スノーホワイト

   ~Imperial force~

 

◆ ROMANTIC SYNDROME5

 

 

 

―――グリーンイーストヴィレッジ・オリーブアベニュー区

 

 

 

到着すると辺りは騒然としていた。建物は破壊こそされていないが、【イプリクス】が集団で動いているのが確認取れる。時間が遅いだけあって、市民があまりいない事が幸いだった。

 

「さて、【サブスタンス】は既に回収したようだな。お陰で、こちらに気付いていない」

 

「そのようですね」

 

どうやら、既に【イプリクス】が【サブスタンス】を回収してしまっている様だった。その為、油断からか、丁度死角になっているからか、こちらの存在に気付いてない。

 

「どうしますか? ブラッドさん」

 

アリスがそう尋ねると、ブラッドは、アリスとアキラの方を見た後、

 

「アリスは、後方から支援を」

 

「分かりました」

 

そう答えた後、アリスの【サブスタンス】エンドレス・スノーホワイトが反応して、雪の結晶が出現する。

 

「アキラ、一気に畳みかけ【サブスタンス】を奪還する。付いてこられるか?」

 

「ふん、問題ねーよ! そういうのは得意だ」

 

アキラの答えに、ブラッドが微かに笑う。

 

「そうか、では期待するとしよう」

 

と、その時だった。

 

 

“シャララ~ン”

 

 

「っ……」

 

何故か、“ロマンチック測定器”が反応した。ブラッドは気付かなかった様だったが、アリスはアキラの近くにいた為、気付いてしまった。

これは、もしかして……。

 

なんとなく、反応した理由に気付き、アリスがアキラを見てくすっと笑った。それに気付いたアキラが、ぱっと顔を少し赤らめる。すると、ブラッドが訝し気にアキラを見た。

 

「何をしている?」

 

「なっ、なんでもねーよ! 行くんだろ?」

 

そうして、ブラッドとアキラの活躍により、【サブスタンス】の奪還と、【イプリクス】の撃退に成功するのだった。

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

―――帰りの車の中

 

 

引継ぎをジェイ達にした後、ブラッドは、アリス、アキラを乗せてエリオスタワーに向かって車を走らせていた。

 

「【サブスタンス】を奪還し、【イプリクス】を撃退する事が出来たが……当初の目的は果たせなかったな」

 

「うーん、そもそも“ロマンチック”って探すものではないと思うんですが……」

 

「まあ、それはそうだが……」

 

「……」

 

「“ロマンチック”というのは、そう容易に見つかるものではないようだ」

 

「そう、ですね……ふふ」

 

「……」

 

ブラッドはそう言うが、アキラは無反応だった。そして、アリスが何故か笑っている。その様子に違和感を覚えたのか、ブラッドが横目でアリスを見た。

 

「アリス?」

 

「いえ、何でもないです」

 

アリスはそう言うが、やはり笑っていた。その間もアキラはずっと無反応で――いつものアキラなら、もっとあれこれ言ってきそうなのに、何故か静かだった。

 

「……アキラ、先程からやけに静かだな。追撃をジェイ達に引き継いだのがそんなに不満か?」

 

ブラッドのその問いに、何故かアリスがくすくすと笑い出す。

 

「違いますよ、ブラッドさん」

 

「違う?」

 

アリスの言う意味が理解出来なかったのか、ブラッドが訝し気に眉を寄せた。

 

「ならどうした? 戦闘が終ってから静かすぎるが……」

 

「べ、別にいいだろ、オレが静かにしてても」

 

「……何でもないならいいが、いつもと様子が違うのなら気に掛けるのは当然だ」

 

「う……」

 

メンターとして気に掛けているというのが伝わったのか、アキラが口籠もる。そんな2人様子を見ていて、限界だったのか、アリスがくすくすと笑いながら、

 

「アキラ君、もう白状してもいいと思うけれど」

 

「な……、なんのこと、だよ……っ」

 

「ふふ、声。裏返ってるわよ」

 

「な……っ」

 

