CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第二夜 ルシとマギ 1

 

 

『僕はきみの友だちさ!』

 

そう言ってくれたアラジン

また一緒に冒険しようと約束した

 

そう―――アラジンとエリスティアと3人でまた一緒に冒険しようと―――約束、したのだ

 

アリババは、三日三晩 2人を待ち続けた

しかし、アラジンもエリスティアも帰ってこなかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

遠くの空を、雲が流れている

チーシャンのシンボルだったアモンの迷宮はもうない

だが、街は活気に溢れていた

 

十年もの間、攻略者を退けてきた第七迷宮・アモン

それを1人の少年が攻略したのだ

 

それが、アリババだった

 

アリババは、ぼんやりとチーシャンの街を窓から眺めていた

 

「いや~~~~、旦那様、今日もいい男っぷりで~~~」

 

不意に、豚を圧し潰した様なブーデルの猫なで声が聴こえてきた

だが、アリババは振り返る気になれずにそのまま窓の外を眺めた

 

すると、ブーデルは身体をくねくねさせながら

 

「それもその筈! 気前がいいのが砂漠の男! 最大の美徳っ! 私への借金なんぞ、旦那様ったら倍額の利子付けて返して下さって~~~。それに、財宝をあんな事に使うなんて!」

 

「……………」

 

この3日間、ずっとこれだ

正直、うんざりを通り越して呆れてくる

 

だが、ブーデルは気にした様子もなく、満面の笑みを浮かべたまま大量の豪華な料理を運ばせてくる

そして、自らが自慢のブドウ酒をグラスへと注いでいく

 

「さぁさぁ、こちらへ~。わたくしめも、極上の酒と女を用意しましたぞ」

 

ブーデルの対応に、流石に疲れてきた

アリババは、はぁ…と小さく溜息を付くと

 

「あのさ、俺なんかのご機嫌取って恥ずかしくねぇの?」

 

「ぜんぜん~」

 

数日前まで、クズとかドブネズミとか散々言われてきていたのに、この変わり様

世の中金なのだと、思い知らされる

 

アリババはまた溜息を付くと、窓の外を眺めた

 

 

『お金でも、お酒でも買えないもの。もっと僕に教えてよ』

 

 

あれから3日も経つんだぞ……

どこ行ったんだよ、アラジン……

 

上手い飯も、豪華な宴会も

アラジンが居なければ、全然意味が無かった

 

アリババが望んだのはこんなのではなかった

ただ、二人で一緒に楽しく冒険して

たまに、エリスティアも混ざって

皆で、わいわいしながら―――――……

 

 

「………………っ」

 

 

アラジン

エリス……

 

どこ行っちまったんだ……!!

 

その時だった

 

「アリババ様、子供のお客様がいらっしゃっています」

 

「!?」

 

アリババはハッとした

 

まさか……

まさか、アラジンが……!?

 

早る気持ちを押さえながら、慌てて階段を駆け下りる

 

『ただいま!アリババくん』

 

そう言ってきっと待ってくれている

アラジンが――――……!!

 

 

「おかえり!アラジン……っ!!」

 

 

バンッと勢いよくドアを開けた

 

 

アラジンがきっと―――――

 

 

「……………」

 

 

「………………あ」

 

だが、そこに立っているのはアラジンでは無かった

あの時、迷宮(ダンジョン)を一緒に脱出したモルジアナという少女だったのだ

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

「どうしてあなたは……財宝の半分も使って、私達奴隷を解放したんですか?」

 

「…………あいつなら、こうしたかなって思って…」

 

ブーデルが言っていた”あんな事“

それは、全奴隷の解放だった

アリババは、財宝の半分を使って、チーシャンの奴隷を解放したのだ

 

「所でさ、あれからどうしてるんだ?」

 

「はい、解放された奴隷達は身の振り方が決まるまで、新しい領主様の元でちゃんと賃金を貰って働いています。 新しい領主様が良い人で……解放された奴隷達は皆、貴方に感謝しています」

 

それからモルジアナは、一度だけその赤い瞳を閉じ

 

「……恐らく私も…物心が付いて以来初めて…足首から枷が消えた時に…息を呑む様な気持ちが込み上げてきました…。私も感謝を…しているんだと思います。貴方と…貴方のご友人のあの少年と、女の方に―――」

 

その言葉に、アリババが微かに笑う

 

「……これからどうするんだ?」

 

