深紅の冠 ~無幻碧環~

 

◆ 風花(五条悟BD:2025 全年齢ルート)

 

 

―――2007年12月

 

 

11月が終わり、12月になると、街中に雪が降り始めていた。

 

「五条の好きなもの?」

 

その日、凛花は家入硝子に頼んで時間を作ってもらい、カフェで相談に乗ってもらっていた。というのも、もう少ししたら五条の誕生日なのだが、何を渡したら良いのかよく分からなかったのだ。ちなみに、兄であり、五条の友人でもある昴に聞くと――。

 

『いいか、凛花。“手作り”だけは、絶対ぜ~~~ったい駄目だからな!!!』

 

と、何故かよく分からない念を押された。でも、確かにいきなり“手作り”は、重いのかもしれないとも思った。こういう“特別”ともいえる贈り物をした事のない凛花にとって、最早未知の世界だったのだ。そこで、五条の同期の家入にこっそり話を聞いているのだが……。家入はコーヒーを飲みながら、ふーと息を吐いた。

 

「五条の好きなものって……今、私の目の前にいるじゃん」

 

そう言って、くいっと凛花の方を指さす。一瞬、家入の言った事の意味が分からず、凛花が「え……?」と首を傾げた。それから、家入の指さした方を見る。それは――。

 

「わ、たし、です、か……?」

 

「そ。五条が一番好きなもの」

 

そう言われた瞬間、凛花の顔がどんどん真っ赤に染まっていった。そんな凛花に、家入はくすっと笑みを浮かべながら、

 

「アイツ、アンタの話になると声のトーン変わるんだよね。ま、本人は……自覚ないかもだけど? でも、見てれば分かるよ。あれは明らかな好意だって」

 

「……っ」

 

凛花は、どう返して良いのか分からなくて、かぁ……っと、熱くなった頬を思わず両の手で押さえた。

五条さんの好きなもの……って……っ。

 

「……あ、の……。そういう、のではなく、て……。その、誕生日の贈り物を――」

 

「だから、アンタあげたらいいじゃん」

 

「い、いえ、それは――っ」

 

流石に、自分をプレゼントとして差し出す意味が分からない程、凛花も子供ではない。でも、だからと言って、それを選択するのは、恥ずかし過ぎて、無理があった。

 

「あの……、その……何か、物で……」

 

凛花がなんとか恥ずかしさを抑え込んでそう尋ねると、家入は少し考える素振りを見せて、

 

「……五条は甘い物が好きだよ。後は、実用的なものとか良いんじゃい? アイツ、基本なんでも持ってるし。……ま、アンタからのプレゼントなら何でも喜ぶでしょ」

 

そう言って、伝票を持つと立ち上がった。凛花が慌てて「支払いは――」と、口を開き掛けるが、家入がぺしっと伝票の背で凛花の額を軽くコツく。

 

「年下に払わせるわけにはいかないって。後さ――」

 

そこまで言い掛けて、ふと、家入が足を止めた。そして、

 

「五条の事、信じてやりな。アイツは、色々問題あるやつだけど――良い男だよ」

 

それだけ言うと、そのままレジへと行ってしまったのだった。凛花は一瞬、息を呑んだ後、家入の気遣いと、それに対する感謝の意を込めて「ありがとうございます」と言って頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

それから、数日経ち……12月6日。凛花は五条の瞳と同じ色の碧いリボンと、白い袋でラッピングされたそれを見つめて、考え込んでいた。家入のアドバイスを元に、自分なりに一生懸命考えた“特別”なプレゼント。

 

「喜んでくださるかしら……」

 

そんな小さな望みすら、今の凛花には贅沢に思えた。

 

カレンダーを見る。明日はもう五条の誕生日。プレゼントは用意出来た。でも、どうやって渡せばよいのか、皆目見当も付かなかった。いきなり、逢いに行くのもどうかと思うし……、何よりも、もし要らないと言われたら――そう思うと、その一歩を自分から踏み出す勇気が持てなかった。