アリスの言葉に、アキラが顔を真っ赤にする。それから、アリスとブラッドをじーと見た後、「……だよ」と小さな声で何かを呟いた。

だが、ブラッドには聞き取れなかったようで……、やはり眉を寄せると、

 

「なんだ。はっきり言え」

 

「そ、それは……み、見つけたん、だよ」

 

「何を?」

 

「ロ、ロマンチック……?」

 

「ほう」

 

そこまで言った後、何か緊張を解く為か、アキラはすーはーと大きく深呼吸した。そして、視線をブラッドから少し逸らしたまま、

 

「ファンがオレ達のどんなとこが好きだろうと、オレ達は『ヒーロー』だろ? 皆が、オレ達『ヒーロー』に期待してて、応援してくれる。それってさ……皆が見たいのは、市民の生活を守って、この街の為に“戦う『ヒーロー』の姿”なんじゃないかって……」

 

「なるほど……」

 

もっともらしくアキラは遠回しに言っているが……。

 

「市民の要求に応える事ばかり考えていたが、確かにそうかもしれないな。だが、よく気が付いたな」

 

「……不本意にも程があったけどな」

 

「……?」

 

アキラの言葉に、ブラッドが首を傾げる。すると、アリスがブラッドの方を見ると、くすっと笑って、

 

「実は、さっきの戦闘前にアキラ君、測定器鳴らしちゃったんです。ブラッドさんに『ヒーロー』として頼りにされたことが、余程嬉しかったみたいで――」

 

「ほう」

 

と、ブラッドが表情変えずに、声を洩らした。だが、アキラはそれどころではなかったらしく……まさかのアリスの発言に顔を真っ赤にさせた。

 

「な……っ、ち、ちげーよ! そんなんじゃ……っ!!」

 

「大丈夫よ、アキラ君。同じ状況だったら、きっと私も鳴らしてたと思うから――。やっぱり、『ヒーロー』している姿が一番素敵だし、かっこいいもの」

 

「ああああ~~~」

 

アキラが、頭を抱えて顔を足に沈める。その顔は言うまでもなく、真っ赤だった。そんなアキラがおかしくて、アリスはやはり笑ってしまったのだった。

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

―――バレンタイン当日

 

 

 

メインスタジアムでは、バレンタイン【LOM】のラストに、デモンストレーションでブラッドとアキラの一騎打ちが行われていた。両者一歩も譲らず攻防が繰り広げられている。それを見ている市民から大きな歓声が沸き上がっていた。

 

そんな2人の戦いをアリスは監視塔から見ていた。2人とも、とても楽しそうで、見ているこっちも楽しくなる。と、その時だった。

 

「お~ばちばちだねぇ~」

 

「アリス、お疲れー」

 

出場の終ったキースとディノが監視塔に上がって来ていた。アリスは2人を見ると、にっこりと微笑んで、

 

「お疲れ様です、キースさん、ディノさん」

 

そう言って頭を下げると、今一度メインスタジアムの方に視線を向けた。丁度アキラが大技を出していて、ブラッドがそれをかわしている最中だった。キースとディノは、メインスタジアムの方を見ながら、

 

「で? なんでこんな事になってんだ?」

 

「ああ、それは……アキラ君が、ブラッドさんに持ち掛けたんです。市民をときめかす為に、この【LOM】で自分と一騎打ちしろと」

 

「あ~あれだろ? “ロマンチック暴走症”。聞いたぞ~この間、なんか面白い事してたらしいな~。“ロマンチック”を探す旅だったか」

 

にやにやしながらそう言うキースの言葉に、アリスが絶句した。

 

「な、なんで……」

 

その話は、サウスセクターの人とノヴァしか知らない筈――と、そこまで考えてアリスは はっとした。

 

「ま、まさか、ノヴァ博士が……」

 

「お~なんちゃら装置で測定して回ったとかなんとか」

 

「いいよなー。俺もアリスと一緒に出掛けたい」

 

「……っ」

 

