CRYSTAL GATE

    -Episode ZERO-

 

 

 七海の闇と光 3

 

 

 

「エリス……」

 

微睡の中、誰から自分を呼ぶ声が聴こえた

 

「エリス……」

 

優しく、優しく、慈しむ様な声……

エリスティアの大好きな声…

 

声の主は分かっている

こんな呼び方をする人は一人しかいな

 

エリスティアは、ゆっくりとそのアクアマリンの瞳を開けた

そして、愛しいその人をその瞳に捕える

 

「シン……?」

 

ゆっくりとその名を口ずさむと、隣で寝ていたシンドバッドがにっこりと微笑んだ

 

「おはよう、エリス。エリスはお寝坊さんだな」

 

いたずらっ子の様にシンドバッドがそう言うと、エリスの額をとんっと突っついた

その行為に、エリスティアが額を押さえてむっとする

 

「お寝坊さんって……今、何時だと思っているのよ…」

 

窓の外は真っ暗で、どう見ても朝ではない

いや、むしろ真夜中と言っても過言ではなかった

 

エリスティアは、首を傾げながらシンドバッドを見た

見ると、シンドバッドはすっかり着替えていた

しかも、何故か凄くうきうきしている

 

「え、えっと…シン??」

 

シンドバッドにしては珍しい…

先に起きる事はあっても、着替えを済ませている事は、旅していた時ならまだしも王になってから一度として無かった

 

それが、すっかりいつもの姿になっており、エリスティアが起きるのを今か今かと待っている

エリスティアは眠い目を擦りながら、身体を起こした

 

「こんな夜中にどうしたの? シン…」

 

エリスティアがそう尋ねると、シンドバッドは目をキラキラさせながら

 

「行くぞ! エリス」

 

「え……?」

 

行く…?

 

今、何と言ったか

行く? こんな時間に一体何処に行くというのだ…???

寝起きで思考が回らないのか、エリスティアは益々意味が分からないという風に首を傾げた

 

「シン…? 意味が分からないわ」

 

エリスティアがそう尋ねると、シンドバッドはずいっと顔を近づけて来て

 

「決まっているだろう? 開かずの間に行くんだよ!」

 

「え……」

 

開かずの間…?

それは、昼間八人将と一緒に行ったあの青い扉の部屋の事だろうか…?

そこにこんな夜中に行く…??

 

そこまで考えた瞬間、エリスティアの顔がサーと真っ青になった

 

「ま、ままま、まさか…今から行くの!?」

 

「ああ!」

 

さも当然のように言う、シンドバッドにエリスティアが大きく首を横に振った

「私、行かないから!!」

 

そう言ってがばっとシーツを頭から被る

それを見たシンドバッドは、突然シーツの上からぎゅっとエリスティアを抱きしめた

その行為に驚いたのは他ならぬエリスティアだ

 

「ちょっ…ちょっとシン…っ」

 

シーツから感じるシンドバッドの温もりが、エリスティアの身体を熱くさせた

 

「んー? なんだ?」

 

だが、シンドバッドは何でもない事の様に、更にぎゅっと抱きしめる手に力を込めた

ますます、頬が高揚していく

 

エリスティアは真っ赤になりながら、身体をよじった

 

「あの…離し……」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「嫌って……」

 

何を言っているのだ、この男は

だが、シンドバッドはお構いなしに、そっとシーツをめくるとエリスティアの顔を見た

 

「真っ赤だな。 可愛い」

 

その言葉に、更にエリスティアが頬を染める

 

「シ、シン…あの……んっ」

 

何か言い繕おうとした瞬間、その唇はシンドバッドのそれに塞がれた

 

「シ…ン……あっ……」

 

突然のキスは、エリスティアの予想外の事でどう対処していいか分からなかった

だが、シンドバッドはその手でエリスティアのストロベリーブロンドの髪に触れると、更に深くキスをしてきた

 

深くなったキスに、エリスティアが戸惑いの色を見せる

 

「待っ……あっ……ん……」

 

「エリス――――可愛過ぎるお前が悪い」

 

“待って”と言おうして開いた口は、あっという間にシンドバッドに塞がれた

どんどん深くなっていくキスに、徐々にエリスティアの思考が麻痺していく

 

思わず、ぎゅっとシンドバッドの袖を掴んだ

それに気分を良くしたのか、シンドバッドがエリスティアの背中に回していた手を彼女の夜着の隙間にそっと忍び込ませてきた

 

ぎょっとしたのはエリスティアだ

突然の行為に、慌ててシンドバッドと距離を取ろうと暴れる

 