 

「はぁ……」

 

凛花が思わず溜息を零したその時だった。突然、どすどすと廊下を走る音が聞こえたかと思うと――。

 

「凛花~~~~~!! 会いたかったぞ~~~!!」

 

「え……」

 

ばんっ! と、戸が開けられたかと思うと、その声の主に抱き付かれた。突然の抱擁に、凛花が驚いてると、声の主はすりすりと凛花に頬擦りをしながら、

 

「お兄ちゃんだぞ~~! 愛しのマイ妹よ!!」

 

「あ、あの……お兄様……っ」

 

その正体は、兄の昴だったのだ。高専寮にいる筈の昴のまさかの登場に、凛花が動揺していると、昴は満面の笑みで、

 

「丁度、任務で出てたから、今日は、こっちに帰って来たんだ! 土日だし、今日明日は、兄妹水入らず出来るぞ~~!!」

 

と、嬉しそうだ。だが、凛花は少し困ったように、兄の肩を押した。

 

「あの、お兄様。明日は、私は少し用事が――」

 

「ありまして」と言い掛けた時だった。突然、昴がその言葉を遮るように、

 

「ま・さ・か、とは思うが――お兄ちゃんを置いていったりしないよな?」

 

「う……っ」

 

きらきらの瞳でそう訴えられて、凛花が思わず口籠る。でも、明日は五条の誕生日。この日だけはどうしても譲れなかった。凛花は申し訳なさそうに昴を見ると、

 

「すみません。明日は――」

 

その時だった。昴が一瞬真面目な顔になり、

 

「凛花、悟にあんまり甘くするなよ。調子に乗るからな」

 

「え?」

 

一瞬、凛花は何を言われたのか分からなかった。その深紅の瞳を瞬かせた瞬間、昴はわざとらしく咳払いをしだした。そして、

 

「ああ! そういえば、明日は悟の誕生日らしいが、俺が画策して――じゃなくて、アイツ明日は急な任務が入ったから、いないぞ?」

 

 

 

「え……」

 

 

 

昴のその言葉に、凛花がその深紅の瞳を大きく見開いた。それから、戸惑ったように視線を泳がせると、言葉を失ったかのように、俯いてしまった。

 

「明日……、五条さん任務、なん……で、すか……?」

 

声が震える。まさか任務が被るとは想像もしていなかったからだ。でも、少し考えれば分かる事だった。高専生は学生であると同時に、呪術師としても活動している。いつ、いかなる時に呪霊が発生し任務が入るかなど、予想出来ないのだ。それを、誕生日だからと言って、断れる筈が無い。

凛花がぎゅっと昴の肩に触れる手に力を籠める。その手は微かに震えていた。昴はそんな凛花の手を取ると、満面の笑みでそっと頭を撫でながら、

 

「そういう訳だから、明日はお兄ちゃんと――」

 

「……お兄様。すみません、その……1人にして頂けますか……」

 

「んなっ!? 凛花……っ! 明日、悟はいないんだぞ?! だから、お兄ちゃんと一緒に――」

 

「……ごめんなさい、お兄様」

 

それだけ言うと、わーわー叫ぶ昴を他所に、凛花は部屋の戸を閉めた。それから、ずるずるとそのままその場に崩れ落ちる。凛花の膝が畳に触れる、微かな音だけが部屋に落ちた。視界に碧いリボンでラッピングされた、五条へ用意したプレゼントが入った。そっと手を伸ばす。リボンに触れた指先が、小さく震えた。

 

「そっか……明日、五条さんに逢えないんだ……」

 

声に出して、それが現実なのだと思い知らされる。自分は何をやっていたんだろうか。彼の誕生日プレゼントを用意する事に浮かれて、何も見えていなかった……。知らず、目尻に涙が浮かんでくる。でも、それを拭う事もせず、凛花はそのまま膝を抱えた。

 

「私の、馬鹿……」

 

