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◆ 風花(五条悟BD:2025 年齢指定ルート)
―――2007年12月
11月が終わり、12月になると、街中に雪が降り始めていた。
「五条の好きなもの?」
その日、凛花は家入硝子に頼んで時間を作ってもらい、カフェで相談に乗ってもらっていた。というのも、もう少ししたら五条の誕生日なのだが、何を渡したら良いのかよく分からなかったのだ。ちなみに、兄であり、五条の友人でもある昴に聞くと――。
『いいか、凛花。“手作り”だけは、絶対ぜ~~~ったい駄目だからな!!!』
と、何故かよく分からない念を押された。でも、確かにいきなり“手作り”は、重いのかもしれないとも思った。こういう“特別”ともいえる贈り物をした事のない凛花にとって、最早未知の世界だったのだ。そこで、五条の同期の家入にこっそり話を聞いているのだが……。家入はコーヒーを飲みながら、ふーと息を吐いた。
「五条の好きなものって……今、私の目の前にいるじゃん」
そう言って、くいっと凛花の方を指さす。一瞬、家入の言った事の意味が分からず、凛花が「え……?」と首を傾げた。それから、家入の指さした方を見る。それは――。
「わ、たし、です、か……?」
「そ。五条が一番好きなもの」
そう言われた瞬間、凛花の顔がどんどん真っ赤に染まっていった。そんな凛花に、家入はくすっと笑みを浮かべながら、
「アイツ、アンタの話になると声のトーン変わるんだよね。ま、本人は……自覚ないかもだけど? でも、見てれば分かるよ。あれは明らかな好意だって」
「……っ」
凛花は、どう返して良いのか分からなくて、かぁ……っと、熱くなった頬を思わず両の手で押さえた。
五条さんの好きなもの……って……っ。
「……あ、の……。そういう、のではなく、て……。その、誕生日の贈り物を――」
「だから、アンタあげたらいいじゃん」
「い、いえ、それは――っ」
流石に、自分をプレゼントとして差し出す意味が分からない程、凛花も子供ではない。でも、だからと言って、それを選択するのは、恥ずかし過ぎて、無理があった。
「あの……、その……何か、物で……」
凛花がなんとか恥ずかしさを抑え込んでそう尋ねると、家入は少し考える素振りを見せて、
「……五条は甘い物が好きだよ。後は、実用的なものとか良いんじゃい? アイツ、基本なんでも持ってるし。……ま、アンタからのプレゼントなら何でも喜ぶでしょ」
そう言って、伝票を持つと立ち上がった。凛花が慌てて「支払いは――」と、口を開き掛けるが、家入がぺしっと伝票の背で凛花の額を軽くコツく。
「年下に払わせるわけにはいかないって。後さ――」
そこまで言い掛けて、ふと、家入が足を止めた。そして、
「五条の事、信じてやりな。アイツは、色々問題あるやつだけど――良い男だよ」
それだけ言うと、そのままレジへと行ってしまったのだった。凛花は一瞬、息を呑んだ後、家入の気遣いと、それに対する感謝の意を込めて「ありがとうございます」と言って頭を下げたのだった。
それから、数日経ち……12月6日。凛花は五条の瞳と同じ色の碧いリボンと、白い袋でラッピングされたそれを見つめて、考え込んでいた。家入のアドバイスを元に、自分なりに一生懸命考えた“特別”なプレゼント。
「喜んでくださるかしら……」
そんな小さな望みすら、今の凛花には贅沢に思えた。
カレンダーを見る。明日はもう五条の誕生日。プレゼントは用意出来た。でも、どうやって渡せばよいのか、皆目見当も付かなかった。いきなり、逢いに行くのもどうかと思うし……、何よりも、もし要らないと言われたら――そう思うと、その一歩を自分から踏み出す勇気が持てなかった。
「はぁ……」
凛花が思わず溜息を零したその時だった。突然、どすどすと廊下を走る音が聞こえたかと思うと――。
「凛花~~~~~!! 会いたかったぞ~~~!!」
「え……」
ばんっ! と、戸が開けられたかと思うと、その声の主に抱き付かれた。突然の抱擁に、凛花が驚いてると、声の主はすりすりと凛花に頬擦りをしながら、
「お兄ちゃんだぞ~~! 愛しのマイ妹よ!!」
「あ、あの……お兄様……っ」
その正体は、兄の昴だったのだ。高専寮にいる筈の昴のまさかの登場に、凛花が動揺していると、昴は満面の笑みで、
「丁度、任務で出てたから、今日は、こっちに帰って来たんだ! 土日だし、今日明日は、兄妹水入らず出来るぞ~~!!」
と、嬉しそうだ。だが、凛花は少し困ったように、兄の肩を押した。
「あの、お兄様。明日は、私は少し用事が――」
「ありまして」と言い掛けた時だった。突然、昴がその言葉を遮るように、
「ま・さ・か、とは思うが――お兄ちゃんを置いていったりしないよな?」
「う……っ」
きらきらの瞳でそう訴えられて、凛花が思わず口籠る。でも、明日は五条の誕生日。この日だけはどうしても譲れなかった。凛花は申し訳なさそうに昴を見ると、
