花薄雪ノ抄
     ~鈴蘭編~

 

◆ 南雲与市 「ベルベッド・リフレイン」

(サカデイ夢 「INNOCENT LYNC」 より)

 

 

ほのかに香るジャスミンの香り。触れる体温が熱く、鼓動が知らず速くなる。微かに触れる唇が動く度に、吐息が零れ、甘い感覚と、痺れるような感情が込み上げてくる。彼女の頬が朱に染まっていくのを感じながら、そのまま背中に回した手に力が籠もる。

 

ああ、こんなにも彼女に触れるだけで、心が揺さぶられる。

 

時折、聞こえる彼女の心臓の音が、次第に速くなっていくのを感じ、喜びで心が震えそうだった。

 

「莉紅……」

 

愛しい愛しい、彼女の名を呼ぶ。すると、彼女――莉紅がぴくりと微かにその瞳をゆっくりと開いた。彼女の美しい紫蒼玉の瞳に自分の姿が映っている。その事に、南雲は歓喜に震えそうだった。

 

「ま、待っ……て、よい、ち、く……んっ」

 

息が上がり、莉紅の呼吸が次第に乱れていく。頬は上気し、濡れた唇が妙に艶かしい。南雲は莉紅の唇を塞いだまま、彼女の身体を抱き上げた。そして、そのまま寝室のベッドへと横たえると、その上に覆いかぶさる。

 

「大好きだよ、莉紅」

 

そう言って、再び彼女の唇を塞いだ。何度も角度を変えて口付ける。その度に、彼女の艶めいた唇から吐息が零れる。莉紅が、はっと息をしようと口を開いた瞬間に、南雲が舌をぬるりと莉紅の口内に侵入した。そして、逃げようとする彼女の舌を追うように絡ませる。ぴちゃりと濡れた音が部屋に響くと、莉紅は耳まで赤くなるのを感じた。

 

「ん……っ、ぁ、は……っ、よい……ち……く……っ……ふ、ぁ……っ」

 

自分のこんな声など聞きたくないし、ましてや耳に届くなんて、羞恥でどうにかなりそうだった。何とか唇を離そうと首を逸らすが、南雲に顎を固定され身動きが取れない。彼は巧みに角度を変えながら、何度も濃厚な口付けを繰り返した。飲みきれなかった唾液が莉紅の顎を伝い、首筋を濡らしていく。

その行為に莉紅は、頭がくらくらしそうだった。南雲の口付けは甘く、まるで媚薬のように莉紅を酔わせた。そして、それは莉紅だけではなく、南雲も同じだった。彼女の吐息が甘く感じると、もっともっと彼女を乱したいという衝動に駆られた。

 

南雲がゆっくりと唇を離すと、銀糸が二人を繋ぐように伸びてぷつりと切れる。それをぼんやりとした表情で見つめる莉紅に、南雲は再び彼女の唇を塞いだ。

 

今度は莉紅の口内に自分の舌を侵入させると、彼女の舌に絡ませた。くちゅ……と、部屋の中に、音が響き渡る。そのまま彼女の口内を蹂躙するように、舌を動かせば、莉紅の口から甘い声が上がった。莉紅の反応に、南雲は自身が昂ぶっていくのを感じながらも、これ以上は駄目だとなけなしの理性をかき集める。

 

何とか唇を離すと、莉紅の耳元に唇を寄せた。そしてそのまま耳朶を甘く噛む。途端に跳ねる彼女の反応に愛しさが募り、首筋にキスを落とし、舌を這わす。同時にゆっくりとシャツのボタンを外していけば、莉紅が慌ててその手を掴んだ。

 

「ま、待って……与市君……っ、これ以上は――」

 

そう言って、莉紅が静止を掛けてくるが、南雲は止まらなかった。むしろ、止められる理由が分からないとでもいうように、くすっと笑みを浮かべて、

 

「僕は、もうこれ以上我慢したくないんだよ」

 

