◆ 第1話 桜通り 3
コトコトと、スープが煮える音が聴こえてくる
さくらは、頃合いを見て鍋の蓋を開けた
中から、ふわりとコンソメの香りが漂ってくる
ひとすくい小皿に取って、味見をする
「うん、いい感じね」
さくらは、満足げにそう呟くと、鍋の火を止めた
後は、余熱だけで十分だ
ちらりと、壁に掛けてある時計を見る
丁度、午後8時を指そうとしていた
「そろそろ……ね」
さっさと仕上げてしまわなければならない
さくらは、作りかけだった料理の仕上げに掛かった
さっと、手早く盛り付けていく
その時だった
ピンポーンという、インターホンの音が鳴った
さくらは、軽く手を洗ってタオルで拭くと、パタパタと横にあるドアホンのモニター再生のボタンを押した
外にいる人物を確認して、口元に笑みを浮かべる
「今、開けるから入って来て」
そう言ってロックを解除すると、再びキッチンに戻った
数分もしない内に、ダイニングのドアが開き誰かが入ってくる
だが、さくらはその人物を確認する事無く作業を続けた
「さくら」
ふと、呼ばれて振り返る
呼んだ人物―――斎藤一は、少しだけキッチンに顔を覗かせた後
「何か、手伝おうか?」
そう言ってくれたが、さくらは小さく首を振った
「大丈夫よ、もう出来上がるから。一は部活で疲れているのだから、座っていて」
そう勧めるが、斎藤は「そういう訳にはいかない」と言って、いつも通り食器棚に近づいた
「今日の皿はどれだ?」
相変わらずの反応に、さくらがくすりと笑みを浮かべる
「右上の小さいお皿と、その下の底の深いお皿取ってくれる?」
この光景も、いつもの事だ
元々、さくらの護衛を依頼した時に、斎藤の住居・学費等はすべてこちらが持つ事になっていた
勿論、報酬も別料金で払う
斎藤は、報酬だけでいいと断ったらしいが、ブラッドが頑として譲らなかったらしい
その代り、条件も付けられた
住む場所は、さくらと同じマンションの同じ階
学校は、薄桜学園
クラス編成も、どうやら意図的に一緒にされているらしい
ちなみに、さくら達が住んでいる階は、ワンフロア丸ごと買っているので、さくらと斎藤以外は誰もいない
最初は、食事はばらばらだった
さくらは、こうなる事を計画した上での事だったので、料理や家事などはこっそり一通り勉強していた
週に何日かは、清掃の人が来るがそれだけだ
基本的な事は、全部自分でやる
ブラッドは、住込みのメイドを連れて行けと言ったが、さくらが断固拒否したのだ
大学でも、寮では自分でやっていたのだ
それなりに、一人の生活も満喫していた
なので、それだけは避けたかったのだ
一方、斎藤の方は、そんな予定など無かったのだから家事など出来る筈もなく…
料理すらまともに出来なかった
しかし、まぁ、その辺りはずっと剣道に打ち込んでいた男の子なので仕方ないとも思える
最初の数日はインスタントで済ませていたらしいが……
健康を害すると、反ギレ状態になって断食しだしたので、さくらが慌てて助け船を出したのだ
斎藤は、さくらの申し出に「住居や学費まで払ってもらっているのに、これ以上迷惑は掛けられん」と断固断っていたが
さくらが「日頃守ってもらっているお礼」「1人分作るのも、2人分作るのも変わらない」「どうせなら、一緒に食事した方が楽しい」などと言いくるめたので、今に至る
それからは、ずっとこの状態だ
基本的に外食の時以外は、こうやって斎藤は毎食さくらの部屋にやってくる
そして、毎回手伝ってくれるのもいつもの事だ
料理をテーブルに並べ終えて、2人して席に座る
「今日も、相変わらずうまそうだな」
斎藤の言葉に、さくらがにこりと微笑む
「今日は、春キャベツが安かったからキャベツの春巻きにしてみたの。どうぞ、食べてみて」
「ああ……いただきます」
斎藤が頷き、皿に盛られた春巻きに箸を伸ばした
そして、そのまま一口食べる
「……うん、美味いな。この春キャベツの甘さとチーズの組み合わせが絶品だ」
相変わらずの細かい褒め言葉に、さくらがくすりと笑みを浮かべた
「ふふ……ありがとう。お世辞でも、そう言ってもらえると嬉しいわ」
さくらのその言葉に、斎藤が小さく首を振る
「俺は世辞など言わん。あんたの料理を食べる度に思っている事を言ったまでだ。……あんたは、料理をする度に腕を上げるな。その内、俺はあんたの料理以外食えなくなりそうだ」
と、少し冗談めかした様に呟いた
その言葉に、さくらがくすくすと笑いだす