「すみません。明日は――」
その時だった。昴が一瞬真面目な顔になり、
「凛花、悟にあんまり甘くするなよ。調子に乗るからな」
「え?」
一瞬、凛花は何を言われたのか分からなかった。その深紅の瞳を瞬かせた瞬間、昴はわざとらしく咳払いをしだした。そして、
「ああ! そういえば、明日は悟の誕生日らしいが、俺が画策して――じゃなくて、アイツ明日は急な任務が入ったから、いないぞ?」
「え……」
昴のその言葉に、凛花がその深紅の瞳を大きく見開いた。それから、戸惑ったように視線を泳がせると、言葉を失ったかのように、俯いてしまった。
「明日……、五条さん任務、なん……で、すか……?」
声が震える。まさか任務が被るとは想像もしていなかったからだ。でも、少し考えれば分かる事だった。高専生は学生であると同時に、呪術師としても活動している。いつ、いかなる時に呪霊が発生し任務が入るかなど、予想出来ないのだ。それを、誕生日だからと言って、断れる筈が無い。
凛花がぎゅっと昴の肩に触れる手に力を籠める。その手は微かに震えていた。昴はそんな凛花の手を取ると、満面の笑みでそっと頭を撫でながら、
「そういう訳だから、明日はお兄ちゃんと――」
「……お兄様。すみません、その……1人にして頂けますか……」
「んなっ!? 凛花……っ! 明日、悟はいないんだぞ?! だから、お兄ちゃんと一緒に――」
「……ごめんなさい、お兄様」
それだけ言うと、わーわー叫ぶ昴を他所に、凛花は部屋の戸を閉めた。それから、ずるずるとそのままその場に崩れ落ちる。凛花の膝が畳に触れる、微かな音だけが部屋に落ちた。視界に碧いリボンでラッピングされた、五条へ用意したプレゼントが入った。そっと手を伸ばす。リボンに触れた指先が、小さく震えた。
「そっか……明日、五条さんに逢えないんだ……」
声に出して、それが現実なのだと思い知らされる。自分は何をやっていたんだろうか。彼の誕生日プレゼントを用意する事に浮かれて、何も見えていなかった……。知らず、目尻に涙が浮かんでくる。でも、それを拭う事もせず、凛花はそのまま膝を抱えた。
「私の、馬鹿……」
でも、後悔しても もう遅かった。唇を噛んで、声を押し殺す。凛花は零れそうになる涙を必死で堪えると、そのまま目をぎゅっと閉じたのだった。
**** ****
翌日。朝からよく晴れていた。過ごしやすい一日になるでしょうというお天気お姉さんの言葉通り、空は雲一つない快晴だった。とはいえ、そんな清々しい天気とは裏腹に、凛花の心はどんよりと曇っていた。私は、何を期待していたんだろう……。
ここ数日あんなに悩んでいたのが嘘のように、今は何も考えられないでいた。五条に逢えないのなら、もういっそこのまま部屋に閉じこもってしまおうかとも思ったのだが、それも出来なくて……。ただ、ぼんやりと街を歩いて時間を潰す事しか出来なかった。
その手にはバッグと、渡す相手のいないプレゼントの入った紙袋があった。家に置いておくことも出来ず、未練がましく持ち歩いている自分が酷く虚しく感じる。
「はぁ……」
思わず、溜息を零したそんな時だった。
「凛花……っ! 見つけた……っ!!」
突然後ろから声を掛けられたかと思うと、ぐいっと腕引っ張られる。あまりにもそれが突然過ぎて、凛花が「きゃっ……」と声を漏らしかけるが――次の瞬間、そのまま後ろから腕を回されて抱き締められたのだ。
「え……」
一瞬、誰? と思うも、その温もりは、凛花のよく知っているものだった。ぐっと抱き締められた腕に力が籠もる。
「はぁ……凛花……っ」
耳元で息切れするような声で、そう名を呼ばれる。その声に、凛花は息を呑んだ。それは、聞きたくとも聞けないと思っていた声の主だったのだのだ。震える手で、その回された腕に触れる。
「五条……さ、ん……?」
それは、五条だった。五条は、ぎゅっと凛花を後ろから抱き締めたまま、顔を肩に埋める様にその手に力を籠めた。
この時、凛花は混乱していた。昨日の昴の話では、五条に任務が入ったと聞いていた。だから、今日逢う事など無いと思っていたのに……。でも、今自分の後ろにいるのは間違いなく彼だったのだ。
どうして……?
そう疑問に思うも、凛花はただ黙って五条の腕の中にいたのだった。すると、暫くして漸く落ち着いたのか、ゆっくりとその腕が離されたかと思うと、くるりと身体を反転させられた。すると、そこにはサングラスを掛けた五条の姿があった。その宝石のような美しい碧い瞳が、じっと凛花を見つめてくる。少し乱れた前髪が妙に色っぽくて、思わず見惚れてしまった。
――かっこいい……。
そんな思いが頭を過り、はっと我に返る。慌てて視線を外すと、赤く染まった頬を隠す様に俯いた。だが、そんな凛花の心情を他所に、五条の手がそっと凛花の手に触れると、それをそのままきゅっと握りしめたのだ。
え……?