でも、後悔しても もう遅かった。唇を噛んで、声を押し殺す。凛花は零れそうになる涙を必死で堪えると、そのまま目をぎゅっと閉じたのだった。

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

翌日。朝からよく晴れていた。過ごしやすい一日になるでしょうというお天気お姉さんの言葉通り、空は雲一つない快晴だった。とはいえ、そんな清々しい天気とは裏腹に、凛花の心はどんよりと曇っていた。私は、何を期待していたんだろう……。

ここ数日あんなに悩んでいたのが嘘のように、今は何も考えられないでいた。五条に逢えないのなら、もういっそこのまま部屋に閉じこもってしまおうかとも思ったのだが、それも出来なくて……。ただ、ぼんやりと街を歩いて時間を潰す事しか出来なかった。

 

その手にはバッグと、渡す相手のいないプレゼントの入った紙袋があった。家に置いておくことも出来ず、未練がましく持ち歩いている自分が酷く虚しく感じる。

 

「はぁ……」

 

思わず、溜息を零したそんな時だった。

 

「凛花……っ! 見つけた……っ!!」

 

突然後ろから声を掛けられたかと思うと、ぐいっと腕引っ張られる。あまりにもそれが突然過ぎて、凛花が「きゃっ……」と声を漏らしかけるが――次の瞬間、そのまま後ろから腕を回されて抱き締められたのだ。

 

「え……」

 

一瞬、誰? と思うも、その温もりは、凛花のよく知っているものだった。ぐっと抱き締められた腕に力が籠もる。

 

「はぁ……凛花……っ」

 

耳元で息切れするような声で、そう名を呼ばれる。その声に、凛花は息を呑んだ。それは、聞きたくとも聞けないと思っていた声の主だったのだのだ。震える手で、その回された腕に触れる。

 

「五条……さ、ん……?」

 

それは、五条だった。五条は、ぎゅっと凛花を後ろから抱き締めたまま、顔を肩に埋める様にその手に力を籠めた。

この時、凛花は混乱していた。昨日の昴の話では、五条に任務が入ったと聞いていた。だから、今日逢う事など無いと思っていたのに……。でも、今自分の後ろにいるのは間違いなく彼だったのだ。

 

どうして……?

そう疑問に思うも、凛花はただ黙って五条の腕の中にいたのだった。すると、暫くして漸く落ち着いたのか、ゆっくりとその腕が離されたかと思うと、くるりと身体を反転させられた。すると、そこにはサングラスを掛けた五条の姿があった。その宝石のような美しい碧い瞳が、じっと凛花を見つめてくる。少し乱れた前髪が妙に色っぽくて、思わず見惚れてしまった。

 

――かっこいい……。

 

そんな思いが頭を過り、はっと我に返る。慌てて視線を外すと、赤く染まった頬を隠す様に俯いた。だが、そんな凛花の心情を他所に、五条の手がそっと凛花の手に触れると、それをそのままきゅっと握りしめたのだ。

 

え……?

と、思う間もなく、その手を引っ張られた。驚いたのは、他でもない凛花だ。凛花は慌てて口を開くと、

 

「あ、あの……っ、五条さん? 今日は任務では――っ」

 

「秒で終わらせた!」

 

「え……」

 

一瞬、五条の言っている意味が分からなくて、凛花は間の抜けた声を上げてしまった。でも、次の瞬間にはその意味を理解してしまった。それはつまり……“即行で終わらせて逢いに来た”と言ってるのだ。そう理解した途端、かぁ……っと、頬が赤く染まった。そんな凛花の表情に気付く事もなく、五条は少し照れたように視線を逸らすと、その碧い瞳を細めながら、言ったのだった。

 

「悪ぃ、待たせて。その……今日、さ、俺……なんかもう、落ち着かなくてよ。任務中もずっと、オマエの事ばっか考えててさ。……バカみてぇだけど。誕生日に凛花と過ごせねぇとか、絶対やだって思っちまって――」

 

その言葉に、凛花は胸の奥がぎゅっと縮まって、呼吸がうまく出来なかった。込み上げる何かに目頭が熱くなる。そして、それを堪えるように目をきゅっと閉じると、小さく首を振った。

もしかして……私に逢いに来てくださったの……?