「私の料理なんて、まだまだよ。勉強中ですもの。私よりも上手な人は世の中に沢山いるわ」
謙遜でも、自惚れでもない
それこそ一流のシェフに比べたら、さくらの料理なんて赤子の様なものだ
そういう場所に行けば、この目の前の料理よりも、もっともっと美味しい料理が出てくる
「……そういう意味ではないのだがな…」
斎藤が何かぽつりと呟いたが、さくらの耳には聴こえなかった
斎藤に褒められて満足したのか、さくらも一息付くと、目の前の料理に箸を伸ばした
一口食べて、吟味する
……少し薄いわね…
次に作る時は、もう少し下ごしらえの時味を染み込まそう などと考えていた時だった
「そういえば、さくら。もう少ししたらだろう?」
不意に斎藤に話し掛けられ、さくらがその真紅の瞳を瞬くさせる
瞬間、何の事を言っているのか分かり「ああ……」と頷く
「そう…ね。もう、そんな時期なのね……」
さくらのその言葉に、斎藤が小さく息を吐く
「忘れていたのか?自分の事だろう」
「え……?あ、その……忘れていた訳じゃないのだけれど―――」
そう言いながら、ちらりと壁のカレンダーを見る
赤く印が付いた箇所
数日前にブラッドからメールが届いていたので、気付いてはいたが……
「今年も、むこうに行くのだろう?」
斎藤の問いに、さくらが曖昧に笑みを浮かべた
「そう……ね。流石に、主賓が欠席は無理だろうし―――お父様も、絶対帰って来いって言ってたもの…」
本当なら、あまり行きたくなかった
ただでさえ、残り2年という短い期間しかないのに
数日だが、日本を離れなければならない
勿論、その間は学校も休まなくてはならない
だが、行事ごとには出席する様に言われているので、行かない訳にはいかない
ブラッド曰はく、将来の基盤を作る重要な機会だから―――らしい
有力なパイプを作っておけ―――という事だろう
しかも、今回は―――
「あ……」
ふと、ある事を思いだした
「ねぇ、一も一緒に来ない?」
「は?」
突然のさくらからの申し出に、斎藤がぼろりと春巻きを落とす
斎藤にしては、らしからぬ動揺のしっぷりだ
さくらは、にっこりと微笑んで
「だから、一も一緒に行きましょう。ね?」
「いや……ね?と、言われてもだな……」
斎藤が、困った様に曖昧に返事をすると、さくらが更に笑みを深くした
「メールで、お父様が一に会いたいって言っていたの。今回、いい機会じゃないかしら?」
「なっ……!?ブラッド会長が!?」
ブラッドの名を出した瞬間、斎藤が驚愕の声を上げる
嘘は言っていない
事実、ブラッドは何度か斎藤をアメリカに連れて来いと言ってきている
「俺が…?会長に……?いや、しかしだな……」
ブラッドに会いたいと思われている事がそんなに意外なのか、斎藤の動揺しっぷりは半端では無かった
どうやら、斎藤はブラッドを敬愛している節があるらしく
その憧れの相手が、会いたいと言ってきている事が信じられないらしい
「まだ、一はお父様に会った事ないのでしょう?お父様に一の事を話したら、是非会ってみたいって仰って……」
「いや、だが、学生たる者、学業をおろそかにしては……」
などと言い繕っているが、本心では会ってみたいのだろう
もう1年も一緒にいるのだ
それぐらいさくらにだって分かる
「学園の方は、大丈夫よ。一のも申請書出しておくから。ね?」
そう言って、駄目押しのもう一手を加える
「………か、考えておこう」
観念したのか、斎藤は自分に言い聞かせる様にそう呟いた
その答えに満足したのか、さくらがにこりと微笑む
どうやら、今回は一人で憂鬱な思いをしなくて済みそうだ
「あ、そういえば……」
この話は終わり、という風にさくらは別の話を切り出した
「今朝の子は、ちゃんと講堂まで送ってあげた?」
「今朝……?」
さくらからの問いに、一瞬 斎藤が首を傾げる
が、直ぐに思い出したのか「ああ…」とぼやいた
「雪村の事か。それなら、問題ない。きちんと、講堂まで案内した」
と、斎藤は至って普通に答えたが―――
さくらは、ある事に気付いた
「雪村?」
知らぬ名だった
さくらの反応に、斎藤が「ああ」と呟いた
「あの一年の女子だ。雪村と名乗っていた」
「…… 一が聞いたの?」
もし、そうだとしたら意外だ
だが、予想通りというべきか……斎藤の反応は至って淡泊だった
「いや?向こうが、勝手に名乗って来たが」
「……そう」
道案内されただけで、名を名乗るだろうか?