アリスが頭を抱えて、項垂れる。完全にバレている……っ。恥ずかし過ぎるんですけれど……っ。

ほのかに、顔が熱くなるのを気のせいだと決めて、頬を手で押さえた。そんなアリスを見て、キースがけたけたと笑う。

 

「でもよ~お前も行ったら、ブラッドの傍にいるだけで、ずっと装置鳴りっぱなしだろ~?」

 

「そ……っ! そ、こまで……鳴ってま、せん」

 

と言いつつ、アリスは視線を2人から逸らした。

鳴ってないわ、よね? と、思うも、鳴らしまくった記憶しか思い出せず、頭を抱える。そんなアリスの様子を見て、またキースがけたけたと笑った。

 

「こいつ、絶対鳴らしまくったんだぜ~」

 

「も、もう……だから、それは……っ」

 

駄目だ。完全に遊ばれている。すると、ディノが気を利かせたかのように、

 

「いいじゃないか! “ロマンチック”探す旅! 楽しそうだ!! 今度俺達とも行こうよ、ね? アリス」

 

「でたよ~、“ラブアンドピース星人”め。つか、なんで“俺達”なんだよ。嫌だよ、オレは~ブラッドに殺されんの。まだ死にたくねえ」

 

「ブラッドはそんな事しないぞー?」

 

「い~や、する! あいつはアリス関わると、ぜってぇ こええ~もん」

 

「あ、はは……」

 

どう反応するか困る内容に、アリスが苦笑いを浮かべた。視線をメインスタジアムの方に向けると、丁度アキラが新技を出すと言っていて、ブラッドがそれを受け止めていた。そんな2人はやはりとても楽しそうで、思わずアリスは笑ってしまった。

 

「まあ、それまでの過程は置いておいて、最後の最後でアキラ君が“ロマンチック”について、理解出来た様だったので……」

 

「それがコレなのか?」

 

と、キースがメインスタジアムの方を指さす。ディノは、首を傾げてアリスを見た。そんな2人にアリスが小さく頷くと、

 

「……『ヒーロー』の皆様は、やっぱり『ヒーロー』している時が、一番かっこいいって事ですよ」

 

そう言って、にっこりと微笑んだのだった。

 

 

 

こうして、アキラの作戦は予想的中で、バレンタイン【LOM】を見に来ていた市民達は無事“ロマンチック暴走症”を回復させたのだった。その上、薬も出来たと研究部から報告も上がり、“ロマンチック暴走症”に掛かった市民を、全員正常なバイタルに戻す事が出来たのだった。

そして――。

 

 

 

 

 

―――エリオスタワー・廊下

 

 

 

アリスは、ぱたぱたと紙袋を持って廊下を歩いていた。

 

「えっと、13期関係者の方々には全員お渡ししたし、12期の関わりある方もお渡ししたし、研究部も一通り回ったし、後は……」

 

ちらっと、紙袋に残っている最後のひとつを見る。綺麗なルビーのリボンで包んだそれは……。

 

「……」

 

アリスは少し考えた後、小さく息を吐いた。バレンタイン【LOM】と、交流会の片付けの所為で、時計を見るともう結構遅い時間だった。流石に今から呼び出すのは、気が引けた。それに、もしかしたらまだ仕事中かもしれない……。

 

アリスはそう考えると、自室に戻る事にした。カウンターに紙袋を置いて、最後のひとつを取り出す。そして、テーブルの上に置いて大きな溜息を洩らした。

 

渡しそびれてしまった……。

 

一応、皆用のは渡しているので、まったく渡していない訳ではないが……。あれは、あくまでも義理と同じものだ。でも、これは――。

と、その時だった。スマホが鳴ったのだ。画面を見ると、ブラッドからで……今は仕事中ではないのかと思いつつも、そっと通話ボタンを押した。

 

「……もしもし」

 

恐る恐る出ると、モニターにブラッドが映し出された。

 

『遅い時間に済まない、アリス。少し話せるだろうか?』

 

そう言われたので、「大丈夫です」と答えると、モニターの向こうのブラッドが少し躊躇うような仕草をしたのが分かった。珍しい事もあるものだと思っていると、

 