「で、でも……っ」

 

「だって、莉紅は今でも僕のものだし。だから、いいよね――」

 

「与市く――んんっ」

 

彼女が言い終わる前に、南雲は再びその唇を塞いだ。そしてそのまま、莉紅の素肌を暴いていく。南雲の手が莉紅の肌に触れる度に、彼女の身体がびくりと震えた。そのまま彼女の胸に触れれば、今まで以上に莉紅が反応を示す。それに気を良くした南雲がゆっくりと揉みしだけば、次第にそこは硬く尖ってきた。

それを口に含み舌先で転がしてやれば、莉紅の口から艶を帯びた吐息が上がりはじめる。その事に堪らない高揚感を感じ、彼は更に強く吸い上げた。

 

「あ、ぁ……っ、ん……は、ぁ……ゃ……だ、めぇ……っ、与市く……ぁ……っ」

 

莉紅がふるふると首を横に振り、南雲の頭を押して引き剥がそうとする。しかし、南雲は止まる気配を見せなかった。それどころか、より強く刺激を与え始める始末である。何度も舌で転がされ、甘噛みをされれば、莉紅の口からは甘い吐息が零れた。

 

南雲は、愛撫によってすっかり硬くなった胸の突起を、今度は指先で摘まむと、そのまま引っ張ったり、押し込んだりと繰り返す。その度に莉紅の口からは嬌声が上がった。

そして、空いている手で彼女の太腿を撫で上げると、スカートのスリットから中に手を入れて下着越しに秘部に触れる。そこは既に湿っており、その事に、南雲は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ねえ、莉紅。僕に感じてくれてるんだ? 胸が弱いのは相変わらずだね」

 

そう言って、彼女の耳朶を甘噛みする。すると、莉紅の唇から「ぁ、ん……っ」と、切なげな声が零れた。その事に、喜びを覚えつつ、南雲は彼女の下着越しに秘部に触れる。そこはすでに愛液で濡れており、南雲は更に笑みを深めた。

そのまま何度か割れ目を指でなぞってやると、敏感な芽を探り当てる。そこを重点的に攻め立ててやれば、莉紅の身体が大きく震えた。それと同時に高い声で啼く彼女に満足しつつ、さらに強く押し潰すように刺激を与えてやる。すると彼女は面白いほど身体を跳ねさせた。その反応が可愛らしくて仕方ない南雲は、執拗にそこばかりを攻め立てた。

 

「ぁあ……っ、は、ぁ……あ、ああ……ン……ぁ……あん……っ」

 

びくっ、びくんっと彼女の身体が震える度に、南雲は喜びに震えた。莉紅の唇から零れる甘い声と、絡みついてくる熱い蜜壺が南雲自身を刺激する。何も変わってない。昔のままだった。彼女の弱い部分も、感じやすい部分も、全て記憶の通りだった。その事に、嬉しさが込み上げてくる。

 

南雲は指の動きを早め、同時に親指で敏感な芽を押し潰すように刺激を与えていく。すると莉紅は一際高い声で啼いたかと思うと、身体を大きく痙攣させた。そして次の瞬間には、ぐったりと脱力する。どうやら達したようだと分かった南雲は嬉しそうに微笑んだ。そして、そのまま彼女の下着をずらすと、直接そこに触れる。

 

くちゅりという濡れた音と共に、南雲の指先が沈み込んだ。莉紅はびくりと身体を震わせたが、抵抗する気配はない。それを良い事に、南雲はそのまま指を一本挿入させた。狭く熱い膣内を押し広げるように奥へと侵入させるが、彼女の蜜壺は嬉しそうに南雲の指に絡みつくと奥へ誘い込むような動きを見せた。その反応に気をよくした南雲は更にもう一本指を増やす。

 

「ぁ、ああん……っ! は、ぁ……ゃ、ぁ……っ!」

 

