華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 6

 

 

――――時は、1時間前に遡る

 

政府機関・某所

 

小野瀬は壁伝えによろめきながら歩いていた

 

つ……

つ……………

疲れたあああああああああ!!!!

 

 

と、心を大にして叫びたい心情を必死に抑えていた

 

少し前に、入電した鶴丸からの指示

 

『華号をどうにかもぎ取ってこい!』

 

無茶にもほどがある指示だった

三老の決めた事に、他の者が覆せるわけがない

だが、鶴丸のいう事も最もで――――………

 

華号も与えず、それも特Aランクの任務を初任務に偽ってあてがう―――――

 

はたから聞いたら、ふざけるなと言われても仕方ない

それが、どういうレベルの物かわかる者からすれば、突き返されても文句は言えないだろう

 

沙紀たちは、それが“特Aランク”と知らず、“微弱な干渉レベル”の任務として伝えられた

勿論、最初に三老にそれを聞いたとき、小野瀬は抗議した

だが、まったく意味のないものだった

 

ここでは三老が全て

三老が1+1=3と言えば、それは“3”なのだ

 

それぐらいの発言権を握っている――――それが“三老”という存在なのだ

もう、それは絶対君主制と変わらないシステムだった

 

小野瀬だって他の者だって、それが正しいとは思っていない

しかし、抗うすべを知らない

 

せいぜい出来ることと言ったら、陰で愚痴をこぼす程度の事だった

 

だらか、今回の事に関して小野瀬は最大限の抵抗をした

三老には報告せず、独断で他の本丸の刀剣男士を沙紀の本丸に送った

そして―――――………

 

はぁ……とため息を洩らしながら右手にあるチップを見る

そこのは、“竜胆”の印が押されていた

 

そう――――これこそ、鶴丸が指示してきた“華号”だった

正確にはその予定の“華号”の“一部”なのだが――――――………

 

基本的に、“華号”は“華の授与式”を受けて初めて加護を受けられるようになる

だが、秘密裏に動くのに、“華の授与式”は執り行えない

 

そこで、小野瀬がしたのは“沙紀に授与される予定の華号の一部”を切り取ってデータ化することぐらいだった

 

これで足りないとか言われたら、さすがの小野瀬でも心が挫けそうになる

 

はぁ……と、また大きなため息を洩らした時だった

 

「小野瀬!!」

 

ふいに、誰かに大声で後ろから呼び止められて、どきっとする

 

ここまで来て、誰かに気づかれるわけにいかない

小野瀬は咄嗟に逃げることにした

 

が―――――……

 

「おっと、そうはいかないぜ!!」

 

その声は、あっという間に小野瀬を飛び越えて目の前に姿を現したのだ

すぐさま、小野瀬は反転して逆の道に逃げようとした、が

 

その者は、小野瀬が逃げようとした道側に何をとち狂ったのか刀を投げつけてきた

 

「うわぁ!!」

 

流石の小野瀬も、目の前に突き刺された刀にびっくりして、足を止めざるを得なかった

が――――――……

 

その刀を見た瞬間、ある事に気づいた

この刀身は――――――…………

 

嫌な考えが頭をよぎる

まさか…………

 

恐る恐る後ろで仁王立ちしているであろう“彼”のほうを見る

 

「つ、鶴丸…くん???」

 

振り返ると、そこにいたのは“ここにいるはずのない“鶴丸だったのだ

 

「な……、なんで君がここにいるんだい!?」

 

驚くのは当然である

昔ならいざ知れず、今はもう“竜胆”と名乗っていた“鶴丸国永”は彼の希望した

彼女―――沙紀の”本丸”に異動になったはずだからだ

 

だから、ここの政府の機関内にいるはずがないのである
にもかかわらず、ここにいるという事は………

 

「え、ええっと……まさか、遅すぎるから 催促に………」

 

「今すぐ、簡易転送装置を貸せ!!」

 

「やっぱり、“華号”の催促に―――――――って、え?」

 

ん? 今彼は何と言った???

簡易転送装置????

 

それは、鶴丸が竜胆と名乗っていた時に使っていた装置で

“審神者”の力を借りずに、時空の移動を可能とする装置だった

 

んんんん?????

