櫻歌日記-koiuta

 

 第1話 桜通り 1 

 

 

―――4月

 

良く晴れた日だった

風が心地よいぐらい吹いていて、頬を撫でていく

 

私立・薄桜学園

4年前、学園長である近藤勇が設立した高校である

 

土方歳三は、ここで古典教師兼教頭を務めている

 

近藤に会ったのは、それこそ幼い頃だった

年が1歳違いと近かったし、家が近所だったのもあって

よく、一緒につるんでいた

 

近藤の実家は剣道道場(試衛館)で、そこにもよく行った

 

馬が合ったし、何より近藤という人柄に惹かれた

 

そんな近藤が、大学に入った頃突然

 

「学校を作ろうと思うんだ」

 

と、言い出した

 

最初は、冗談だろうと思ったら…

土方が卒業する頃には、本当に建ててしまったのだ

 

そして、ほぼ問答無用で、土方の就職先はその学園に決まってしまった

 

この学園の“薄桜”というのは、どうやら敷地内にある1本の桜の樹から取ったらしい

外に面している塀からも見えるぐらいの、大きな桜の樹だ

 

近藤曰はく「この桜は学園のシンボルだ!」だそうだ

 

そして、今

その桜の樹は、満開を迎えていた

 

真っ白な花弁に薄くピンク色の入った花びらが、ひらひらと舞っている

 

土方は、丁度今の時間、受け持ちの授業がない事を理由に中庭に出てきていた

深い意味は無い

ただ、何となく、この桜の樹が見たくなったのだ

 

授業中な為、中庭には土方以外誰の姿もない

 

しん…と、静まり返った静寂の中

土方は、その桜の樹を見上げた

 

「相変わらず、でけぇなぁ…」

 

風が吹き、土方の漆黒の髪を揺らす

くるくると、真っ白な花びらが舞う

 

土方は、少しだけその菫色の瞳を細めた

 

近藤が、この桜を好むのも頷ける

それぐらい、立派な樹だった

 

「ん?」

 

不意に、塀の外に人の気配がした気がした

通行人か何かだろうと思ったが…その気配が動く様子がない

 

「・・・・・・・・・・?」

 

不思議に思い、土方は校門の方に向かった

そのまま、門を出て道路に面した塀を見る

そこに居たのは―――

 

「・・・・・・・・・っ」

 

真っ白なワンピースを着た、一人の少女がいた

少女は動かず、じっと塀から見える桜の樹を眺めていた

 

年の頃からして、中学生ぐらいか

 

その横顔には、どこか幼さもあるが、大人びても見えた

不思議な感じのする少女だった

彼女の柔らかな長い漆黒の髪が、風に吹かれて揺れる

 

ふと、彼女が土方に気付いたのか

ゆっくりと、こちらを向いた

 

瞬間、土方は目を見開いた

 

彼女の綺麗な真紅の瞳が、こちらを見ていた

少女は少しだけ首を傾げた後、ふわりと微笑んだ

 

「こんにちは」

 

そう言われた瞬間、土方は息を飲んだ

 

自分よりも、ずっと年下の少女なのに

そうやって笑う姿が、とても綺麗だったからだ

 

同年代の子らが持っている、それとは全然違う

 

もっと別の

洗礼された様な微笑み

 

それと同時に、不思議な感覚に襲われた

 

懐かしい様な

これと同じ風景を、何処かで見た様な……

 

“既視感”

 

何だ・・・・・・?

覚えのないその感覚に、土方は首を捻った

 

返事を返してこない土方に、少女がその真紅の目を瞬きさせた

それから、少しだけ首を傾げ

 

「・・・・・・すみません。 もしかして、ここは立ち入ってはいけない場所でしたでしょうか・・・?」

 

少女が、少し困った様にそう尋ねてくる

 

「ん? ああ、いや……。 門からこっちは駄目だが、そこは公共の道路だから、別に構わねぇよ」

 

その言葉を聞いて、少女がほっと息ついた

 

「そうですか、よかった」

 

そう言って、またふわりと笑う

それから、つと校舎の方を見て

 

「あの・・・・ここは、学校・・・・・なのですよね?」

 

「・・・・・・・・? ああ、そうだが」

 

「・・・・・・そうですか・・・。 建ったんですね・・・」

 

そう言って、嬉しそうに微笑んだ

 

建った・・・・・・?