「いつか故郷に帰ります。 私の恩人の言葉ですから」

 

その言葉に、アリババはハッとした様に目を見開いた

 

「恩人の言葉か……」

 

ぐっと、握っていた手に力が篭る

 

「そうだよな…。俺もいい加減決めねぇと」

 

「……………?」

 

モルジアナが首を傾げた時だった、アリババは不意に笑みを浮かべると

 

「ありがとうモルジアナ、いい近況が聞けて迷いが晴れたよ。まぁ、お前も元気でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――翌朝

 

モルジアナは、いつも通り朝の掃除をしていた

昨日のアリババの言葉

 

『ありがとうモルジアナ、いい近況が聞けて迷いが晴れたよ。まぁ、お前も元気でな』

 

あれは、一体どういう意味だったのだろうか?

 

お礼を言うのは自分の方なのに

それなのに、何故かアリババに礼を言われた

 

益々持って、意味が分からない

 

モルジアナが理解が出来ず首を捻っている時だった

 

「ねえ、聞いた?例の“第七迷宮”のアリババ様さぁ、今朝、急にこの街を旅立っちゃったらしいわよぉ~~~」

 

え………

 

カラン…と、持っていた箒を落とす

 

「残りの財宝はね、元奴隷たちの最低限の衣食住の保障に殆ど使っちゃったんだって……」

 

「その代り、皆に伝言を頼んだらしいわよ。“アリババはバルバッドにいる”と……”アラジン”が来たら、伝えてくれって……」

 

「………………っ」

 

知らず、モルジアナは走り出していた

慌ててアリババの泊まっていたホテルに向かう

 

 

だが、そこにはもうアリババの姿は無かった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリババは馬車を走らせながら、バルバッドを目指した

 

あの言葉、本当に嬉しかった

 

 

『きみは卑怯者なんかじゃないよ。勇気ある人だよ!絶対に。』

 

 

アラジン

エリス

 

俺はやるべき事をやりながらお前らを探す

 

そして、また一緒に冒険をしよう―――――!!

約束、したもんな

 

こうして、アリババはアラジンとエリスティアと別れ、1人バルバッドへ旅立ったのだ

彼が手に入れたのは、決意と、少しの財宝と、そして、“迷宮”の不思議な力だった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、君…聞いてもいいかな?」

 

アラジンの問いに、”彼“は静かに答えた

 

「“くに”ってなんだい?」

 

『国とは、政治機関が支配する一定の土地や民族です』

 

「へぇ…じゃぁ、“民族”ってなんだい?」

 

『民族とは、血縁を共有する共同体です』

 

”彼“は何でも知っていた

何でも答えてくれた

 

でも――――……

 

「じゃぁ、僕ってなんだい?」

 

『…………』

 

いつもだった

いつも、この問いには答えてくれない

 

一番知りたい事なのに

一番、気になっている事なのに

 

「君は、いつもこれには答えてくれないね……僕が、書物に書かれたどの世界からも隔てられ、1人でここにいる意味は?」

 

『…………』

 

「………答えてよ」

 

『…………』

 

 

 

 

「何故、何も言わない……!!」

 

 

 

 

そこで目が覚めた

 

「………………」

 

そこは見知らぬ場所だった

見た事もない天井が視界入り、アラジンはその目を瞬かせた

 

ここは何処だろう……?

 

ごそりと起き上がり、辺りを見渡す

見た事のない建物…?と呼ぶには頼りない部屋の中

 

何だろうコレ……

 

不思議に思い、壁らしきそれを突いてみる

すると、それは布だった

 

布のお家…?

 

馬車に張られているテントに良く似ていた

が、揺れている訳でもないので、馬車の中ではない

 

その時だった、外の方から「メー」「メー」という謎の鳴き声が聴こえてきた

 

「…………?」

 

すると、バサリとテントの入り口とおぼしき所が開き、中から1人の女の人がトレイに何かを乗せて入って来た

 

「あ……おはよう、目覚めたのね」

 

そう言って、女の人はにっこりと微笑んだ

 

「朝ごはん、食べる?」

 

”朝ごはん“という単語に、アラジンが嬉しそうに歓喜の声を上げる

 

もこもこと、用意してくれた食事を食べながら、アラジンは目の前の女の人を見た

エリスティアとも、モルジアナとも雰囲気の違う優しい感じの人だった

 

「おねいさんは、誰だい?」

 

アラジンの問いに、彼女はにっこりの微笑んだ

 

