MARIK
-The Another Side ‟L”-
◆ Another Memory ”L” 3
――――“北の海”
ハート海賊団・船長室
「・・・・・・・・・・・・」
ローは、目の前でのん気の紅茶を飲んでいる女をしかめっ面で見ていた
彼女の名前は、リディ・レウリア
海軍本部の大佐・・・・・・らしい
一応、専用の戦艦も所持していたし、事実なのだろうが――――・・・・・・
なんで、この女はいつもいつも、突然現れてはおれの部屋で紅茶を呑気に飲んでるんだ?
直ぐに追い出したい気持ちが勝っているが・・・・・・
先日、彼女――――レウリアと“契約”を交わした
内容は単純で、彼女が情報提供する代わりに、彼女の“お願い”を叶える
という単純なものだった
の、だが・・・・・・
「・・・・・・お前、毎回何の用があってここへ来るんだ?」
ローが煮え切らない顔でそう言うと
レウリアは平然としたまま、手土産で持ってきたタルトを口に運びながら
「あら、私と貴方はもう“味方”でしょう? だからこうして親睦を深めに来ているのだけれど。 後、名前。 リアって呼んでって言ったわよね? 一体、いつになったら呼んでくれるの? トラファルガー・ローさん」
そう言って、さくっとタルトを齧った
「ん~、やっぱりうちのシェフの腕は最高ね」
そう言って、レウリアが幸せそうに顔を綻ばせる
そんな彼女を見て、ローは「はぁ・・・・・・」と溜息を付いた
「・・・・・・俺は海兵と仲良しごっこする気はねェぞ」
そう言うが、レウリアはけろっとして
「安心して、近い将来地位の返上と、除隊する気だから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
今、この女はなんといったか
“除隊”?
それはつまり――――
「・・・・・・海軍を辞めるのか? 大佐までいったのに」
疑問だった
大佐まで最速で上り詰めたなら、もっと高みを目指すのだと思った
しかし、彼女に取っては違う様だった
高みを目指すローと、目指さないレウリア
何となく、不愉快な気分になった
まるで、自分の生き方を否定された様な――――・・・・・・
顔がきっとしかめ面になっていたのだろう
レウリアがローを見てくすっと笑った
「勘違いしないでよ。 海軍にいたのは お義父様との約束の為よ。 最初から“大佐の地位になるまでは海軍に所属する”って約束だったのよ」
まるで何でもない事の様に、レウリアがそう話す
「まぁ、お義父様としてはもっとゆっくりと時間をかけて、部下達とかに情って言うの? 湧いて、辞められなくなるのを望んでいたのだと思うけれど――――」
そこまで言いかけてレウリアが窓の外を見る
「私には、どうしても“譲れないもの”があったから――――まぁ、お義父様もこんなに早く大佐になるとは思ってなかったみたいだけれど」
そう言って、レウリアがくすくすと笑った
「・・・・・・“譲れないもの”ってなんだよ」
何となくだが、つい聞いてしまった
すると、レウリアが一瞬そのアイスブルーの瞳を瞬かせて、次の瞬間くすっと笑った
そして、ローの方をじっと見て
「気になる?」
そう言って、今まで見たことない様な笑顔を見せた
「・・・・・・・・・・・・っ」
知らず、自身の体温が上がっていくのをローは感じた
慌ててそれを隠す様に、帽子を深くかぶるとふいっと視線を逸らして
「・・・・・・別に、お前の“譲れないもの”なんで興味はない」
ローのその言葉に、レウリアがまたくすっと笑って
「そうなの? 残念」
まるで、聞けば教えるつもりだったとでもいう様に、彼女はそう答えた
そして何かに想いを馳せるかのように
「――――どうしてもね、行かなければならないの。 その為には“海軍”の地位は邪魔でしかないのよ。 私の目的を達成する為ならば、どんな事も厭わないわ」
そういう彼女のアイスブルーの瞳は、真っ直ぐに“何か”を見つめていた
「・・・・・・で? 海軍辞めたらどうする気なんだ?」
「はぁ・・・・・・」と、ローが机に膝をつき、タルトを齧る
すると、レウリアはさも当然の様に
「まずは、“偉大なる航路”に入るわ」
「“偉大なる航路”?」
そこは、海賊たちがこぞって目指す場所だ
あのゴールド・D・ロジャー残した“ひとつなぎの秘宝”の為に――――
ローもいずれ“偉大なる航路”には入るつもりでいた
だが、それは仲間と一緒にだ
1人で入るなど無謀すぎる
「・・・・・・・・・・・・もし」
この時、ローは自分がおかしなことを言っているのかもしれないとは思った
「・・・・・・お前が、望むなら――――」
ただ、ふと思っただけだ
「行くか? 俺達と一緒に――――」
「え?」
そこまで言いかけてローは、はっとした
慌てて顔を背ける
「・・・・・・いや、何でもない」
思わず、情に流されそうになってしまった
しかし、レウリアには聞こえていたらしく・・・・・・
一瞬、そのアイスブルーの瞳を瞬かせた後、ふふっと笑いだした