 

一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった

 

ふと、彼女が何かに気付いた様に「あ」と声を洩らした

 

「もしかして、貴方はこの学校の先生でしょうか?」

 

「・・・・・・ああ、そうだが」

 

別段、害がある訳ではないので、普通に答えたつもりだった

が、その答えを聞くと、彼女がまた嬉しそうに微笑んだ

 

「本当ですか? 何を教えていらっしゃるのですか?」

 

「古典だが?」

 

「古典・・・・・・?」

 

少女が、不思議そうに首を傾げた

それから、少し考える仕草をした後、また「あ」と声を洩らした

 

「思い出しました。 日本の昔の文学…でしたよね?」

 

「・・・・・・・・・・?」

 

何なんだ・・・・・・?

 

何故、古典”と聞いて、考え込むのだろう

そこからして、理解出来なかった

それとも、今どきの中学では国語は現代文しか入っていないのだろうか?

 

そこまで考えて、土方はある事に気が付いた

 

「おい、お前学校はどうした? 今の時間だったら授業中じゃないのか?」

 

サボりなら、教師として放っておく訳にはいかない

 

だが、少女はきょとんしたまま、目を瞬きさせた

 

「学校・・・・ですか?」

 

少女は、そう呟いた後、にこりと微笑んだ

 

「大丈夫ですよ。 今日は、父に付いて来なければいけなかったので、特別にお休みを頂きました」

 

「は・・・・・・?」

 

いやいや、全然大丈夫じゃねぇだろう!?

新学期そうそう休んだ?(注:ちなみに昨日が入学式)

何処の学校だ、それは!?

大体、付いて来たとかいう割には、その「父」が何処にもいねぇじゃねぇか!!

 

色々、突っ込みたいが突っ込めずにいると

少女が、不思議そうに首を傾げた

 

「本当に大丈夫ですよ? 必修は全て取っていますし、単位も出席日数も十分持っていますから・・・」

 

「は・・・・・・?」

 

また、彼女が変な事を言った

 

単位? 出席日数??

単位制の中学なんてあったか?

 

そんな土方とは裏腹に、彼女はまた桜の樹に視線を戻した

 

ザァ・・・と、風が吹き 彼女の髪が揺れる

 

「・・・・・・この樹、“桜”なんですよね?」

 

「・・・・・・・・・・・・? ああ、そうだが」

 

「もしかして、これが“満開”なのでしょうか?」

 

「・・・・・まぁ、今が丁度そうだ」

 

土方がそう答えると、彼女が今までで一番嬉しそうに微笑んだ

 

「・・・・・・そう、ですか・・・」

 

彼女が、ゆっくりと桜の樹を見上げる

 

「これが・・・・・・。 やっと、見る事が出来た。 凄く・・・綺麗・・・・・・」

 

そう言った、彼女の瞳には薄っすら涙が浮かんでいた

 

何故…桜を見ただけで泣くのか・・・・

それに、彼女は何と言ったか

“やっと”?

満開の桜を見た事がないのか・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

土方が、じっと彼女を見ていると

不意に彼女がこちらを見た

 

「あの・・・・っ!」

 

彼女が、今までにない位大きな声で口を開いた

 

「あの・・・・・・ご迷惑でなければ、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

 

「名前?」

 

一瞬、何故、いきなり名を問われるのか分からなかったが・・・・・・

別に、知られて困る訳ではないので

 

「・・・・・土方、歳三だ」

 

そう答えると、彼女が小さな声で噛み締める様に「土方さん・・・・」と囁いた

それから、また淡く微笑み

 

「ありがとうございます。 ・・・・・・申し遅れました、私はさくらと申します」

 

その時だった

何処からか、ピピピ・・・・という電子音が聞こえてきた

 

彼女が「あ」と声を洩らし、持っていたバックの中から携帯を取り出した

確認をする様に開いた後、閉じる

 

「・・・・・・申し訳ありません。 名残惜しいですが、時間なのでそろそろ行かなくては・・・」

 

「ん・・・・・・? あ、ああ・・・」

 

彼女が、また「あ」と声を洩らした後、何かを考え込む様に視線を落とした

それから少しした後、思い切って顔を上げて

 