すると、莉紅の口から悲鳴にも似た声が上がった。しかしそれは苦痛ではなく快楽によるものだった。その証拠に彼女の腰は、もっとして欲しいと言わんばかりに浮いている。南雲はそんな彼女の痴態にごくりと喉を鳴らした。そして、三本目の指を入れると、莉紅の反応を見ながらバラバラに動かし始めた。その度に莉紅の口から甘い吐息が漏れ始める。どうやら痛みはないようで安心した南雲だったが、同時に物足りなさを感じ始めていた。

 

早く彼女が欲しい……。

 

そう思いながらも南雲は莉紅を愛撫する事をやめない。むしろ激しさを増していた。ぐちゅ、ぬぷっと卑猥な音が部屋に響く度に、莉紅は頬を赤く染め、恥ずかしそうに顔を背ける。だが、その表情とは裏腹に彼女の腰は淫らに揺れていた。

そんな彼女に、尚も興奮する。南雲は指を引き抜くと、今度はそこに顔を寄せた。そして舌先で陰唇を押し広げるように舐めると、そのまま舌を挿入させる。

 

「ぁ、あん……っ!」

 

その瞬間、莉紅の腰がびくりと跳ねたが構わず続けた。膣内をぐるりと舐め回し、時折吸い上げるようにしてやると莉紅の口から嬌声が上がった。その事に気を良くした南雲が更に激しく攻め立てる。すると莉紅がいやいやするように首を左右に振った。だが、それは逆効果だ。もっとしてと言っているようなものだった。

南雲はくすっと笑みを浮かべると、舌先を尖らせ、さらに奥へと進めた。そして膣内のざらついた部分を重点的に攻め立てるように動かす。その度に莉紅の口からは甘い声が上がった。その事に気をよくした南雲が何度もそこを刺激していると、突然莉紅の身体が大きく弓なりにしなったかと思うとびくびくっと痙攣し始めたのだ。

 

どうやら達してしまったようだと気付いた南雲だったが、そのまま愛撫を続けた。今度は親指で陰核を押し潰すようにしてやれば、莉紅の口から悲鳴のような声が上がる。そしてそのまま膣内のざらついた部分を重点的に攻め立てつつ、同時に親指で敏感な芽をぐりっと押し潰せば、莉紅が再び達したのが分かった。

 

「はぁ……は、ぁ……」

 

ぐったりと、ベッドに沈む彼女の姿はとても淫靡で美しい。そんな莉紅を見て南雲は興奮がさらに高まっていくのを感じた。ふと、彼女の蒼紫玉の瞳と目が合った。その目は困惑と、戸惑いの色を示していた。しかし、その奥にある情欲の色に南雲は気付いた。彼女も――莉紅も、自分を求めているのだと、確信する。

 

「莉紅……」

 

そっと、愛する彼女の名を呼び、その頬を撫でる。すると、莉紅はその手に擦り寄ってきたのだ。まるで甘えるようなその仕草に、南雲は胸が締め付けられるような愛しさを感じた。

 

ああ、本当に可愛い……。

 

そう思いながらも南雲は彼女の額に口づけを落とした。そして、そのまま唇へと移動させる。最初は触れるだけの軽いものだったが次第に深くなっていくそれに、2人は夢中になった。舌を絡ませ合い、互いの唾液を交換するように何度も繰り返す。その間も南雲の手は莉紅の肌の上を這っていた。首筋から鎖骨へ、そこから胸へと移動していくと、南雲は両手でそれぞれ彼女の乳房に触れた。

 

柔らかいそれを優しく揉みしだけば、莉紅の口から甘い吐息が零れる。それに気をよくした南雲は再び唇を重ね合わせると、今度は強く吸い上げた。そして唇を離すと同時に舌先でちろりと舐める。その刺激にも反応したのか莉紅が小さく震えた。そんな彼女の様子に南雲は笑みを浮かべると再び胸に顔を寄せる。そしてそのまま先端を口に含むとその頂を舌で転がすように舐め回し始めたのだ。