「私は、トーヤって言うのよ。貴方のお名前は?」

 

「僕はアラジン!旅人さ」

 

「そう、アラジンくんって言うのね。でも、元気になって良かった。キミね、山裾に倒れてたんだよ……夜になったら狼に食べられちゃう所だったんだから……」

 

その言葉に、アラジンはもぐもぐと口を動かしながら

 

「こわいねぇ~」

 

と、少し驚いた様に声を上げた

 

「それで、おねいさんが僕を拾ってくれたのかい?」

 

「ううん…キミを拾ったのはね…ドルジっていう、私の友達なの……」

 

「ふぅん……」

 

もぐもぐと口を動かす

 

「ねぇ、おねいさん…この建物はなんだい?布みたいだけど…」

 

「これ?これはね…ゲルっていう天幕の一種で―――」

 

と、その時だった

バサリと、ゲルの入り口が開き、1人の老婆がが入って来た

 

「おや…お目覚めかい?ルフの子よ」

 

「………ルフ?」

 

聞きなれない言葉に、アラジンが首を傾げる

 

「あら、おばあちゃん」

 

トーヤが席を譲ると、老婆はアラジンの傍までやってきた

 

「どれどれ、ババに顔を良く見せておくれ」

 

そう言って、じっとアラジンの顔を覗き込んだ

すると、にっこりと優しそうに微笑むと

 

「ふむ、元気になったようじゃのう。ルフが喜んでおる」

 

老婆―――ババの言葉に、トーヤが苦笑いを浮かべて

 

「あ…ルフって言うのはね、おばあちゃんの作ったお伽噺なの…」

 

トーヤの言葉に、ババは小さく首を振った

 

「お伽噺でねぇよ。ルフは今日もそこいらをキラキラ飛んでおる」

 

「またまた……」

 

と、苦笑いを浮かべるトーヤだが、アラジンはその言葉に大きく目を見開いた

 

「え…おばあちゃんにもこれが見えるの?」

 

アラジンの言葉に、驚いたトーヤだが、ババは小さく頷いた

 

「ああ、見えるよ。お主にも見えるのか?この、無数の鳥の形をした命の流動が…」

 

ババがそう言った瞬間だった

無数の白い鳥たちがババの周りを飛び始めた

 

「わぁ……っ!」

 

アラジンが嬉しそうに顔を綻ばせる

 

「凄いよ、おばあちゃん!!」

 

「ほっほっほ、そうかい?」

 

「ねぇ!ルフってなんだい!?」

 

この人なら、答えてくれる気がした

アラジンが身を乗り出して聴いてくる

すると、ババは嬉しそうに顔を綻ばせ

 

「ルフとは…すなわち、魂の故郷。 生きとし生きるものは個、だが、死ねば皆ひとつの場所へと帰ってゆく…それが、ルフ。 命の原始にて終焉…。 人は死ぬと、肉体は土に還る。魂は…ルフへと還っていくのじゃよ……」

 

「魂の故郷……」

 

初めて聞く言葉だった

 

「へぇ…僕は、そんな事知らなかったよ…。 彼らには助けてもらってばかりだな」

 

「助けて?」

 

「うん…僕のお腹の力を分けてあげるとね、光の粒が集まって来て、僕に力を貸してくれるんだ」

 

その言葉に、ババが驚いた様に大きく目を見開いた

 

「なんと…それは――――……」

 

その時だった

バサリとゲルの扉が開き

 

「ババ様。偵察隊が帰ってきました」

 

1人の少年がそう言うと、ババは小さく頷き

 

「うん、分かった」

 

そう言って杖を持つと外へ出て行ってしまった

アラジンも、ベットから起き上がると、その後に続いた

 

外に出た瞬間、その光景に目を奪われた

遠くまで広がる草原の大地に、幾つものゲルが立ち並び、子供たちが遊んでいる

 

こんな光景、見た事なかった

 

アラジンは嬉しくなり、思いっきり駆け出した

ふと、目の前にババとトーヤが立っていた

そして遠くの方から土煙と一緒に騎馬の一団がやってくる

 

「見えるか?」

 

「うん」

 

一団はババ達の前に到着する地、皆馬から降りた

その内の1人にトーヤが駆け寄る

 

「おかえり、ドルジ」

 

「おう!」

 

ドルジと呼ばれた青年は、嬉しそうに微笑む

 

「怪我しなかった?」

 