「心配してくれているの?」
そう問われて、ローがますます顔を赤らめて
「ち、違うっ・・・・・・! き、気の迷いだ」
そんなローの様子にレウリアがくすくすと笑う
「そうなの? 残念。 私的には結構ローさんの事気に入っているんだけれど――――」
「は?」
「こうやって、何だかんだいいつつお茶にも付き合ってくれているし」
「それは――――」
勝手にあれこれ万が一にも探されたら面倒だと思ったからであって、他意はない
まがりにも、彼女はまだ海軍の所属だ
油断は出来ない
だが、レウリアは気にした様子もなく、くるくるとスプーンでカップの中の紅茶を混ぜながら
「まあ、理由は何となく察しがついてはいるけれどね・・・・・・」
少しだけ寂しそうにそう呟いた
「あ、いや、それは・・・・・・」
「いいのよ、それで。 まだ私は海軍に籍があるから。 油断はしないで?」
そう言って、にっこりと笑う
「その・・・・・・」
どう言ったらいいのか・・・・・・
「お前は――――、何でおれにしたんだ?」
疑問だった
他にも名を馳せた海賊は他にもいた筈だ
なのに、なぜあえて自分を―――――
「・・・・・・“契約”の事?」
レウリアがそう言って首を傾げる
さらりと、彼女の美しいプラチナ・ブロンドの髪が揺れた
一瞬その仕草に、どきっとする
すると、レウリアはにっこりと微笑みながら
「私は、貴方がいいと思ったから選んだんだけれど――――駄目だったかしら?」
そう言って、くるくるっと手を回すと、しゃららん・・・・・・という音と共にネフェルティが姿を現したかと思うと、ネフェルティがローの周りをくるくると飛び回る
「・・・・・・? この精霊はどういう意味だ??」
ネフェルティの行動の意味が分からない
すると、レウリアがタルトを食べながら
「“ネフェルティ”よ、覚えてあげて? 貴方を気に入っているのよ」
そう言って、レウリアが手を伸ばすとネフェルティがその上に座った
「・・・・・・この子は、気難しい子だから、あまり他の人には懐かないのだけれどね。 どうやら、ローさんは気に入られたみたいよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
精霊に気に入られる要素があっただろうか?
と、一瞬悩む
だが、レウリアにはそれが何なのかわかったのか、にっこりと微笑むと
「だから、ローさんで私の選択肢は間違っていなかったって事」
そう言ってそっと手を差し出した
すると、そこにあの“契約”を交わした時と同じ八芒星の紋が現れる
「私の“お願い”はもう、この紋に刻んであるわ。 その時になたら、分かるよに――――」
「・・・・・・? 今言えないのか?」
そうローが尋ねると、レウリアは苦笑いを浮かべながら
「あまり現実になって欲しくない事柄だから――――出来る限り、使わないで済むならそうしたいのよ・・・・・・」
そう言って、そのアイスブルーの瞳を少しだけ下へ向けた
まるで“いいお願いではない”という風に
彼女が“契約”時に書き込んだ“お願い”が何かは分からない
分からないが――――
なんとなく、聞いてはいけない気がした
ふと、レウリアが何かに気付いたかのように立ち上がった
「さて、今日も名前呼んでもらえなかったけれど、そろそろお暇するわ。 迎えが来たみたいだし」
そう言って、椅子に掛けていた海軍のコートを取る
「あ・・・・・・」
思わず、ローが何かを口にしようと開きかけたが、その先は言葉にならなかった
そんなローにレウリアはにっこりと微笑むと
「また来るわ。 だから、今度もお茶に付き合ってね」
それだけ言うと、船長室を出ていく
彼女のプラチナ・ブロンドの髪が風に吹かれて揺れていた
ただその後を、ローはじっと見ている事しか出来なかった――――・・・・・・
**** ****
「あ、船長!!」
甲板に戻ると、既にレウリアの迎えに来た艦隊はなく、自分海賊団のクルーだけだった
「あいつは?」
なんとなくそう尋ねると、シャチが
「レウリア嬢なら、行っちゃいましたよ? 見送らなくてよかったんですか?」
「あ?」
シャチのにやけ顔に、イラっとしたのか・・・・・・
ローがそう声を上げると、シャチに続きペンギンまで
「そろそろ、名前呼んであげたらいいじゃないですか、船長。 お嬢気にしてましたよ?」
「・・・・・・ったく、どいつもこいつも」
何で名前にそんなに拘るんだ
ローには全く理解不能だった
「お嬢は、“リア”って愛称の方で呼んで欲しいみたいですけどねえ?」
にやにやしながらペンギンが言う
完全にからかいモードだ
「・・・・・・んな、簡単に呼べるかよ・・・」
ぽつりとローが小さな声で呟いた
すると、ペンギンとシャチがまだにやにやしながら
「しっかし、船長モテますェ~しかも、あんな美人に!! 羨ましいです」
「お二人の関係は何処まで進んでるんですか!?」
「・・・・・・・・・・・は?」
彼らは何を言っているのだろうか?