「あ、あの! もし、ご迷惑でなければ・・・・なのですが。 また・・・お逢い出来た時は、お声を掛けても宜しいでしょうか?」

 

その声は今までと違い、明らかに緊張の色が見て取れた

 

こんな事を聞くだけに、そこまで緊張する必要など無い筈なのに・・・・・・

そんな様子が何だか可愛らしく見えて、土方は少しだけ笑ってしまった

 

「別に構わねぇよ」

 

土方がそう答えると、彼女はほっとした様に息を付いた

そして、極上の笑みを浮かべた

 

「ありがとうございます」

 

そう言って、丁寧にお辞儀をする

 

「それでは、失礼致します」

 

それだけ言うと、彼女はもう一度頭を下げ、そのまま歩いて行ってしまった

 

 

 

不思議な感覚だった

まるで、桜が見せた幻だった様な

 

 

  ――――それが、彼女――

       八雲 さくらとの出逢いだった

 

そして、1年後の春

彼女は土方の前に現れた

 

薄桜学園の新入生として―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        ◆          ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――4月

 

さくらは、中庭に来ていた

目の前には、真っ白に咲き誇る桜の樹

 

「・・・・・・ここで、あなたを見るのは2年目ね」

 

そう言って、そっと幹を撫でる

 

今日から新学期で、この学園に通って2年目になる

1年はあっという間だった

気が付いたら、またこの季節になっていた

 

ザァ・・・と、風が吹いた

さくらは、揺れる髪を手で押さえながら、もう一度桜の樹を見上げた

 

花びらが、風に乗って舞い幻想的な風景を作る

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さくらが、その風景に見とれていると、後ろから声が聞こえてきた

 

「八雲? お前、そこで何やってるんだ」

 

つと、声のした方を見ると―――

 

桜の花びらが舞い散る中、黒いスーツ姿の男が立っていた

その瞳は菫色で、黒い髪によくはえている

 

彼の姿を見て、さくらはふわりと微笑んだ

 

「土方先生」

 

そこに居たのは、古文教師兼この学園の教頭を務める、土方歳三だった

 

「おはようございます」

 

さくらが、丁寧にお辞儀をしながら挨拶をすると、土方は「おお」と答えた

 

「で? お前は、何やってたんだ? サボりなら容赦しねぇぞ」

 

土方のその言葉に、さくらがくすりと笑った

 

「違います。 早く来過ぎて時間があったので、お花見を。 ……そういう、先生こそサボられに来たのですか?」

 

さくらの問いに、土方が顔を顰めた

ぺしっと軽く額を叩かれる

 

「そんなんじゃねぇよ。 人聞きの悪い事を言うな。 単なる、気分転換だ」

 

「それは、失礼致しました。 すみません、先に占領してしまって」

 

「まったくだ。 誰もいねぇと思ったら・・・まさか、先客がいるとはな」

 

ザァ・・・と、風が吹いた

桜の花びらが、くるくると舞った

 

「・・・・・・お前も、今日で2年か」

 

「はい」

 

「もう、クラスは見たのか?」

 

「1組でした」

 

一瞬、土方の顔が歪められる

それから、「あー原田ん所か・・・・・・。 って、確か総司も居るじゃねぇか・・・」 と、ぼやいた

 

「先生?」

 

「ん?あ、ああ、何でもねぇよ」

 

それから、二人で桜の樹を眺めた

優しい風が、頬を撫でていく

 

「何だか、先生とこうしていると初めてお会いした時を思い出しますね」

 

その言葉に、土方が微かに笑った

 

「ああ、あん時か・・・俺は、あん時分からねぇ事ばっかりだったよ」

 

「分からない? 何故ですか?」

 

「ん? そりゃぁそうだろう。 新学期始まってそうそう休んだとか、単位がどうとか、古典は知らないわ、満開の桜は見た事ないとかぬかすわ…。 はっきり言って意味不明だった」

 

「え・・・・・・? そ、そうですか・・・?」

 

さくらが、少し困った様に首を傾げる

そんなさくらを見て、土方は小さく息を吐き

 

「ま、今思えば、全部納得いくんだけどな。 今まで、この学園に入学するまでは、ずっとアメリカの学校に通ってたって言うんだ、そりゃぁ、桜も古典も知らねぇだろうよ」

 