 

ちゅぱ、れろ……という音が部屋に響き渡る中、莉紅の口からは絶えず甘い声が上がっていた。その事に南雲の興奮はさらに高まっていく。時折強く吸い上げたりすれば彼女は身体を震わせてくる。

そしてもう片方の手でもう片方の胸に触れると優しく揉みほぐす様に動かしていく。やがて彼女の口から切なげな声が上がり始めると、南雲はその先端を口に含んだまま舌先を動かしたり歯を立てたりして刺激を与え続けた。その間もずっと胸への愛撫を続ければ、莉紅の声はどんどん大きくなっていくではないか。

 

「よい、ち、く……っ、ぁ、ん……っ、はぁ……っ、ぁ、ああ……」

 

彼女が自分の名前を呼ぶ度に、愛おしさが募っていくのを感じた。南雲は莉紅の身体を抱き起こすと、そのまま彼女の背中側に回り込んだ。そして後ろから抱き締めるような体勢になると再び手を這わせ始める。

胸を下から持ち上げるようにして揉むと、今度はその先端を摘まみ上げるようにした。すると莉紅の口から悲鳴にも似た声が上がる。しかしそれは苦痛によるものではないということは明白だった。その証拠に彼女の顔色は羞恥に染まっており、その瞳には情欲の色が強く表れていたのだから。

 

そんな彼女の反応を見ながら南雲は執拗に攻め続ける。親指と人差し指で摘まみ上げたそれをくりくりと擦り合わせるように動かしたり、指先で押し潰したりする度に彼女の口からは甘い吐息が零れた。そんな反応を示す彼女が、堪らなく愛おしく感じた。

 

「莉紅――もう、君の中に入りたいんだ。いいよね?」

 

南雲はそう莉紅の耳元で囁いた。その声音には懇願と欲望が入り混じっており、どこか余裕のないものだった。しかしそれは仕方のないことだろう。それほどまでに強く彼女を欲している証拠なのだから。そして、そんな彼の言葉に対して莉紅は一瞬驚いたように、その蒼紫玉の瞳を見開いた後、頬を赤く染め、小さく首を縦に振ったのだ。それが何を意味するのかを理解した南雲は、彼女の頬に軽く口付けると、ベッドへ押し倒すようにして寝かせ、そのまま組み敷いた。

 

ぎし……っ、と、ベッドが軋む音が部屋の中に響く。目と目が合う。そっと頬を撫でられると、そのまま口付けられた。南雲が彼女の唇を再び塞いだ瞬間――熱に浮かされるように、莉紅の思考がふと途切れる。

 

……どうして、こんなことになっているのかしら。

 

胸を焦がす熱と、南雲の瞳に映る自分。抗いきれず引き込まれてしまったこの流れ。その始まりは、ほんの数時間前のことだった。

 

 

 

 

 

―――数時間前

 

 

「いたか!?」

 

「いねえ! 何処行きやがった!?」

 

どこぞの、組織の幹部らしき黒スーツの連中が物騒な武器を持ったまま、辺りを見回している。そこから少し入った路地裏の建物と建物の隙間。南雲と莉紅は隠れていた。

 

「……しつこいなあ。殺っちゃう?」

 

南雲がそうぼやきながら、携帯していたナイフを取り出そうとする。それを見た莉紅が、小さく息を吐きながら、

 

「駄目。こんなことでいちいち殺してたら、世の中死人だらけになってしまうでしょう」

 

「え~でも、あいつら僕と莉紅の貴重な時間を邪魔したんだよ?」

 

そう言って、南雲がとん……と、莉紅を壁際に追い込むように、片手を彼女の顔の横に置いた。そんな半分ふざけているような南雲に対し、莉紅は呆れながら、視線だけ、今だにうろついている黒スーツの男達の方に向けた。

 