「ちょ、ちょっとシン! 何しているのよ!!」

 

「何って……? お前が余りにも可愛いから抱きたくなったんだ」

 

「で、でも……」

 

「ん? 俺に抱かれるのは嫌か? いつもあんなにいい声を出しているのに――――」

 

そう言って、シンドバッドがちゅっとエリスティアの鎖骨にキスをする

 

「あっ……」

 

ぴくんっとエリスティアがそれに反応する様に声を洩らした瞬間、シンドバッドがにやりと笑みを浮かべた

 

「ほら…な?」

 

「~~~~~~~っ!」

 

エリスティアが声にならない叫び声を上げた

シンドバッドの言う通りの反応をしてしまったのが悔しいのか、むぅっと頬を膨らませシンドバッドを睨みつける

 

その反応に、シンドバッドが笑みを浮かべる

 

「馬鹿だなぁ…そんな顔しても、俺を煽ってるようにしか見えないぞ?」

 

そう言ってシンドバッドが更にその行為を加速させようとする

それには、流石のエリスティアも黙ってはいなかった

 

慌ててぐいっとシンドバッドを自分から離すと叫んだ

 

「シ、シン! 開かずの間に行くのでしょう!?」

 

「ん?」

 

「だから、行くならさっさと行きましょう!!」

 

もう苦し紛れの言い分だった

本当は行きたくないが、このままここに居てはまた抱かれかねない

流石に、一夜に何度もは勘弁してほしい

 

言われて、シンドバッドがにやりと笑み浮かべる

 

「俺的には、お前を愛した後にゆっくりと開かずの間探索でも構わないんだがなぁ…?」

 

その言葉に、ぷるぷるとエリスティアが首を振った

 

「いや、丁重にご遠慮させて頂きます」

 

「何故だ? 俺に抱かれるのは嫌か?」

 

「え……」

 

まさかそう返されるとは思わず、エリスティアが口籠る

シンドバッドに触れられるのは嫌ではない

むしろ、安心する

 

でも、これとそれは話が別だ

 

「だ、誰もそんな事……」

 

「ん? そんな事…なんだ?」

 

シンドバッドが優しげに琥珀の目を細めてそう尋ねてくる

その瞳に、思わずうっ…とエリスティアが口籠る

 

「……えっと、その……」

 

頬が熱い

心臓が、どきどきと鼓動する

 

「どうした? 言ってくれなければ分からないぞ?」

 

「~~~~っ、意地悪」

 

シンドバッドは、直ぐこうやってエリスティアに言わせようとする

そうやって、エリスティアの気持ちを確認しているのか

そんな事しなくても、もう自分の心は彼の虜なのに……

 

「どうした? エリス。 お前のその愛らしい声で聴きたい」

 

「………っ」

 

かぁ…と、エリスティアの頬がどんどん高陽していった

そのまま恥ずかしそうに俯いてしまう

 

「エリス―――?」

 

シンドバッドが催促する様に、名を呼んだ

 

「……わ」

 

「ん?」

 

「……だから! その……」

 

「うん」

 

恥ずかしい…

顔から火が出そうだ

でも、言わなければきっとシンドバッドは諦めてくれない

 

エリスティアは、真っ赤な顔を隠す様に俯いたまま

 

「シ、シンに触れられるのは……嫌いじゃ…ない、わ…。 好き…よ?」

 

それが、今のエリスティアに答えられる精一杯だった

だが、シンドバッドはその答えに満足したのか、満面の笑みを浮かべて

 

「ありがとう。 俺もお前に触れるのは好きだ」

 

そう言って、優しくエリスティアの額にキスを落とした

それが何だが気恥ずかしくも、嬉しくもあり

エリスティアは照れた様に俯いた後、少しだけ顔を上げた

すると、優しく微笑んだシンドバッドと目があった

 

それだけの事なのに何だか嬉しくなり、その顔に次第に笑みが浮かんでくる

 

それに満足したのか、シンドバッドは「仕方ないなぁ…」と言いながらエリスティアを解放してくれた

やっと、シンドバッドから解放されてほっとしたのもつかの間

 

「よし、なら開かずの間に行くぞ!」

 

「……やっぱり行くの…?」

 

エリスティアがまだ渋る様にそう言うと、さも当然の様に

 

「行くとも! さ、エリス!」

 

そう言って、手を伸ばしてくる

エリスティアは小さく息を吐くと、観念した様にその手に自身の手を乗せた

先程、行為を拒んだ手前流石にこれ以上拒む事は出来なかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンドバッドと2人、東の塔の最上階 通称・“開かずの間”の前にやってくる