普通に考えて、そういう場合は――――
ふと、過去の自分が蘇る
土方に名を聞いた時の自分が
「……………」
「さくら?」
押し黙ってしまったさくらに、斎藤が首を傾げながら呼び掛けてくる
呼ばれて、さくらははっとした
「え?あ、ああ…ごめんなさい。少し考え事をしていたわ」
「考え事?」
斎藤の問いに、さくらは誤魔化す様に、言葉を連ねた
「あ、そ、その雪村さんは下の名前は何て言うの?」
「下?」
言われて斎藤が首を捻る
そのまま、腕を組み考え込んでしまった
「……………」
この反応は……
どうやら、覚えてないらしい
物覚えの良い斎藤にしては、らしからぬ失態だ
聞いていないのか
それとも、興味が無くて聞き流したのか―――
その反応に、さくらは苦笑いを浮かべるしかなかった
◆ ◆
―――翌朝
いつも通り、斎藤と並んで登校していた時だった
突然背後から……
「さくらちゃ―――ん!!おっはよ~~~!!!」
という、叫び声が聴こえてきた
ぎょっとして振り返ると―――目の前に両手を広げてダイブしてくる沖田が―――
「きゃっ……!」
飛びつかれる!と、ぎゅっと目をつぶった時だった
バキャァ
何やら、不可解な音が聴こえてきた
恐る恐る目を開けてみると―――
さくらを守る様に立ちはだかった斎藤の拳が、沖田の顔面に―――と、思ったが、沖田はそれをあっさり鞄でガードしていた
「そうじ……!!貴様ぁ……っ!!」
斎藤が鬼の様な形相で、沖田を睨みつけた
だが、当の本人はぶーぶーと頬を膨らませながら
「ちょっとぉ~、僕とさくらちゃんの愛の抱擁の挨拶を邪魔しないでくれる?一君」
「なにが、愛の抱擁の挨拶だ!!そんなもの、挨拶とは言わん!!セクハラで訴えるぞ、貴様……っ!」
斎藤の言葉に、沖田がけらけらと笑い出す
「やだなぁ~。一君、セクハラの意味知ってる?セクハラっていうのは、相手の意思に反して不快や不安な状態に追いこむ性的な言葉や行為の事だよ? さくらちゃんが嫌がってないんだから、セクハラにならないよ。ねぇ? さくらちゃん。さくらちゃんは、嫌じゃなかったよね?」
「え……?え、えっと……」
突然話を振られ、混乱する
が、さくらが答えるよりも早く、一が二発目を放った
「嫌がっているに決まっているだろう!!!」
バン!という音と共に放たれた拳は、またしても沖田の鞄にガードされた
「うわぁ~一君、暴力反対」
このままでは悪化しそうになるので、さくらが慌てて間に入る
「は、一!私、大丈夫だから!!お、落ち着いて……っ」
何とか、怒りの形相の斎藤を押さえつけると、さくらは苦笑いを浮かべながら
「お、沖田さんは、いつもこんなにお早いのですか?」
さくら達は、時間に余裕を持たせる為に、普通よりも早めに登校する
その中には、人ごみの中を無防備に歩かないという対策も含まれている
なので、この時間に会う人など珍しいのだ
さくらの問いに、沖田がむーと頬を膨らませた
「あー沖田じゃなくて、総司だって言ってるじゃん。総司って呼んでよ」
「え……いえ、あの……」
さくらが困った様に、苦笑いを浮かべていると、突然ズイッと斎藤が沖田とさくらの間に割って入った
「総司」