と、思う間もなく、その手を引っ張られた。驚いたのは、他でもない凛花だ。凛花は慌てて口を開くと、
「あ、あの……っ、五条さん? 今日は任務では――っ」
「秒で終わらせた!」
「え……」
一瞬、五条の言っている意味が分からなくて、凛花は間の抜けた声を上げてしまった。でも、次の瞬間にはその意味を理解してしまった。それはつまり……“即行で終わらせて逢いに来た”と言ってるのだ。そう理解した途端、かぁ……っと、頬が赤く染まった。そんな凛花の表情に気付く事もなく、五条は少し照れたように視線を逸らすと、その碧い瞳を細めながら、言ったのだった。
「悪ぃ、待たせて。その……今日、さ、俺……なんかもう、落ち着かなくてよ。任務中もずっと、オマエの事ばっか考えててさ。……バカみてぇだけど。誕生日に凛花と過ごせねぇとか、絶対やだって思っちまって――」
その言葉に、凛花は胸の奥がぎゅっと縮まって、呼吸がうまく出来なかった。込み上げる何かに目頭が熱くなる。そして、それを堪えるように目をきゅっと閉じると、小さく首を振った。
もしかして……私に逢いに来てくださったの……?
そう思った瞬間、凛花の心の中は色んな感情が入り乱れた。嬉しい気持ちと寂しい気持ちが同時に押し寄せてくるようで、なんだか落ち着かない気分になった。だけど……何より“嬉しい”という気持ちの方が勝ったのだろう。自分の気持ちを落ち着かせるかのように深呼吸をしてから、ゆっくりと顔を上げた。すると、五条が真っ直ぐに前を見据え、
「だから、急いだ。凛花に……逢いたかったから――」
その言葉があまりに真っ直ぐで、凛花は思わず息を呑んだ。昨日の孤独も、眠れず抱えていた不安も、すべて溶けていくようで、凛花は一度目を伏せると、
――もう……良いわ、よね……。
そう心の中で呟いた。多分、凛花は怖かったのだ。五条に想いを寄せれば寄せる程、彼の隣にいるのが自分なんかで良いのかと思うようになったから……。でも、そんな事を考えている間も、きっと彼は待っていてくれたのだと思うと……嬉しいやら申し訳ないやら、複雑な気持ちになった。
けれど……それを嬉しく思う自分がいて……。だったら、今は自分の気持ちに正直になろうと思った。素直になろうって……思ったのだ。すると、自然にその言葉が口から出ていた。
「……私も、五条さんに逢いたかった、です……」
そう素直に伝えると、五条の顔が嬉しそうに綻んだ。
そして……。それから2人は、手を繋ぎながら街を歩いて回った。それは本当に他愛もない話ばかりだったが、凛花はそれだけで十分だった。ただ隣に彼がいるだけで、とても幸せに思えた。時折、歩道の端に積もった雪が、凛花のつま先で小さく弾けた。五条がその隣を歩きながら、何でもないように指先で彼女の肩口の雪を払ってくれる。
「付いてんぞ、ほら」
「……あ、ありがとう、ございます」
触れたのはほんの一瞬だったのに、凛花の心臓が思わず跳ねた。そんな凛花に、五条が嬉しそうに笑う。歩調を合わせてくれて、ゆっくりと歩く彼の気遣いが、酷く温かく感じる。
その時だった。ふと晴れているのに、空からひらひらと白いものが舞い落ちてきたのだ。
「あ……」
凛花の肩に落ちた一片を見て、思わず声が漏れる。
風花だ。
陽光を受けて、細かな雪がきらきらと光りながら降り注ぐ。まるで空気そのものが透き通った光で満たされていくようで、凛花は思わず立ち止まった。
「……綺麗……」
呟いたその瞬間、隣からふっと影が差す。五条が凛花の頬へそっと手を伸ばし――落ちた雪を指先で払ったのだ。
「……ほら、ここにも」
距離が、近かった。触れたのは雪なのか、彼の指先の熱なのか、判別できないほどに――。白い息が二つ、淡く重なる。五条は凛花の頬に触れたまま、ふわりと優しく目元を緩めた。
「なぁ、凛花」
「はい……」
雪の降る静かな空気の中、五条の声だけがやけに鮮明に響いた。
「こういうの、さ……なんか、ずるいよな。オマエの事、もっと……触れたくなる」
白い雪がひとひら、凛花の長い睫毛に落ちた。五条の指がそれをそっと掬って、離れない距離で見つめてくる。瞬間、凛花の心臓が、どくん、と跳ねた。
街のざわめきが遠のき、雪の舞う音だけが近くに感じられる。雪に照らされた五条の横顔は、子供みたいに無邪気で、それでいてどうしようもなく優しい。
「……凛花と歩くと、なんか、全部特別に見える」
冗談めかしていない、静かでまっすぐな声だった。その声に、胸が温かくなり、苦しくなるほど満たされていく感覚に囚われる。
「五条さん……」
呼ぶだけで、白い粉雪のように声が震えた。五条は小さく笑うと、ぽつりと落ちてきた雪を見上げ、
「誕生日に、こんな景色見れるとか……なんか、運命っぽくね?」