 

いまいち、話が見えない

 

何故それが必要なのか

今、鶴丸の元には沙紀――――“審神者”がいる筈である

勿論、彼らの“本丸”にもちゃんとした転送装置がある

 

にも関わらず、鶴丸は簡易転送装置をよこせと言ってきた

まるで、何か予測不能の事態が起こったかのような――――――………

 

「でさ、あいつが――――」

 

後ろの方から、複数の同僚の声が聴こえてきた

小野瀬は、はっとして慌てて鶴丸の腕を引っ張った

 

「今、誰かに見られると面倒だから、とりあえず僕の部屋へ―――――」

 

そう言って、その場を足早に去ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、本丸内部はばたばたしていた

それもそのはず、この本丸の主である沙紀が消えて既に数時間が経とうとしていた

 

鶴丸が、その騒ぎに気付き駆け付けた時には、もう沙紀の姿はそこにはなかった

全員、何が起きたのかわからないという状態の中、直ぐに事態を察知した鶴丸は即座に転送装置の履歴を探った

 

そこから割り出されたのは

「天正7年の7月」そして場所は――――「京」だった

そう―――――任務で指定された「丹波」ではなく「京」

 

どういうことだ……?

 

転送時にいたのは、沙紀と一期一振、そしてもう一人いたらしい

それが誰かはわからないが……少なくとも一期一振が沙紀の傍にいるという点では、少しほっとした

 

予測外の転送で着地地点がずれた……?

 

そう考えるのが妥当か――――……

 

だが、憶測で動くには危険すぎた

元来、時空転送自体がまだまだ不安定なもので、しかも沙紀のような生身の人間には不可も計り知れない

 

だからこそ、万全の態勢を整えようとして、小野瀬に確認したのが

まさか、裏目に出るとは……

 

もし、あの時沙紀の傍を離れずにいれば―――――……

 

そう思うも、過ぎてしまった過去は取り戻せない

ならば――――今自分たちに出来ることをするだけだった

 

そこで、鶴丸は皆に「全員武装準備」を頼んで、一人どこかへ行ったのだ

この度の任務に随行するはずだった山姥切国広、燭台切光忠、三日月宗近、へし切長谷部、薬研藤四郎だけならわかる

だが、鶴丸は「全員」と言い残していった

 

つまりは、この本丸に残るはずだった、髭切・膝丸・大倶利伽羅も――――ということになる

 

なぜかはわからない

だが、それぐらい事態が深刻なのはわかった

 

しかし、本丸を完全に空にしていいものか……悩むところでもある

準備をしながら、そんなことをあぐねている時だった

 

長谷部が言ったのだ

 

「自分はここに残る」――――――と

 

「本丸を空にするわけにはいかない。 主の帰る場所を守るのも役目の一つだ」 と

 

「長谷部くん……でも、いいのかい?」

 

燭台切がそう尋ねる

本当なら、我先にと沙紀の元へはせ参じたいはずだ

それに、元は行くはずだったのだ

 

なのに、長谷部は残ると言った

まるで、それが今の自分に出来る最善の策だというように――――……

 

燭台切の問いに、長谷部はさも当然のように

 

「俺はまだ顕現して日も浅い、俺よりずっと先に顕現して主をお守りしてきた燭台切や山姥切とは違う。 それに、昨日顕現したばかりの三人に任せるのも、心もとない。 ならば、俺しかいないだろう!!」

 

そう言い切ったのだ

 

「それに―――――………」

 

そこまで言いかけて、長谷部は一度 言葉を切った

少し、言うのを躊躇っているのか……

 

はぁ…と、大きく息を洩らした後、少し不服そうに

 

「残念だが………今、主が一番必要としているのは、俺ではない……、鶴丸だろう。 そして、今の事態をどうにかできるのも、長く政府に身を置いていた鶴丸だと思っている……癪だがな」

 

そう言って、苦笑いを浮かべた

 

そう――――今自分が出来る最大限のことをする事こそ、主をお守りする道に繋がると

そう信じて…いや、信じるしかないとまるで自分に言い聞かせているようだった

 

「だから!」

 

ばんっと長谷部が燭台切の背を叩いた

 

「ちょっ……長谷部くん、何を――――――」

 

驚いたのは外でもない燭台切だ

だが、長谷部はふんっと笑うと

 

「主を任せたぞ!!」

 

そう言って、笑ったのだった

 

ちなみに、この後

「鶴丸が、不必要に主にちょっかいを出すようなら斬り捨てていいからな」

と、物騒な事を言っていたのは内緒である

 