「いや、一君に呼んでもらいたいんじゃなくてね?」
「違ぁう!!」
冗談の様に言う沖田に、斎藤が一喝する
「お前、こんなに早く起きれるなら部の朝練に出たらどうなんだ!?」
斎藤の言葉に、沖田が「ええー」と不満そうな声を洩らす
「そういう一君だって、サボってるじゃん」
「俺は、サボっている訳ではない。朝は風紀委員の仕事とさくらの護衛があるから、出ない事にしているだけだ」
放課後と休みの日は、部に出る
その代り、朝練には参加しない
それが、斎藤の中での決め事だった
どちらにせよ、週の半分は風紀委員の朝の取締りで朝練は出られない
なら、放課後などを自由にさせてもらう分、登校時ぐらいはしっかり護衛の仕事をする
そういう事らしい
さくらは、斎藤の自由にしていいと言ったのだが
これだけは、斎藤が頑として譲らなかった
すると、沖田が不服そうに頬を膨らませた
「なんか、一君ずるいなぁ」
「は!?」
突然、意味もなく“ずるい”宣言されて、斎藤の眉間にしわがよる
「だって、そうやって四六時中ずーとさくらちゃんの側にいる訳でしょ?それだったら、僕も護衛になろうかなぁ~」
「はぁ!!?」
斎藤が、らしからぬ素っ頓狂な声を上げた
そんな斎藤をスルーして、沖田がにこにこ満面の笑みでさくらに迫ってくる
「ね?どうかな?僕、結構役に立つと思うけどー?」
「え……?あ、いえ…その……」
どう対応してよいのか分からず、さくらが困った様に後ろへ下がる
「ねぇ?僕、お買い得だと思うよ?」
「いや…あの……」
そのまま後ろへ下がるが、ドンッと壁に当たってしまっう
これ以上下がれない
しかし、沖田はどんどん迫ってくる
「さくらちゃん。僕、欲しくない?」
「えっと…、あの、沖田さ……」
不意に、チッチッチと沖田が人差し指を振った
「違うでしょ?そ・う・じv」
そう言って、ずずいっと迫ってくる
「――――っ」
万事休す
そう思われた時だった
バキィ!!という音と共に、沖田が頭を抱えてしゃがみこんだ
気のせいか、そこから煙が出ている
「痛いなぁ~~。何するのさ、一君。後ろからとか卑怯だよ」
沖田が不平不満をぶちまける様に抗議すると…
その背後にいた、怒りの形相の斎藤が、沖田を殴ったであろう拳を握りしめたままギロリと睨みつけた
「この程度の攻撃すら避ける事の出来ぬ護衛など要らぬ。ちなみに、今のは正当防衛だ。卑怯ではない」
そこまで言い終わると、今度はキッとさくらの方を睨んだ
「あんたもあんただ!何故、はっきり断らない!!あんたが、はっきりしないから、総司が付け上がるんだ!!」
「……す、すみません…」
もう、どうしていいのか分からず 謝罪の言葉しか出てこなかった
「大体、あんたは日頃から注意力と危機感が散漫で―――」
という、斎藤のお小言が続く中校門までたどり着いてしまった
はぁ…と、さくらが溜息を付いた時だった
「きゃぁ―――――!!!」
突然、何処からか女生徒の叫び声が聴こえてきた
はっとして慌ててそちらを見ると…
「風間様!!おはようございますっ!!!」
「千景様、今日はお時間ありますか?もし、宜しかったら―――」
「あの、千景様…これ、一生懸命作ったんです……!