そう、さくらは、この学園に来る前は本国のアメリカの学校に通っていたのだ

母は日本人だが、父がアメリカ人なので、本国籍は向こうにある

 

「・・・・・・すみません」

 

さくらが、申し訳なさそうに謝ると、土方が苦笑いを浮かべた

 

「別に、謝る事じゃねぇだろうが。 ま、新学期そうそう休むのはどうかと思うけどな」

 

「・・・・・・? 新学期?」

 

さくらが、不思議そうに眼を瞬きさせた

 

「新学期だろう? 4月だったんだから」

 

「え? いえ・・・・向こうの新学期は9月ですけれど・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・は?」

 

この時の、土方の声はきっと凄くまぬけだったかもしれない

 

「9月・・・・・・?」

 

「はい、9月入学の6月卒業ですよ? あ、もしかしてご存じなかったのですか?」

 

「・・・・・・初耳だ」

 

「す、すみません・・・・・・言ってなかったですね・・・」

 

さくらが、また申し訳なさそうにうな垂れると、土方は苦笑いを浮かべて

 

「いや、俺の勉強不足だな。 お前は、悪くねぇよ」

 

そう言って、ぽんぽんとさくらの頭を叩いた

 

「ん? ちょっと待て」

 

土方が、何かに気付いた様にその動きを止めた

 

「6月卒業・・・・・・?」

 

何かを考える様に顎に手をやる

 

「お前、もしかして高校中退してきたのか? いや、向こうは高校まで義務教育だよな? 中退は出来ねぇか」

 

6月卒業で、その年の9月に入学なら

中学を卒業後、そのまま高校へ進級の筈だ

だが、日本は年明けの4月が入学で、計算すると約半年近く間が開く

高校までを義務としている向こうの場合、その半年を学校に行かない訳にはいかないだろう

 

だが、さくらは編入ではなく、新入生として入学してきた

 

これは、どういう事だろうか?

 

すると、さくらは何でもない事の様に

 

「あ、私、もうプレップスクールは卒業しましたので・・・・・・。 編入とかは、出来なかったのです」

 

「ああ、卒業・・・・・・ は!? 卒業!?」

 

「? はい。 先生にお会いした年の6月に卒業しました」

 

「・・・・・・は? お前、もう高校卒業してるのか!? え? お前、今年17だよな?」

 

「はい・・・・・・。 誕生日がまだなので今は16歳ですが・・・・・・。 飛び級スキップしていますので」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

土方が唖然とした後、「はぁ~~~~~~」と頭を抱えた

 

プレップスクールとは完全な進学校で、基本的にレベルの高い大学を目指す、いわばエリートの為の寄宿制私立高校の事だ

しかも、加えて飛び級スキップ

いや、小中で飛び級スキップなのかもしれないが

 

日本では無理な話だが、海外なら別段難しい話では無い

飛び級制度を取り入れている国も多い

単位と試験や、petition(交渉)などで飛び級スキップするのは、よくある話だ

 

「ああ…そういえば、お前はフェラージーンとかいう財閥のお嬢様だったな」

 

それなら、そういう教育のされ方をしていても納得がいく

だが、さくらは少し困った様に

 

「先生、その事は、あまり言わないで下さい。 一応、内緒なので。 フェラージーンの名前を出すと、皆さんやはり態度が変わりますから・・・・あまり、ここでは知られたくないのです。 ここでは、“さくら・フェラージーン”ではなく、“八雲 さくら”ですから」

 

土方は教頭という立場上、万が一があると困るので知ってはいるが

一般生徒は、知らないだろう

一部を除いては

 

「何言ってるんだ、あんな堂々とした護衛がいるのは周知の事実だろうが。 どこぞのお嬢様ぐらいには皆思ってるんじゃねぇのか?」

 

すると、さくらが困った様に苦笑いを浮かべた

 

「そのぐらいでしたら、許容範囲として受け取っております。 一の事は・・・私がここに来るにあたって父の出した条件の一つですので・・・・。 これでも、一応違和感のない様に同年代にして頂く様にお願いしたのですよ? でなければ、黒ずくめのSPとか付けられたかもしれません・・・・・・」

 

学園の中に、黒ずくめのSP・・・・・・

・・・・それは、冗談でも止めてもらいたいものだ

 

「でも、私、嬉しいのです」

 

そう言って、さくらが微笑んだ

 