「……このままここに隠れていれば、やり過ごせるでしょう。というか、貴方の仕事に私を巻き込まないでよ」

 

元はと言えば、ORDERの仕事の移動中だった南雲が、相手の奇襲にあったのが発端だった。いつもならその場で皆殺しにしていたであろうが、たまたま南雲が莉紅を見つけて、話しかけてきたところに、彼らが来たのだ。お陰で莉紅もORDERの仲間と思われてしまい、追われる羽目になったのだった。

確かに、ORDERだった時期もあるが、今は違う。莉紅はもうORDERではない。4年前のあの虐殺事件でORDERからは除名されているのだから――。

 

「それで、与市君が彼らの根城を夜の会合で殲滅する任務中なのは分かったけれど、それ、私に話しちゃっていいの? 私、もう殺連の殺し屋でもないんだけれど」

 

「莉紅ならいいよ。邪魔はしないだろうし」

 

そう言って、莉紅の頬にちゅっと、キスをしてくる。なんとも緊張感のない男である。今、隠れている最中でなければ、殴っていたかもしれない。と、莉紅は思った。その時だった。ある考えが頭をよぎる。

 

「ここで、彼らを殺して口封じするのは簡単だけれど――そうしたら、帰ってこない彼らを相手が不振に思うかもしれないでしょう。だったらこういうのはどう?」

 

そう言ったかと思うと、突然莉紅がぐいっと南雲の襟首を引っ張り、引き寄せると彼にキスをしたのだった。

 

 

 

 

 

「おい、見つかったか?」

 

「いや、そう遠くへは行ってな――おい、あそこに誰かいるぞ」

 

黒スーツの男が指差した先には、白いシャツの若い男の後ろ姿がった。よくよく見ると、誰かと濃厚なキスを交わしているではないか。自分達は謎の男を追っているというのに、目の前で堂々とキスを交わす男女にイラ付きすら覚えた。

 

「おい! お前ら!! こっちに、黒い服を着た男が――」

 

そう言い掛けた時だった。不意に白いシャツの男が視線だけを黒スーツの男に向けたのだ。

 

「何? 今、良いとこなんだから邪魔しないで欲しいな」

 

そう言って、目の前の彼女に再び口付ける。そんな男の様子に、黒スーツの男達はますますイライラが募った。それはそうだろう。彼らは自分達など無視していちゃついているのだから。

 

「てめーら! オレだって彼女欲しんだ!! 目の前でいちゃいちゃすんじゃ――」

 

そう叫んだ瞬間――キスの最中に女が男の背後でサッと仕込んでいたナイフを投げたのだ。シュッ! と、音が聞こえたかと思うと、ばたんっと、その黒スーツの男が倒れる。ぎょっとしたのは、もう1人の黒スーツの男だ。慌ててばっと目の前でいちゃつく男女を見たが――その男も視界が揺れたかと思うと、その場に倒れてしまった。

 

「殺ったの?」

 

白シャツの男――南雲の言葉に、彼を押し退けながら莉紅が、

 

「殺る訳ないでしょう」

 

そう言って、気を失っている黒スーツの男達の方へ歩いていく。そして、彼らの腕を掠めた、ナイフを拾ってハンカチで丁寧に拭いた。

 

「あ、回収するんだ?」

 

黒いジャケットを羽織りながら南雲がそう言うが、莉紅はさも当然のように、

 

「……残していったら、足が付くじゃない」

 

「それもそっか。で? 何の毒使ったの?」

 

「ドウモイ酸を改良して、記憶障害と神経症状に特化させたものよ」

 

ドウモイ酸とは、珪藻と呼ばれるプランクトンが作りだす毒であり、よくある事例はこれを食べた貝類に蓄積され、それを人が摂取して記憶喪失性貝毒という食中毒を起こすパターンである。記憶喪失、混乱、平衡感覚の喪失、痙攣などの重篤な神経症状を引き起こし、最悪死にも至るものであった。

 