そう言ってまた凛花に視線を落とす。その瞳は、雪よりも澄んでいて、真っすぐで――凛花を捕まえて離さなかった。白い雪が舞い落ちるたびに、二人の距離が自然と縮まっていく――触れたいと願う心が、言葉にしなくても伝わる程に。その時、ふっと唇に冷たいものが触れた気がした。一瞬それが何か分からずに、凛花が驚いて、閉じていた瞳を開くと、目の前いっぱいに広がる五条の顔があった。それと同時に、重なった唇から体温が流れ込んできたのだ。五条の少しひやりとした唇の感触に、思わず息を呑む。たった数秒の事なのに……時が止まったかのような感覚に見舞われた。
「……っ」
そっと唇を離れると、碧い瞳が優しく細められる。そして、五条が手を伸ばし、その白い指先で凛花の頬に触れてきた。互いの吐く息の白ささえ気にならない程に熱かった。五条の唇が触れた場所が、まるで火傷したみたいにじりじりと熱を持つ。
すると……ゆっくりと五条の顔が再び近づいてくるのが分かった。心臓の音が煩い程胸の中で響き、凛花はぎゅっと目を閉じると、その唇を受け入れるように僅かに顎を上げる。
「凛花――」
優しく、名を囁くように呼ばれると、再び唇が重ねられた。それはとても優しくて、彼の心を表しているかのようだった。凛花は思わずその背に腕を回し、そしてそのまま五条の胸に頬を寄せると、そっと彼の胸に寄り添ったのだった。
それから暫くして、2人は街から少し離れた高台にあるプライベートカフェに来た。そこは、街の喧騒が遠く聞こえ、まるで別世界のようだった。2人きりの空間。テラスの方を見ると、まだ雪はちらついていたものの、雲の切れ間から光が射し込み、それがとても美しくて思わず目を奪われる。そんな景色をぼんやりと見つめながら、凛花は五条と2人並んで、ソファに座っていた。テーブルの上には、温かい紅茶が二つ置かれている。そのカップから白い湯気が立ち上っていた。
今も繋がれた手が熱い。凛花はまだ少し落ち着かない様子で、ちらちらと五条の方を見やっていた。すると、それに気付いたのか、ふと視線を上げた五条と目が合ってしまい、慌てて目を逸らした。そんな凛花に、五条がくすりと笑う。
そして、そのまま凛花の頬へ手を伸ばすと、そっと触れてきたのだ。ひんやりとした彼の手に、思わずびくっと肩が震える。すると、五条の長い指先が優しく頬を撫でてきた。その指先の感触がくすぐったくて、思わず目を細めると、
――あ……。
唇が、触れた。それは本当に一瞬で、でも確かに触れた。その感触に、凛花の顔が真っ赤に染まる。思わず視線を逸らすと、五条の長い指先がまた頬を撫でてきた。そして……そのまま耳へ下りると、くすぐるように耳朶をなぞってくるのだ。その指先の動きに、ぞくぞくとした感覚が背中を走る。思わず小さく声を漏らすと、五条の手が凛花の顎へと添えられた。
「え……?」と思う間もなく、再び唇を塞がれる。今度は触れるだけではなくて、僅かに開いた隙間から舌先が滑り込んできたのだ。
「ん……っ」
驚いて、思わず声が漏れる。その舌先が凛花の舌を絡め取ると、そのまま強く吸い上げられた。その瞬間に、ぞくっとするような快感が駆け抜ける。それはまるで電流が走ったかのように甘く痺れて……。でも、決して嫌ではなかった。むしろ、もっとして欲しいと思うほどに、気持ちが良いのだ。五条の手が凛花の後頭部へ回り、ぐっと引き寄せられると同時に深く唇が重なる。そして、何度も舌を絡ませながら互いの唾液を交換し合った。
「……っ、ぁ……ふ、ぁ……ン……」
零れる吐息が、それをさらに加速させていった。五条の舌が、凛花のそれを絡め取り、強く吸い上げる。その度に甘い刺激が全身を駆け抜けていった。それはとても心地よくて……ずっとこうしていたいとさえ思う程だった。
「凛花――」
囁く、熱の籠もった声が室内に響き渡った。その声に、ぞくっと肌が粟立つ。それは今までに感じた事のない感覚で、凛花は戸惑ったように潤んだ瞳を向けた。
すると、それが合図だったかのように、もう一度唇が重ねられる。そして今度は角度を変えて何度も啄むようなキスを繰り返すと、そのままソファに押し倒されたのだ。
軽いリップ音を立てられながら唇を離れると、目の前には熱を孕んだ碧い瞳が見下ろしていた。その瞳の輝きを見た瞬間、まるで魔法にでも掛かったみたいに動けなくなってしまったのだ。ただ呆然と五条を見上げることしかできないでいると、
「……悪ぃ、凛花――優しくするから……」
その言葉が何を意味するのか――分からない程、もう子供じゃなかった。五条の指先が優しく頬を撫でてくる。そのまま首筋から肩へと滑り降りてきた。凛花はきゅっと目を閉じると、小さな震える声で、