『……今、タワーの屋上にいる。来れるか?』

 

「え……」

 

時計を見ると、23時半になろうとしていた。24時まで――日付が15日に変わるまで後30分。もしかしたら、これが今日最後のチャンスかもしれない。そう思うと、アリスはテーブルの上のそれを持って、部屋を飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

 

―――エリオスタワー・屋上

 

 

 

「……っ」

 

屋上に続くエレベーターから飛び出して、辺りを見渡す。すると、屋上にある手摺りに寄りかかって立っているブラッドが目に入って来た。

こんな時間だ。当然辺りは真っ暗になっているが、その分、星がとても綺麗に見えていた。

 

ブラッドさん……。

 

そう思っただけで、胸が締め付けられる。ゆっくりとブラッドの方に向かうと、足音で気が付いたのかブラッドがこちらを見た。そして、小さく笑う。

 

あ……。

 

その笑顔に、どきっとした。こんなに傍まで来ているのに、今だ渡せないでいるそれが、手の中で存在感を放っていた。

 

どうしよう……。

 

そう思っていると、ふとブラッドが口を開いた。

 

「今回は色々アリスには世話になったからな。礼を言いたいと思っていたんだ――ありがとう」

 

「……っ。あ、いえ……私は、なにも……」

 

「謙遜する事はない。アリスがいなければ、俺もアキラもきっと“ロマンチック”の本質に気付けなかっただろう」

 

「……」

 

そう言ってブラッドは、空の方を見上げる。それに倣ってアリスも空を見上げた。すると、月と星が空に煌めいているのが見えた。とても綺麗な星空だ。そんな星空を眺めながら、アリスはまた小さく溜息を吐いた。

 

やっぱり……渡せない。

 

こんな事なら、作ったりしなければ良かったかもしれない――などと今更ながら後悔していた時だった。不意にブラッドに「アリス」と名前を呼ばれ、反射的にそちらを向く。

 

その瞬間――唇に柔らかいものが触れた。

 

え……。

 

それがブラッドの唇だと気が付いた時には、その唇は離れていた。

 

今、何が起きたのか分からず、アリスが目を白黒させる。すると、そんなアリスの様子を見たブラッドがくすっと笑って、

 

「……ああ。やはり可愛いな」

 

そんな声が頭に響いた気がした。そして、再びブラッドの顔が近付いて来て、また唇が重なった。だが、今度は触れるだけのキスではなかった。そのままぐっと腰を掻き抱かれる。

 

「ブラ……っ」

 

驚いて名前を呼ぼうとした時だった。僅かに開いた唇から、ブラッドの舌が滑り込んで来たのだ。ぴくんっと、微かにアリスの肩が揺れる。

そのまま舌を絡め取られると、ちゅっと音を立てて吸われた。それと同時に腰に回された手に力が籠められるのが分かった。

 

「……ぁ……っ」

 

そのまま深く貪られ、徐々に身体から力が抜けて行く。アリスはブラッドの服をぎゅっと掴むと、そっとブラッドの背中に腕を回したのだった。

それを感じ取ったのか、腰に回されたブラッドの手に更に力が籠められる。同時に唇が離れると、名残惜しむように2人の唇を銀糸が繋いだ。それを断ち切るようにちゅっと軽く啄ばまれると、もう一度キスされて……漸くブラッドから解放される。だが、息は荒いままだし、身体から力が抜けたままだった。

 

そんなアリスを見て、ブラッドは目を細める。そしてそのままそっとアリスを抱き締めたのだ。ふわりとブラッドの香りと温もりに包まれて、その心地良さに、アリスがそっと目を閉じた時だった。

 

ブラッドの唇が、額に触れた気がした。そして、ゆっくりとその唇を離れると、そのまま優しく頬を撫でられる。

 

ふ……と視線を上げると、真剣な眼差しでアリスを見つめるブラッドのルビーの瞳と目が合った。その瞬間――先程の事を思い出してしまい、一気に顔が熱くなる。

そんなアリスを見てブラッドがくすっと笑うが、それが恥ずかしくて再び俯くも、頬は熱いままだった。

 