死なない程度に調整してあるので、この黒スーツの男達が死ぬことはない。が、少なくとも、数時間 意識は戻らないだろう。そして起きた時には、自分達が何故こんなところにいるのか記憶にも残ってない筈だ。勿論、その前後の事も。

 

「これなら、与市君を見つけた記憶も残らないでしょ?」

 

そう言って、莉紅がくるくるっとナイフを回すと、そのまま仕舞った。そんな莉紅を見て、南雲がにこっと微笑んだ。

 

「流石は僕の莉紅。手際がいいね! じゃあ、会合の時間までまだ余裕あるから、潜伏でもしよっか、一緒に」

 

南雲の言葉に、莉紅がぴたっとその動きを止めた。それから、ジト目で南雲を見る。その目が「何故私まで?」と訴えているのは明白だった。すると、南雲はさも当然のように、

 

「え~莉紅からキスして煽って来たんだよ? 勿論、この後も付き合ってくれるよね!」

 

「……」

 

そうして潜伏先に選んでいた、窓から会合場所の見えるホテルの部屋に一緒に入る羽目になったのだったのだが……部屋に入るなり、南雲はさも当然のようにソファへ腰を下ろすと、莉紅の肩を抱き寄せてキスをしてきたのだ。

 

「……まだ会合まで時間あるんでしょう? 落ち着いてなさいよ」

 

「え~? 莉紅からあんなキスされたら、抑えられるわけないじゃん」

 

にやにやと笑いながら、そのまま押し倒される。

 

「ちょっと……」

 

「潜伏って、こうやって一緒に過ごすことだよね?」

 

そう言って、善良な市民のように微笑む。その笑みが余りにもわざとらしくて、莉紅は呆れを通り越して、言葉を失いそうだった。

 

「……違うと思うけれど」

 

そう返すが、南雲が止まる筈もなく……。

 

そうして――今に至る。数時間前の路地裏での潜伏が嘘のように、今、莉紅はベッドの上で南雲に抱かれていた。

 

「ああ……っ、は、ぁ……ん、だめぇぇえ……っ! 動いちゃ……ぁあ、ん……っ!」

 

彼からの激しい抽挿に、莉紅の口からはひっきりなしに甘い嬌声が上がる。南雲のモノが彼女の膣を出入りする度、ぐちゅっ、ずちゅっと淫らな水音が響き渡り、それがまた2人の情欲を煽った。そして彼の腰の動きに合わせるように、彼女の豊満な胸が上下に揺れる。その光景が何とも厭らしく、南雲は思わずその先端を口に含んだ。

その瞬間、莉紅の身体がびくんっと大きく跳ねる。そのままちゅうっと音を立てて吸い上げれば、膣内がきゅううっと締まった。その刺激に南雲は眉を寄せ、熱い吐息を漏らすとさらに強く腰を打ち付けた。

 

「はぁ、あ……っ! ゃ、ぁ……っ、よい、ち、く……っ、だめ、だめぇぇえ……っ!」

 

莉紅の口からはもはや意味を成さない言葉ばかりが漏れている。そんな彼女の様子に南雲は満足そうな笑みを浮かべた。そしてそのままラストスパートをかけるように激しく抽挿を繰り返す。ぱんっ、ぱぁんっ! と肌同士がぶつかる音が響く中、莉紅の限界が近いことを悟った南雲は彼女の耳元で囁くようにして、

 

「莉紅――愛してるよ」

 

その瞬間、莉紅が目を見開いた。それと同時に膣内が強く締まる。南雲はその刺激に耐え切れず、彼女の中に熱を放ったのだった。どくっどくっと脈打つ度に大量の精液が注ぎ込まれていく。その感覚にすら感じてしまっているのか、彼女は小さく身体を震わせている。やがて全てを出し切ると、ずるりと自身を引き抜いた。すると栓を失ったそこからは白濁液が流れ出すようにして溢れてきて、シーツを汚していく。その光景に再び興奮を覚えた南雲は、莉紅の身体をうつ伏せにすると、そのまま再び一気に貫いたのだ。