「……酷く、しないで……くれるなら――」
そう言って、五条を見上げた。すると、一瞬驚いたように目を見開いた後、彼はふっと優しく微笑むと、小さな声で「分かった」と言って、再び唇を重ねてきた。それから、2人は何度もキスを繰り返した。それはまるでお互いを確かめ合うかのように……。優しく触れるだけのキスから、次第に深くなっていく。舌を絡ませ合い、唾液を交換し合った。そしてまた唇を離すと、今度は首筋へと下りていくのだ。
五条の指先が凛花のブラウスにかかり、ゆっくりと胸元のリボンを解いていく。露になった白い肌が外気に晒されて、ふるりと震えたのは寒さのせいだけではないだろう。ブラウスのボタンを一つ一つ外していくと、白いレースがついた下着が見えた。それは凛花らしい清楚な雰囲気で、とてもよく似合っていた。そしてそのまま腕から袖を抜くと、白い肌を隠すものは何もなくなる。思わずごくりと喉が鳴るような美しさに、五条も僅かに息を乱した。
すると、五条の指先がゆっくりと胸元へ伸びてきて……その膨らみを優しく包み込んだのだ。瞬間、凛花の唇から「ぁ……っ」と、甘い声が漏れる。その反応に気を良くしたのか、五条の指先は何度も優しく揉み解すように動き始めた。
最初はただくすぐったくて身を捩っただけだったのに……次第に違う感覚が込み上げてくる。それはまるで電流のように全身を駆け巡り……凛花は思わずぎゅっと目を閉じた。すると、今度は反対側の胸の先端を口に含まれてしまったのだ。
「ぁ……っ、は、ぁ……ん」
その瞬間、今までとは比べ物にならない程の強い刺激に襲われてしまい……思わず背を仰け反らせてしまった。しかしそれでも逃してはくれず、さらに強く吸いつかれる。そして同時にもう片方の胸にも手が這わされ、指先で先端を摘まれると……もう駄目だった。
「ん……ぁ、あ……ゃ、ぁ……は、ぁ……っ」
甘い声を抑える事が出来ず、びくびくと身体を震わせてしまう。そんな凛花に気を良くしたのか、五条の指がさらに激しく動き始めたのだ。ちゅぱと音を立てて吸いついたかと思うと、舌先で転がすように舐められる。その度に背筋にぞくぞくとした感覚が走った。それが“快感”だという事に気付く余裕など、今の凛花には無かった。けれど……嫌ではない。むしろもっとして欲しいと思ってしまうほどに気持ちが良いのだ。でもそれは恥ずかしくて口に出せなかったので、代わりに五条の頭を掻き抱くように腕を回した。すると、それに応えるようにさらに強く吸い上げられたのだ。
「は、ぁ……んっ! あ、ああ……は、ゃ……っ!」
その刺激に、凛花の口からはひっきりなしに甘い吐息が漏れてしまう。そしてついには……自分でも信じられないような事を口走っていたのだ。
「五条、さ……もっと……欲しい……っ」
それは無意識の内に零れた言葉だった。だが、五条にはちゃんと聞こえていたようで、彼は嬉しそうに目を細めると、再び胸に顔を埋めてきた。今度はさっきよりも強い力で吸われてしまい、思わず身体を仰け反らせると、そのまま反対側の胸も強く吸われてしまったのだ。
「あぁ、ん……っ!」
その瞬間、凛花の中で何かが弾けるような感覚に襲われたのだ。今まで感じた事のない程の強い快感に襲われてしまい、頭が真っ白になる。同時に下腹部の奥がきゅんと疼くような不思議な感覚があった。そしてそれは次第に熱を持ち始めていくではないか。
「ご、じょ……さ……は、ぁ……ん……っ」
思わず彼の名を呼ぼうとした瞬間、再び唇を塞がれてしまった。そのまま深く口付けられると同時に、五条の指先が下腹部へと伸びてきた。そして、下着越しに凛花の中心に触れられたのだ。そこはもうすっかり潤っていて、まるで待ちわびていたかのように五条の指が動く度に、くちゅりという水音が響いた。その恥ずかしさに、凛花はぎゅっと目を閉じると顔を逸らそうとしたのだが、それを許さないとばかりに強く舌を吸われてしまう。同時に敏感な部分を指で擦られると、それだけで意識を失いそうな程の快感に襲われたのだ。
やがてゆっくりと唇が離れていき、銀色の糸がぷつりと途切れた。その間も五条の手は止まらずに動き続けており、凛花の意識は次第に霞んでいくようだった。
――あぁ……私、このまま五条さんに……。
ぼんやりとした頭でそんな事を考えた瞬間だった。突然、五条が凛花の膝裏に腕を差し入れたかと思うと、そのままぐいっと持ち上げられてしまったのだ。
「ごじょ……っ、ぁああ……んっ!」
さすがに驚いて声を上げかけたのだが、それも途中で遮られてしまった。何故なら五条の舌がむき出しになっていた凛花の秘所に触れてきたからだ。ぬるりとした感触に思わず腰が浮いてしまったが、彼はそれを許さないとばかりに強く押さえつけてきたのだ。