「「「……………」」」
思わず、三人が固まる
叫び声ではなく、黄色い声だった
女生徒の塊が、一か所に集中している
あれは……
どう見ても、あの集団は
「はぁ……」
さくらが、諦めにも似た溜息を洩らした
「へぇ~風間千景ファンクラブは、朝から盛大だね」
と、沖田が他人事の様に面白そうにぼやいた
風間千景ファンクラブ
薄桜学園生徒会長の風間を千景様と呼び、常に熱烈ラブコールを送るファンクラブである
薄桜学園のみならず、他校生まで居るらしく…
よく見れば、隣の島原女子の制服まで混じっている
ちなみに、抜け駆けは禁止
風間と会う&話し掛ける時は多人数が基本
プレゼントは3年の幹部を通す事
ある意味、一番敵に回したくない集団である
ただでさえ、さくらは風間の許嫁という立場上敵視されている
出来る事なら、関わりたくない
そうそうに逃げようとした時だった
「ほぅ…そこにいるのは、我が妻ではないか」
あっさり、風間にバレた
ギクッとして振り返ると、白ランを着た風間が集団の間をぬってこちらへやって来る
しかも、両手を広げて
「朝から、俺に会いに来たのか?ふ…愛い奴め。さぁ、俺の胸に飛び込んでくるがいい!!」
「いや、学校に来ただけだから……」
「なに、恥ずかしがることは無い。俺達の仲ではないか」
さぁ、カモーンという風に、更に手を広げられてしまった
スパッと突っ込んだが……
風間には華麗にスルーされた様だ
「う……っ」
風間の後ろから殺意にも似たオーラを感じ、さくらがぎくっとする
睨まれている…
ファンクラブの女子にめちゃくちゃ、睨まれている……っ!
「さぁ、さくら!来るがいい!!」
「え、えっと……千景…、後ろの女の子達待ってるわよ?」
さくらが、話を逸らそうとそう言うと、風間はふっと笑みを浮かべた
「ふ…なんだ、焼きもちか? 安心しろ、俺が愛するのはお前だけだ」
思わず、「嘘を言うな」と言いそうになったが、ここはあえて黙っておく
精一杯抵抗するが、風間にはまったく欠片も通用していないらしい
尚も風間が接近してくる
「あの……千景っ! 待っ……」
さくらが慌てて言い募ろうとした時だった
不意に、ぐいっと肩を掴まれると、そのまま引っ張られた
そして、そのままその人物の背に庇われる
庇ったのは、勿論―――
「一っ」
斎藤だった
斎藤は、風間の前に立ちはだかると、キッと風間を睨みつけた
「会長、これ以上さくらに余計な真似はしないでもらおう」
突然間に入ってきた斎藤に、風間はピクリと眉を上げる
「ほぅ…お前は、俺のさくらの周りをうろちょろしている犬ではないか。邪魔だどけ」
「断る。あんたこそ、そこを空けろ。通行の邪魔だ」
「何だと?はっ…!駄犬がよく吠える事だ。貴様こそ、犬らしく人間様に道を譲ったらどうだ?」
「悪いが、俺はこいつの護衛だ。それだけは聞けん」
「ふん、護衛など必要あるまい。俺様がいるのだからな」
「あんたじゃ、役不足だ」
「ほぅ…言ってくれる。前々から、貴様は目障りだったのだ。ここで消してくれよう」
「望むところだ」
「……………」
「……………」
バチバチバチ
と、火花が散って見える
一触即発
そう思った時だった
「てめぇら!!こんな校門前で何騒いでやがる!!」
突然、降ってきた怒鳴り声で場の空気が一変した
さくらが、はっとして声のした方を見た
そこに立っていたのは―――
「土方先生!!」
土方が、怒りの形相で歩いて来た
土方の姿を見て、思わず安堵の息を洩らす
よかった……
土方は、風間と斎藤の傍までやってくると、キッと風間を睨んだ
「またお前か、風間。ちったぁ大人しくしてやがれ!朝っぱらから、騒ぎ起こすんじゃねぇよ!周りに迷惑だろうが!!」
そう土方が注意を促すが、当の本人は反発する様にふんっと鼻を鳴らした
「教師風情が俺に指図するな。俺は、風間グループの次期総帥だぞ」
「あ?だからどうした。今は、お前はこの学園の生徒で俺は教師。生徒は教師の言う事を聞くもんだ。文句あるか?」
「ふん、我ら生徒会の力を知らぬのか?お前など、俺の手に掛かればいくらでも左遷出来るのだぞ?」
「ほー面白れぇじゃねぇか。やれるもんなら、やってみやがれ」