彼女がおれを・・・・・・?
「最初に来た時も、船長に会いに来たって言ってましたしね~」
「うんうん、その後はいつも船長と2人きりでお茶してて―――――」
「「羨ましい!!!!」」
違う
彼女は“契約”の為に、来ているに過ぎない
そういう、「好き」とか「嫌い」とかそんな感情があるとは思えなかった
そうじゃない、もっと別の――――・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・ねェ・・・・・」
ぽつりとローが何かを呟いた
「ん? 船長、何か言いました?」
「・・・・・・んでもねェよ。 そろそろ沈む準備しろ」
そう言ってクルー達に指示を飛ばす
シャチとペンギンも一礼した後、作業に取り掛かった
ローは1人甲板でレウリアが消えたであろう方向を眺めていた
風が吹き、ローのコートを揺らす
その時だった
しゃらん・・・・・・と音が聞こえてかと思うと、あの“ネフェルティ”目の前にいた
「お前は――――・・・・・・」
そっと、ローが手を伸ばすと、ネフェルティはローの手の中にちょこんっと座った
そして、しゃらん・・・・・・と音を立てながらその手の中にカードを1枚ひらりと落としてゆく
「これは・・・・・・」
ローのグレー・ブラックの瞳と同じ色をしたカードには ひと言
“ありがとう”
と書かれていた
「は?」
何がだ? と、ローが首を捻る
すると、目的は達したとばかりにネフェルティがしゃららん・・・・・・と音を鳴らしながら消えてゆく――――
「なんだ・・・・・・?」
あの言葉に意味が分からず、ローがネフェルティの去った方を見ていた時だった
「船長!!!」
突然、クルーの1人が叫びながら駆けって来た
シャチだ
「・・・・・・どうした」
ローがそう答えると、シャチは慌てた様にある銀の何かの像が描かれた箱を持ってきて
「せ、先日手に入れた“精霊の宿る短剣”と言われた銀のナイフが―――――」
そう―――1種間ほど前に入手した“精霊の宿る短剣”と言われた“シルヴェスタの宝剣”
それが入っていた筈の箱の中身が空っぽだったのだ
はっと、ローがネフェルティのカードと、レウリアが消えた方角を見る
あのカードには“ありがとう”と書かれていた、それはつまり――――・・・・・・
「あ、あの女ああああああああ!!!!!」
やられた・・・・・・っ!!!
今日の狙いは“そっち”か!!!!
「直ぐ、追え!!!!」
ローがそう叫ぶが、シャチが慌てて首を振り
「無、無理ですよ! もう潜水体制に入ってますし、それに――――もう、レウリア嬢の艦隊は・・・・・・レーダーから消えているので位置が分かりません」
ローがわなわなと震える
あれを手に入れるのにどれだけ苦労したと思ってんだ!!!
怒りの形相で震えるローを見て、シャチが慌てて
「で、でも、船長。 どうせレウリア嬢にあげるつもりだったんでしょう? だったら別に――――」
「――――そういう問題じゃねェ」
低温ボイスでドスの利いたような声で言われて、シャチが顔を真っ青にする
贈るのと、奪われるのは全くの別物である
「は、はは、ははは! ―――――今度会った時、ただじゃおかねェ・・・・・・、あの女ァ!!」
と、またローがぐちゃッとカードを握りしめて叫んだのは言うまでもなく――――
クルーも、「またか」みたいな反応だったのは言うまでもない
続
例の本編で使っている銀のナイフの出所はここでした笑
‟契約”うんぬんは2話目の分ですな
2023.03.21