「は、ぁあ……っ! あ、ああん……っ、ゃ、ぁ……だ、めぇえ……っ!」
初めて感じるその強烈な刺激に、凛花はただただ喘ぐ事しかできなかった。五条の舌先が何度も敏感な芽の部分に触れてきて、その度に電流が流れたかのような衝撃に襲われるのだ。しかもそれだけではなく、指まで挿れられてしまったのである。ゆっくりと中を確かめるように動かされてしまい、あまりの恥ずかしさと快楽におかしくなりそうだった。
凛花は堪らず、無意識のうちに五条の頭を抱き込むような体勢になってしまっていた。すると、それに気をよくしたのか、さらに強く吸いつかれてしまう始末だ。しかしそれでも容赦なく責め立てられて……凛花の思考回路は次第に蕩けていく一方だった。
「は、ぁ……あ、ああ……っ! ごじょ、さ……っ、ぁ、あん……っ!」
「ん……凛花、可愛い……」
そう言って、さらに強く吸いつかれると、今までとは比べ物にならない程の快感に襲われた。その瞬間、何か熱いものが弾けたような感覚がして、同時に頭の中が真っ白になる。
「は、ぁ……あ……っ! ん、あぁ……っ!」
びくびくっと身体を震わせながら、凛花は達してしまっていた。初めて味わう絶頂に意識を失いそうになったのだが、それは許されなかったのである。今度は五条の長い指が中へと侵入してきたのだ。最初は一本だけ入れられただけだったが、徐々に本数を増やしていき、最終的には三本まで入ってしまったのである。その頃にはすっかり蕩けきった状態になっていたので痛みなど全く感じなかったし、むしろもっと欲しいと思ってしまう程だったのだ。そしてついにその時がやってきたのである。ずるりと指を引き抜かれたかと思うと、今度は熱いものが押し当てられたのが分かった。それが何かなんて考えるまでもなかった。
「凛花……は……っ、力、抜けよ」
そう言って優しく頬を撫でられた瞬間、ゆっくりと五条のものが凛花の中に入ってきたのが分かった。その質量の大きさに思わず息を止めてしまいそうになるが、何とか耐える。そしてついに一番太い部分が通り抜けると、後は一気に奥まで貫かれたのだ。
「は、ぁ……ああ……っ!!」
その瞬間、まるで電流が走ったかのように身体が大きく仰け反った。今まで感じた事のない程の衝撃と圧迫感で息が詰まりそうになったのだが、同時に幸福感のようなものも感じていたのである。それはきっと相手が五条だからだったのだろう。彼が相手なら、どんな事でも受け入れられるだろうという確信があった。
あぁ、もう……本当に私はこの人の事が、大好きなんだわ……。
改めてその気持ちを実感すると同時に、自然と涙が溢れてきた。それを優しく拭われながら、五条にキスをされる。そのまま舌を絡め合っているうちに段々と身体の力が抜けていき、それを見計らっていたかのように一気に貫かれたのだ。
「ああ―――っ!」
ずぶりっと奥まで入り込む感覚に、凛花の口から悲鳴じみた声が上がった。だがそれは苦痛ではなく快楽によるものだった為か、彼女が痛みを感じている様子はなかったのである。
「……っ、凛花……は……絞め過ぎ……っ」
そう言って、五条も僅かに息を乱していた。どうやら凛花の中の締め付けが強すぎて苦しいようだ。だがそれは凛花も同じで……少しでも気を緩めたら達してしまいそうになっていたのである。
「そ、んなこ、と……言われ――ああ、ん……っ!」
しかし、そんな凛花の事情など知らないとばかりに、五条の腰が動き始めると、彼女はもう何も考えられなくなった。ただ与えられる快感に身を任せるしかなくて……気が付けば自分から腰を浮かしてしまっていた。もっと強い快感が欲しくて、無意識のうちに動いてしまったのだ。そんな凛花の痴態に煽られたのだろうか……五条の動きが激しくなっていく。
「はぁ……っ、ぁ、ああ……ゃ……動いちゃ……っ、ああ……っ!」
凛花の言葉など聞こえていないかのように、彼はただひたすらに腰を動かし続けた。その度に結合部からは愛液が飛び散っていき、それがさらに2人の興奮を高めていったのだ。そして、五条の動きが激しくなり始めると、それに合わせて凛花の嬌声も高くなっていった。
「凛花……好きだ……っ」
切羽詰まったような声で囁かれた言葉に、胸の奥がきゅんと疼くような感覚を覚える。それと同時に五条自身が大きさを増していき、次の瞬間には熱い飛沫を中で感じていたのである。そして、凛花も同時に達してしまい、びくびくっと身体を痙攣させていた。
「はぁ……は、ぁ……」
ぐったりと、ソファに沈む凛花の四肢を、五条は労わるように撫でると、ゆっくりと自身を引き抜いた。ずるりと引き抜かれたそれを名残惜しく思いながらも、凛花は呼吸を整えるのに必死だった。