「嬉しい? 何が?」

 

「だって、先生は“フェラージーン”の名を聞いても、全然態度が変わらないのですもの」

 

それを聞いて、土方がまた溜息を洩らした

 

「ニューヨークシティにでっかいビルがあるって言われてもなぁ・・・・・・、正直、次元が違い過ぎて実感なんか湧くか」

 

ふと、ある事に気付いた

 

「そういやぁ・・・・お前、なんでまたわざわざ高校に通うんだ? もう、卒業したんだろう?」

 

普通なら、そのまま大学へ進学するのではないのだろうか

プレップなら尚更だ

 

すると、さくらが少しだけ目を細めた

 

「日本に・・・・・・ここに、来たかったのです。 この学園に―――どうしても、来たかったのです」

 

そう言って、土方を見ると淡く微笑んだ

 

ザァ・・・・と風が吹いた

二人の間を、桜の花びらが舞う

 

「・・・・お前・・・・・・・・・

 

土方が、何かを口走ろうとした時だった

 

「さくら!!」

 

不意に、後ろからさくらを呼ぶ声が聞こえてきた

振り返ると、一人の男子生徒が慌てて走ってきた

 

「一」

 

それは、さくら さくらの日本での護衛を受け持つ斎藤一だった

さくらが、父に譲歩してもらった同年代の護衛だ

本当は、そんなもの要らないと言ったのだが…

頑として譲らなかったのだ

なので、妥協する代わりに同年代にしてくれる様に頼んだのだ

そこで、父が探してきたのが彼だ

なんでも、中学の日本国内最高峰の大会・全国中学校体育大会。通称・全中の剣道の覇者らしい

昨年のインターハイも優勝していた

 

斎藤は、土方に気付くと慌てて頭を下げた

 

「土方先生、おはようございます」

 

「おお、斎藤。 今日もこいつの護衛か? 精が出るな、頑張れよ」

 

「はっ。ありがとうございます」

 

斎藤は、土方に絶大な信頼を置いているらしく

最早、それは崇拝に近いのかもしれない

 

「ごめんなさい、一。 もしかして、探させてしまったかしら?」

 

「ああ、探した。 あんたは一人でふらふらし過ぎだ」

 

事実なだけに、言い返せない

 

「ほら、さっさと行くぞ」

 

そう言って、腕を引っ張られる

 

「あ・・・・・・」

 

さくらは、慌てて振り返った

 

「じゃぁ、土方先生。 失礼します」

 

そう言って、ぺこりと頭を下げる

 

「おう」

 

土方がそう答えて手を上げると、さくらがまた頭を下げた

そして、そのまま斎藤に引きずられる様に去って行った

 

土方は、胸ポケットから煙草を出し、一本火を点けた

一度だけ吸い、ふーと吐いた

 

「フェラージーン・・・ねぇ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一、 怒っているの?」

 

ずんずんと腕を引っ張ったまま前を進む斎藤を見ながら、さくらが尋ねた

 

「怒ってなどいない」

 

「嘘、怒っているでしょう?」

 

「怒っていない」

 

「絶対、嘘だわ。 絶対、怒ってる」

 

不毛な言い争いが始まるかと思いきや、不意に斎藤が振り返った

 

「なら、言わせてもらおう。 あんたには自覚な無さすぎる」

 

「・・・・・・自覚って、何なの?」

 

「あんたは、フェラージーン財閥総帥、ブラッド・フェラージーン会長の一人娘だ。 その自覚が無いと言っているんだ」

 

「・・・・・・家は関係ないでしょう」

 

「俺は、ブラッド会長にあんたの護衛を任されているんだ。 そのあんたに、なにかあっては困る。 なのに、さくら。 あんたは、直ぐに一人でふらふらと・・・・・・」

 

「・・・・・・ここは、日本よ? 向こうと違って治安はそんなに悪くないと思うのだけれど。 第一、学園内で何の危険が・・・・・・」

 

「・・・・・・生徒会長がいるだろう」

 

斎藤が、苦虫を潰した様にそう呟いた

 

「あ・・・ああ、千景・・ね・・・・・・」

 

その事に反論出来ず、さくらは困った様に笑みを浮かべた

 

