ぽんぽんっと自身の隣を叩いて
「ほら、突っ立ってないでお前も座れ。 立ったまま飯食う気か?」
「え・・・・・・?」
お昼・・・・・・?
もしかして、彼はお昼の為にここにきたのだろうか・・・・・・
そんな風に思っていた時だった
ふと、視界に入った赤い景色が揺れた様に見えた
「・・・・・・・・・?」
な、に・・・・・・
何かが、無理やり何かをこじ開ける様な――――・・・・・・
瞬間、どくん・・・・・・! と、何かがざわめいた
この、感覚は――――・・・・・・
「うっ・・・・・・」
ぐらりと、沙綾の身体がその場に崩れ落ちかける
「沙綾!」
いち早く沙綾の異変に気付いた拓磨が駆け寄ろうとした時だった
不意に、ふわりと、誰かに抱き止められた
「あ・・・・・・」
はっとしてそちらを見ると――――
美しい銀の髪に金の瞳の青年が、沙綾を抱き止めていた
「大丈夫か・・・・・・?」
そう、静かに語りかけられる
「あ、なた、は・・・・・・」
ああ、懐かしい・・・・・・
「げん、と・・・・か・・・・・・さ、ま・・・・・・」
「沙綾・・・・・・?」
「祐一先輩!!」
遠くで拓磨の声が聞こえた気がした
だが、沙綾の意識は奥深くへと沈んでいったのだった―――――・・・・・・
さてさてさて、担任のりっかくん
おっとこ前の女性ですwww
こういうキャラもいいんじゃなかなぁ~ともってwww
フィオナと差が付けられるしね~
前:無し
※改:2023.01.07