だがそれも束の間の事。すぐに五条によって身体を抱き起こされたかと思うと、そのまま対面座位の体勢を取らされる事になったのだ。一瞬、凛花が「え……」と思った瞬間――ずん! と、下から身体の奥底に入り込むように、五条のものが突き上げてきたのだ。
「あ……っ!」
自重のせいで先程よりも深い場所まで届いてしまったようで、凛花は悲鳴じみた声を上げて身悶えた。しかしそれは逆効果だったようで、余計に五条のものを締め付けてしまったようだ。彼は小さく呻くと、仕返しとばかりに更に下から突き上げてきたのである。その瞬間に目の前が真っ白になり、一瞬意識を失いかけた程だった。だがすぐに強い快感によって引き戻されてしまい、凛花はもう何も考えられなくなってしまったのである。
「ああ……っ! は、ぁ……だめ……っ、だ、めぇええ……っ!!」
凛花は必死に五条にしがみ付いた。すると、五条が荒い息をしながら、優しく凛花の髪を撫でた。
「爪……立てて、いいから……っ」
そう言って、ぐっと腰を引き寄せられたかと思うと、一気に下から突き上げられたのである。その瞬間、凛花は背中を仰け反らせながら達してしまい、それと同時に中に入っているものをきつく締め付けてしまったのだ。
「……っ、凛花……っ」
その刺激に耐え切れず、五条もまた凛花の中で果ててしまったのだ。熱い飛沫が注ぎ込まれる感覚にさえ感じてしまい、びくびくと痙攣するように震えた後、そのままぐったりと力が抜けてしまったのである。
五条がそんな凛花の身体を優しく抱きしめると、ゆっくりとソファに寝かせた。そして唇が重なると同時に舌を絡め取られてしまい……深い口付けを交わした後にようやく解放された頃にはすっかり息が上がってしまっていたのだった。
「凛花……」
名前を呼ばれて見上げると、そこには優しく微笑んでいる五条の顔があった。その表情を見た瞬間、胸がきゅんと締め付けられるような感覚がして……思わず彼の首に腕を回して抱き着いたのだ。そしてそのままぎゅっと抱きつくと――耳元でそっと囁かれたのである。
「……好きだ」
その言葉に、凛花は胸の奥がじんわりと暖かくなっていくのを感じた。それと同時に嬉しさが込み上げてきて……気が付けば涙を流していたのだった。
「私も……好きです」
五条はそんな彼女の涙を指で拭いながら、再び口付けを交わす。そしてそのまま何度も角度を変えながら深いものになっていくと、次第に息が上がってきてしまったのだ。しかしそれでも止める事はできず、むしろ激しさを増していったのである。
やがて凛花が息苦しさに身を捩り始めると、ようやく解放されたのだが、その時にはもう身体に力が入らなかったようで、ぐったりとしていたのだった。そんな凛花の様子を見て取ったのか、今度は優しく抱き起こされたかと思うと、膝の上に座らせられるような格好になったのである。すると自然と向かい合う形になり、お互いの視線が絡み合うようになったのである。
……本当に、私はこの人と結ばれる事ができたんだわ……。
そう思うと嬉しくて涙が出てしまいそうになったのだが、それを堪えて五条に抱き着いた。するとそれに応えるように強く抱きしめられたので、それがまた嬉しくなってしまって、しばらくそのまま抱き合っていたのだった。
その後の事はあまりよく覚えていない。
気が付くと夜になっていて、隣には五条の寝顔があったのである。しかもお互い全裸のままで寝ていたようで、そこで初めて先程の出来事を思い出してしまった凛花の顔は、真っ赤に染まったのであった。そして恥ずかしさのあまり、慌ててその腕から抜け出そうとしたのだが、その前に腕を引っ張られてしまい、再び腕の中へと引きずり込まれてしまったのである。
「あ、あの……っ、五条さ……っ」
凛花が顔を真っ赤にして、困惑気味に五条の名を呼ぶと、五条は「ん~?」と、まだ眠そうな声を出した後に、ゆっくりと目を開けたのである。そしてそのままじっと見つめてきたかと思えば、突然キスをされてしまった。しかも触れるだけの軽いものではなく、濃厚なキスだったのである。
最初は驚いていた凛花だったが、次第に頭がぼーっとしてきてしまい、気が付けば自ら積極的に舌を絡めてしまっていたのだ。それが分かった途端に恥ずかしくなってしまい、離れようとしたのだが、それを逃がさないとばかりに後頭部を押さえられてしまう。そして逃げる事ができなくなってしまったのである。
結局その後も何度も口付けを交わし合い、やっと解放された頃にはすっかり息が上がってしまっていたのだった。
そんな凛花の様子を見て、五条はくつくつと笑いながら。
「凛花、やっぱ可愛い」
「な……っ」