そう思った瞬間、凛花の心の中は色んな感情が入り乱れた。嬉しい気持ちと寂しい気持ちが同時に押し寄せてくるようで、なんだか落ち着かない気分になった。だけど……何より“嬉しい”という気持ちの方が勝ったのだろう。自分の気持ちを落ち着かせるかのように深呼吸をしてから、ゆっくりと顔を上げた。すると、五条が真っ直ぐに前を見据え、

 

「だから、急いだ。凛花に……逢いたかったから――」

 

その言葉があまりに真っ直ぐで、凛花は思わず息を呑んだ。昨日の孤独も、眠れず抱えていた不安も、すべて溶けていくようで、凛花は一度目を伏せると、

 

――もう……良いわ、よね……。

 

そう心の中で呟いた。多分、凛花は怖かったのだ。五条に想いを寄せれば寄せる程、彼の隣にいるのが自分なんかで良いのかと思うようになったから……。でも、そんな事を考えている間も、きっと彼は待っていてくれたのだと思うと……嬉しいやら申し訳ないやら、複雑な気持ちになった。

けれど……それを嬉しく思う自分がいて……。だったら、今は自分の気持ちに正直になろうと思った。素直になろうって……思ったのだ。すると、自然にその言葉が口から出ていた。

 

「……私も、五条さんに逢いたかった、です……」

 

そう素直に伝えると、五条の顔が嬉しそうに綻んだ。

 

そして……。それから2人は、手を繋ぎながら街を歩いて回った。それは本当に他愛もない話ばかりだったが、凛花はそれだけで十分だった。ただ隣に彼がいるだけで、とても幸せに思えた。時折、歩道の端に積もった雪が、凛花のつま先で小さく弾けた。五条がその隣を歩きながら、何でもないように指先で彼女の肩口の雪を払ってくれる。

 

「付いてんぞ、ほら」

 

「……あ、ありがとう、ございます」

 

触れたのはほんの一瞬だったのに、凛花の心臓が思わず跳ねた。そんな凛花に、五条が嬉しそうに笑う。歩調を合わせてくれて、ゆっくりと歩く彼の気遣いが、酷く温かく感じる。

 

その時だった。ふと晴れているのに、空からひらひらと白いものが舞い落ちてきたのだ。

 

「あ……」

 

凛花の肩に落ちた一片を見て、思わず声が漏れる。

風花だ。

 

陽光を受けて、細かな雪がきらきらと光りながら降り注ぐ。まるで空気そのものが透き通った光で満たされていくようで、凛花は思わず立ち止まった。

 

「……綺麗……」

 

呟いたその瞬間、隣からふっと影が差す。五条が凛花の頬へそっと手を伸ばし――落ちた雪を指先で払ったのだ。

 

「……ほら、ここにも」

 

距離が、近かった。触れたのは雪なのか、彼の指先の熱なのか、判別できないほどに――。白い息が二つ、淡く重なる。五条は凛花の頬に触れたまま、ふわりと優しく目元を緩めた。

 

「なぁ、凛花」

 

「はい……」

 

雪の降る静かな空気の中、五条の声だけがやけに鮮明に響いた。

 

「こういうの、さ……なんか、ずるいよな。オマエの事、もっと……触れたくなる」

 

白い雪がひとひら、凛花の長い睫毛に落ちた。五条の指がそれをそっと掬って、離れない距離で見つめてくる。瞬間、凛花の心臓が、どくん、と跳ねた。

 

街のざわめきが遠のき、雪の舞う音だけが近くに感じられる。雪に照らされた五条の横顔は、子供みたいに無邪気で、それでいてどうしようもなく優しい。

 