 

「ああ……っ!!」

 

その衝撃に莉紅は声を上げた。しかし南雲はそれを無視して、激しく腰を動かし始める。肌同士がぶつかる音が部屋の中に響き渡り、結合部からは愛液が混ざり合って泡立ちながら溢れ出てきた。その度に莉紅の口から甘い吐息が溢れ出す。そんな様子に南雲の興奮はますます高まっていき、再び絶頂へと駆け上がっていった。

 

「莉紅……、莉紅……っ」

 

彼女の名を何度も呼ぶと、南雲は莉紅の顎を掴み、強引に振り向かせてキスをした。舌を絡ませ合いながら、激しく腰を打ち付ける。すると莉紅の口からくぐもった声が漏れ出したが、構わずに続けた。彼女の唇を貪りながら、何度も最奥を貫いていく。その度に、莉紅が身体を震わせた。

 

「僕の莉紅――僕を満たしてくれるのはやっぱり君だけだよ。君だけを、愛してる」

 

その言葉が耳に落ちた瞬間、莉紅の頭の中が真っ白になった。  熱くて、苦しくて、それでも胸の奥が震えるように嬉しくて――気づけば彼の名を何度も呼んでいた。

 

どうして……。どうして、こんなふうに言葉ひとつで揺さぶられてしまうのだろう。

 

南雲の熱を受け止めながら、莉紅はただ必死に呼吸を繰り返した。溢れてくる感覚に翻弄されるたび、心まで支配されていく気がして怖かった。でも、それと同時に、もっと支配されたいという気持ちがあるのもまた事実だ。

自分の中で相反する二つの感情がせめぎ合うようにして、ぐるぐると駆け巡る。思考回路がショートしそうだった。それでも身体は貪欲に南雲を求めようと動くのだから……本当に嫌になる。

 

でも――この感情の正体を莉紅は知っていた。認めたくない事実。忘れようとした過去の想いが蘇る。私は、この人を……。

 

「与市君……」

 

思わず、彼の名を呼んでいた。その瞬間、南雲の動きがぴたりと止まったかと思うと――莉紅の膣内で彼のモノがどくんと脈打ちながら、熱いものが放たれたのだ。その感覚に、莉紅は身体を震わせた。そしてそのままぐったりとベッドに倒れ込むと、大きく息を吐いたのだった。

 

そんな莉紅を見下ろしながら、南雲が彼女の頬に手を添える。すると彼は優しく、愛しい人を見つめるかのような眼差し微笑んだ。その瞳を見た瞬間、莉紅は何故か泣きたくなった。思わず、そんな視線から逃れるように顔を背ける。

すると、南雲がそっと莉紅の頬に手を伸ばしてきたかと思うと、優しく瞼に口付けられたのだ。それから、額、鼻、頬、とキスの雨を降らせた後、そのまま唇を塞いでくる。

 

「莉紅……僕を、僕だけを見て。僕の莉紅――」

 

「……与市く……ぁ、ああん……っ! は、ぁ……ゃ、あ、ああ……っ!」

 

莉紅が言い終わる前に、南雲は行為を再開し始めてきたではないか。しかも、先程出したばかりだというのに、彼のモノは既に硬さを取り戻している。その事に驚きつつも莉紅は抵抗しようとするが……結局それは叶わなかった。南雲の動きが激しくなるにつれ、身体の奥に燻っていた熱が再び燃え上がり始めたのだ。

そして先程よりも激しい抽挿が繰り返される。それはまるで莉紅の全てを食らい尽さんと言わんばかりの勢いだった。そのまま何度も膣内を蹂躙され、絶頂を迎えそうになる直前、ずるりと引き抜かれたかと思うと、今度は背後から貫かれた。その衝撃に莉紅は一瞬意識を失いそうになったが、すぐに現実へと引き戻されてしまう。そうして、激しく腰を打ち付けられていけば、あっという間に高みへと押し上げられてしまった。