突然の言葉に思わず言葉を失ってしまった凛花だったが、すぐに反論しようと口を開くと、また唇を塞がれてしまったのである。その時だった。ふとテラスの方を見ると、また風花がはらはらと舞っていた。光が差し込み、まるで白い粒が2人の上に落ちてくるようにすら見える。
「……なぁ、凛花」
まだ胸の奥に熱を残したまま、五条がゆっくりと彼女の頬を指でなぞった。その触れ方が、まるで唇の余韻を忘れさせないようで――焦らすみたいに触れられて、凛花は息を呑んだ。すると、五条がくすっと笑って、
「その顔で見つめられると、またキス――したくなるんだけど」
「っ……で、ですから、もう……っ」
凛花が恥ずかしさに視線を伏せた瞬間、五条が肩を抱き寄せ額をこつん、と重ねてきた。目と目とが合う。間近に五条の体温を感じ、思考すら上手くまとまらない。
「でもさ……このままじゃ、風邪ひくよな」
そう言いながら、五条の指が凛花の肩を撫で、落ちたブランケットを拾い上げた。その瞬間、凛花は自分がまだ五条にしがみ付いたままで、“完全に何も着ていない”ことを思い出した。知らず、顔が真っ赤に染まっていく。
「ふ、服……。着ない……と……」
なんとか小さくそう呟くと、五条は少し笑って、
「俺、後ろ向いてるし。ゆっくり着ろよ」
そう言うと、頭をくしゃっと撫でられた。その手も、その声も、優しすぎて、また胸がきゅっと締めつけられる。凛花は五条が背を向けるのを確認してから、慌てて服を手に取ると、震える指で着替え始めた。凛花の着替える気配を背で感じながら、五条はぽつりと小さな声で――、
「……なぁ、凛花。その……、さっきオマエが言ってくれた“好き”ってやつ。……すげー嬉しかった」
「……っ」
その言葉を聞いた瞬間、思わず凛花の手が止まった。背中越しに言われただけなのに、その言葉だけで胸が酷く熱く感じる。凛花は息を呑むと、震える声で、
「そ、その……わ、私も……本当に……」
そう、やっとの思いで答えると、五条がゆっくりと振り返った。凛花が服を整え終わったのを確認してからそっと近付くと、その指先が凛花の手に触れた瞬間、身体の奥がまた温かくなっていった、
「……今日さ、俺、誕生日だろ?」
その一言に凛花は、はっと目を見開いた。恥ずかしさと余韻の中で、すっかり忘れ掛けていた。ソファの上のバッグの横に、ずっと悩んで選んだものが入っている事を。すると、五条が首を傾げ、覗き込むように笑った。
「何か、俺に言いたいことあるんじゃねぇの?」
「……っ」
瞬間、凛花の心臓が跳ねた。でも、このタイミングで、どうやって渡せばいいのか分からなかった。けれど、もう逃げられない。凛花は意を決して、ソファの横に置いていたバッグの方へ歩み寄った。そして、
「……あの、五条さん。……プレゼント、です。お誕生日、おめでとう……ございます」
そう言いながら、振り返って差し出す凛花の手は、ほんの少し震えていた。一瞬、五条は驚いたように目を瞬かせたが、それからゆっくりと優しげに笑みを浮かべた。
「凛花……すげー嬉しい」
「凛花」と名を呼ぶその声は、先程呼ばれた時と同じトーンの声音で――凛花の胸の奥に、またひとひら、風花が舞い落ちるような音がした。その時だった。ふと、五条が紙袋の中をみて、くすっと笑った。
「このリボン、俺の目の色じゃん」
「あ……」
五条に贈り物をと思った時、掛けるリボンはこの色しか思いつかなくて、捜したのだ。なんだか、それが恥ずかしくなり、凛花が俯いていると、不意に五条の長い指が凛花の髪に絡められ、そのまま頬を撫でられた。
その仕草に、どきん……っと、心臓が跳ねる。すると、五条がゆっくりと吐息の掛かるぐらい顔を近付けてきて、
「今日さ、最初は任務入れられてだりぃって思ったけど、オマエと一緒に過ごせて、俺、今、めちゃくちゃ幸せなんだ。オマエと――凛花と、一緒にいられて良かった」
「……っ」
まるで、告白のようなその言葉に、凛花の胸が高鳴った。頬が熱く、自分でも顔が赤くなっていくのが分かる。
「あ、の……その……、わ、私も――凄く……」
最後まで言い切る前に、五条がそっと額を重ねてきた。キスじゃない。でも、それはキスよりも心臓が鳴る距離だった。
「……ありがとな、凛花」
吐息まじりの囁き。五条が凛花の手をもう一度強く握りしめると、そのまま指を絡め、ためらいも焦りもない静かな熱を落とすように、ゆっくりとその指に口付けを落とす。たったそれだけなのに、凛花は胸がまた温かくなっていくのを感じていった。
風花の舞う窓の外で、2人の指はしっかりと絡まったまま離れない。
――告白はまだだけれど。
けれど、もうすぐそこだと気付いてしまうほど――それは、距離が近い夜だった。
2025.12.20