売り言葉に買い言葉とは、まさにこの事だ
このままでは、本当に風間はやりかねない
それだけは、何としても阻止しなければならなかった
「ちょ…っ!ちょっと待って!! もし本当にそんな事したら、私はもう千景とは一生口聞かないから!!」
そう言って、キッと風間を睨みつける
「……………」
風間が無言のままじっとさくらを見ていたが、観念した様にはぁ…と息を吐いた
「ふ…我が妻の願いなら仕方あるまい。今回だけは見逃してやろう。命拾いしたな?土方」
それだけ言い放つと、風間はバサッと制服を翻した
「行くぞ、天霧!不知火!!」
そこに居たであろう、生徒会メンバーに声を掛けて、高笑いしながら校舎の中へ入って行く
「じゃーな、姫さん!」
「御前、失礼いたします。桜姫」
いつの間に居たのか……
青葛色の髪をポニーテールにした不知火匡と、赤銅色の髪に黒ラン姿(応援団ともいう)の天霧九寿が頭を下げて(1人は手を振って)去って行った
「ったく、あいつが出てくると、周りが煩くて叶わねェな。さっさと、卒業しろっていうんだ」
悪態付く様に土方がぼやくと、さくらが申しわけ無さそうに頭を下げた
「すみません……千景がご迷惑を…」
さくらのその対応に、土方が小さく息を吐く
そして、ぽんっとさくらの頭を叩いた
「別に、お前のせいじゃねぇだろう?謝る事はねぇよ」
そう言って、笑みを浮かべてくれる
「土方先生……」
土方にはいつも助けられてばかりだ
なんだか、凄く申し訳なく感じてしまう
「先生」
不意に、斎藤が横から出てきた
「ありがとうございました。助かりました」
素直にそう言うと、サッと頭を下げた
土方は、ニッと笑って
「おう。お前も大変だろうけど、これからも八雲を頼むな」
そう言って、ポンポンと斎藤の肩を叩く
それに感動したのか…斎藤が感極まった様に
「はいっ!!」
「いい返事だ。よし、お前らさっさと教室行けよ?予鈴鳴っちまうぞ」
そう言い残すと、そのまま別棟へ戻って行った
時計を見ると、予鈴5分前だ
色々あって、時間を大分ロスしてしまったらしい
早く教室に行こう―――とした時だった
突然、沖田が
「な~んか、面白くないなぁ……」
「え?」
面白くない?
何が……?
沖田の意図する意味が分からず首を捻ると、沖田がむーと頬を膨らませた
「だから、面白くないって言ったの。突然土方先生が出てきて、ぜ~んぶ おいしい所持っていっちゃってさー。なにこれ、土方先生とさくらちゃんの物語?」
「……沖田さん?」
若干、最後の一文が意味不明だが……
さくらが、更に首を捻っていると…突然、沖田はポケットからごそごそと何かを取り出した
「こういう時は、気分転換が必要だよねー」
「え?」
「梅の花 一輪咲いても 梅はうめ」
「え……?」
「春の草 五色までは 覚えけり」
「は……?」
「朧とも いわで春立つ としのうち」
えっと……
突然開いた手帳から、何かを次々と叫びだす しかもかなりの大声で
一体、沖田は何を読んでいるのだろうか……?
沖田が次なる“なにか”を読もうとした時だった
後方から、ドドドドドドドという何かが全速力で走ってくる音が響くと同時に―――
「そ~う~じぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
鬼の形相の土方が叫びながらこちらに向かって走ってきた
それを見た、沖田がにやりと笑みを浮かべて笑いながら逃げていく
「おっにさんこっちら♪手の鳴るほうへ~」
「てっめぇ――――!!!待ちやがれ――――!!!!!」
そう叫びながら、物凄い勢いで2人が駆けて行った
「……………」
どうやら、“あれ”は、土方に関係のあるものだったらしい……
という事は……
また、先生をからかってたんだわ…
沖田のあれは、どうにかならないものだろうか
そう思いながら、さくらは溜息を付くのだった
やっと、ちーが登場
とりあえず、最初は主要キャラ達を出さない事には話が進まないので
後、位置関係な
それに、専念します
次は、誰かな~
個人的には山崎あたりを出したいね
つか、一がオイシイポジションにあるなぁ~
こいつ、殆ど出てくるんじゃね?
2011/11/05