風間千景

この学園の生徒会会長で、世界的大企業・風間グループの御曹司だ

薄桜学園の制服はブレザーだというのに、何故かいつも白ランを着用

噂では、どうやらこの学園創立以来、居ついている・・・という話だ(つまり、絶賛留年中)

成績は、学年でもトップクラスなので、それで留年・・・という訳ではないらしい

学校内外含め、ファンクラブなどが存在するらしく、彼の周りはいつも女生徒であふれていた

ちなみに、彼に付き従っている(注:当人の意思関係なく)生徒会メンバー

彼らも、風間と同期らしく・・・・でも、風間が卒業するまで卒業出来ないらしい

なんとも、可哀そうな話だ

そして、悲しい事にその風間はさくらの許嫁・・・・というポジションに収まっていた

風間がどうかは別として、さくらにその意思はないのでさっさと解消したい所なのだが…

父・ブラッドが出した条件の一つに、在学中は解消禁止令が出ているのだ

 

「俺は、“すべての危険”から、あんたを守る義務がある。 勿論、あの馬鹿会長からもだ」

 

「・・・・・・うん。 それは凄くありがたいのだけれど・・・」

 

さくらが困った様に、苦笑いを浮かべた時だった

向こうの方から、女生徒が走ってきた

 

「あ、一。 危な・・・・・・っ!」

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

「きゃぁっ!!」

 

斎藤が振り返る前に、その女生徒がドンッと斎藤の背中にぶつかった

そのまま、その子がストンッと尻もちを付く

 

「だ、大丈夫?」

 

さくらが慌てて駆け寄ると、その子は「だ、大丈夫です」と言って起き上がろうとした

手を貸すとき、彼女の胸元の花が視界に入った

 

あ・・・・この子、一年生だわ

胸の花は、新入生の証なのだ

 

今日は、新学期であると同時に、入学式でもある

おそらく、この子は今年入ってきた新入生だろう

 

「ありがとうございます」

 

その子は起き上がると、手を貸したさくらにお礼を言った

可愛らしい子だった

 

だが、新入生なら入学式があるのではないだろうか?

 

「・・・・・・もしかして迷ったの?」

 

そう尋ねると、彼女は少し恥ずかしそうに「はい」と答えた

 

「外から桜の樹が見えたので、つい気になって探していたら迷ってしまって・・・・」

 

どうやら、彼女はあの桜を見に行こうとしていたらしい

だが、時間的にもう講堂に向かわなければいけない時間だろう

 

「桜は今度にしたら? もう、式が始まる時間だし・・・・・・」

 

言われて、彼女が自分の腕時計を見て「ああ!」と叫んだ

 

「ど、どどどどうしよう・・・・早く、行かなきゃ・・・っで、でも、場所が・・・・・・・・・!」

 

オロオロする彼女が見ていられなくて、さくらは斎藤の背中をポンッと叩いた

 

「一、 連れて行ってあげたら? 彼女、きっと一人じゃ分からないだろうし・・・・」

 

さくらがそう提案するも、斎藤は難色を示した

 

「だが、それではさくらが・・・・・・」

 

「私は、大丈夫よ。このまま、真っ直ぐ教室に向かうから。ね?」

 

安心してという様に、さくらはにこっと微笑んだ

最初は渋っていた斎藤だったが、さくらがこう言いだしたら聞かない事はもう分かっているので、最後には折れた

 

「分かった。だが、くれぐれも余計な事に首を突っ込むのだけは止めてくれ。 後、生徒会長が来たら、絶対に相手にはするな」

 

「はい、分かりました」

 

「絶対だからな」と強く言い残して、斎藤はその一年生を連れて行った

さくらは、小さく息を吐いて一度だけ、今来た道を振り返ると、そのまま校舎の中へと入って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと…やっと開始しましたよー\(T^T)/
と、いう訳で…
こちらは、土方夢 『櫻姫抄乱』 のSSLVer.です
ベースは 『櫻姫抄乱』 です
色々と、ぶっ飛んだ設定&書き方になっておりますので!
シリアスだったり、馬鹿だったり…
おいおい、みたない設定もありますしね!
ま、そもそもSSL自体が既にお遊びみたいなものですからー(笑)

で、ですね
諸々の事情により、夢主がハイスペックですので、苦手な方は要注意!
後、本編とキャラ同士の呼び方が違う人もいますから、そこもご了承下さい

 

 

 

2011/05/04