去っていく長谷部の背中を見ながら、燭台切は苦笑いを浮かべた

 

「いいとこ、取られちゃったかな」

 

本当は、長谷部が言い出さなければ、自分が残るつもりでいた

でも、沙紀の元へ行きたいのも事実だった

 

どう切り出そうかと考えあぐねているときに、長谷部からの一言だったのだ

 

「なんだか、かっこ悪いな」

 

そう思わずにはいられなかった

それぐらい、長谷部は「かっこよかった」

 

その時、見かねた山姥切国広が声をかけてきた

 

「いいのか?」

 

その問いに、燭台切は小さくかぶりを振り

 

「うん、僕たちは僕たちの出来る最善を尽くそう!! かっこいい長谷部くんには負けられないからね」

 

そう言って笑った

 

燭台切からのその言葉に、山姥切国広は「そうか…」とだけ答えた

それから、静かに瞳を閉じると

 

「そうだな。 ……無事、あいつと合流出来る様に祈ろう」

 

と答えたのだった

 

その時だった

 

「待たせた!!!」

 

本丸の入口の方から、何かを持って鶴丸が帰ってきた

 

「鶴さん!!」

 

慌てて、燭台切が鶴丸に駆け寄る

 

「一体、あの後どこに―――――」

 

そこまで言い掛けた時だった、鶴丸がぐいっと何かを燭台切に押し付けた

 

「え? これは――――」

 

「簡易転送装置だ。 一応、全員分小野瀬からもぎ取ってきた」

 

「えええええええ!!?」

 

驚いたのは、他でもない燭台切の方だった

 

「も、もぎ取ってきたって―――――……」

 

無理やり小野瀬から鬼の形相で奪い取る鶴丸が思い浮かぶ

が、鶴丸は気にした様子もなく

 

「ああ、言い間違えた。 丁重に“借りてきた”んだ」

 

そう言って、笑った

絶対嘘だと、皆が思ったのは言うまでもない

 

「全員、準備は出来てるか?」

 

そう言って辺りを見回すと、ふとあることに気づいたのか

 

「長谷部はどうした?」

 

そう尋ねてきた

 

「あ、それなんだけど……」

 

先ほどの長谷部とのやり取りを説明する

すると、鶴丸は少し考えたように……「なるほどな」と答えて長谷部が去ったであろう廊下の端を見た

 

「あいつらしいかな……」

 

ぽつりと、そう呟くと

くるっと燭台切たちの方を見て

 

「この中で、この装置を使ったことがあるのは……俺ぐらいか」

 

そういうって、一人一人に装置を渡す

 

「これは、あくまでも簡易的な転送装置だ、残念だが一度に全員は送れない。 だから、いくつかの小隊に分ける。 後、不満かもしれないがホストは俺がやる」

 

その言葉に、一瞬不安を感じ燭台切が鶴丸を見た

 

「ホストって…?」

 

「要は俺を主軸に、一部隊ずつ転送させる。 そういう意味だと思ってくれていい」

 

「え? それって―――――」

 

そこまで言いかけた瞬間、鶴丸がぴしゃりと言い放った

 

「異論は言わせない」

 

「…………っ」

 

その言葉で、はっきりした

 

その「ホスト役」には、相当の負荷がかかることに

 

それもそうだろう

本丸の外の転送装置は沙紀がいないと使えない

しかもあの装置は6人前後ぐらいを想定して政府の研究機関が作り上げたものだ

 

それを、使わずに、複数人を連続して同じポイントに送る―――――……

 

それが、どれほど生身の身体に負荷がかかるのか――――

考えただけでも、ぞっとする

 

それをやると、言っているのだ――――ひとりで

 

だが、それと同時に、これを扱えるのは、鶴丸しかいないのも事実だった

そう――――どんなに危険だろうと、鶴丸の意見を飲むしか沙紀を助ける方法はないのだ

 

「みんな、準備は万端か!?」

 

鶴丸のその言葉に、「おう!」と、皆が頷いたのだった

 

「沙紀………待ってろ」

 

 

      「必ず―――――――――………」

 

 

鶴丸がそうぽつりと呟いたことに、誰も気づくことはなかった

だから、その後まさか、そうなるとは思いもよらなかったのだ―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント書くの忘れてたwww

2020年1月から始めたAnniversary´10!の第一弾です

 

といっても、続きですけどwww

今回は、本丸側でしたww

 

2020/01/02