「……あ、の……っ、ブ、ブラッドさん……」

 

「ん? どうした」

 

ブラッドは、アリスの髪を優しく撫でながらそう答える。だが……その声と手付きがとても優しくて、余計に恥ずかしくなった。

 

でも、もし渡すなら今しか――。

 

そう思うと、アリスは意を決したように顔を上げて、

 

「あの……っ、こ、これ……受け取って、貰えませんか?」

 

そう言ってアリスが差し出したのは、綺麗にラッピングされた、ルビー色のリボンを掛けてあるものだった。

ブラッドが一度だけその瞳を瞬かせた後、

 

「これは?」

 

「バ、バレンタインの贈り物、です」

 

「……チョコレートなら、先程皆と一緒に貰ったと思うが」

 

「あ、あれは、皆様と同じもので……。こ、これは、ブラッドさんだけ、に……」

 

そう答えると、ブラッドが少しだけ驚いた様な顔をした。そして、ふっと優しく笑うとその箱を受け取ったのだ。

受け取ったブラッドは、またそのままアリスの頬を撫でた。その手がとても優しくて、心地良くて……思わず目を細める。するとブラッドも、嬉しそうに目を細めながら、

 

「ありがとう。俺の為に用意してくれたのか。その事をとても嬉しく思う」

 

そう言って、そっとアリスを抱き締めた。

ブラッドの温もりが、鼓動が伝わってくる。それがとても心地良くて……このまま時間が止まってしまえばいいとすら思った時、ふと耳元にある言葉が囁かれた気がした。

それは、とても小さな声だったけれど、確かに聞こえた気がした。

 

「愛している」――と。

 

その瞬間、顔どころか全身が熱くなったのが分かった。アリスは恥ずかしくなって思わず俯いたのだが、ブラッドはそんなアリスを優しく抱き締めてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――後日

 

 

「アリスちゃ~ん!」

 

ふと、タワーの廊下を歩いている時、後ろから誰かに呼ばれた。振り返ると、12期生のビアンキが何かを持って嬉しそうに駆けて寄って来るではないか。

 

「ビアンキさん?」

 

そういえば、このフロアはデザイン部が近かったなと思いつつ、アリスが足を止めると、ビアンキは、うふふ、と何故か凄く楽しそうだった。

 

「……? えっと、どうかされましたか?」

 

思わず、首を傾げてしまう。すると、ビアンキは突然持っていたそれをばっと広げて――。

 

「ねぇ、これ! これ、アリスちゃんでしょう?」

 

「え……」

 

言われて、まじっとそれを見る。それはバレンタイン特集の組まれた雑誌だった。その中に、以前撮影されたブラッドのスチール写真が掲載されていたのだが……。

 

「あ、あの……これ……」

 

「勿論、ブラッドさんが特集で組まれてるし、表紙も飾ってるからアタシが自分用に買ったのよ。そしたら、なんと、アリスちゃんまでいるじゃない!」

 

そうなのだ。顔こそ写り込んでいないが、どうみてもアリスの後ろ姿や、髪など、手、以外も載っていたのだ。正確には、一緒に撮ったスチール写真の内、アリスの顔だけうまく隠してあり、それ以外はそのまま写り込んでいるのが使われている状態だった。

 

う、嘘でしょう……。

 

思わず、眩暈がした。これでは、ほぼツーショットではないか。しかも、煽り文句に“悪いが、これは俺のものだ”などと、書かれている。

 

は、恥ずかし過ぎる……っ。

――じゃなくて!!

 

アリスは慌てて顔を上げると、

 

「あ、あの、広報部に行かないと――」

 

広報の許可外で使われるなど論外だ。いや、それ以前にこれがアリスだと気付かれたら、市民になんと思われるか……。考えただけでも恐ろしい。

 

というアリスの心配を他所に、この雑誌は「ブラッドさまとの絡みが夢見れる!!」と、エリチャンで話題になり、特に女性の間で、飛ぶ様に売れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025.02.18