昼間に見た時とは打って変わり、その青い扉は不気味に見えた

 

エリスティアはごくりと息を飲むと、ぎゅっとシンドバッドの腕を掴んだ

それを見たシンドバッドが優しく問いかける

 

「怖いか?」

 

「……………べ、別に…」

 

強がりもいい所だった

本当は、めちゃくちゃ怖い

引き返せるならば、今すぐにでも引き返してしまいたい

 

エリスティアはそっと辺りを見渡した

 

回廊は静まり返り、夜の帳を照らす様に、所々灯りがともされている

だが………

 

「ね、ねぇ…みんなは?」

 

てっきり、他の八人将の皆も来るのかと思ったのに、その気配は全くなかった

なのに、シンドバッドはさも当然の様に

 

「ん? 寝てるんじゃないのか?」

 

「え……で、でも……」

 

「俺が今夜誘ったのはエリスだけだからな」

 

「ええ!?」

 

まさかの発言に、エリスティアが驚愕の声を上げる

てっきり、皆も来ると思っていたから少しは安心していたのに…

まさか、シンドバッドと2人だけだなんて、そんな話聞いていなかった

 

「シ、シン……っ」

 

どんどん不安になり、エリスティアがシンドバッドの腕を強く掴む

シンドバッドは、そんなエリスティアを安心させる様にそっとその手に自身の手を重ねた

 

「大丈夫だ、俺がいる」

 

「……う、うん…」

 

今にも泣きそうなエリスティアを見て、シンドバッドがぽんぽんっと頭を撫でた

 

そして、ゆっくりとその青い扉に近づくと、そっと手を伸ばした

 

「シ、シン、危ないわよ……っ」

 

いきなり触れようとしたシンドバッドに、エリスティアが慌てて口を開く

だが、シンドバッドは気にした様子もなく、そのままぐいっと扉を押した

瞬間――――

 

 

ギギギギギギギ

 

 

「う…そ……」

 

扉が開いたのだ

 

昼間、あのドラコーンとヒナホホ2人掛かりで押してもビクともしなかった扉が

シンドバッドが軽く押しただけで開いてしまったのだ

 

「何だ、開くじゃないか」

 

そう言ってシンドバッドは何でもない事の様にそのままその部屋の中に入ってしまった

 

「シ、シン……!」

 

廊下に1人取り残されそうになり、慌ててシンドバッドを追いかける

意を決して、そっとその青い扉に触れると、一瞬ぴりっと何かが走った

 

「………?」

 

思わず手を見る

だが、そこには何も痕跡はなかった

 

「エリス、来てみろ」

 

不意にシンドバッドが中からエリスティアを呼んだ

思わず、足が竦む

だが、このまま1人でいるよりシンドバッドの傍にいる方がマシと判断したのか

エリスティアは、恐る恐るその部屋の中に足を踏み入れた

 

シンドバッドのいる傍まで駆け寄ると、そっと彼の持つ物を見た

それは一冊の青い背表紙の本だった

そして、もう一方の手には蒼い薔薇が一輪

 

「それは……」

 

「ん? このテーブルの上に置いてあった」

 

そう言って、シンドバッドがパラパラとページを捲る

それは、トランの碑文に書かれている文字と同じ物だった

 

「トラン語……?」

 

「その様だな…読めるか?」

 

「えっと…この――――……」

 

そこまで言い掛けた時だった

突然、ビュウッと風が吹いたかと思った瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――バタン

 

 

 

 

 

 

 

何かの音が部屋中に響いた

 

「え……」

 

一瞬、嫌な予感が頭を過ぎる

恐る恐る後ろを振り返ると――――

 

「シ、シン…扉が――――……」

 

あの青い扉が閉まっていたのだ

 

「…風で閉まったんじゃないのか?」

 

そう言ってシンドバッドが取っ手に手を掛けて引っ張ってみる――――が

 

「開かないな」

 

「ええ!!?」

 

シンドバッドのまさかの発言に、エリスティアが慌てて扉の取っ手に手を伸ばして引っ張った

だが、さっきまで開いてた筈の扉はびくともしない

 

まさか……

 

「ふむ…閉じ込められたらしいな」

 

 

 

 

      う…嘘、で、しょう――――――!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続

 

 

安定の、いちゃつきっぷりですww

だってー本編がまだ再会してないからねぇー

再会したらどうなるんだww こいつらww

 

さて、開かずの間に侵入したら閉じ込められましたww

てか、開いている時点で開かずの間ちゃうww という、突っ込みは無しの方向でww

 

2014/01/04