トーヤの心配そうな言葉に、思わずドルジが照れた様に頬を赤く染て前髪を触りだす

その様子がおかしくて、皆が一斉に笑い出した

 

「彼がドルジよ。 アラジンくん」

 

「ああ、あの時の子供じゃねぇか。もう大丈夫なのか?」

 

気を取り直してそう言うドルジにアラジンは元気よく頷いた

 

「うん、大丈夫さ!助けてくれてありがとう、おにいさん!」

 

「ハハハ、そりゃぁ、よかった」

 

その時だった

 

「なぁ、トーヤ!」

 

突然、仲間の内2人の青年が大鹿を持って3人の前にやってきた

 

「このでかい鹿!ドルジが獲ったんだぜ!トーヤの為に!」

 

「バ、バカ、そういう訳じゃねーよ」

 

「カッコイイって、言ってやれよ、なぁ、トーヤ」

 

その言葉に、じーとトーヤが大鹿とドルジを見比べる

2人を締め上げていたドルジもトーヤの言葉が気になって、ドキドキしつつも、顔を逸らしてしまった

 

すると、トーヤは心配そうに……

 

「こ…怖かったでしょうドルジ…。泣かなかった? 昔は、ウサギも怖がっていた貴方が……」

 

トーヤのその言葉に、周りの仲間たちがどっと笑いだす

ドルジは顔を真っ赤にさせると

 

「いつの話だよ!!俺だって成長して、一人前の男になったんだ!」

 

げらげらと周りが笑うのを余所に、ドルジがぐいっと胸を叩いた

 

「俺はもう、我ら黄牙一族の戦士だ!一族の為に、何とだって戦えるぞ!!」

 

「カッコイイ、おにいさんだねー」

 

ドルジの言葉に、アラジンが笑みを浮かべる

が、トーヤの少しだけ表情を暗くしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、東がどうじゃった?」

 

「また村がひとつ侵略されました」

 

その言葉に、ババは難そうに頷いた

 

「東方の煌帝国ですが、さらに勢力を拡大しています。すでに広大な極東平原を統一し、西方…つまり、我々の村へといずれは侵略してくるものと……」

 

「……………」

 

「敵は、怪しげな化け物を戦に使うというし…心配です」

 

「う~~~~~~む」

 

ババが更に難し顔をした時だった

 

「大丈夫だ!ババ様!!」

 

突然ドルジの声が響いた

 

「俺達、黄牙の一族は何百年も他国の手を跳ね除けてきたじゃねぇか!今度も、一族一丸となって蹴散らかしてやろうぜ!!」

 

ドルジの言葉に、皆がうんうんと頷く

 

「一族の誇りの為に!!」

 

 

 

「「「おお――――――!!!」」

 

 

 

ピィ―――――――

 

皆が、おおっ!と手を上げた所に、何故か巨大な青い手が――――

 

「?」

 

   「うわあああああああ!!!」

 

 

 

皆が奇声を発したのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリス!」

 

呼ばれて、エリスティアが振り返った

そして、その姿を捉えてにっこりと微笑む

 

蘭朱(らんしゅ)

 

蘭朱と呼ばれた少女はエリスティアを見つけると、ぱたぱたと駆け寄った

 

「今日も、行くの?」

 

蘭朱の問いに、エリスティアが小さく頷く

 

「ええ…いつもの丘に行くだけだから心配しないで」

 

そう言って、にっこりと微笑む

だが、エリスティアの言葉に、蘭朱は顔を曇らせた

 

「ごめんね、いつもいつもお母さんの為に……」

 

蘭朱のその言葉に、エリスティアは小さく首を振る

 

「気にしないで、助けてもらったお礼がしたいだけだから」

 

「でも、あの丘は時々煌帝国の兵士がうろついてる時もあるって噂で―――」

 

心配そうに言う蘭朱に、エリスティアはそっとその手を握った

 

「大丈夫、いざとなったら逃げるわ。だから、心配しないで」

 

そう言ってエリスティアは手を振ると、そのまま蘭朱を残していつもの丘へと向かった

そこで、不思議な出会いがあるとも知らずに――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二夜 開始ですね

最初なので、それぞれにスポット当たってますが…

今から、アリババはお休みですねぇ~(^◇^;)

 

その分、アラジンと夢主の話になると思います

モルさんは、アラジンが終わってからだな

 

さて、夢主は何処に飛ばされているのでしょうか…?

 

2013/09/14