 

南雲の熱によって犯されていく感覚に、莉紅はただ喘ぐことしかできなかった。やがて再び彼の欲望が注ぎ込まれていくと同時に、莉紅もまた達してしまったのだった。

 

びくびくっと身体を震わせながら、莉紅はそのままベッドに突っ伏した。そんな彼女の身体を背後から抱きしめたまま、南雲が耳元に唇を寄せてきたのだ。そしてそのまま耳朶を舐め上げていき、首筋に吸い付くようにして舌を這わせてくる。

 

「んん……っ、ぁ、は……っ」

 

その感覚すら今の莉紅にとっては快感にしかならないようで、小さく喘いだ後、力なく首を振った。もうこれ以上されたらどうにかなってしまうと本気で思った。だがそんな莉紅の気持ちなど知る由もない南雲は、彼女の身体を仰向けにすると覆い被さるようにして再び挿入してきたのだ。そのまま激しい抽挿が開始されると、莉紅の口から甘い嬌声が溢れ出してきて止まらない。その様子に満足したのか、南雲はそのままさらに動きを早めていったのだった。

 

ぱんっ! ぱんっ! と肌がぶつかり合う音が響き渡り、結合部からは白濁液が流れ出てシーツを濡らしていく。そして何度目か分からない絶頂の後、ようやく南雲の動きが止まったかと思うと――彼はゆっくりと自身を引き抜いた。それから莉紅の両足を抱え上げると、そのまま大きく開かせた状態で覆い被さってきて、再び挿入してきたではないか。その感覚に莉紅は身悶えた。

 

「ま、待っ……与市く――っ、ああ……っ!!」

 

莉紅の言葉など無視して、南雲はそのまま抽挿を開始した。先程から何度も出したというのに、彼のモノはやはり既に硬度を取り戻しており、容赦なく莉紅を攻め立てる。子宮口をノックするように突かれるたび、莉紅は悲鳴のような声を上げた。しかしそれでもなお、彼は止まる気配を見せなかった。むしろ激しさを増している気さえする。そしてついにその時が来た。どくんっと膣内で脈打ちながら大量の精液が注ぎ込まれていく感覚に、莉紅もまた絶頂を迎えたのだ。だがそれで終わりではなかった。それどころか南雲は莉紅の中から自身を引き抜くことなく、そのまま再び動き始めたのである。

 

そうして――結局その後も何度も南雲に抱かれ続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――夜

 

莉紅が目を覚ますと、既に隣に南雲の姿はなく……その代わりにサイドテーブルにメモが置かれていた。そこには、

 

 

莉紅へ。

 さっきは無理させてごめんね? でも、莉紅が可愛すぎて止められなかったんだ。

 じゃあ、ちょっと仕事してくるから待ってて。

 

 

その文面を見た途端、一気に顔が熱くなるのを感じた莉紅は慌ててそのメモを見えないようにひっくり返した後、枕に突っ伏した。

 

まさか……あんな事になるなんて。

 

思い出すだけで恥ずかしくなる。けれど同時に、南雲の言葉が頭の中で繰り返された。『莉紅、愛してる――』と彼は何度も言ってくれたのだ。それが何を意味するかなど、莉紅にだって分かっている。

 

「……私だって、本当は……」

 

それ以上は、言葉には出来なかった。胸の奥がきゅっと締め付けられるように痛む。彼に対して特別な想いを抱いている事も否定できなかった。しかしだからと言って、今の莉紅には、そう簡単に受け入れられるものではなかった。そんな自分の気持ちを悟られないよう隠してきたつもりだったのに……どうやら彼には見透かされていたらしい。

 

「……与市君の、馬鹿」

 

そう呟いたその声は、夜の闇へと溶けて消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025.09.07