「……凛花と歩くと、なんか、全部特別に見える」

 

冗談めかしていない、静かでまっすぐな声だった。その声に、胸が温かくなり、苦しくなるほど満たされていく感覚に囚われる。

 

「五条さん……」

 

呼ぶだけで、白い粉雪のように声が震えた。五条は小さく笑うと、ぽつりと落ちてきた雪を見上げ、

 

「誕生日に、こんな景色見れるとか……なんか、運命っぽくね?」

 

そう言ってまた凛花に視線を落とす。その瞳は、雪よりも澄んでいて、真っすぐで――凛花を捕まえて離さなかった。白い雪が舞い落ちるたびに、二人の距離が自然と縮まっていく――触れたいと願う心が、言葉にしなくても伝わる程に。風花がゆっくりと落ちて、二人の間をふわりと結んだその瞬間、凛花は胸の奥の鼓動を押さえるように、ぎゅっと手袋越しに指を握った。

 

……今なら、渡せる、かもしれない。

 

ずっと迷っていた。今日渡すべきか、渡していいのか。彼にとって自分は重荷じゃないか。迷惑じゃないか。そんな不安を、何度も飲み込んできた。

けれど、五条悟が“誕生日に会えなくて嫌だった”と笑ってくれた。それだけで、凛花の迷いはすっと解けた。

 

「五条さん……あの……」

 

雪の中で振り返る彼が、すぐそこにいて。凛花は胸の前で、そっと小さな紙袋を両手で差し出した。

 

「これ……誕生日、おめでとうございます。大したものでは、ないのですけれど……その……受け取って、いただけますか……?」

 

言い終わった瞬間、凛花の肩が小さく震えた。寒さではない。拒絶されたらどうしよう、という怖さからだった。

だが、五条は、一瞬きょとんとした後、ゆっくりと、袋ごと凛花の手を包み込んだ。

 

「……オマエさ」

 

低い声。だけど、聞いたことがないくらい優しい――。

 

「そういうの……反則なんだけど」

 

雪が五条の髪にひらりと落ちる。彼は苦笑しながら、凛花の手をそっと自分の胸元へ引き寄せた。

 

「俺、めっちゃ嬉しいんだけど。なんか……心臓がうるせぇわ」

 

「え……あ、あの……そんな……っ」

 

「うん、うるせぇ。うるさいくらい、嬉しい」

 

揶揄われているはずなのに、声は震えていなかった。むしろ、隠そうとしても隠しきれないほど素直で、真っ直ぐだった。五条は袋の中を覗き込み、目を丸くして微笑む。

 

「これ、俺のために選んでくれたのか?」

 

凛花がこくりと頷く。

 

「……はい。五条さん、なんでも持っていそうなので……何を選んだら良いのか、すごく悩んだのですけれど……でも、喜んでくださるなら、嬉しいです……」

 

その瞬間、五条の顔がほんの少し綻んだ。白い雪の光を受けて、まるで本当に嬉しそうに。

 

「凛花が選んだんなら……なんでも嬉しいよ」

 

言いながら、五条は凛花の頭にそっと手を置いた。帽子越しでもわかる、大きくて温かい手。

 

「今日、一番のプレゼントだわ」

 

「五条さん……」

 

温かい手のひらと、雪の冷たさ。その対比が胸に沁みて、凛花は思わず目を伏せた。五条は、落ちてきた雪を眺めながら呟くように、

 

「なぁ凛花。来年も再来年も……さ、こうやって風花見れたりすんのかな」

 

「……え?」

 

「いや、なんでもね。とりあえず今日は、オマエのお陰で最高の誕生日になった。ありがとな」

 

凛花が顔を上げると、五条はどこか照れたように笑っていた。そして2人は、また自然と手を繋いだ。

 

風花が静かに舞い降りる中、歩幅を合わせて歩き出す。

――今日、距離が確かに縮まった。そんな確信だけが、胸の中で温かく光っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025.12.20